Practice makes perfect(英語の上達法)
<英語ひとくちメモ その161>
今日の話題は、こちら。
「どうやったら英語が上達するの?」
2年前、長年住み慣れたカリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアから帰国して、よく聞かれることがあるんです。英語がうまくなりたいんだけど、どうしたらいいですか? と。
ここでは、あくまでも日常生活の会話にフォーカスいたしますが、その答えは単純であり、複雑でもあります。
そこで、前半では、単純な答えを、後半では、複雑な答えをご説明することにいたしましょう。
まず、単純な答えというのは、「英語はコミュニケーションの道具なので、慣れるしかありません」というもの。
いえ、決して突き放しているわけではなく、究極の答えはこうだと思っているのです。
それで、「慣れる」上で手っ取り早い方法は、英語しか話せないような環境に自分を置くことでしょうか。
留学が最たる例になりますが、たとえば、週に何回か英語のネイティヴスピーカーとお話しするのも良いことだと思います。
相手が日本人の方でもいいと思いますが、絶対に日本語はダメですよ、という条件付きでやってみるのはどうでしょうか。
最初は、ごく簡単に「今日は蒸し暑いねぇ(It’s hot and humid today)」といった天候の話でもいいでしょう。
そこから、「なんだか今年は暑さがスゴいように感じるよ(I feel (that) it’s a lot hotter this year than last year)」と、話題をふくらます。
「自分が生まれた場所では、夏だって涼しくて乾燥してたよね(It was cool and dry even in summer where I came from)」と、思い出を語ってもいいでしょう。
すると、相手も話に引き込まれて、こう返してくるかもしれません。
「僕はサンフランシスコ生まれなんだけど、夏っていえば、霧っぽくて肌寒くなきゃいけないよねぇ(I’m a native San Franciscan, and to me summer should be foggy and chilly)」(サンフランシスコという街は、夏ほど霧が出て寒くなりますからね)
このように、いきなり本題に入るよりも、天候や休暇の過ごし方と、やわらかい話題から始める方が自然ですよね。
まずは、笑みから入る。それは、万国共通だと思います。
そして、会話は、つねに双方向。行ったり来たりと、卓球みたいにポンポンとボールを打ち合うもの。
ですから、相槌も忘れてはいけませんよ。
「へぇ、そうなんだぁ(Oh、I had no idea)」などと、相の手を入れてあげると、話も自然と盛り上がっていきます。
すると、予期せぬ方向に話がふくらんでいって、何語で話しているのかも忘れてしまうかもしれません。
大事なことは、自分が英語で話していることを意識せず、恥ずかしがらず、当たり前だと思って話すように努力すること。相手が英語で話しているので、自分も英語で返すのが当然、といった軽い気持ちを持つことだと思います。
何回かやっていると、だんだんと「英語を話している自分」を意識しなくなって、話の内容の方に集中できるようになるでしょう。
すると、自分が話したいことをどうやったら最適に相手に伝えられるかと、自分の知っている語句を総動員して、文章を組み立てるようになっていく。
そう、日本語から翻訳するのではなく、頭に浮かんだ「考え」や「思い」に最適な英語の単語を選びながら、文章を組み立てるようになるのです。(ちょっと難しい話ですが、最初に抱く「考え」は漠然としたもので、「暑い」とか「寒い」と言語化されたものではありません。ですから、翻訳なんて必要ないんですよね)
そうなれば、こっちのもの。自分の考えをそのまま英語で表している。そして「英語を話す」ことではなく、「相手と話す」ことに集中できているのです。
これが、どうやったら英語が上手くなる? の単純な答えである「慣れる」ということだと思います。
一方、英語の上達法とは、当然のことながら、複雑でもあります。
それは、コミュニケーションの中には、言葉を習得すること(verbal)に加えて、言葉でない部分(non-verbal)もあるからです。
まず、言葉の習得において大事なことは、形容詞(adjectives)かもしれません。
ちょうど12年前に、同じようなお話をしたことがあります。
日常会話では、A is B みたいな簡単な文型も多いので、形容詞「B」の意味がわからなければ、文章全体が意味不明になってしまいます。
つまり、形容詞がキーとなる、と。
The scenery from our hotel balcony was awe-inspiring
こんなことを誰かが言ったとします。でも、awe-inspiring の意味がわからなければ、全体の意味がわからないですよね。
「わたしたちが泊まったホテルのバルコニーから眺める景色は、神々しかったわぁ」とおっしゃっているのですが、awe-inspiring を知らなければ、彼女の言ったことは意味不明です。
ですから、できるだけたくさんの形容詞を覚えることが、会話上達の秘訣ではないかと思っているのです。
その一方で、学校では難しい動詞(verbs)もたくさん習います。
けれども、日常会話で使う動詞なんて限られているようにも感じます。
たとえば、こういった短い文章をよく耳にします。
OK, I got it
