Male cow(オスの乳牛)
いえ、たいしたお話ではありません。
ちょっと気になったことがあったので、お話ししようと思ったんです。
前回の英語のお題は、「Until the cows come home(気のすむまで)」という慣用句でした。
「(昼間の放牧が終わり、夜になって)乳牛が牛舎に戻ってくるまで」つまり「気のすむまで」という意味の慣用句でした。
そのときに、cow は「乳牛」であり、メスの牛だとご説明しておりました。
メスの牛は cow で、オスの牛が bull であると。
(Photo by Tractorboy60, from Wikimedia Commons)
それで、一般的には、これは正しいんだと思うのですが、科学雑誌を読んでいて、あれ? と思ったことがあったんです。
それは、male Holstein cows という表現。
こちらは、「オスのホルスタイン種の牛」という意味ですが、male cow(オスの乳牛)という言い方もあるんですね。
ホルスタインは、ジャージーと並んで有名な乳牛種ですが、考えてみれば、お乳を出すのはメスであっても、オスがいなければ、種族は絶えてしまいます。
ですから、ホルスタイン種の牛で、オスの場合は、male Holstein cow となるのでしょう。
けれども、male cow とは、「オスのメス牛」みたいに聞こえて、なんとも複雑な呼び方だと思ったのでした。
いっその事、日本語のように、オスとかメスの区別がなければシンプルなのに・・・。
それから、お詫びすることがあるのです。
何年か前に、「Happiness is a bovine thing(幸せとは、牛が得意とするものだ)」というお話をいたしましたが、このときに間違いがありました。
「牛の」という形容詞 bovine(発音は、ボウヴァイン)と一緒に、
「鳥の」という avian(エイヴィアン)や「熊の」という ursine(アーサイン)をご紹介しました。
そして、「豚の」という形容詞は swine(スワイン)だと書いておりましたが、正しくは、porcine(ポーサイン)です。
あくまでも、swine は「豚」を表す名詞だそうで、形容詞は porcine となります。
「鳥インフルエンザ」は avian flu と呼び、「豚インフルエンザ」は swine flu と呼ばれるので、てっきり swine は形容詞だと勘違いしたのでした・・・。
こちらも、科学雑誌でハッと気づいた点なのですが、たいそう不勉強なことで、お詫びして訂正いたします。
(すでに、以前のお話は訂正させていただきました。子豚の写真は、科学雑誌 Scientific Americanより; You Can Edit a Pig, but It Will Still Be a Pig: Scientists use CRISPR gene-editing tool to prevent devastating swine infection, by Monique Brouillette, Scientific American, March 2016, p A22)
というわけで、牛さんや豚さんが出てきたところで、動物の呼び方をどうぞ。
牛と同じように、「オス」「メス」「子供」の呼び名が明らかに違う例は、deer(鹿)があるでしょうか。
鹿の総称は deer で、一般的には、複数形も deer です。
それで、オスの鹿は、buck(発音はバック)または stag(スタッグ)
メスは、doe(ドウ)
ディズニー映画の『バンビ(Bambi)』は、背中に白い斑点のある子鹿として、真っ先に思い浮かべるキャラクターですよね。
(Photo of fawn by Veledan, from Wikimedia Commons)
ちなみに、オスの鹿 buck という言葉は、「ドル」の意味で使われることが多いでしょうか。そう、アメリカの通貨「ドル」です。
以前も、お金のスラングをご紹介したことがありますが、green(緑)、greenback(緑の裏側)、bacon(ベーコン)、bread(パン)、dough(パン生地)といった言葉と一緒に、buck をご紹介いたしました。
It cost me 20 bucks to park my car
車を駐車場に入れるのに、20ドルもかかったよ(まったく困ったもんだ)
という風に、ざっくばらんに語るときに使います。
鹿が出てきたところで、ついでに「角(つの)」の呼び方ですが、
一般的に、角は horn(ホーン)と呼びます。
牛の角や羊の角は、horn といいます。
けれども、オスの鹿の立派な角は、antler(アントゥラー)という呼び方をします。
カナダに住むカリブー(Caribou)や、北米大陸からユーラシア大陸にかけて生息するムース(Moose、写真)は、もっとも立派な角が生える動物ですね。
(Photo of Moose by USDA Forest Service, from Wikimedia Commons)
彼らも鹿の仲間ですので、角は antler と呼びます。
どこかのお城の暖炉の上に飾るような、芸術品みたいに立派な角は、antler と特別な呼び方をするんですね。
それで、「普通の角」の horn ですが、
日常生活で shoe horn と呼ぶ道具があるんです。
「靴の角」というわけですが、なんと「靴べら」のことなんです。
たぶん、最初のうちは、靴べらって動物の角でつくられていたんでしょう。
でも、わたしがアメリカに暮らして ン十年、shoe horn という言葉は耳にしたことがありません。
ですから、先日、サンフランシスコの靴屋さんで困ったんです。
「靴べらって何て言えばいいの?」と。
そこで、店員さんには、こう言ってみました。
Can I borrow that thing to wear the shoes?
この靴を履くのに、あれ(that thing)を貸してくれますか?
そう、靴べらとわかるように「細長い」ジェスチャーも添えて。
すると、「OK!」と返事して、すぐに持ってきてくれました。
いえ、アメリカ人って、律儀な日本人と比べると、靴べらを使わないことが多いと思うんです。
だって、靴屋さんですら、靴を試すときに靴べらを渡してくれないんですから!
わたしの父は、いつも小さな皮袋に入った携帯用の靴べらを持ち歩いていて、「靴を履くときには、かかとをつぶしてはいけない」と、子供の頃から言い聞かせられました。
ですから、わたし自身も、普段は靴べらを持ち歩くようにしています。
そんな身近な道具なのに、呼び名を知らなかったとは・・・。
追記: 蛇足ですが、shoe horn を shoehorn と書くと、名詞から他動詞に早変わり。こちらの shoehorn は、「~を無理やり詰め込む」という意味だそうです。
たとえば、小さなスマートフォンの中に機能をギューギューと詰め込んだり、文章の中に論点をいっぱい詰め込んだりと、物を詰め込む場合と、比喩として「詰め込む」場合があるそうです(さながら、このお話も詰め込み過ぎ?)。