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英語ひとくちメモ/おもしろ表現
English Words 英語ひとくちメモ
2023年07月30日

Pin drop(静寂の世界)

<英語ひとくちメモ その163>

今日の話題は、pin drop


Pin というのは、名詞で「留め針」のこと。


発音は、単純に「ピン」です。


たとえば、コートの襟元の開きをきっちりと留めたり、ブローチみたいな飾りを衣服に付けるときに使ったり、何かを留めておくときに使うもの。


蝶の標本を作る虫ピンも pin です。洗濯バサミも、clothespin(衣服のピン)というので、pin の一種ということになります。


銀行のATMで使う暗証番号のことも PIN(ピン、personal identification number)といいますが、ここでは、名詞の pin のお話となります。


今日の表題になっている pin drop は、このように使います。


I can hear a pin drop

針が落ちるのが聞こえます



文字どおり「針が床に落ちるのが聞こえる」という意味ですが、この文章が示しているのは、「それほど、静かです」ということ。


単に「静か(quiet、silent)」と形容するのではなく、「針のように小さくてデリケートなものが床に落ちる音すら聞こえるほど、静かである」と表現しているのです。


実際には、針が床に落ちる音を聞き分けることは難しいので、can よりも、仮定の could を使うことが多いでしょうか。


I could hear a pin drop

針が落ちるのが聞こえそうです



ここから、pin-drop という形容詞も生まれました。


一般的に使われるのは、pin-drop silence


「針が落ちる(のが聞こえるほどの)静けさ」という意味です。


There was pin-drop silence when she started to play the piano in the concert hall

彼女がコンサートホールでピアノを弾き始めると、ホールは完璧な静けさに包まれた



この pin drop という言葉を思い出したのは、水泳競技のひとコマ。


先日、福岡で開かれた『世界水泳福岡2023』で、ハイダイビング(High Diving)の予選を見に行ったとき。


我が家の近くの浜辺は、昨年予定されていた世界水泳のため長らく閉鎖されておりましたが、ここにそびえ立つ、ハイダイビングの飛び込み台。


もう二年ほど浜辺が立ち入り禁止にされた「恨み」があって、いったいどんな競技が行われるのかと、連れ合いが予選初日の観戦に申し込んでいたのでした。


7月25日午前11時半に開始した競技は、20メートルの高さから飛び込む20人の女性選手の予選。


ラウンド1、2と2回ずつ飛び込むのですが、2回目には、飛び込み台で倒立する選手も出てきます。


20メートルもある飛び込み台の端っこで行う、逆立ち。ゆっくりと持ち上げる両足は、風が少しでも強くなると、ふらふらと動くのです。


あ〜、バランスを崩す! と、飛び込み台の下から見上げる観客も、固唾を呑んで見守ります。


このとき、こんなにたくさんの見物人がいるのに、「針を落とした音が聞こえるほど」静かだと思ったのでした。


The crowd stayed pin-drop silent as she began the dive with a motionless handstand

彼女が倒立からダイビングを始めたのを見て、観客は完全な静寂に包まれていた


女性は20メートルの高さから、男性は27メートルから飛び込む、ハイダイビング。少しの過ちが大ケガにもつながるので、水に飛び込む際は、足から入水します。そして、飛び込む先には、いつでも救助できるように4人のダイバーが待機しています。


が、さすがに選手たちは訓練されています。どなたも無事にダイビングを終えていますが、あんなに危なそうな倒立が、必ずしも高得点につながるわけではないようです。


それよりも、落下する際、どれくらいクルクルと回ったかが重要なようですが、なかなか奥が深そうなハイダイビング競技。


見る側も目を養いながら、人間離れした選手たちの技と勇気を称えたいと思うのです。



というわけで、I can (could) hear a pin drop


子供のころ、本を読んでいて、不思議な気がしたのを覚えています。


それは外国の物語の翻訳本でしたが、「針が床に落ちるのも聞こえそうなほど、静かだった」という表現が出てきたのでした。


日本語ではこんな表現は聞いたことがない、と記憶に残っていると同時に、物語も印象深いものでした。


ある少女が、まわりで変なことが起こっていると感じるのです。夜中になると、近所の人たちが家から出てきて、ゾロゾロと教会に入って行く。


そんなことが何日か続いたとき、少女は近所のおじさんに相談するのです。


すると、おじさんはこう言います。「じゃあ、今度の日曜日に教会に来てごらん。でも、絶対にマントを着て、そのマントの紐は結んではいけないよ」と。


次の日曜日、言われたとおりにマントを羽織った少女は、教会に入りベンチに座ります。でも、何十人と近所の人たちが来ているのに、誰もおしゃべりもしません。それこそ、針が落ちても聞こえるくらいに静寂に包まれています。


よく見ると、集まったみんなの顔は青白く、普通の様子ではありません。そこで、気味が悪くなった少女は、教会を出ようと席を立つのですが、そのとたん、まわりのみんなが手を伸ばして、行かせないように羽交い締めにしようとします。


必死に教会の出口に向かう少女でしたが、マントの紐が結ばれていなかったので、みんながつかんだのはマントだけ。少女はすり抜けて、無事に教会の外に逃げることができたのでした。


と、詳細はすっかり忘れてしまいましたが、こんな風な物語だったと記憶しています。


I can hear a pin drop とか pin-drop silence という表現を聞くと、必ず心象風景がよみがえってくる物語なのでした。



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