インターネット:日常生活への浸透
Vol. 32
インターネット:日常生活への浸透
アメリカでは、インターネットの一時的な過熱ブームが去り、"ドットコムの破綻(dot-com bust)" だとか、"内部破裂 (implosion)" などと言われるようになって久しい今日この頃です。けれども、そんなドットコム会社達の大騒ぎを尻目に、月日を追うごとに、インターネットは広く深く人々の生活に浸透しています。
今回は、そんなインターネットの利用法について、公共機関を重点的にまとめてみようと思います。
【カリフォルニア州の公共利用】
先日、年に一度の、自家用車の登録更新をする必要があったのですが、カリフォルニア州の運輸局(California Department of Motor Vehicles、通称DMV)は、今年から、オンライン登録更新を選択肢として採用していました。
従来の更新方法は、送ってきた更新料請求書に、小切手と自動車保険加入証明書のコピーを同封して郵送するというものでした。新たなオンラインの方法だと、DMVのWebサイトで、指示された身分証明番号を入れ、出てきた内容を確認し、更新料支払いのためクレジットカード番号を入れるだけで、すべての処理が完了します。三日後には、早々と、更新証明ステッカーが送られてきます(これを後部ナンバープレートに貼ります)。
これが実現できたのは、勿論、州のIT改革という基本的な事もありますが、それとともに、州内で営業している保険会社の協力があったからでもあります。この新システムの開始に伴い、保険会社は、法律で定められる自動車保険に加入する車を、DMVに事前報告するようになりました。お陰で、DMVでは、更新の際、保険加入証明を紙面で確認する手間が省けるようになったのです。
従来の更新方法でも、たとえば、排気ガス検査が必要な登録車の場合、ガソリンスタンドなどにある検査所から、自動的に報告書がDMVに送られていました。今回の新システムでは、これが一段階進化し、DMVや更新者の負担を更に軽減してくれます。このオンライン更新の利用には、4ドルのサービス料が取られますが(郵送の場合の、34セントの切手よりずいぶん高いですが)、便利さには替えられません。
最近、カリフォルニア州では、"e-Government(電子政府)" という掛け声の元、更なる仕事の効率化を目指し、IT改革に励んでいるようです。その一環として、裁判所が課す、スピード違反などの交通法規違反者の講習(traffic school)まで、オンライン化されているらしいです。参加する人にとっても、その方が自分の都合に合わせ易いのは事実ですが、完了最終期限が厳しく定められているので、コツコツとやるタイプの人でないと、更なる罰金の対象になってしまうかもしれません。
州政府だけではなく、地方自治体もがんばっています。たとえば、サンノゼの北西に位置するクーパティーノ市では、市議会の様子がインターネットで見られるようになりました。従来、どの都市でも、議会の様子をケーブルTVチャンネルで放映していましたが、最近、クーパティーノでは、市のWebサイトでも同時放映するようになりました。
インターネットの選択肢を加えることによって、住民に対し、より開かれた議会を目指しているようですが、同時に、"シリコンバレーらしさ" にもこだわりを見せています。
【連邦政府の場合】
一方、連邦政府のオンライン化と言うと、まず税務署が思い浮かびます。財務省の内国税収入部門(Department of the Treasury, Internal Revenue Service、通称IRS)では、2年前の1999年分納税から、オンライン申告を採用しました(呼び名はIRS e-fileと言います)。
ご存じの通り、米国では、収入のあるすべての人が確定申告(tax return)をする必要があり、毎年4月15日の最終期限の頃には、みんな計算機を片手に、複雑怪奇な算数に四苦八苦します。毎年、税法が変わり、何がいくら控除になるかも把握しておく必要があります。そのために、TurboTaxなどの税金ソフトウェアが流行り、パソコンの普及にも一役買ったとも言われます。
これが一歩進化したのが、IRSのe-fileです。IRSのパートナーとなっている税金ソフトウェア会社のWebサイトから、プログラムをダウンロードし、指示された箇所に必要な情報を入れていくだけで、税金を追加支払いするのか、払い戻しがあるのか、自動的にIRSに報告が行くようになりました。確定申告があまりに複雑なので、代わりにやってくれるサービス会社が巷にたくさんありますが、IRSに認定されている所だと、やはりオンラインで代行してくれます。
オンラインでやるメリットは、ひとつに、申告書をIRSに書留郵送する手間が省けることがあります(毎年4月15日の深夜12時まで、ほとんどの郵便局が営業していて、入り口まで長蛇の列ができます)。それだけではなく、申告から48時間以内に、IRSが申告を受諾したか却下したかがわかるので、いつまでも認否の返事を待つ必要がありません。
税金が戻ってくる場合も、追加支払いがある場合も、従来の小切手の郵送に代わり、指定した口座で自動振込みや引き落としができるのも、ありがたいことです。また、オンライン申告開始の頃は、勤めている会社から発行される収入証明書(W2と呼ばれる源泉徴収票)を郵送しなければいけませんでしたが、今は何も紙面で送る必要がなくなり、完全にオンライン化されています。IRSは、今後、自分のWebサイトで、直接申告ができるように計画しています。
一説によると、申告の間違いのせいで、必要以上に税金を支払っている人が多く、平均すると、一人当たり600ドルほどにもなるそうです。国は勿論、自分からは税金を返してはくれないので、納税者は知らぬが仏ということになります。オンライン、オフラインは問わず、少なくとも税金プログラムを使うことは不可欠のようです。
また、IRSは、申告後、個人監査を抜き打ちで行なうのですが(昨年は、申告漏れも含み、174人にひとりが監査されました)、オンライン申告だと、ある程度信用されるので、監査されにくいのかもしれません。最近のトレンドとしては、高所得者の監査率が減り、代わりに低所得者層の監査が増えているそうです。
