レストランのメニュー
今日は、アメリカのレストランに行ったら、こうした方がいいんじゃないかな? というヒントを、ひとつご紹介いたしましょう。
それは、メニューを見て何を注文するかが決まったら、メニューを閉じて、テーブルの上に置くということ。
なんとなく単純な話にも思えるのですが、これをやらないと、いつまでもオーダーを取りに来てくれないケースもあるのですね。
メニューを開いた状態でテーブルに置いたり、メニューを手に持ったりしていると、「あ~、あの方はメニューを見ながら、まだ迷っていらっしゃるんだな」とウェイター(ウェイトレス)が気を利かせて、わざとオーダーを取りに来ないのです。
人によっては、ドリンクのオーダーを取ったあと、「何かメニューに関してご質問がありますか?(Do you have any questions about the menu?)」と、相手の表情をさぐりに来る場合もあります。
ドリンクを持って来たあと、「お決まりになりましたか? それとも、もう少しお時間が必要ですか?(May I take your order? Or do you need more time?)」と、様子をうかがう人もいます。
けれども、それも人それぞれで、「高級レストラン」と自負するお店では、あまりお客をせかさないのが習慣となっているようです。
元来、西洋人って、メニューを眺めている時間が長いんですよね。
何をあんなに迷っているんだろう? と、こちらが心配になるほど、じっくりと熟考なさるんです。たぶん、料理のことを考えながら、いろいろと迷うのが楽しいのでしょう。
ですから、そんなところでは、「お客をせかさない」のが礼儀なんですね。
決して、ウェイターが「お客を無視している」わけではありませんので、その辺は日本とは違うんだ、と理解していただければ良いと思うのです。
ま、どちらかというと日本人はせっかちですので、「早くオーダーを取りに来てよ!」と思うこともありますが、そういうときには、ウェイターに目くばせをするとか、軽く手を挙げるとか、何かサインを送ってあげればいいのはないでしょうか。
そういう場合でも、あくまでも、メニューは閉じておくことをお勧めします。
それで、ふと思い出したのですが、メニューに関しては、ヨーロッパでおもしろい体験をいたしました。
イタリアに旅したとき、トスカーナ地方を散策したあと首都ローマに立ち寄ったのですが、ここではトスカーナでは味わえないような「高級感あるイタリア料理」を試してみることにしました。
選んでみたのは、ガイドブックにも載っているような老舗の名店で、美しい店内にうやうやしく案内されると、隣のテーブルには、新婚旅行らしき日本人カップルもいらっしゃいました。
真っ白なテーブルクロスの席に着いて、メニューが手渡されると、困ったことに、心配ごとがふたつ出てきました。
ひとつは、どれくらいの品数を頼めばいいのかわからないこと。
イタリアのレストランって、量が多い印象があるでしょう。アンティパスト(Antipasto、前菜)、プリモ(Primo、パスタやリゾットなどの温かい一品)、セコンド(Secondo、肉や魚のメインディッシュ)と並んでくると、プリモあたりでノックアウトされそうなイメージが。
そして、もうひとつ困ったことに、メニューには値段が書かれていなかったのでした!
これには、さすがのわたしも、「え、すべてがマーケットプライス(market price、その日の仕入れ値)なの?」と、冷や汗をかいてしまったのです。
ちらっと連れ合いに目をやると、なにやら落ち着いた表情でメニューを吟味していて、協議の結果、コース料理はやめにして、前菜とメインディッシュ、デザートにしようよと合意したのでした。
で、お料理を楽しんでいる間は、値段のことなんか忘れて(忘れるように努力して)お皿の上の芸術に集中していたのですが、お店を出たあと、値段の無いメニューの話をしてみたのです。
すると、連れ合いは、こう言うではありませんか。「いや、僕のメニューには、ちゃんと値段が書いてあったよ」と。
なんと、イタリアの名店では、レディーにお出しするメニューには、値段を書かない習慣があるらしいんですね!
アメリカでは、そんなお店は極端に少ないし(その後、一度か二度アメリカでも経験しました)、だいたい、世の中に「レディーにはお金の心配をさせてはいけない」という気配りが存在することを知らなかったので、いや、ヨーロッパは違うものだと、ひどく感心したのでした。
この旅のあと、大阪のホテルのイタリアンレストランで、同じように値段の無いメニューを手渡されましたが、もう大丈夫!
冷や汗をかくこともなく、落ち着いてメニューを選べました(だって、値段がわからなければ、好きなものを頼むしかないでしょう?)。
それにしても、残念なことに、あのローマの名店では、「もう洋食はあまり食べたくない」状態だったので、凝ったお料理も少ししか頼みませんでした。
前菜二種にメインディッシュとデザート一品ずつを、ふたりでシェアした記憶があります。が、これは、よく我が家が使う手なのですね。
西洋料理は一皿が大きいし、とくにアメリカのレストランでは、メインよりも前菜の方がおいしかったりするので、前菜をたくさん頼んで、メインは減らす(シェアする)方法もありかと思うのですよ。
だって、自分の食べたいように品数を構成するのも、料理を楽しむ秘訣ですからね。
それでも、あのローマのお店では、隣の日本人カップルの方は、ステーキ付きのコース料理をがっちり頼んで、それを全部たいらげていらっしゃいましたね。
まさか無理をなさったわけではないでしょうが、あれだけ食べられるなんて、頼もしい限りなのです!
追記: レストランの写真は、サンフランシスコのパレスホテル(Palace Hotel)という老舗ホテルにある「ガーデンコート(Garden Court)」というレストランです。
こちらは、19世紀末に建てられたホテルの一階フロアの真ん中にあって、ガラス天井からは優しい光がふりそそぐ、雰囲気の良いお店なのです。
サンフランシスコの名所であり、優雅なアフタヌーンティーでも有名です。
そして、お料理の写真は、最初のサーモンがガーデンコートのランチメニュー、次のキャビアがANAの国際線機内食。
最後の和食は、東京・港区麻布十番にある「かどわき」という季節のおまかせ料理店の一品です。
写真は、平目の薄切りにトリュフのスライスがのったもの。香りよいサマートリュフを平目でくるっと巻いて、こだわりの塩をかけていただきます。
まさに、「日本に生まれてよかった!」と実感するひとときですね。