Jane Doe(ジェイン・ドウ)
<英語ひとくちメモ その141>
いきなりですが、Jane Doe(ジェイン・ドウ)
人の名前のようですが、よく聞く女性の名です。
ご存じの方もいらっしゃることと思いますが、アメリカでは身元不明のご遺体が見つかって、それが女性だった場合には Jane Doe と名づける習慣があります。
ご遺体が男性だった場合は、John Doe(ジョン・ドウ)
この Jane Doe や John Doe がどこからきたか? というのは、意外とはっきりわかっているそうです。
なんでも、1768年のイギリスの法廷記録には「原告の匿名は John Doe、被告の匿名はRichard Roe(リチャード・ロウ)」と記されているとか。
これが女性のケースなら、原告は Jane Doe、被告は Jane Roe(ジェイン・ロウ)となります。
イギリスでは、中世の時代から自分の正体を明かさずに匿名で法廷に訴え出ることができたそうで、そんな匿名裁判で好まれた名前が Jane Doe や John Doe。それが、アメリカの現代社会にも転用されているのです。
イギリスの裁判で「身元を明かさない」ために使われていたものが、どうして「身元不明」という意味合いでアメリカの治安当局に使われるようになったのかはわかりません。が、この国で Jane Doe や John Doe と聞くと、どうしても「ご遺体」のイメージが強いのです。
それで、どうしていきなり Jane Doe の話をしているのかというと、サンフランシスコの海沿いをお散歩していて、この名前を見かけたから。
こちらは、ダウンタウンのちょっと南にあるヨットハーバー。
ダウンタウンの南側にあるので「サウスビーチ(South Beach)」という名のヨットハーバーです。規模はそれほど大きくはないものの、ヨットや小型船舶がずらりと並んでいます。
街の中心部に近いので、便利な立地で人気も高い。でも、いかんせんハーバーの規模は小さいので、ここに停泊する権利(メンバーシップ)が欲しいと何年も待っている人も多いとか。
そんなわけで、大小さまざまなヨットやボートを見ながらお散歩するのも楽しいものですが、ここで場違いな Jane Doe を発見!
よりによって、立派なヨットに「Jane Doe」号という名前がついていて、ギョッとしたのです。
だって、先にご説明したように、Jane Doe や John Doe と聞くと、どうしても「身元不明のご遺体」というイメージがつきまといます。どうして自分の大切なヨットにそんな名を? と理解し難いものがあるのでした。
持ち主はよほどブラックユーモアのある方なのか、それともイギリスの法廷に従って「匿名」という意味合いで使っていらっしゃるのか、いずれにしても、ネーミングセンスが「ひねくれて」いるので、他のヨットと絶対にかぶらないネーミングであることは確かです。
そう、一般的には縁起の悪いイメージですので、「事故に遭わなければいいな」と願いながら、その場を離れたのでした。
このように、英語には、人名が出てくることも多いです。たとえば、こんなものがありますね。
Every Jack has his Jill
すべてのジャックは、自身のジルを持っている
つまり、すべての人には、各々に適した相手がいるものだ、という意味。
「誰だって理想の人が必ず現れるものだよ」と、元気づけの言葉にもなる慣用句です。
逆に、「ヘェ〜、あんな人でも結婚できたんだ(人の好みって、わからないものだなぁ)」と、ちょっと失敬な驚きの表現になるのかもしれません。こういった意味合いでは、日本の「タデ食う虫も好き好き」みたいな感じでしょうか。
ちなみに、この Jack と Jill という名前は、よく聞く男女の匿名コンビネーションになります。
たとえば、Jack-and-Jill bathroom(ジャックとジルのバスルーム)
これは、おもに子供たちが使うバスルームのことで、シャワーやバスタブ、トイレなどを子供たちが共有できるタイプのバスルーム。
理想的には、sink(洗面台、シンク)や鏡は二つあって、ひとりひとりが歯を磨いたり、髪をとかしたりするのに便利な作りになっているバスルームのこと。(Design/Photo by Small Design Ideas)
アメリカの平均的な家のレイアウトでは、両親が使うマスターベッドルーム(master bedroom)に加えて、子供たちのベッドルームがあって、その隣に置かれるのが Jack-and-Jill bathroom です。
子供たちが各々ベッドルームを持っている場合は、その間に設置したりします。
Jack and Jill という名前は、昔から親しまれる同名の童謡(nursery rhyme)からきているようです。
ちなみに、Jack や Jill のような匿名として人気なものには、男性名の Joe(ジョー)もありますね。日本でいう「なにがし太郎」みたいなものでしょうか。
というわけで、ヨットハーバーで見かけた変なネーミング、Jane Doe。
きれいなヨットに、そんな名前をつけないでよ! と、少々憤慨してしまいました。
プンプンしながら家に戻ってテレビを点けると、小型発電機(generator)のコマーシャルが流れています。
夏になると乾季になるカリフォルニア。山火事(wildfire)の危険性が高くなるので、昨年あたりから電気会社による計画停電(rolling blackout)が急増しています。「住民を守る、安全のための停電」という意味で、Public Safety Power Shutoff(略してPSPS)などと呼ばれています。
そんなベイエリアの住民に向けて、「停電になっても、自宅に発電機があれば大丈夫!」と呼びかけるコマーシャル。
が、体験談を誇らしげに語っているのは、John D.(John Doe?)という名の男性。
ふん、これは絶対に偽名の「やらせ」だね! と確信したのでした。