そろそろブルーベリーの季節?
英語では、Spring is here(春がきた)といった陽気。
Spring has sprung(春がはじけた)と表現した方もいらっしゃいます。
3月に日本から戻って来ると、カリフォルニアの方がだいぶ暖かく感じました。が、まだまだ冷たい雨が降ったりして、一気に春! というわけにはいきません。
そんな変わりやすいお天気の中、お店でブルーベリーを見かけました。
表のラベルには「クマさん」が描かれていて、いかにもカリフォルニアっぽい図柄です。
そう、クマさんって、カリフォルニアらしいんです。
なぜって、以前もご紹介したように、カリフォルニア州の旗には、クマさんが登場するから。
カリフォルニアの旗のクマさんは、クマの王様ともいえる、グリズリーベア(the grizzly bear)。
残念ながら、カリフォルニアのグリズリーは絶滅してしまって、今は旗の中だけで生き続けています。
同じくカリフォルニアの象徴ともいえる「ゴールドラッシュ」によって、金鉱のある山奥にも人が分け入るようになり、乱獲の犠牲となったのでした。
そして、ブルーベリーのクマさんも、明らかにカリフォルニアの旗を意識しています。
クマさんは旗とは逆向きですが、頭上には赤い「ひとつ星(the Lone Star)」が描かれていて、カリフォルニアらしさを演出しています。その昔、統治されていたメキシコに抵抗しようと、アメリカ人住民の結束を表した赤星。
そんなラベルからもわかるように、こちらのブルーベリーは、カリフォルニア産。
南カリフォルニアのサンタバーバラ郡(Santa Barbara County)から運ばれたものでした。
北カリフォルニアよりもずいぶんと南なので、ブルーベリーが採れるのも早いのでしょう。
もともとブルーベリーは、初夏から夏にかけて採れる木の実。ですから、今の時期にお店に並んでいるものは、チリを始めとして南半球で収穫したものが多いです。
そんな中、こんなに立派な実を出荷できるなんて、きっとサンタバーバラの農園は「季節を先取り」しているのでしょう。
ブルーベリーと聞くと、頭に浮かぶことがあるんです。
それは、マサチューセッツ州出身のお向かいさんの思い出話。
彼女は、マサチューセッツ州といっても、ボストンのような街中ではなく、海沿いの小さな港ウェストポート(Westport)に生まれました。
マサチューセッツの海沿いには、1620年、イギリスの清教徒たちがメイフラワー号でたどり着いたプリマス(Plymouth)という有名な街がありますが、このプリマスからは、ケープコッド半島をくるりと回って南側にある港街。
夏の別荘地で知られるマーサズヴィニヤード(Martha’s Vineyard)という島は、ちょうど向かいに浮かびます。
ウェストポートは、昔は捕鯨(whaling)で有名な港だったそうですが、そんな海の街で育ったお向かいさんも、小さい頃からヨットに乗って船遊びをするのが大好き。ヨットでマーサズヴィニヤードに渡る、というのも年中行事のひとつだったとか。
ある夏の日、みんなで森に出かけることになりました。
夏を過ごした祖母の家の近くに森があって、ここには野生のブルーベリーが生い茂っています。このブルーベリーの実を摘みに行くのも、夏の楽しみのひとつでした。
姉妹でカゴいっぱいにブルーベリーを摘んでいると、なにやらガサゴソと音がします。
何かと思って音のする方を見てみると、そこには、大きなクマさんが!
真っ黒な、立派なブラックベア(the American black bear)です。
たぶん、クマさんも美味しいブルーベリーを食べにやって来たのでしょう。
いろんなものを食べるブラックベアではありますが、夏の間は、好んで果物やベリー類を食べるそうで、ブルーベリーだって大好物なんでしょう。
立派なクマさんと鉢合わせして、びっくりした姉妹ではありますが、動かずにじっと息を凝らしていると、クマさんは何事もなかったかのように、ノソノソと通り過ぎて行きました。
そのときに見たブラックベアの背中が、まるで草原に揺れる光る穂のように、キラキラと輝いて美しかった!
と、今でもお向かいさんの脳裏に鮮明に刻まれているそうです。
(Photo of blueberries by PhreddieH3; photo of the American black bear by Diginatur, both from Wikimedia Commons)
そんなわけで、ブルーベリーを見ると、クマさんと鉢合わせしたお話を思い出すんです。
まるで、自分がクマさんと遭遇したかのように。
そういえば、昨年の初夏を母と過ごしたときのこと。
珍しく、実家に近いスーパーマーケットにブルーベリーが置いてあったのでした。
けれども、ほんの20粒ほどしか入ってないわりに、お値段も高かったので、買って帰らなかったんです。
この滞在が、元気な母と過ごす最後となったので、「あのときにフレッシュなブルーベリーを食べさせてあげればよかった」と、ひどく後悔しているのです。
たぶん、これからはブルーベリーを見るたびに、クマさんと母の姿を思い浮かべることでしょう。
追記: お向かいさんが遭遇したブラックベアですが、グリズリーベアの親戚である茶色いヒグマ(the brown bear)よりも小さい種類だそうです。
アジアに広く住む「月の輪グマ」は、ブラックベアの仲間で、アメリカ大陸にいるブラックベアとは親戚スジ。
なんでも、遺伝的に見ると、アメリカのブラックベアは、同じ国内にいるヒグマよりも、アジアの月の輪グマに近いそう。ですから、ときどき胸のあたりに月の輪(crescent moon)の模様が出ることもあるとか。
アジアとアメリカは離れているのに、それって、なんだか不思議な感じもするのでした。
(Photo of a black bear with “crescent moon” by Ken Thomas, from Wikimedia Commons)