CES: なんだか、欲しいモノがいっぱい!
Vol. 198
CES: なんだか、欲しいモノがいっぱい!
毎年、年が明けるとすぐにラスヴェガスで開催される、CES(シーイーエス)。
今年からは、「CES」というのが正式名称。主催者も家電協会からテクノロジー協会(the Consumer Technology Association)と名称変更し、「家電の祭典」から離脱を図っています。
今年は、VR(バーチュアルリアリティ)ヘッドセット、ドローン、車のセンシング技術と注目分野はたくさんありましたが、ここでは生活に密着した3つの話題にしぼりましょう。
<身の回りのセンサー>
CESに関しては、すでにいろんな情報がお耳に入っていることと思いますが、個人的に印象深かったのが、いわゆる「モノのインターネット(the Internet of Things:略称 IoT、アイオーティー)」と呼ばれる分野。
IoTのメイン会場であるテックウェスト(Sandsホテル周辺)を訪れると、昨年よりももっと「形になっている」のが印象的でした。
そう、「モノのインターネット」という漠然とした概念が、具体的な製品となって現れていて、しかも、ありとあらゆる場面に登場している、といった感じ。
まあ、だいたい「モノのインターネット」というのはマズいネーミングでして、とってもわかりにくく、人によって思い描くことが異なります。
が、要するに、いろんなモノにセンサーが付くことによって、スマートフォンを使ってネット経由で遠隔操作できたり、データの蓄積によってシステムが自動的にモノを制御したりと、便利にモノを使いこなしたり、人が介在する場面を減らしたりする工夫を指しますね。
たとえば、歩数、血圧、カロリー消費量、睡眠パターン、ストレス度を計測するアクティビティ・トラッカー(活動量計)に代表される「ウェアラブル(Wearable)」製品も、広義の「モノのインターネット」に入るでしょうか。
身につけるすべてのモノにセンサーが付き、頭のてっぺんからつま先まで、常にモニターされます。
標準値から外れると警告を発してくれたり、「体脂肪を減らす」などの目標を設定しておくと、励ましの言葉をかけてくれたりと、健康志向の方々には強い味方です。
スポーツ選手でなくとも、ソックスやスポーツウェアにセンサーを! というのは、常識になりつつあるでしょうか。
フィットネス志向のウェアラブルに並んで、赤ちゃんの体温を24時間モニターする絆創膏なども登場し、健康(health & wellness)もキーワードとなっています。
そして、近頃は、心電図(ECG、EKG、electrocardiography)にも流行の兆し。
胸のあたりに小型の心電図モニターをまとって、定期的に心電図を取り、異常があれば、データファイルを主治医に送る、というもの。
こちらの XYZという会社は、医療用の小型心電図モニター(写真左端の白い機器)と健康用のカラフルなアクティビティ・トラッカーを紹介していて、専用のスポーツウェアも販売しています(モニターは胸のあたりに当てるので、落っこちないように、ホックでウェアに留めるようになっている)。
スマートフォンやタブレットに出てくる画面もわかりやすいです。
アクティビティ・トラッカーは、馬やアヒルといった動物のイラストで活動量を示してくれますし、心電図の波形は、正常だと緑の波形、異常だと赤の波形になるそうです。
赤の異常が見つかると、PDFファイルにして主治医に送り、診断を仰げるようになっています。
心拍計と言えば、近頃は手首に付ける活動量計にも取り込まれていて、たとえば、アクティビティ・トラッカーの大御所 FitBit(フィットビット)は、「チャージHR(Heart Rate)」を販売し、健康な人でも常に心拍数を測ることを奨励しています。
心臓のあたりに付けなくても、手首からのデータをどれほど正確に補完できるか、というアルゴリズムの問題になっているのでしょう。
そして、身につける「ウェアラブル」のもうひとつの流行りは、ベッドや枕が賢くなっていること。
こちらは、韓国の Coway(コウウェイ)という会社が出品するベッドで、マットレスの中のセンサー装置(ベッド奥の白い装置)が、睡眠の長さやパターン、呼吸数、心拍数を計測することで、睡眠に「67点」とスコアを付けてくれたり、「ディナー後に散歩すると、良く眠れますよ」とアドバイスしてくれたりと、より良い眠りをサポートします。
手元のスマートフォンに点数やアドバイスを出してくれるわけですが、睡眠パターン、心拍数、呼吸数が、わかりやすくグラフ化されています。
さらには、マットレスの中には、マッサージチェアみたいな振動装置も付いていて、寝入り時のリラックス効果や、飛行機の微振動みたいな「ゆりかご効果」も演出してくれます(飛行機で良く眠れる人って多いですよね)。
センサー装置は、ひとり一台、振動器は、ひとり4つマットレスの中に埋め込まれています。
微振動と言えば、「賢い枕」と「賢いマットレス」を販売している会社(ずばり SleepSmart(賢く眠る)という会社名)もあって、安眠をサポートするマットレスだけではなく、いびきをかき始めると、枕の振動でいびきを抑える、といった機能も登場しています。
上記Cowayは、韓国では浄水器、空気清浄機、トイレのビデ機能(TOTOのウォシュレットみたいな装置)のトップ企業ですが、間もなく、賢いベッドも国内販売するそうです。
「ウォシュレット」製品は、単なるビデ機能だけではなく、脱水症状(dehydration)の検知機能も付いているとか!
