Blue Moon(青い月)
日本語では「半分の月(Half Moon)」なのに、英語では「四分の一の月(Quarter Moon)」とも言う、というお話でした。
それで、せっかくですから、お月さまの話題を続けましょう。
「月(Moon)」を使った英語の表現では、
まず、once in a blue moon
という慣用句を思いつくでしょうか。
「青い月に一度の頻度で」というヘンテコリンな言い方ですが、
言い換えると、very rarely とか seldom という副詞になります。
つまり、「ほとんど~ない」という意味です。
たとえば、こんな風に使います。
This phenomenon occurs once in a blue moon
この現象は、ほとんど起きない
I just come to this restaurant once in a blue moon
このレストランには、めったに来ないよ
それで、どうして「青い月(blue moon)」なのかなぁ? と不思議に思うのですが、どうやら西洋の文化では、Blue Moon という言葉が大事だったようなのです。
お月さまは、29日で地球のまわりをグルッと一周しますので、29日に一回満月(Full Moon)になります。
普通は、一ヶ月に一回しか満月になりませんが、ときどき一ヶ月に二回目の満月が起こります。
その満月を Blue Moon と称して、「大変珍しい」という意味で使われるようになったそうです。
そこから once in a blue moon という慣用句が生まれ、「ほとんど起きないくらいに珍しい」という意味になりました。
今でも、かなり頻繁に使われる表現ではありますが、最初に聞いたときには、青い月って何だろう? と首をかしげたことでした。
Blue Moon は、およそ2年半に一回は起きる現象ですので、「一生に一度」というような珍しいものではありません。
そして、実際に青いのか? と問われれば、「満月が何日に起きようと、青くはならないよ」というのが、天文学的な答えだそうです。
けれども、お月さまが青く見えたことは実際にあったのです。
たとえば、1883年に起きたインドネシアのクラカトア島(Krakatoa、現地ではクラカタウ)の大噴火。
600キロ離れた場所でも大砲のように響き渡る大爆発でしたが、その後何年も、月は青いままだったといいます。
そう、三日月(Crescent Moon)だろうと、半月(Quarter Moon)だろうと、満月(Full Moon)だろうと、ずうっと青かったそうです。
クラカトアの噴煙が成層圏まで達し、地球全体をおおったので、その影響で月が青や緑になったり、太陽がラベンダー色になったりしたそうです。
さらには、妙に鮮明な夕焼けのせいで、アメリカでは「火事だ!」という誤報が相次いだり、ヨーロッパではウィリアム・アッシュクロフトをはじめとする画家が夕焼けのスケッチに余念がなかったりと、いろんなところで影響が出たようです。
あの有名な絵画エドヴァルド・ムンクの『叫び(The Scream)』も、ノルウェーの空だってクラカトアの噴煙におおわれていた証拠だ、という説もあるとか。
(月が青くなった理由は、噴煙の粒がちょうど1ミクロン(1メートルの100万分の1)だったので、赤い光が散乱して、青い光が地上に届いたからだとか。赤い光は、波長が0.7ミクロンと長いので、ほぼ同じ大きさの噴煙の粒に邪魔されて、他の色だけが地上に届いた感じでしょうか。)
と、ちょっと科学的なお話になってしまいましたが、
お月さまは、日常会話ではこんな風にも使われます。
I’m over the moon!
まあ、とっても嬉しいわぁ!
わたしは「月を飛び越える」というのですから、それほど「喜びで感動している」ということでしょう。
たとえば、期せずして誰かにステキなものをいただいたとか、最高のほめ言葉をいただいたとか、何かしらいいことがあったときに使います。
そして、こちらは、何か珍しいことが起きたときに、説明に使います。
Maybe because it’s the full moon
たぶん、満月だからじゃないかなぁ
10月のある日、シリコンバレーのコミュニティーカレッジ(2年制大学)で大きな配水管が破裂して、一日大学が休校になったんです。
すると、テレビインタビューを受けた美術クラスのおじさま学生が、「これは満月のせいかもねぇ」と芸術的に解析なさったのでした。
そう、満月には魔力があるからね、という含みがあるのです。
え~? と不思議に感じる説明ではありますが、こちらも頻繁に耳にする表現ですので、「そんな考え方もあるのかぁ」と頭のかたすみに置いておくと便利でしょう。
once in a blue moon
over the moon
because it’s the full moon
やっぱり、お月さまは、地球に一番近く、馴染みの深い天体。
ですから、人々の会話にもひょっこりと顔を出すのです。
おもな参考文献: “Blue Moon” by Dr. Tony Phillips, Science@NASA, July 7th, 2004
Blue Moonの写真とクラカトア大噴火のリトグラフ(1888年)は、Wikipediaより