夏の話題: ステイケーションとインセプション
Vol. 133
夏の話題: ステイケーションとインセプション
サンフランシスコ・ベイエリアは、7月、8月と記録的な冷夏でした。もともと霧の濃いサンフランシスコでは、8月の寒さは筋金入りではありますが、その霧が朝晩シリコンバレーあたりまで侵入し、目を覚ますと布団を出るのがイヤなほど肌寒さを感じる日々が続きました。
と思えば、8月終盤、これまた半世紀ぶりの記録破りの猛暑が3日間だけやって来て、いったい地球はどうなっているんだろうと、一抹の不安がよぎるこの頃です。
そんな8月は、経済、娯楽、テクノロジーと3つのお話をいたしましょう。
グーグルさんなどが登場する最後のお話は、ちょっと長めですので、どうぞごゆるりとお読みくださいませ。
<ステイケーションって?>
このなんとも世知辛い世の中で、近頃アメリカでは、ある言葉が流行っています。それは、「ステイケーション(staycation)」。
ゆったりと休暇をとって、どこか遠くにお出かけする「バケーション(vacation)」の親戚となりますが、こちらは「お金にちょっと不安があるので、近場で済ませる束の間のバケーション」という意味になります。
「ステイ(stay)」という部分が表しているように、遠くに行かないで「地元に残る」という意味合いが出てくるわけですね。
たとえば、サンフランシスコ・ベイエリアでいくと、サンフランシスコからゴールデンゲート橋をちょいと渡ってワインの名産地ナパに一泊、というのがステイケーションの好例となるでしょうか。
まあ、近頃はナパ一泊旅行もなかなかお高いので、普段は行くことのない地元の美術館を訪ねてみる、というのも立派な代替え案となるでしょう。
どうも不況になると、この手の節約型ライフスタイルが芽生えてくるようではありますが、ステイケーションという言葉自体は、あの2008年秋に世界を震撼とさせた「金融危機(the global financial crisis)」(日本では「リーマンショック」)のあとに生み出されたもののようです。
シリコンバレーの地元紙サンノゼ・マーキュリー新聞でも、毎週日曜日の旅行版に「ステイケーション・スペシャルズ」というコーナーが組まれています。
これによると、最近は、観光都市サンフランシスコにも「Go San Francisco」というお得な割引カードがあって、有効期間中は市内の美術館やら博物館やらケーブルカー体験乗車と、いろんなアトラクションを楽しめるようになっているそうです(スウェーデンの首都ストックホルムの「Stockholm Card」や、東京の美術館「ぐるっとパス」みたいなものでしょうか)。
思い返せば、1990年代後半を彩るインターネットバブルがはじけたあとも、シリコンバレー辺りでは、世知辛いバケーションが出現していましたね。
2000年の後半あたりから、ドットコム(dot-com)を名乗るネット小企業から何万人単位の従業員を抱える大企業まで、すべからくスタッフの縮小が行われたわけですが、みなさん職を失うのが恐いものだから、「いっそのこと、バケーションなんて止めにしよう!」と、休暇を返上する従業員が続出したのでした。あの頃は、どこの企業が何千人解雇するというようなニュースが連日連夜流れていましたから。
なんとか従業員の解雇をまぬがれようと、ネットワーク機器のシスコ・システムズのように、無給の「ボランティア休暇」の参加者を募る企業もありましたっけ。
そう、それまでのクリントン政権下の「行け、行け!」の時代がまるでウソだったかのように、2001年以降、ブッシュ政権下での経済のつまずきは大きなものとなりました。
その巨大なツケ(単年度の財政赤字や累積赤字)を受け継いだオバマ大統領は、連日、針のむしろに座っているようなものでしょうか。
右側の議員の方々からは「国民に金を使い過ぎる」「そのわりに税金を上げようなどと、ビジネス界や金持ちには冷たい」と批判され、左側の方々からは「みんなが困っているときに、もっと政府が助けてあげるべきだ」と批判され、同じ民主党の議員ですら味方してくれないような厳しい状況に陥っています。
そろそろ学校の夏休みが終わる今月中旬、議会で緊急可決された260億ドルの先生の救済法だって、「11月の中間選挙を狙った点数稼ぎだ!」と右側の方々から非難されています。
そして、当の国民からは、こんな声が上がっています。ブッシュ大統領のツケを受け継いだといっても、オバマ大統領は就任してもう18ヶ月も経つのよ! それなのに経済は上向きにならないし、いつまでも失業率は10パーセント近くのままじゃないのよ!
