Six feet under(6フィート下?)
<英語ひとくちメモ その155>
夏も盛りの8月。連日、猛暑が日本列島を襲っています。
8月はまた、お盆の季節でもありますね。
そんな今月は、この言葉をご紹介いたしましょう。
Six feet under
なにかが省略されているようですが、もともとの言葉は、こちらになります。
Six feet under ground
つまり「地表面から6フィート(約180センチ)下」という表現です。
なんともヘンテコリンな言葉ですが、実は「死んでいる」という形容詞なんです。
そう、dead とか deceased という形容詞と同じ意味。
I will be six feet under if I lose all my savings
今までの貯金をすべて失ったら、僕はもう死んじゃうよ
といった風に使います。
そう、six feet under という三語で、ひとつの形容詞になります。
どうしてこんな変な表現が生まれたかというと、誰かが亡くなって棺を土に埋めるとき、地面から6フィート土を掘って、そこに棺を収めた習慣からきているそうです。
もともとは、こんな感じで使われていたのかもしれません。
Her coffin was buried six feet under ground
彼女の棺は、6フィート地下に収められた
そこから、「6フィート地下」というのは、暗に棺に入って土に収められたことを示す婉曲語として使われるようになったようです。
今でも、アメリカでは火葬(cremation)よりも土葬(burial)が主流となっていますが、かなり深く土を掘りますので、6フィートという習慣は守られているのではないでしょうか。
そういう点では、単に「死去している」というよりも「亡くなって、すでに土に還っている」といったニュアンスがありますね。
日本語の「鬼籍(きせき)に入る」という表現にも似ているのかもしれません。
I will be six feet under long before starvation disappears from the face of the earth
地球上から飢えが消えてなくなるずっと前に、わたしは土に還っているでしょう
こちらの文章では、long before「〜のずっと前に」という接続詞や、from the face of the earth「地球の表面から(地上から)」という慣用句もポイントとなるでしょうか。
そして、starvation とは、単にお腹が空いた状態(hunger)ではなく、空腹が長期間続いたために、体内の生化学反応の不全から体全体の機能が損なわれ、生死の境に瀕する(matter of life and death)という深刻な状態をさします。
ですから、不安定な食糧供給(food insecurity)は、戦争に使われるミサイルと同じくらい、平和を蝕む「悪」だといえるのでしょう。
というわけで、「6フィート地下」という変な形容詞の登場でした。
「6」という数字を聞くと、なんとなく、日本の「六文銭(ろくもんせん)」を思い浮かべるのです。
「三途の川(さんずのかわ)」を渡る賃料として、亡くなった方に持たせる小銭のことですが、偶然にも死者にまつわる表現に「6」と「六」が出てくるのは、興味深いですよね。
新約聖書(New Testament)の『ヨハネの黙示録』(Book of Revelation 13:17-18)にも、「獣(けもの)の数字」として 666が出てきます。
昔から人は、「6」という数字に、なにかしら不吉なものを感じていたのでしょうか。
そして、six feet under という言葉から連想した表現がありました。
それは、go south
直訳すると「南へ行く」という動詞ですが、こちらは「(物事が)うまく行かない」とか「悪い方へ向かう」といった意味になります。
なんとも不吉な表現ですが、たとえば、こんな風に使います。
Their business plan went south, and their company went bankrupt
彼らのビジネスプランはうまく行かず、会社は倒産してしまった
この go south には、「姿を消す(disappear)」というニュアンスはありますが、人が息絶えるといった意味はありません。
ですから、six feet under とは同じ意味ではありません。
けれども、go south という表現は、北米大陸の先住民族が使う「死ぬ」の婉曲語からきているという説があります。
先住民族の間では、人は亡くなって「南へ行く」。ですから、英語でも go south が「姿を消す」とか「物事が悪い方へ向かう」と、ネガティヴな意味を持つようになったようです。
仏教では、人はこの世から西方浄土へ向かう(go west)とされますので、「南へ向かう」北米先住民族と、どことなく似ていますよね。
ですから、自然と six feet under から go south を連想してしまったのでした。
というわけで、今日はこちらの二つをご紹介いたしました。
ヘンテコリンな形容詞 six feet under(土に還っている)
知らないと、勘違いしてしまいそうな動詞 go south(物事がうまく行かない)
英語にも、興味深い言葉がいっぱいあるんです。