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2016年04月27日

ロンドンのイベント: スマート IoT(アイオーティー)

Vol. 201

ロンドンのイベント: スマート IoT(アイオーティー)

今月は、2週間をヨーロッパで過ごしました。というわけで、イギリスでのイベントとスペインのお話をいたしましょう。

<ヨーロッパで IoT>


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今回訪れたのは、はるばる大西洋を超えて、イギリスの首都ロンドンで開かれたイベント。
その名も『スマート・アイオーティー・ロンドン(Smart IoT London)』。

IoT(アイオーティー)というのは、モノのインターネット(Internet of Things)を略したもので、英語圏ではよく使われる名称です。
それに「スマート」が付いて、「モノのインターネットを幅広い分野に賢く利用していこう!」といった主旨のイベントでしょうか。

普通、「モノのインターネット」と聞くと、身の回りの便利なモノを思い浮かべます。たとえば、遠隔地から家を監視したり、鍵をかけたり、はたまた、スマートフォン経由でライトの色や明るさを調整したりと、そんな身近な使い方。

一方、こちらのイベントは、身近なモノから離れた「業界寄り」のイベントで、面白いガジェットや利用法を展示するよりも、IoTをさまざまな分野で推進する上で、どんなことに留意すべきかと、これまで得た知識を共有する場となっています。

たとえば、街じゅうに IoTを展開すれば、車や人の流れを分析して渋滞を緩和してくれる「賢い信号」とか、ガソリンスタンドの価格を比較してくれる「旬のお助け情報」とか、駐車場の空き状況をタイムリーに教えてくれる「スマートパーキング」と、便利なサービスが実現できる。

それから、今までは販売店に車のタイヤを卸すばかりだった製造会社も、タイヤの空気圧や燃費、タイヤ寿命といった実地データを蓄積・分析することで、データを付加価値として販売できるようになる。
 


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そんな「IoTの可能性を探る」イベントでしたが、会場では、Kii 株式会社もブースを出展。

Kiiは、IoTデバイス/サービス向けのクラウドプラットフォームとアナリティクス(ビッグデータ分析)を提供し、デバイスメーカーやサービス・アプリ提供者の「IoT化」を総合的に支援していますが、入口の真ん前という好位置とオレンジ色のかわいらしいロゴにひかれて、足を止める「一見さん」も多かったです。
(写真は、右がイギリスのセールス担当アンソニー・フルゴーニさん、左がドイツのセールス担当マーティン・タントウさん、真ん中がCEO 荒井 真成さん)
 


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そして、こちらのイベントは情報共有を目的としているので、数々の講演にも重きが置かれましたが、初日には、Kiiの共同設立者/CEO 荒井氏も講演されました。

お題目は、ずばり「どうやったら IoTで収入を増やせるか?」

たとえば、直接「消費者」にモノを売っている会社だと、一回製品を売り切って、それっきり収入は途絶えてしまう。ここでは、常に価格と生産コストのバランスが問題となるし、ひとたび競合製品が現れると、価格のしのぎあいとなり苦しくなってくる。

ところが、インターネットにつながることによって何かしらの付加価値をつけて、月額課金(recurring revenue)を得る構造をつくれば、定期的に利用者からサービス料を取ることができる。魅力的なサービスにひかれて利用者が増えれば、それだけ継続的に収入も増える。

IoT分野で「付加価値」の例となるものには、たとえば高齢者向けのサービスがあるだろう。

ひとり暮らしの親が元気にしているか? というのは、誰でも気になることだが、家の中で倒れたりした場合にはスマートフォンに緊急通知が来るとか、ドアに取り付けたセンサーで普段通りに開閉されているかを検知するとか、リビングルームのセンサーで元気に会話しているかをモニターするとか、親を持つ世代が欲するサービスは多種多様であり、そういった付加価値にはサービス料を支払っても利用したい人は多いはず。

似たような付加価値には、子供向けの「迷子防止サービス(GPSを利用した居場所特定)」や大人向けの「健康管理サービス(健康指標の推移分析)」などもあるが、あくまでも利用者をつなぎとめるためには、「あったらいいな(nice-to-have)」ではなく「なくてはならない(must-to-have)」サービスでなければならない。
「あったらいいな」くらいだと、多くのウェアラブル製品のように「3ヶ月経ったらホコリをかぶる」状態となり、サービス料など望めなくなってしまう。

ひとたび不可欠なサービスを実現して、利用者のビッグデータを蓄積するようになると、分析データを保険会社などに提供したり、より個人にフィットした広告が可能になったり、利用者が関心を抱くような新たなサービスを提案できたりと、収益の幅も広まるだろう。

といった内容の講演でしたが、荒井氏は、この『スマート・アイオーティー・ロンドン』の役員でもあり、イベント運営にアドバイスをする立場でもいらっしゃるとか。

そんな IoTの専門家は、ユニークな視点を持っていて、それは、インターネットとの比較論。

1995年を境に、アカデミアから一般へと一気に広がったインターネットは、2000年にネットバブルがはじけるまで爆発的な進化を遂げ、その後は自然淘汰を経て成熟期に入ったが、その過程で「eコマース(オンライン商取引)」「ブログやソーシャルネットワーク」「ニュース情報配信」「音楽や映画のストリーミング」といった各々の分野が確立され、もはや「インターネット」という漠然とした総称は使われなくなった。

ところが、「IoT」となると、いまだに「何が必要とされているのだろう?」と模索している段階で、漠然と「IoT」と呼ばれ続けているわけだが、それも時間の問題で、ひとたび「スマートホーム」「スマートビルディング」「スマートシティー(都市の IoT化)」といった分野が具体性を帯び、暮らしの一部となれば、「IoT」という総称は姿を消すだろう。