夏のドライブシーズン中、全米あちらこちらの道路は、連邦政府の経済刺激策のおかげでかなり快適になっているのです(昨年2月に可決された7,870億ドルのThe American Recovery and Reinvestment Act of 2009。法律署名日の換算レートで約73兆円)。
でも、そんな大スポンサーを示す看板なんて、誰の目にも入っていないようではあります。
そして、経済の不安定にアフガニスタン戦争の不人気も相まって、大統領支持率は、就任以来最低の41パーセントに落ちてしまったのでした(8月初頭のUSA Today/Gallup Poll調査)。
けれども、そんな厳しい状況の中でも、オバマ大統領は傍若無人な目標を掲げているのです。それは、「5年の間に輸出額を倍に増やす!」というもの。輸出をグンと増やすことで、国内の労働市場を一気に改善しようという狙いもあります。
すでに輸出審議会(Export Council)も招集されていて、ボーイング、フォード、ディズニー、テレコム業界のヴェライゾン、製薬のファイザー、輸送ネットワークのUPSと、米トップ企業の経営者20人が委員として参加しているのです。
ちょうど2年前、当時の福田康夫首相は、「10年から20年の間に、国民一人当たりのGDP(国内総生産)を世界トップ10に戻す!」という大きな目標を掲げようとしていました(このときには日本は世界ランキング18位)。
が、ご存じの通り、その直後に福田内閣は崩壊してしまったのでした。
わたし自身は、これをなかなかいい目標だと思っていたのですが、オバマ大統領には2013年以降も政権第二期を続投し、目標を貫徹して欲しいものだなぁと思っているところです。
だって、ステイケーションなんて世知辛い流行語は、いつまでも生き延びて欲しくないですからね。
<D-Boxってスゴいかな?>
「ステイケーション」のお話が出たところで、夏場のステイケーションに最適なのが、映画鑑賞かもしれませんね。いえ、ビデオを借りてきて自宅で観るというのはいけません。だって、家ではエアコンが効いてなかったり、臨場感がなかったりと、必ずしも快適とはいえないでしょう。
まあ、アメリカの映画館なんて、だいたい寒いくらいにエアコンを稼働させているものですが、そんな暑さしのぎの理由だけではなくて、つい映画館に足を向けたくなるような「装置」がお目見えしたのです。
その名も「D-Box(ディーボックス)」。何かといえば、映像に合わせてグググッと動く座席のことです。
よく遊園地のアトラクションにあるでしょう。まわりの映像に合わせて右に左に前に後ろに傾く座席が。わたしなどは、フロリダのエプコットセンターにある「ミクロの決死圏」みたいな乗り物のアトラクションを思い浮かべるのですが、自由自在に傾くだけではなくて、ゴゴゴッと音に合わせて小刻みに振動する座席。
そう、そんな遊園地みたいな座席が、アメリカの映画館に出現したのです。
シリコンバレーでは、ごく最近キャンベルという街の映画館(Camera 7 Cinemas)に登場いたしました。今のところ、シリコンバレーではここだけだそうです。
そんな噂を耳にして、さっそく観に行った映画は、レオナルド・ディカプリオ主演の『Inception(インセプション)』。7月16日に封切られたこの映画は、D-Boxを利用した十数作目の劇場作品となります。
何がすごいかって、プロダクションの段階からD-Box効果を考えて映像が作られていて、そんな映像に合わせてD-Boxの微妙な動きをコーディングするには、それだけで数百時間もかかるんだそうです。
