ホリデーシーズン(パート2):クリスマスから元旦
Vol. 5
ホリデーシーズン(パート2):クリスマスから元旦
前回は、11月末のサンクスギヴィングからクリスマスまでを、かいつまんでお話しましたが、今回は、その後元旦までのお話をします。
一般的に、クリスマスが終わると、すぐ翌日から会社ですが、クリスマスから元旦までが、まとまった休暇が取りやすい時期なので、バケーションを取って旅行に行く人も多いようです。シリコンバレーからだと、サンディエゴ(San Diego、カリフォルニアとメキシコの国境近くの街)、ゴルフ場で有名なパームスプリングス(Palm Springs、ロスアンジェルスから内陸に入った砂漠のリゾート地帯)など暖かい所に出かけて行ったり、ネバダ州との境にあるタホ湖(Lake Tahoe)の周辺にスキーをしに行ったりします。
また、サンクスギヴィングに実家に戻らなかった人達は、東海岸や中西部に家族を訪ねたり、逆に、自分の家に家族を招いたりします。
休暇を取っているけれど、どこにも行かず家で過ごす人は、ゴルフやテニスなどのスポーツをしたり、クリスマスツリーの後片付けをしたり、ショッピングに駆り出されたりします。商業主義の徹底しているアメリカでは、ありとあらゆる休日は、店のセールの口実とされ、クリスマス後の26日にも、"アフタークリスマス・クリアランスセール" なるものがあります。朝早く、7時くらいから店が開き、普段よりも更に安いということで、開店前から何百人も並ぶ店もあるようです。
また、クリスマスで戴いたプレゼントで気に入らない物があると、それを返品したり(return)、交換したり(exchange)する季節でもあります。贈る側も、相手が好んでくれないことを仮定して、店が発行した、ギフト領収書(a gift receipt、どこの店で買ったものかを証明するもの)を付けて贈る人も多いようです。これだと、あからさまに購入金額はわからないようですが、一昔前は、店のレシートそのものを付けて贈り物をする人も少なくなかったようです。何とも、現実的な習慣と言えます。
返品・交換される品物は、たとえば洋服の場合、店舗での購入の数パーセントなのに対し、オンライン・ショッピングでは2,3割にも昇ると言います。それに対応するため、今シーズンは、Webサイト上で、簡単に返品用のバーコード・ステッカーが作成できるとか、Webサイトの姉妹店である店舗に行って返品できる(たとえばWalmart.comではWal-Martの各支店)、などいろいろな工夫がなされていました。
この返品の季節を当て込んで、オークションサイトのeBay.comでは、12月27日から1週間、クリスマスにもらった、要らない物の処分を促すテレビ・コマーシャルを、全国的に放送しました。テレビでの宣伝は、実に会社始まって以来のことで、その話題性だけで、約3億円の広告費の元は取れたのではないか、と思われます。
こういった商業主義から離れ、本来の意味を考えると、クリスマスとはキリスト教の神聖な行事であり、宗教的な祭日です。しかし、いろんな人種、民族、宗教の集まりであるアメリカでは、必ずしも、クリスマスを祝わない人も多いようです。
この時期に別 のお祝いをする主なものでは、ユダヤ教のハヌカ(Hanukkah)、イスラム教のラマダン(Ramadan)、そして、アフリカン・アメリカンのクワンザ(Kwanzaa)があります("黒人" という言葉は、人種偏見の含みがあるということで死語となりつつあり、代わりにAfrican- Americanと総称しています)。
ハヌカは、ユダヤ人がシリア人の統治を紀元前2世紀に覆し、無事に自分達の神に祈りができるようになったことに感謝する、宗教的なお祝いです。ヘブライ暦の12月25日から8日間(2000年は、12月21日から28日)、毎日ろうそくに一本ずつ火を灯しながら(最後には8本になる)、祈り、聖歌を歌い、贈り物を交換し祝います。
一方、ラマダンは、イスラム教の神、アラーに祈るひと月を指し、最終日(2000年は、12月27日)は、祈りと日中の断食の聖なる1ヶ月が無事に終わったことを感謝するため、信者が一同に介し祈りを捧げた後、特別 なデザートを楽しみます。また、この日は、モハメッドの教えに従い、見ず知らずの人にも慈善を行う日とされ、最近シリコンバレーで増えている、ボスニア、コソボ、ソマリアなどからのイスラム教の移民に、援助を施す時期にもなっているようです。
2000年は、クリスマス、ハヌカ、ラマダンの最終日が同じ週に重なるという、33年に1度の出来事となりましたが、それが、キリスト教徒の間でも、他の宗教のお祝いごとを考える良い機会になったようです。また、お互いの信条や習慣を尊重し、これら三大宗教は、新天地でうまく共存しているようです。
