Sixty-four-dollar question(64ドルの疑問)
<英語ひとくちメモ その159>
新しい年が明けて、はや4週間。
年末年始の行事に追われていたら、いつの間にやら、2月ももう目の前。
福岡の街には、「大名ガーデンシティ」という新名所も誕生し、愛くるしい大狛犬が子どもたちを歓迎しています(旧大名小学校の校庭に鎮座する狛犬には、遊具のように登り下り自由です)。
そんな今日の話題は、こちら。
Sixty-four-dollar question
こちらは名詞で、ずばり「64ドルの疑問」。
なにやら暗号のようでもありますが、日常会話ではよく耳にする表現です。
意味は、「とっても重要で、難解な問題」というもの。
こういう風に使います。
Who will run for the next presidential election? Now, that’s the sixty-four-dollar question
次の大統領選挙には誰が立候補するのだろう? まさに、それは64ドルの疑問(重要で難しい問題)だ
近頃は、64ドル(およそ8,400円)では少ないので、こちらの方がポピュラーでしょうか。
Sixty-four-thousand-dollar question
金額は千倍になって、「6万4千ドル(およそ840万円)の疑問」。
使い方はまったく同じです。
The sixty-four-thousand-dollar question is whether he will run for the second term
ここで重要な問題は、彼が二期目に立候補するかどうかだ
やはり、世の中のインフレを考えると、64ドルなんてケチなことは言わずに、6万4千ドルにしましょうよ、と「疑問」の値段もつり上がったのかもしれません。
「64ドル(6万4千ドル)の疑問」とは、普段よく耳にする表現ではありますが、改めてご紹介しようと思ったのは、先日観た人気ドラマ『刑事コロンボ(Columbo)』にありました。
1997年に初放映された第66話「殺意の斬れ味(A Trace of Murder)」。真犯人がハメようとした男性を示唆する証拠品が現場から消えてしまった。そう主張する真犯人は、警察の鑑識専門家。その犯人に向かってコロンボが発した言葉がこちら。
So where did it (the evidence) go? That’s the sixty-four-dollar question
だとすると証拠はどこへ行ったのか? それが64ドルの疑問ですね
コロンボは一般市民の代表ですから、つつましく「64ドル」と表現するのです。
すると、奇しくもその晩、寝る前に読んでいた小説にこんな文章が出てきました。
Would a cat burglar stop with just one item? … That was the sixty-four-thousand-dollar question, wasn’t it?
忍び込み泥棒は、たったひとつの盗品で満足して止める? (中略)それは、重要な問題だったはずよね(Laura Childs, Shades of Earl Grey, New York: The Berkley Publishing Group, 2003, p35)
こちらの小説では、泥棒が狙うのは何百万円もするような宝石や骨董品。「64ドルの疑問」では表現としてつり合いが取れないので、「6万4千ドルの疑問」としたのでしょう。
と、そんな経緯があって、「64ドルの疑問」を書かなくちゃと思ったわけですが、調べてみると、この言葉の語源ははっきりとわかっているそうです。
それは、1940年に始まったアメリカCBSのラジオクイズ番組。出題されるクイズはだんだんと難しくなって、最終7問目に正解すると、賞金は64ドル。きっと当時は、64ドルでも大きな額だったのでしょう。
1950年には番組名は『The $64 Question』と改名され、1955年には賞金が千倍の6万4千ドル『The $64,000 Question』となってテレビ化されたという人気番組だそうです。
今の時代も、『Who Wants to Be a Millionaire(日本版:クイズ$ミリオネア)』『Are You Smarter than a 5th Grader?(クイズ!あなたは5年生よりも賢いの?)』など、問題がだんだんと難しくなって、賞金もだんだんとつり上がっていく形式のクイズ番組が人気です。きっと、そんなクイズ番組の走りだったんでしょうね。
というわけで、「どうして64ドルの疑問なんだろう?」という疑問は解決できたわけですが、他にも数字を使った表現で疑問に思うものがあるのです。
それは、800-pound gorilla
ずばり、「800ポンド(360キログラム)のゴリラ」。(「ポンド」の発音は、英語では「パウンド」となります)
こちらも日常的によく聞く表現なので、以前もご紹介したことがあります。
意味は「とてつもなく大きな、絶大な影響力を持った存在(個人や企業・団体、政治家や司法・行政機関など)」。
あまりに大きな存在なので、社会のルールや常識が通用しない相手、といったニュアンスになります。
こういう風に使います。
Be careful with them. These guys are 800-pound gorillas in the industry
彼らには気をつけろよ。業界を牛耳る巨大な存在だからな
そう、800ポンドのゴリラとは、「相手を怒らせると大変なことになるから、十分に警戒しろ」といった含みがあり、あんまり好ましくない表現ではありますね。
そこで、いったいどこから生まれた言葉なのかと調べてみましたが、語源ははっきりとはわからないようです。
実際には、大きく成長したゴリラであっても、800ポンドの半分に満たないし、ゴリラという種族自体、社会性や協調性に富み、誰かがグループを牛耳るような社会形態ではないそうです。
ですから、「800ポンドのゴリラ」というのは架空の動物ということになります。そんなところから、誰かが大袈裟に言ったことが「面白いぞ」とポピュラーな表現になっていったのかもしれません。
というわけで、今日は「64」と「800」にまつわる話題でした。
数字を使った慣用句は多く、以前「2」「7」「9」「6」にまつわる表現をご紹介したこともありました。
たとえば、「9番目の雲の上」。
They are on the cloud nine(彼らはものすごく幸せです)と、まるで新婚さんを表すような慣用句になります。
そして、このとき「6」に関するものでは、six-million-dollar question(600万ドルの疑問)という言葉もご紹介いたしました。
おわかりのように、こちらは sixty-four-dollar question を言い換えたもので、およそ10万倍の600万ドル(7億8千万円)にふくらんだ金額になります。
おそらく、クイズ番組『Who Wants to Be a Millionaire(クイズ$ミリオネア)』が流行った頃から頻繁に使われるようになったのでしょう。
そう、millionaire(ミリオネア:百万ドルを持った人、億万長者)という言葉が社会の憧れとなった、バブリーな世相に生まれた言葉。
今はインフレの時代ですから、six-million-dollar question と言っても、誰も違和感は抱かないでしょう。
けれども、もともとの慣用句は、600万ドルではなく64ドル。
つつましやかに sixty-four-dollar question であったことを頭の隅に入れていただければ嬉しい限りです。