アメリカでは、ビデ機能だけでは売れないので、何かプラスアルファがあれば、飛ぶように売れるかも。
<賢い生活、スマートホーム>
一方、家のまわりの「モノのインターネット」。日常生活では、それこそ星の数ほど応用が考えられますので、近頃は「スマートホーム(Smart Home)」と呼ばれる分野が確立しています。
昨年よりも、アイディアや製品に具体性が出てきたので、見ていて楽しくなっています。
たとえば、玄関の呼び鈴。こちらの「リング(Ring)」という呼び鈴にはカメラが付いていて、ベルが押されると、スマートフォンの映像で来訪者がわかるだけでなく、自宅から離れたカフェにいたとしても、まるで家の中にいるようにスマホ経由で来訪者に話しかけることができます。
これで、押し売りや空き巣狙いなども、撃退可能!
モーションセンサーも付いているので、たとえば前庭の芝生を荒らす犯人(犯犬)が誰なのか?を、証拠ビデオにしてスマホに送ってくれたりもします。
「リング」単体でも利用できますが、ADTという警備会社(日本のSECOMみたいな会社)の警報システムと一緒に利用すると、ドアの施錠や照明の点灯・消灯も遠隔地から可能になるようです。
類似の警備システムは、ケーブルテレビ配信会社のコムキャスト(Comcast)なども熱心に展開しています。やはりホームセキュリティは、スイートスポットでしょうか。
こちらは、「我が家に欲しい!」と思ったアイディア商品で、水漏れ探知機(water leak detector)。
アメリカの家庭は、瞬間湯沸かし器ではなく、ガレージにでっかい温水器(water heater)を置くのが普通ですが、たとえば、この大きなタンクが水漏れを起こしたら、「水漏れしてますよ」と教えてくれる、ありがたい装置。
被害が甚大になる前に、手を打つことができます。
これは、iDevices(アイデバイス)という会社の製品で、iPhoneで照明や冷房・暖房を操作するシステム(センサー付きのソケット、コンセント、サーモスタットと制御ソフト)を提供しています。
実は、「水漏れ探知機」というのは、人気の機能のようでして、フロアを歩いていると、複数の会社が出品していました。
こちらは、Fibaro(フィバロ)というポーランドの会社が販売している探知機セット。水漏れに加えて、煙、明るさ、扉の開閉、モーション探知機が入っていて、500ユーロほどで販売されているとか(手前の丸いのが水漏れ探知機。モーションセンサーには、動き、傾き、光、温度センサー機能が含まれる)。
ブース担当者は、「わたしはキッチンの流し台の下や冷蔵庫の後ろに水漏れセンサーを置いているわ」とおっしゃっていたので、「水漏れ」というのは、アメリカだけではなく、ヨーロッパでも頭の痛い問題なのでしょう(冷蔵庫には製氷用の送水線を取り付けるため、ここから水漏れすることも多い)。
一方、昨年ご紹介した会社も、健在でした。モーションセンサー付き電動歯ブラシを出す Kolibree(コリブリー)や、何でも屋のお人形「Mother(マザー)」ハブを出すSen.se(センス)と、懐かしい面々がブースを出します。
今年は、「Peanut(ピーナッツ)」センサーも登場し、「温度」「お薬」「保管庫」「紛失防止」など場面に特化した、カラフルなセンサーを提供しています。
「子供部屋の温度が低すぎますよ」「お薬を飲むのを忘れていますよ」「誰かが宝石箱に触りましたよ」「鍵は棚の上ですよ」などと、ちょっとした日々の手助けをしてくれます(今春、ひとつ30ドル弱で発売)。
<日本の会社がんばる!>
実は、IoT会場「テックウェスト」の一番人気は、日本の会社でした。