ハヌカやラマダンに対し、クワンザは宗教的なお祝いではありませんし、比較的新しい習慣です。黒人解放運動(the Black Freedom Movement)の盛んだった1966年に、カリフォルニア州立大学・ロングビーチ校の教授が、"黒人" が分かち合うアフリカ大陸の文化のルーツを広く知らしめ、誇りを持つように、と始めたお祝いです。
クワンザとは、スワヒリ語で "最初の果実" の意味で、古代エジプトやヌビア、またアシャンティ、ヨルバ、ズールー、スワジなどの国々で、伝統的に行なわれていた収穫祭に起源を持ちます。12月26日から1月1日までの7日間、自分達のルーツを思い起こし、仲間との繋がりを強め、同時に、調和(unity)、決断力(self-determination)、独創性(creativity)など7つの信念を、毎日ひとつずつ心に刻む、という精神的な運動と言えます。
贈り物の交換などもありますが、子供達には、信念を教える本を贈るなど、どちらかと言うと地味なようです。"どうして私には、おもちゃとか楽しいものをくれないの?"、と親に尋ねる小さい子もいるそうですが、クリスマスのサンタさんで育った子供なら、尚更です。ごく最近、商業主義のクリスマスを捨て、クワンザに切り替えた家族も多いようで、子供だけでなく、大人にとっても、まだまだ学ぶことはたくさんある習慣、と言えるようです。
さて、いよいよ年の瀬も押し迫り、大晦日が近づくと、またまた、みんながそわそわし始めます。2000年は、ちょうど31日が日曜日になりましたが、普段は、この日をお休みにする会社もあるようです。
大晦日の晩は、夜通 し、年明けパーティーに参加したり、新年のカウントダウンの花火見物に出かけたり、みんなと楽しく過ごす人が多いようです。サンフランシスコの海沿い、フェリー・ビルディングからの年明け花火も、毎年数十万人の見物人が集まり、一大イベントとなっていますが、全米で一番有名なのは、やはりニューヨーク市タイムズ・スクエアのカウントダウンのようです。1907年から続いているという歴史があり、50万人の見物人のうち、85パーセントは市外から、4分の1は、全世界から集まると言います。
アメリカ中で、12時を廻り、新年を迎えたら、一斉に歓声があがり、風船や紙ふぶきが舞い、カップルはキスであいさつをします。蛍の光を歌うのも、年末ではなく、年が明けてからです(実際には、国内で時差があるので、蛍の光が6回歌われることになります)。
この新年を迎える大騒ぎこそ、日本の静粛な大晦日とは、好対照のものだと言えます。タイムズ・スクエア周辺では、みんなが帰った後、35トンもの紙ふぶきを清掃したとか。
元旦は、さすがに会社はお休みですが、クリスマスとは違い、お店も大部分営業していて、書き入れ時のようです。また、街角のカフェでコーヒーを飲んだり、公園を散歩したり、のんびりと過ごす人も多いようです。
アメリカらしいところでは、毎年元旦にパサディナ(Pasadena、ロスアンジェルス郊外の街)で行なわれる、ローズボール(Rose Bowl)のパレード(花で飾られた山車や鼓笛隊が、何十と街を練り歩く)が有名で、パレードの後のカレッジフットボールは、その他全米5箇所で行なわれる試合と合わせて、元旦の名物になっています。
このあと、1月2日のニューオーリンズでのシュガーボール(Sugar Bowl)、3日のマイアミでのオレンジボール(Orange Bowl)と、カレッジフットボールの天王山が控えています(前回から、アメリカンフットボールの話がよく出てくるようですが、冬は野球のオフシーズンなので、この時期、やはり集客率が一番高いスポーツと言えます)。
元旦の骨休めも束の間、1月2日からは、さっそく会社が始まります。さすがに初日は、"Happy New Year!"との挨拶で始まりますが、前日までののんびりとしたペースはどこへやらで、いきなりフル回転で仕事が始まります。この切り替えの早さが、何ともアメリカらしいところと言えます。
元旦まで街中に残っていたクリスマスの飾り付けも、遅くとも新年6日の公現祭(Epiphany、イエス生誕の際、東方の三博士がベスレヘムを訪れた記念日)までには、さっさと片付けられ、年末・年始の余韻を楽しむ間もありません。
元旦に立てた一年の計(New Year resolutions)も、すっぱりと忘れてしまうのではないかと思われるほど、頭の切り替えが早い国民性ですが、せっかく立てた計画は、半分くらいは実行してもいいのではと思います。ちなみに、一番多い決心事は、"減量して、スリムになるぞ!" だそうです。
夏来 潤(なつき じゅん)