たとえば、ゴーッと地鳴りがして、突然爆発するシーンがあるでしょう。そんな瞬時の動きが求められるような場面だって、ミリ秒の単位で画面とシンクロしているのです。
ですから、この映画には、爆発シーンとか逃走シーンとか銃撃シーンとか、D-Boxの魅力を十分に引き出す場面が2時間半の中にギッチリとちりばめられているのです。
でも、白状いたしますと、わたし自身はD-Box座席に座ったわりに、「動く」モードはオフにして鑑賞しておりました。なぜって、iPad(アイパッド)のレーシングゲームで気持ちが悪くなるタイプなので、前日からめまいと戦っていた不利な状況では、とてもD-Boxと対決する元気などありません。
映画が始まる前には、8月中旬に封切られる『The Expendables(エクスペンダブルズ、シルヴェスター・スタローン主演)』の宣伝が流れたんですが、座席が5度ほど傾いたその一瞬で、「あ、まずい!」って思ってしまいましたね。
そんな(弱気な)人たちのために、モーションは大中小とコントロールできるようになっていて、もし座席が動くのがいやなら、完全にストップできるようにもなっているのです。けれども、座席の背中のスピーカーから響いてくる音響効果をオフにすることはできないので、これだけでも、かなりの振動を味わうことになるのです。
D-Boxは、もともと家庭用の映画室に向けて開発されたそうですが、それが昨年4月に劇場にお目見えして、全米の映画館にも少しずつ広がりつつあるようです。
キャンベルの映画館の場合は、真ん中の22席がD-Box予約席となっていて、通常のチケットよりも8ドル上乗せとなります。事前にオンラインでチケットを購入したら、ふたりで36ドル(手数料込み)もしたので、今の世の中、映画といってもそんなにお安い娯楽ではありません。
けれども、このD-Boxを応用すれば、目の見えない方でももっと映画を楽しめるようになるのではないかと思うのです。今でも副音声付きの映画はありますが、たとえばD-Box座席に座って、副音声のヘッドフォンを付ければ、映像は目にしなくても、かなりの臨場感が出てくるのではないかと想像するのです。
ところで、当の映画はどうだったかといえば、近頃観た映画の中では、ぴかいちに面白かったですよ。話が何段階にも深く構成されていて、映像の奇抜さと相まって、あっと意表をつかれるような作品となっています。
そして、とくにお勧めしたいのが、主演のレオナルド・ディカプリオのセリフ。あんなに美しく英語を発音してくれる俳優は、めったにいるものではありません。
準主役の渡辺謙さんも、圧倒的な存在感で映画にいい味を添えていますが、きっとレオナルドさんはこう思ったのでしょう。「謙さんが出るから、日本でも人気が出るだろう。だから、セリフはできるだけわかり易くしよう」と。
1993年の『What’s Eating Gilbert Grape(ギルバート・グレイプ)』で、主演のジョニー・デップの弟役を演じた頃から、「彼は天才的な俳優だな」とは思っておりました(この映画では、障害を持ち、言葉もうまくしゃべれない少年を演じています。こちらも心に残るいい作品となっています)。
それが、歳月とともに、演技にもだんだんと磨きがかかっているようにも思えるのです。
きっと、そんな自分なりの新しい発見があるから、そして、その発見を劇場のみんなと分かち合いたいから、今日も観客は映画館に向かうのでしょう。
D-Box、IMAX、3Dと、新手の発明はいろいろとありますが、やっぱり主役は人間ですよね!
