慣れないティップの習慣 ~ ヨーロッパ編
アメリカのティップのルールに慣れてしまうと、ヨーロッパに行ったときに、ひどく戸惑ってしまうのです。
だって、ヨーロッパは、国によってルールがまったく違うでしょう。
けれども、これも2種類に大別されるようではありますね。
まずは、アメリカのように、何パーセントかを払う場合。
もうひとつは、本来はあまりティップを必要としないので、「端数は切り上げ、キリの良い金額にする」場合。
レストランの請求書が18フランのときに、20フランを置いておくとか、キリの良い金額にするのがエティケットだったと記憶しています。
足りないときには、少し足しておくもののようですが、基本的には「端数切り上げ」方式でしょうか。
そして、北欧の国々も同じだったと記憶しています。
でも、我が家には失敗談があるんです。
ノルウェーの首都オスローに着いて、最初のディナーでした。ホテルからテクテクと散歩をしながら、港に面した気持ちの良いレストランを見つけて、そこで食事をすることにいたしました。
白夜の8月とはいえ風は冷たいので、風をさえぎるガラスのパティオがしつらえられた、高級なレストランです。さすがに料理は美味で、それは満足だったのですが、さて、請求書をもらった時点で、ティップをどうするのかルールがわかりません。
請求書には、ちゃんと「ティップ(Tip)」と書かれた欄があるので、きっとアメリカと同じく20%のルールだろうと思って、2割ほど足したのです。
すると、それを見たウェイトレスが、ものすご~く嬉しそうな顔をしたので、「あれ?」と思ったのでした。ホテルに帰って、ガイドブックを見てみたら、「キリの良い金額にすればよい」と書いてありました。
ふ~ん、だとすると、あの「ティップの欄」は、アメリカ人観光客向けのトリックだったわけだな、と悟ったのでした。だって、アメリカ人だったら、何も考えずにティップをたくさんあげるでしょう。
そして、10月末、ヨーロッパに旅立ったときも、ちょっと戸惑ったのでした。
サンフランシスコ空港からドイツ経由でたどり着いた先は、チェコ共和国(Czech Republic)でした。
チェコは、「ユーロ(Euro)」ではなくて、独自の通貨「チェココルナ(CZK)」を持っています。ですから、首都のプラハ空港に到着すると、現地の通貨に換金してみました。
初めての通貨を見ると、いやぁ、遠くへ来たものだと、「異国」を意識するのです。
そんな胸のトキメキもつかの間、いきなり困ったのは、空港でピックアップしてくれたホテルの車です。物静かな、礼儀正しい青年が黒塗りの車で迎えに来てくれて、30分ほどでプラハ市内のホテルに到着いたします。
ここはモルダウ川のすぐ目の前。丘の上には、ライトアップされたお城が見える絶好のロケーション。
でも、ここでいったいいくらティップを払っていいのやら・・・。
車代は、800コルナ(およそ3200円)と聞いています。だとしたら、10%で80コルナ? 15%で・・・?