つまり、総称が存在しているうちは、まだまだみんなが模索する混沌とした状態であって、人々の生活に深く溶け込んで初めて、呼び名が変わっていく、という説。

なるほど、なかなか説得力のある比較論であり、「IoT」というヘンテコリンな名前がなくなるのも、そう遠くはないことでしょう。

<地中海の街、バレンシア>
というわけで、ロンドンの次は、スペインのバレンシアという街を訪ねました。

バレンシアは Valencia と書きますが、スペイン語の「V」は英語の「B」のような発音なので、「バレンシア」と表記いたしましょう。そう、「バレンシア・オレンジ」で有名な、オレンジの名産地ですね。
 


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郊外には、それこそ見渡す限りのオレンジ畑が広がりますが、バレンシアの街自体はかなりの都会で、マドリッドとバルセロナに次いでスペインで三番目に大きな都市だとか。

旧市街は、中世をそのまま温存したような古い建物や広場があって、逆に新市街は、「未来都市」をイメージ化したような斬新な建物も立ち並ぶ、面白い対比の街です。
 


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とくに旧市街の「バレンシア大聖堂」をはじめとする荘厳な教会や、世界遺産にもなっている「ラ・ロンハ」と呼ばれる絹交易所のゴシック建築は、細部にまで美しく装飾が施され、当時のバレンシアの勢力と経済・文化の発展をうかがい知ることができます。

バレンシア大学という名門校もあって、夏の間ここで学ぶのは、多くのヨーロッパの大学生の憧れとなっているとか。

そんなバレンシアには、Kii の開発チームのひとつが置かれていて、こちらでは IoTプラットフォームの中核となる部分を開発されているそうです。

バレンシアの開発チームは、6名という少数精鋭ですが、そのうちの3人は大学の同期だとか。やはり、スペインでも技術スタッフを雇うのは難しいそうで、「人のつながり」でリクルートすることも多々あるようです。
 


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こちらは、Kiiバレンシアオフィスで撮影した記念写真。

後方左から、ジムに通って筋肉を鍛えるわりにチョコレートが大好きなフアン・モレノさん; チームのまとめ役を務めるかたわら、海で泳ぐのが大好きなフランシスコ・ロサノさん; 物静かな「猫舌」で、2歳の男の子のパパでもあるホルヘ・カステリャノスさん; フランシスコさんの大学の同期で、まるで日本のスポーツ漫画の主人公風のマスクを持つアルベルト・セルダンさん; 同級生フランシスコさんに誘われた古株で、地域の歴史や文化にも詳しいフアン・オリバレスさん。
前列右から、スペイン語なまりを感じない英語を話し、ガールフレンド思いのエウヘニオ・クエバスさん; マドリード在住のSEで、8年前にアルゼンチンからスペインに移り住んだヘルマン・ビスクーソさん; そしてCEOの荒井さんです。
 


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バレンシアは地中海に面した街ですので、海沿いには、ずうっと美しい砂浜が広がります。
今の時期は、風も強いし海水が冷たいので、ウェットスーツを着ないと沖まで泳げないそうですが、それでも週末には、砂浜もビーチ沿いに軒を連ねる飲食店も賑わっていました。

そんな立地条件ですので、バレンシアには、スペイン最大の港湾である「バレンシア港」があって、地中海の物流の要となっています。
ここから日本へもオレンジばかりではなく、マグロを輸出したりするそうですが、貨物船が頻繁に行き来するということは、IoTを利用した「スマートポート(smart port)」を実現できるのかもしれません。

スマートポート、つまり「賢い港湾」とは、IoTを使って、効率良く港湾業務を推し進める構想を指します。
たとえば、貨物船に積んだコンテナにタグを貼って、積載貨物の明細を瞬時に把握するとか、重量や重心のデータを明らかにすることで、ガントリークレーンでコンテナを下ろす際やトレーラーで運ぶ際に事故を防ぐとか、荷下ろしを効率良く行うことで、沖に停泊中の貨物船が早く港に入れるとか、そういった業務改善が含まれます(なんでも、先に入った船の荷下ろしを待ちながら、沖で待機する貨物船も多いとか)。


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それから、空になったコンテナには、何かを詰めて持って帰りたいわけですが、そういったマッチングだって、IoTを利用すれば、うまくできそうですよね。

港湾業務をはじめとして、世の中の「お仕事」には、いろいろと改善の余地がありそうですが、バレンシアという街は、いろいろと試してみるには絶好の拠点なのかもしれません。

<後記>
今回訪れたイギリスとスペインでは、「やっぱりヨーロッパっていいなぁ」と再認識することとなりました。
 


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もともとイギリスが大好きで、アメリカではいつもイギリスのドラマばかり観ているのですが、初めて訪れたスペインだって、そのまますっと入り込んで行けるほど、何の違和感もない国だと思いました。

 「う〜ん、ヨーロッパに住んでみなければ、人生を無駄に過ごしているんじゃないか?」と焦りすら感じたのですが、アメリカに戻る前夜、「明日サンフランシスコに向けて飛び立つ」ことを伝えると、こう返してきたロンドンの住人がいらっしゃいました。

 「まあ、うらやましい! わたしと代わってほしいくらいだわ。10月にサンフランシスコとラスヴェガスに行くんだけど、もう待ちきれないわよ!」と。
 


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どうやら、彼女は太陽が恋しい方のようですが、たしかに、旅をするのと住んでみるのとでは、いろいろと印象の違う面があるのでしょう。
ロンドンは、朝晴れていても、午後からは大雨と、コロコロと変わるお天気が「日常」のようですし。

それでも、歴史あるヨーロッパに腰を据えて、あちらこちらと足を伸ばせたら、どんなに素敵だろうと思うのでした。

夏来 潤(なつき じゅん)

 

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