Black or blue(黒か、青か)
<英語ひとくちメモ その180>
今日は、色のお話をいたしましょう。
英語の色で思い浮かべるのは、black があるでしょうか。
ここ数週間、日本でも Black Friday(ブラックフライデー)という表現をよく耳にしましたね。
アメリカでも Black Friday is on(ブラックフライデーが始まってますよ)!と、人々の関心を集めるキーワードです。
Black Friday は、もともとアメリカの感謝祭(Thanksgiving)に由来します。
冒頭から脱線しますけれど、そもそも日本に馴染みのない感謝祭とはなんでしょう?
ずっと前にもご紹介したことがあるのですが、感謝祭には、少なくとも二つの誕生説があります。
もっとも一般的なものは、1620年11月、イギリスからメイフラワー号でマサチューセッツ州プリマスにやって来た清教徒たちが、新天地で初めての収穫を手にした際、食卓を囲んで神に感謝した、というもの。
清教徒とは、イギリス国教会に抵抗するプロテスタント系信者のことですが、国の宗教がローマ・カトリックからイギリス国教会に変わったのに、変革が十分ではないことに不満を持ち、新天地・アメリカ大陸にやって来た人たちのこと。
一方、もうひとつの説は、それよりも前の1619年12月、ヴァージニア州ジェームズタウンにマーガレット号でやって来た38名のイギリス人が、内陸部のバークレー農園予定地にたどり着いたことを神に感謝したのが始まり、というもの。
ジェームズタウンには1607年からイギリス人移民が住んでいましたが、海沿いの湿地帯では農作物がうまく育たない。移住者の多くが犠牲となり、もっと農業に適した地で農園を営もうと、内陸部にやって来たのがマーガレット号に乗り込んだ人々。
度重なる嵐を乗り越え、この地にたどり着けただけで神に深く感謝すべきこと。そんな信心と新天地開拓に向けた希望から生まれたのが感謝祭である。これが二つ目の説です。
いずれにしても、みんなで集まって「ありがとう」という感謝(Thanks)を伝える(giving)のが感謝祭の主旨。
時代は変わっても、この伝統に変わりはありません。
感謝する相手は、なにも神さまだけではありませんので、こんな風にも使えますね。
I want to give thanks to our nature
(わたし達を育む)自然に感謝を捧げたいです
そして、今までお世話になってきた近隣の方々に対しては、
I’d like to give back to the community
コミュニティーのみなさんにお返ししたいです
今まで与えてもらってばかりいたので、なにかしら自分から貢献したいというのが、give back の精神でしょうか。
11月末の感謝祭から12月のクリスマスにかけては、人々は感謝と貢献の気持ちでいっぱいになるのです。
と、ここで Black Friday に戻りましょう。
この Black Friday とは、感謝祭の木曜日が明けた金曜日、前日に七面鳥をお腹いっぱい食べた家族たちがショッピングに繰り出し、クリスマスに向けて家族・親戚・友人たちにたくさんプレゼントを買う日、という定義でしょうか。
感謝祭は、11月の第4木曜日ですから、翌日は必ず金曜日(Friday)。ですから Black Friday(黒い金曜日)。
それで、Black Friday の Black というのは、諸説あるところではあります。
アメリカの通説は、みんなが近隣のお店に繰り出してクリスマスプレゼントを買って行くので、それまで赤字(red ink)だった小さな個人経営のお店まで黒字(black ink)に転じる、というもの。
そう、black というのは、売り上げを黒字で帳簿に書き込む、ということ。赤字になると、赤いインクで帳簿に数字を書き込んでいたけれど、めでたく黒字に転じると、黒いインクで書き込める。
そういった「喜びの黒字」から生まれたのが Black Friday である、というのがアメリカの通説です。
ところが、日本のニュース番組を観ていたら、これとは違う諸説が登場していました。
中でもギョッとしたのが、「感謝祭の翌日には、暗い気持ちになるから」というもの。
どういった理由で「気分が暗くなる」のかは聞きもらしましたが、感謝祭の翌日には憂鬱(ゆううつ)になってブラックになった、というのです。
アメリカ人にとっては、まるで遊園地に行くみたいに楽しいショッピングの金曜日。ですから、暗い気持ちから Black Friday になったということは決してありません。
第一、暗く憂鬱な気分になるなら、black ではなく、blue(ブルー)と表現します。
まあ、一般的には、black という形容詞には、暗い闇とか悪とか、暗いイメージはあります。けれども、気分が暗いと言いたいときには、「黒い(black)」ではなく、「青い(blue)」という形容詞を使います。
たとえば、音楽ジャンルのブルース(Blues)というのは、このような暗い気分を表す「青い」という形容詞から生まれているようですね。
アフリカ大陸からアメリカ大陸に奴隷として無理やり連れて来られ、多くの人々がアメリカ南部の州で綿栽培などのプランテーションで働かされていた。人権も何もない時代、自身の文化・伝統そして家族からも引き離され、過酷な労働条件で働かされていた悲しみ、憂鬱。そんなやるせない気持ちから歌が生まれ、それがひとつの音楽ジャンルとして形作られた、といった感じでしょうか。
同じように blue を使った表現では、こんなものがありますね。
Blue states
「青い州」というわけですが、アメリカの州の中で「青い」といえば、リベラルな「民主党支持の」という意味。
Red states といえば、その反対で、保守的な「共和党支持の州」という意味になります。
青と赤を使うのは、アメリカの星条旗からきているのだろう、とのこと。ただ、あくまでも両党は、自らを表すカラーを持っているわけではなく、報道の上でわかりやすいように色分けする習慣が生まれたようです。
歴史的には、共和党が青、民主党が赤と逆に使われていたこともそうですが、1904年の大統領選挙のあたりから、有力紙ニューヨークタイムズ紙やワシントンポスト紙が民主党は青、共和党は赤と色分けしたところから、現在もその伝統が引き継がれているということです。(ちなみに、党のマスコットとしては、19世紀後半から共和党が象(elephant)、民主党がロバ(donkey)となっています)
一方、blue を使った表現では、こんな物騒なものもあります。
形容詞で blue-on-blue(ブルー・オン・ブルー)
こちらは、軍隊や警察など、同じ組織に所属する隊員同士が間違って味方を殺傷したときに使われる形容詞です。ブルーとは、軍隊や警察といった制服を着る組織を表します。
The number of blue-on-blue deaths and injuries has risen in recent years
近年、味方同士の誤りによる殺傷件数が増えている
たとえば、麻薬組織を摘発しようとアジトと思われる場所に踏み込んだが、そこにはFBIのエージェントが潜入捜査していて、踏み込んだ警察官によって誤って射殺されてしまった。そんなときに使う表現です。
と、black と blue についてお話ししてきましたが、色に関しては、アメリカと日本の感覚が違うなぁと痛感することも多いです。
たとえば、株価の速報。
アメリカでは、株価が上がったときには green(緑)、下がったときには red(赤)で表現します。
日本では、まったく逆。
けれども、緑は「行け、行け」のゴーサイン、赤は「要注意」のストップサイン。
そんな風にも感じるので、アメリカの株価表記に慣れた者としては、どうにも日本式の表記には違和感を覚えるのです・・・。
と、とりとめもないお話になってしまいましたが、緑と赤といえば、クリスマスカラーでもありますね。
これからクリスマス、年末にかけて、一気に時間が加速して過ぎて行きます。
忙しさの中にも、ちょっとした息抜きを見つけて、元気に過ごしていきましょう!