けれども、空港で換金したら、小銭がほとんどありません。そこで、困ったあげく、100コルナ札を差し上げたのでした。
さすがに多いな、とは思いました。青年ドライバーも少々驚いたものの、すぐに笑みに変わり、嬉しそうな様子ではありました。
次に困ったのが、ホテルのレストラン。もう遅かったので、ホテルのレストランで食べることになったのですが、これがまた、プラハでも有名な「新しいお味の郷土料理」のお店だそうです。
「Amade(アマデ)」という名は、モーツァルトがこのホテルに滞在していたところから付けられたのだとか。
ここでお世話になったウェイターは、とてもにこやかな、フレンドリーな青年です。フロリダに行ったこともあって、英語もなかなかお上手でした。
彼はまず、おもしろそうにパンと「バター」を運んで来るのです。
これはいったい何だと思う? と聞くので、ちょっと試してみると、なんとなく深いお味。きっと動物の脂肪だろうと思っていると、豚のラードだそうです。チェコでは、ラードに肉を少々加えて調味したものを、バターのように固めて、パンにつけて食べる習慣があるのです。
観光客に「ラード(lard)」だというと、まったく試そうとしない人が多いそうですが、香ばしいお味で、パンには良く合うと思いました。それに、寒い所では、脂肪分だって大切な栄養素ですよね。
さて、ホタテ貝、アーティチョークのスープと、おいしい前菜が続いたあとは、主菜が運ばれて来ます。
わたしは、大好物のサーモン。連れ合いは、豚肉にしたのですが、この豚のお料理が、なんとなく日本の「角煮」に似ているのです。
実際はデミグラスソースで煮込んだそうですが、どことなく、しょう油と砂糖で甘辛く煮込んだ、こってり味の角煮風なのです。
そこで、ウェイターくんにそんな話をすると、「その角煮って、テリヤキみたいなもの?」と聞くのです。
どうやら、チェコにもテリヤキ(照り焼き)は伝わっているみたいで、「日本の味」になりつつあるようですね(それが証拠に、べつのレストランでは、テリヤキ風味のサーモンをいただきました)。
いや、角煮は照り焼きとは違って、最初に肉を煮込んで脂を落として、それからコトコトと調味するというような説明をすると、ウェイターくんはこう感心するのです。
「国は離れていても、僕たちはよく似てるんだねぇ(We’re so far apart, but very similar)!」
そんな楽しいお食事でしたが、支払いの段階になって、ハタと困ったのでした。なぜなら、請求書には、「ティップの欄」がなかったから。
ホテルの会計につけてチェックアウトのときに払うにしても、普通はティップを足す欄があるでしょう。少なくとも、アメリカではそうです。
そこで、困ったあげく、そのまま何も足さずにウェイターくんに「さよなら」したのですが、あとになって、これは大失敗だったことに気がつきました。
なぜなら、チェコでは、請求書の額を払ったあとに、10パーセントを現金で置いておく習慣があるから。たとえば、カードで支払ったあとにも、現金で10パーセントを置いておくのですね。
ですから、アマデのウェイターくんにも、本来は10パーセントを現金で置くべきだったのです!
そんな習慣を知らない人が多いので、観光客に対しては、「ティップの10パーセントは含まれてませんよ」と指南する「高級レストラン」が多いのです。
でも、アマデのウェイターくんは人が好いので、そんなことは言えなかったのでした。
(残念ながら、現金を持ち合わせていなかったこともアダとなったのですが、そのあとホテルでは彼を見かけなかったので、「この前はゴメン」と後払いすることもできませんでした・・・。)
そんな大失敗もありましたが、空港で出迎えてくれた青年ドライバーには、もう一度乗せてもらったときに、「ティップはいいですよ」と言われました。
八重奏のコンサートを楽しもうと、かの有名な「スメタナホール」に連れて行ってもらったのですが、ティップにする30コルナがなかったので、50コルナのコインを出して、「おつりをください」と言ったのです。
すると、20コルナを持ち合わせていなかった彼は、「ティップはいいよ」と言ってくれたのでした。
きっと、前回たくさんもらったことだし、もういいやと思ったのでしょう。
(写真のコインは、左から1コルナ、5コルナ、20コルナ、50コルナです)
そうそう、チェコでは事情はよくわかりませんが、アメリカでは、適当な額を持ち合わせていないときに、ティップの「おつりをください」と言うのはOKなんですね。
たとえば、3ドルを渡したいときに、5ドル札を出して「Give me 2 dollars back(2ドルおつりをください)」などと言えば、みなさんイヤな顔もせずにおつりをくれるのです。
ですから、10ドル札、20ドル札と、大きな額のお札しか持っていなかったにしても、そんなに心配する必要はないのですね。
というわけで、ティップに関しては、いろんな失敗をしたり、思い出話ができたりするのですが、お次は、特別なケースとして、オリエント急行編といたしましょうか。