クリスマスと米国憲法
先日、英語のコーナーでは「Happy Holidays(ハッピーホリデーズ)!」というお話をいたしました。
今となっては、キリスト教のクリスマスを祝う「Merry Christmas(メリークリスマス)」というごあいさつよりも、どんな宗派の祝日にも対応できる「Happy Holidays(ハッピーホリデーズ)」というごあいさつがアメリカで主流になっている、というお話でした。
そのときに、一月に就任したトランプ大統領は、クリスチャンの古き良き時代を取り戻そうと、Merry Christmas という言葉を復活させようとしている、ともご紹介しておりました。
そうなんです、前のオバマ大統領のときには、いろんな宗教や習慣の人に配慮して、クリスマスカードもごくシンプルに 「Season’s Greetings(季節のごあいさつをいたします)」と書かれていたそうです。
ところが、トランプ大統領がホワイトハウスの主になると、「Merry Christmas and a Happy New Year(メリークリスマス、そして良き新年を)」という昔ながらのメッセージに逆戻りしてしまったとか。
でも、ちょっとしたミスもあったようで、ホワイトハウスで開かれるクリスマスパーティーの招待状に、本来は Christmas Party(クリスマスパーティー)と書くべきところを、Holiday Reception(祝日の宴)と印刷して送ってしまったそうです。
大事な「クリスマス」という言葉を落っことしてしまったなんて、どなたのミスかは存じませんが、もしかすると大統領から大目玉をもらったかもしれませんね!
それで、そういったクリスマスにまつわる「いざこざ」を考えてみると、アメリカってほんとに「キリスト教国」なのかな? と疑問に思ってしまうのです。
言うまでもなく、アメリカにはカトリックやプロテスタント系宗派を含めて、キリスト教徒が圧倒的に多いのは事実です。
だいたい、7割が自分をクリスチャンだと認識していて、逆に2割が「無宗教」、残りはさまざまな宗派を信仰している、といった感じでしょうか。
そんなわけですので、大統領をはじめとして、アメリカの政治家の演説には、頻繁に「神(God)」という言葉が登場しますし、紙幣にも「In God We Trust(わたしたちは神を信じる)」と印刷されています。
そう、社会のいろんなところに(キリスト教の)神様が登場し、市民の方も、それが当たり前のように受けとめています。
ところが、意外なことに、国の最高の法律である米国憲法(the U. S. Constitution)には、キリスト教が「国教(state religion)」であるとは定められていません。
そして、そもそも憲法には「神」という言葉すら出てこないのです。そうなんです、憲法のどこにも「アメリカは神の国である」なんて書いてないのです。
それどころか、米国憲法「第6条(3)(Article VI [3])」には、すべての議員や行政府・司法府の職員は、宣誓によって憲法を守る義務を負っているが、任を授かる条件として、宗教上の審査を課してはならない、と書いてあります。
つまり、「キリスト教徒じゃないから、あなたはダメよ」などと、宗教を理由に人を判断してはいけない、ということでしょうか。
ですから、たとえば政治家や裁判官が就任式で宣誓するときには、キリスト教の聖書でも、イスラム教のコランでも、自分が大切に思っている経典に手を置いて誓えますし、逆に宗教色をまったく出さずに、憲法などの法律の本に手を置いて誓う人もいます。
さらには、米国憲法の本文だけではなく、あとで追加した「修正箇条(Amendments to the Constitution)」でも、特定の宗教を保護したりはしていません。
一番真っ先に批准された「修正第1条(Amendment I)」には、政府は特定の宗教を支持したり、信仰を禁じたりすることはできない、と明記されています。
これは「宗教の自由(freedom of religion)」と呼ばれるものですが、こちらの修正第1条は「宗教の自由」の他に、言論の自由や出版の自由、国民の集会する権利、政府に請願する権利を定めてあります。
この修正第1条は、国民の基本的な人権を定めたものとして、修正箇条の中でも、もっとも大事なものでしょうか。
というわけで、国の最高の法律である憲法には、はっきりと「宗教の自由」をうたってあるので、国のスタンスとしては、宗教に関しては中立な立場を取るのが正しいんでしょうね。
う〜ん、ということは、大統領が「クリスマスを祝う Merry Christmas という言葉を復活させろ!」などと発言するのは、世の中を混乱させるだけなのかもしれません。
現に、サンフランシスコ・ベイエリアでは、先日こんな出来事があったんです。
年の瀬になると、慈善団体の救世軍(the Salvation Army)がお店の前でチリンチリンとベルを鳴らしながら、赤いバケツに小銭を入れてくださいと、寄付を募るのが恒例行事になっています。
ところが、ある街の店先でベルを鳴らしていると、いきなり担当者が殴られ、倒れ込んだところで顔を蹴られた、という傷害事件が起きたんです。
「ただ僕は、行き交う人たちに Merry Christmas と季節のごあいさつをしただけなのに・・・」と、殴られた担当者も困惑顔。
これは、あくまでもわたしの勝手な想像ですが、殴った犯人は「ハッピーホリデーズ」ではなく「メリークリスマス」と言われたことに腹を立てたのかもしれません。なんだ、あいつは、トランプ大統領の回し者か! って。
だとすると、メリークリスマスという言葉が世の中で一人歩きをしてしまって、人を保守派とリベラル派に分ける禁句になってしまったのかもしれません!!
本来は、クリスマスシーズンというと、家族・親戚が集まったり、近所やコミュニティーの人たちに助けの手を差し伸べたりする、思いやりの季節なのに・・・
と、残念な気もするのです。
ひとりひとりが違ったものを信じていても、お祝いの言葉が違っていても、「心」を伝えたい気持ちに変わりはないのに。
というわけで、Merry Christmas! & Happy Holidays!
両方使い分ければ、間違いはないはず?!