「洗濯物をたたんでくれる、スゴいロボットがいるらしいよ!」と友人に教えてもらって、あちこちを探し回ると、なんだか黒山の人だかり。
そう、こちらがロボットをつくっている Seven Dreamers(セブンドリーマーズ)という会社です。
見かけは洋服ダンスのようですが、一番下の引き出しに乾かした洗濯物をごそっと入れておくと、ひとつずつ折りたたんでくれて、色や種類別に真ん中の台に重ねてくれる、というスゴいロボット。その名も「Laundroid(ランドロイド)」。
残念ながら、こちらはモックアップ(模型)ですが、昨年10月のCEATEC(シーテック)では実際にたたむ場面を製品デモしたんだとか。
洗濯物が何であるかを画像解析して、器用に折りたたむロボット技術を駆使する、驚きのマシーンなのです。
何年か前、カリフォルニア大学バークレー校が開発した「洗濯物折りたたみロボット(laundry-folding robot)」のビデオを見たことがあって、二本の腕が器用にシャツをたたんでいくのが感動的でしたが、中身はどうなっているのか見てみたいものです。
Seven Dreamers社は、「発明家のおじさん」が設立した会社で、すでにシリーズAとして15億円の資金を調達されているとか。
家電のPanasonicや住宅メーカーの大和ハウスとパートナーを組み、来年の製品発売を目標とするとともに、将来的には、洗濯・乾燥・折りたたみ総合機を実現し、新築住宅に装備しようというプランもあるとか。
折りたたみ機単体では高価になりがちですが、住宅ローンに入ってしまえば、値段はあまり気になりませんものね。
教えてくれた友人と同様、わたしも家事の中で「洗濯物の折りたたみ」が一番嫌いなので(もっとも時間の無駄に感じる)、早くランドロイドくんが登場することを願っています。
欲を言えば、人によって折りたたみ法は異なるので、最初に「こうやってちょうだいね」と、ロボットを教育できるといいですよね!
一方、テクノロジー業界の大御所、ソニー。こちらの展示会場でも、気に入ったものがありました。
こちらは、「MESH(メッシュ)」というブロック状の電子タグで、見かけは、単なる長方形の小さな積み木。
けれども、これに温度・湿度、明るさ、人や物の動きといった各種センサーが付いていて、ブロックを組み合わせることによって、自分なりの使い方ができる、という遊び感覚の商品。
たとえば、子供が部屋に戻ってきたら、椅子に座っているクマさんが動き出すとか、キッチンで料理中のお母さんが壁をたたくと、2階の勉強部屋のLEDタグが光って息子を呼べるとか、使い方は無限に考えられるのです。
「積み木」が面白いだけではなくて、「設計」が簡単なところもスゴいです。スマートフォンやタブレットの画面で電子タグのアイコンをつなげるだけで、設計図が完了。専門知識がなくても、自由な発想で「開発」できるのです。
この夢のある「積み木」は、すでに日本とアメリカで販売されていますが、惜しむらくは、ひとつ6,980円と高いこと。
子供に与えて、考えさせるのに最適な商品と思われますので、「学校割引」があると教育現場でも使いやすいことでしょう。
というわけで、世の中がどんどんセンサーでつなげられ、モノとモノが会話するようになった今日この頃。
これまで「モノのインターネット」と言うと、制御装置となる「ハブ」とモノをつなげにくかったり、手元のスマートフォンから指示を出しにくかったりと、うまく作動しないケースが多かったことも否めません。
これから様々な製品が市場に登場し、消費者に試してもらうことで「自然淘汰」され、ほんとに日常生活に必要な、使いやすいアイディア商品が出回ることが期待されます。
夏来 潤(なつき じゅん)