<IT業界は混乱の季節>
まるで映画『インセプション』の倒錯した映像のようではあるのですが、振り返ってみると、この夏は、どうも頭が混乱するような季節でした。なぜって、テクノロジーの世界では次から次へといろんな事が起こって、世の中が急激に動いているように思えるからです。
たとえば、こんなニュースがあるでしょうか。グーグルのスマートフォンOS(基本ソフト)アンドロイドが、第2四半期、アメリカのスマートフォン市場でシェアトップになったと。
今年の第1四半期には、アンドロイドがアップルiPhone(アイフォーン)のOSを抜いてシェア2位となっていたところが、第2四半期になると、リサーチ・イン・モーションのブラックベリーOSを抜いて首位に浮上したというのです。
米政財界にあれほど人気のブラックベリーを追い抜いたというのは特筆すべき出来事ではありますが、考えてみれば、アンドロイド搭載のスマートフォンが一番売れているというのは、当たり前のことなのかもしれません。なぜなら、鉄砲の球数が多いですから。
今では、アメリカ市場だけでも二十数種のアンドロイド機が発表されているのですから、販売台数が伸びるのも当然かもしれません。
が、それも嬉しいばかりではなくて、HTCの「Evo 4G(写真)」やモトローラの「Droid X」といった一般消費者向け人気機種の部品生産が追い付かないらしく、年末までは部品不足に悩まされることになるとか。
ということは、アンドロイドの今年の課題は、意外にもメモリーやタッチスクリーンのコントローラと「部品」になるのかもしれません。
こんなニュースもありました。グーグルは、ごく最近、ソーシャルネットワーク向けにゲームを開発する Zinga(ジンガ、日本のソフトバンクが出資し合併会社設立にも合意)にもこっそりと投資しているし、ソーシャルネットワーク最大手Facebook(フェイスブック)でバーチャルペットのアプリケーションで大人気の Slide(スライド、「SuperPoke!」「SuperPoke! Pets」で200カ国3千万人弱のユーザを持つ)など、ソーシャルゲーミングの関連企業をいくつか買収していると。
まあ、グーグルは今年末までに「グーグル・ゲーム(Google Games)」というサービスを立ち上げようとしているそうなので、そのような投資も買収も当たり前なことかもしれません。とくにZingaは、グーグル・ゲームの柱となると目されているようですし。
けれども、その裏側には、なんとなくお家の台所事情が見え隠れするようにも思えませんか。なぜって、スマートフォンOSアンドロイドでは存在感を増すばかりのグーグルですが、頼みの綱となるネット検索での収入の伸びがいまいち鈍化しているから。
近頃、Facebookでは、メジャーな広告主が使う広告費がグイグイと伸びているそうではありませんか。そんなにおいしいソーシャルネットワークの分野にどうにかして食い込みたいと、グーグルは考えていることでしょう。
そう、Facebookの強みは、メンバーひとりひとりの好みや友達関係なんかをギッチリと把握しているところ。だから、広告主だって「有効かも!」と広告費をたくさん支払う気になるのです。
グーグルにとっては、それがうらやましくてしょうがない。じゃ、まずは、ゲームを始めて、ユーザの情報をたんと集めるとしましょうか。
それに、ソーシャルゲーミングの分野は、何やかやとユーザから直接お金が入ってくるでしょう。ゆえに、利益率はかなり高い。Zingaだって売上の半分は営業利益だというではありませんか。そんな商売って、かなりおいしいでしょう。
さらに、ゲームを始めれば、ユーザと自分を金銭的に直結できるのです。Zingaが PayPal(ペイパル、オンラインの支払いシステム、現在はオークションサイトeBayの傘下)を使ってしっかりとお金を集めているように、自分だってユーザの支払いシステムを押さえておきたいではありませんか。そう、ユーザがクレジットカードの番号を登録しておいて、画面をクリックしただけでポンと物が買えるシステムを。
すると、アップルが iTunes(アイチューン、音楽・映像・アプリショップ)を使って、パソコン、iPhone、iPad、iPodといろんなプラットフォームから簡単に物が買えるように工夫しているように、グーグルだって、ユーザから手軽にお金を取れるようになるでしょう。
最初はゲームから始めたにしても、そのうちにいろんな物を売れるようになるかもしれない!
