In spring, the dawn(春はあけぼの)
<英語ひとくちメモ その150>
もう3月になりましたね。
こちら福岡では、なかなか寒さがゆるまず、福岡城跡の梅もようやく満開となりました。
なんでも、先週は「26年ぶりの寒さ」だったらしく、最高気温が10度未満というのが6日間続いたそう。
北国の方々からすれば、「零度以上なんて暖かい!」と言われてしまいそうですが、福岡よりも温暖なカリフォルニア州から引っ越した者にとっては、この寒さは身にしみます。
もっと暖かくなれ! と空を眺めているこの頃ですが、春といえば、こちらのフレーズを思い出します。
春はあけぼの
ご存じ、清少納言の『枕草子(まくらのそうし)』の冒頭、第一段ですね。
「春はあけぼのがいいのよ。だんだんと白くなってくる山際の空が少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいているのも趣(おもむき)があっていいわ」
と、そんな感じで春夏秋冬を美しく描写した文章です。
いえ、ここでは『枕草子』を英訳してみようなどとは思っていません。
それは専門家の方々に任せるとして、とりあえず、最初の一文「春はあけぼの」はこんな感じになるでしょうか。
In spring, the dawn
こちらは、単に言葉を並べて、俳句のように簡潔に dawn(あけぼの)を強調した表現になります。
これを文章にすると、こんな風になるでしょうか。
In spring, it is the dawn that is most splendid
あけぼの(曙)というのは、太陽が昇る直前に空に光がさしてきて、白っぽく見えてくる時間帯のことですね。
英語では、dawn(「ドーン」と発音)といいます。
または、daybreak(デイブレイク)ともいいます。
この daybreak は、一筋の光がさしてきた状況を表し、まさに一日(day)が明ける(break)感じが出ています。
なんでも、daybreak は、ほんの少し光がさしてきた状態を表し、dawn の方は、そのあと空が紫やオレンジがかってきた状態をさす言葉だという説もあります。
一般的には、ともに「空が白んできた時刻」「(太陽が昇る前の)夜明け」を表します。
そういえば、大学院の同級生に Dawn という女のコがいて、珍しいファーストネームだと思っていました。
その後、入院先の同室の患者さんに Sunshine(サンシャイン)という女性がいて、珍しい名前だなと Dawn さんのことを思い出しておりました。
「夜明け」とか「陽の光」とか太陽に関する言葉は、神々しいイメージがあるので、女性のファーストネームには好ましいのでしょうね。
それから、April(4月)とかAugust(8月)、Autumn(秋)といった名称もファーストネームとして使われるので、自然や季節に関する名称は、女性のファーストネームとして人気のようですね。
ちょっと話がそれてしまいましたが、『枕草子』の朗読を聞いていて、面白いと感じた文章をひとつご紹介いたしましょう。
それは、「秋」の箇所。
秋は夕暮れ。(中略)日入りはてて、風の音、虫の音など、はた言ふべきにあらず
「秋は夕暮れよね。(夕日がさして、山の端っこが近く感じるとき、カラスが寝床に向かおうと、三羽四羽、二羽三羽などと急いで飛んでいくさまも、しみじみとしているわ。ましてや、雁が連なっているのがとても小さく見えるのは、とっても趣があるわね。)日がすっかり沈んで、風の音や虫の声が聞こえるのは、また言うまでもないわね。」
最後の「はた言ふべきにあらず(また言うまでもない)」というのを耳にして、なんとなく英語的な表現だなと感心したのでした。
英語では、こんな風にいいますね。
It goes without saying
文字どおり、「言うまでもないことです」という表現です。
こちらは、単独で文章として使うこともできますが、別の文章を続けることもできます。
It goes without saying, but you shouldn’t cheat on the exam
言うまでもないことだけど、試験ではカンニングをしてはいけないわね
同じように「言うまでもなく」という表現には、こういうのもあります。
Needless to say(言葉にする必要もない)
きっと It is needless to say that 〜 という文章が短くなった表現なんでしょう。だって、Needless(必要がない)というところを強調したいのですから、なるべく簡潔に言いたいですよね。
上の文章を Needless to say で言い換えると、こんな風になります。
Needless to say, you shouldn’t cheat on the exam
こちらは It goes without saying と同じ意味になりますが、Needless to say の方がカジュアルな言い方となります。
そう、It goes without saying というのは、ちょっと文語調になりますので、『枕草子』を英訳する上では最適な表現なのかもしれませんね。
というわけで、意外なことに、平安時代に書かれた文章に「英語的な表現」が出現したので、感心した次第ではありました。
たしかに、人が何かを感じて言葉に表そうとすると、どんな言語でも似たような表現が生まれてくるものなんでしょう。
『枕草子』は、昔の文章の中でも簡潔で読みやすい随筆です。英訳もしやすく、外国の方々も共感できる文章なのかもしれませんね。