【インターネットの利用者】
ところで、インターネットの利用が確実に広がっているとは言うけれど、いったいどれだけの人がインターネットを使っているのか、という疑問が出てきます。
少し統計的な話になりますが、2月に商務省(Department of Commerce)が発表したデータによると、赤ん坊は別として、アメリカの人口の54パーセントがインターネットを利用しており、毎月2百万人が新たにユーザーとなっているそうです。子供達に至っては、実に10人に9人が、学校か家庭でインターネットにアクセスしています。
家庭でのインターネット利用も、今や全世帯数の半数を超えています。3年前には4分の1の世帯でしか利用されておらず、年収や人種・民族など社会経済的要因による "デジタル格差(digital divide)" が、徐々に減少していることがわかります。
次に、皆どのようにインターネットを使っているかというと、やはり2月に発表されたUCLAのインターネット・リポートによると、ネット・ユーザーの9割が、Eメイルやインスタント・メッセージを愛用しています。また、8割の人が、Webサーフィングを行なっています。一方、オンライン・ショッピングやニュースを読むのにインターネットを利用している人は、全体の半数ほどのようです。
この中で、インスタント・メッセージは、特にティーン・エージャーの間で、人気絶大のようです。電話では言えない事も、文字にすると表現し易いらしく、一日数時間、コンピュータで会話するのも珍しくないようです(ダイヤル・アップ接続の場合でも、市内の番号に接続するため、電話料金は、毎月定額の、安い電話サービス料で補われます)。
また、Eメイルの利用は、高齢層にも広く浸透しており、遠くにいる子や孫との会話をきっかけに、バーチュアル世界が広がる例が多いようです。
オンライン・ショッピングは、現在、半数のネット利用者しか参加してはいませんが、この分野は、毎年確実に成長しています。商務省の統計によると、昨年のオンライン一般消費は326億ドル(4兆円強)で、一昨年より2割も増加しています。やはり歳末商戦のがんばりは大きく、売上の3割は年末3ヶ月で計上されています。
インターネットを始めて、単なるおしゃべりからオンライン・ショッピングに移行するには、ある程度の試行期間が必要なようですが、すぐに脱皮するのは、やはり、16歳から18歳のティーンのようです(平均14ヶ月)。驚く事に、それと同じくらい果敢なのは、65歳以上の高齢層で(平均15ヶ月)、20代から50代の人の先を行っています(平均20ヶ月前後)。ひとたびインターネットの魅力を知ると、どんどん未知の世界に飛びこむ勇気があるようです。
話は脱線しますが、オンライン・ショッピングの陰の魅力として、州内に物理的な店舗を持たないオンライン・ショップから購入すると、消費税が掛からないという事があります(州民から消費税を徴収し、地方自治体に納税するのが煩雑になってしまうからです)。
カリフォルニア州では、消費税8パーセント以上の自治体が大部分で、この課税の有無は、特に高額の買物の場合、支払いに大きく左右します(カリフォルニアの場合、消費税は州によって一律ではなくて、郡ごとに異なります)。
本来は、購入者がオンライン・ショップに支払うべき消費税を自己申告する必要がありますが、そんな(奇特な)人はめったにいないようです。
【オークション・サイト】
オンライン・ショッピングもさることながら、インターネットの魅力を最大限に利用しているのは、オークション・サイトと言えるかもしれません。今まで使われずに、手元で眠っていた物品を、ネット上で一番高く入札した人に売れるというのは、サザビーなどの高級品オークションに無関係の庶民にとって、とてもありがたいことです。
サンノゼに本社のあるイーベイは、そういったオークション・サイトの先駆者と言えます。先月末、ヤフー・ジャパンに太刀打ちできず、日本からは撤退してしまいましたが、他の18カ国ではいずれも一番の人気を誇り、4千2百万人もの登録者を持ちます(日本撤退と同時に、台湾最大のオークション・サイトNeoComを買収し、アジア進出を目指しているので、日本に戻って来ることもあり得るのかもしれません)。
そのイーベイの本国のサイトで、先日変なものが売りに出されました。ヒューレット・パッカードの株主とおぼしき人が、HPとコンパックの合併の是非を問う、臨時株主総会の投票権を売りに出したのです。もし、落札者が合併に賛成なら、この株主が賛成に投票するし、もし反対なら、反対投票するというものです。1000株ほどの投票権でしたが(HP全体では、19億株)、29人が入札し、最高額は76ドルだったそうです。
結局、偽のブランド品や臓器などの売買を禁止しているイーベイ側が、投票権や株の売買も認めないとし、オークションは成立しませんでしたが、この合併案に対する最近のメディアの関心度を鑑みると、もうちょっと高額の入札があってもよかったような気がします。
3月19日に迫った株主総会に向け、フィオリナ氏を中心とするHP陣営と、HP役員であり、創設者ウィリアム・ヒューレットの子息であるウォルター・ヒューレット氏陣営の闘いは、今年1月くらいから更に過熱し、毎日のように両陣営は新聞に全面広告を載せて、株主の理解を求めています。
株主の手元にも、ヒューレット氏からの合併をこき下ろす手紙を始めとして、相対するHP役員会からも、応援を求める手紙が届きました。その後、数回に渡って送られてきた反対投票のための緑の投票用紙には、ヒューレット氏のラブコールが、賛成投票のための白の投票用紙には、合併成功を描くバラ色のシナリオがそれぞれ同封されています。
インターネットが浸透し、株主総会の投票も通常はオンラインや電話でできるアメリカではありますが、さすがに今回の投票は、紙面で行なわなくてはいけないようです。この際、郵送が面倒くさいなどと言っている場合ではないのです。
夏来 潤(なつき じゅん)