(グーグルは、今年1月から自社ウェブサイトで販売したアンドロイド機「Nexus One(ネクサス・ワン)」では失敗しているので、あれだけのネームバリューがあったにしても、直接ユーザに物を売る難しさは身にしみて知っているのです。そして、グーグルだって Google Checkout(グーグル・チェックアウト)という支払いシステムは持っているのですが、なにせアンドロイド機という小難しい製品から売り始めたものだから、裾野が広がっていないのです。気軽に買える一曲99セントの音楽とは大違いなのです。)
きっとグーグルがアップルをうらやましいと思っているのは、iTunesのような何でも売れる環境なんでしょう。でも、金庫にお金はたくさんあるのですから、何かめぼしいものがあれば、外から買ってくればいいだけの話かもしれません。
グーグルCEO(最高経営責任者)エリック・シュミット氏も「内製できなければ、買収は良い方策である」と明言していらっしゃることですし。(ソーシャルゲーミングSlideは、今年19個目のグーグルのお買い物となりました。)
そして、そのうらやましいiTunesを繰り広げるアップルは、現在、テレビ番組のレンタルを始めようとしている、といったニュースもありますね。iTunesで何かを買おうとすると、結構お高いでしょ。だから、ひとつ99セントで好きな番組を48時間だけ借りられるようにするそうです。
今は、Foxネットワークを持つNews Corp.(ニューズ・コーポレーション)や、ディズニーの傘下ABCと交渉中だそうですが、99セントなら、みなさん「借りてみようかな」という気になるのかもしれません。だって、買うほどではないけれど、ちょっと観てみたいと思う番組はたくさんありますからね。(これについては、9月1日にサンフランシスコで開かれるアップル新製品お披露目会で、詳しく説明があるのかもしれません。)
けれども、この動きには風当たりも強くて、とくに家庭のテレビに番組を配信しているケーブル会社などは、「そんなものが流行ったら困る!」と戦々恐々としているようです。
そんな中でも、メディア王でありNews Corp.トップのルーパート・マードック氏は、新しい番組配信案にかなり乗り気なようではあります。彼は、今年6月、アップルのスティーヴ・ジョブス氏への壇上インタビュー(D8 Conferenceにて)を観客席で熱心に聴いていたそうですが、iTunesのようなサービス展開には可能性を感じているのでしょう。
現に、News Corp.は、アマゾンの「キンドル」みたいな電子ブック(e-readers)のプラットフォームを開発する会社(Skiff)を買収していますし、有料コンテンツの配信サービスとなるジャーナリズムオンライン(Journalism Online)にも投資しています。
ウォールストリート・ジャーナル紙のような新聞を多数持つメディアの巨頭News Corp.にとって、デジタル配信は、今後の糧となるのかもしれません。
そして、ジャーナリズムの価値と存続の重要性は、スティーヴ・ジョブス氏だって十分に感じているのです。
そんなわけで、そうやって自分の中で説明がつくニュースもあるのですが、「まったくわからない」部類のニュースもたくさんありました。
たとえば、パソコンのマイクロプロセッサで有名なインテルが、セキュリティーソフトウェアの老舗マカフィー(McAfee)を買収するというもの。
え、どうして半導体屋さんがソフトウェア屋さんを買うの? シナジー(相乗効果)はいったいどこに?
それから、ブラックベリーで有名なカナダのリサーチ・イン・モーション(愛称RIM、リム)。近頃、スマートフォン市場ではアンドロイド搭載機に負けそうになっているので、そろそろiPadみたいなタブレット型コンピュータを出そうとしているそうです。
が、そのOSには、無人戦車やBMWに採用されている会社のソフトウェアを使うとか。
RIMは、今年4月、オーディオ機器のハーマン・インターナショナルからQNXソフトウェア・システムズという会社を買収したそうですが、タブレット型新製品「BlackPad(ブラックパッド)」のOSは、そのQNXが担当するそうなのです。
これまでQNXは、BMWの車内メディア・ナビゲーションシステムだとか、米国陸軍の無人戦車「Crusher(クラッシャー、カーネギー・メロン大学開発)」のナビゲーションだとか、はたまた原子力発電所の制御ソフトや心臓モニターシステムと、多岐にわたって開発してきたそうです。
そこで、ふと考えるのです。BlackPadっていったい何者?
そして、こうも考えるのです。最初に「形ありき」で無理矢理ソフトを詰め込んだって、いい製品はできないんじゃないの? と。
ジョブスさんは、こうおっしゃっていました。「iPhoneとiPadは、実は、タブレット型のiPadの方が先にできたんだよ」と。
バーチャルキーボードを使って両手でタイプできるような、マルチタッチのガラスの画面をつくってよと頼んだら、数ヶ月後にiPadみたいなタブレットができてきた。それから数週間すると、指先で画面を次々とスクロールできるようになったよとエンジニアが連絡してきた。
おっと、これだったら電話ができるじゃないかって、それから数年かけてiPhoneを開発したんだよ。やっぱり、電話を出すのが先だからね。(D8 Conferenceの壇上インタビューより)
アップルのiPadは、実は、自然に世の中に誕生したような製品だったのでした。何をするにしたって、「自然体」というのは大事なことなのかもしれません。
というわけで、世の中には、謎のニュースもいっぱい出回っているわけです。が、とくにこの夏は、頭がグチャグチャになるような季節ではありました。
きっと、世界が急激に動いている証拠なんでしょうね。
夏来 潤(なつき じゅん)