「オーケー、わかったわ」という意味になります。
「わかる」には、understand(理解する)とか、deduce(推論する)とか、extrapolate(推定する)といった動詞もありますが、日常会話では get もよく使われます。
I get it と言うと、「わかってるから(それ以上言わなくてもいいよ)」といった意味です。
ちょっと意外な感じもしますが、簡単な動詞ほど、いろんな意味がある場合が多いですね。
たとえば、gather という動詞。
何かを「集める」という意味を持ちます。でも、「考えた末に結論にいたる」つまり「わかる」という意味で使われることもあります。
そういった使い方をすると、上に出てきた deduce や extrapolate とか speculate(推測する)といった動詞と同じ意味になります。
このように使います。
I gather that since she looks disappointed, she wasn’t accepted by the college she tried to get into
彼女は落胆してるから、入学を目指した大学には入れなかったんだろうね
All these price hikes would negatively impact the overall economy of the country, I gather
こんなに価格高騰が続いていると、国全体の経済に悪影響を及ぼすと思うんだよね
ちなみに、2番目の例のように、I gather という部分を最後に持ってくることも可能です。「わたし自身は確実に知っているわけではないけれど、そのように推論しています」といったニュアンスを付け加えています。
同じように、通常は文章の最初に使う I believe that 〜。こちらを最後に付け加えることもあります。「わたしは、このように信じているんです(I believe that 〜)」と、いきなり断定するのではなく、最後に I believe を付け加えることで「わたしはそう信じてるんだけど(あなたはどう思う?)」と、少し奥ゆかしい言い方になります。
そんなわけで、「理解する」「わかる」といった意味でも、get とか gather とか、意外な動詞を使うこともあるのです。
ですから、なにも難しい言葉を無理して使わなくても、今まで知っている動詞を活用してみるのも、会話が上達する秘訣ではないでしょうか。
こういった言葉の習得に対して、コミュニケーションには言葉でない部分(non-verbal)もありますよね。
抑揚(言い方)が、その最たるものでしょうか。
たとえば、誰かがこんなことを言ったとします。
There’s always something
ごくストレートに「いつも何かがあるんです」という意味。
けれども、こんなに短い文章でも、抑揚によって、意味が変わってきます。
たとえば、「なんかイヤだなぁ」といった暗い口調だと、こんなことを言いたいのかもしれません。
There’s always something to take care of around the house
家のまわり(家の中や外)には、いつも何かしら面倒をみないといけないことがあるのよ
たとえば、家の中ではキッチンの蛇口を替えてみたり、家の外では庭の花を植え替えてみたりと、いつも何かしらやることがあるのよねぇ、と愚痴を言いたいのかもしれません。
一方、There’s always something を明るい口調で言った場合。こちらは、こんなことを言いたいのかもしれません。
There’s always something exciting going on around this town
この街では、いつも何かしらエキサイティングなことがあるのよね
公園ではフェスティバルが開かれたり、博物館では珍しい恐竜展が催されたりと、いつも何かしら楽しいことがあるのが、この街のいいところなのよ、と自慢したいのかもしれません。
こんな風に、まったく同じ文章であっても、口調によって意味が早変わりするので、相手の言い方、抑揚にも気をつけないといけませんよね。
というわけで、ごく簡単ではありますが、わたし流の英会話の上達法をご披露いたしました。
言葉の上では、形容詞をたくさん覚えて、簡単な動詞の使いまわしに努力すること。そして、相手の言い方、抑揚によって感情や真意を汲み取ること。
たとえば、ファッションセンスに長けた方は、服(動詞)をたくさん持ってなくても、使いまわしによって新しい服に見せたり、アクセサリー(形容詞)で雰囲気を変えたりと、テクニックをお持ちなのでしょう。
そして、身につけた服の雰囲気によって、姿勢や歩き方(抑揚)を違えていらっしゃるのかもしれません。
きっと、会話も同じようなものなんでしょう。
大事なことは、「自分の思いを相手に伝えたい」「相手のことも知ってみたい」と願いながら、自分なりに言葉を組み立ててみること。
背伸びして難しい言葉を使うのではなく、自分の知っている言葉を文章にして伝えてみる。これに、だんだんと慣れていく。
まさに、それは Practice makes perfect でしょうか。
「習うより慣れろ」とか「継続は力なり」と訳されていますが、あきらめずに、だんだんと慣れていくこと。それが、上達の基本ではないでしょうか。
失敗したり、悔しい思いをしたりとイヤなこともあるでしょう。けれども、長い目で見ると、いつの間にか、自分が遠くまで来ていることに気がつくことでしょう。