Break wind(風を破る??)
ときどき、英語っておもしろいなぁと思うことがありますが、これもそのひとつでしょうか。
Break wind
文字通りの意味でいくと、「風を破る」ということになりますが、ほんとは「オナラをする」という意味です。
なんでも、16世紀中頃には使われていたそうですが、今でも一般的によく使われる表現ですので、覚えておくと便利だと思います。
それで、どうして薮から棒にオナラの話をしているのかというと、大学時代にルームメイトがつぶやいた言葉をふと思い出したからなんです。
彼女にはボーイフレンドがいたんですが、わたしたちのいる大学の寮には住んでいなかったので、頻繁に会うことはできませんでした。
ですから、毎晩のように電話でお話をしていたのですが、あるとき話しながら、彼女がプッと小さなオナラをしたんです。
律儀な彼女は、「Excuse me(あら、ごめんなさい)」と失礼をわびたのですが、そのとき、ボーイフレンドは懸命に何かをしゃべっているときで、きっと彼には何も聞こえていなかったのでしょう。
「いったいどうしたの?」と問うボーイフレンドに向かって、彼女はこう言いました。
Sorry, I broke wind.
(ごめんなさい、オナラをしちゃったの)
なるほど、失礼をわびるのは立派だけれど、ときには知らんぷりをした方がいいこともあるんだなぁと、同室のわたしは、ありがたく人生の勉強をさせていただいたのでした(いえ、べつに聞き耳を立てていたわけではなくて、自然に聞こえてきたんですよ)。
そんなわけで、オナラに限ったことではありませんが、たとえば、食卓でゲップ(burp)をしたときには、Excuse me と謝りますね。
特定の誰かに向かってというよりも、まわりのみなさんに非礼をわびる、ということになるでしょうか(こういうときには、みなさんオトナっぽく聞き流してくれます)。
しゃっくり(hiccup)のときにも、最初は Excuse me と謝りますが、しゃっくりが続くことが多いので、そのうち、みなさんバックグラウンドミュージックとして聞き流してくれるでしょう。
それから、くしゃみ(sneeze)をしたときにも、まわりのみなさんを驚かせたことに対して、Excuse me と謝りますね。
ときに、くしゃみは大きな騒音となって、まわりの人をびっくりさせることがあるでしょう。ですから、謝るに値することなんですね。
すると、まわりの人も、Bless you(お大事に)と親切に返してくれることでしょう。
Bless you というのは、God bless you の略で「神のご加護あれ」という意味ですが、会話の中では「お大事に」といった軽い意味合いになります。くしゃみをするのは、風邪とかアレルギーとか、何か問題のあるときが多いですから「お大事に」なんですね。
ときどき、Gesundheit(ゲズンタイト(?))と返す人がいますが、これはドイツ語の「お大事に」から来ています。どうしてアメリカでドイツ語なのかと疑問を感じるところですが、かなり頻繁に耳にします。
アメリカには、ドイツ系移民が基礎をつくった街がたくさんありますので、きっとそこから派生していったのでしょうね。
こちらはケースバイケースだと思いますが、あくび(yawn)をしたときにも、Excuse me と謝る場合があるでしょうか。
あくびには、単に眠い場合と、「なんとなく、つまらない」という場合がありますので、もし相手が熱心に話をしているときにあくびをしてしまったら、ごめんなさいと謝った方がいいでしょうね。
というわけで、オナラからは遠ざかってしまいましたので、話をもとに戻しましょう。
そう、「オナラをする」は、break wind でしたが、人の生理現象ですから、他にも表現はいくつかあります。
「ガスを通す」という、かなり直接的な表現です。日本語でも「ガスが出た」と言うことがありますよね。
それから、fart
こちらは「オナラをする」という自動詞であり名詞ですが、ちょっと俗っぽい表現になりますので、レディーはあまり使いません。
そして、高級な言い方では、flatulence(発音は「フラチュランス」)
「オナラ」という名詞ですが、医学用語の flatus(発音は「フレイタス」)から来ています。
成分のほとんどは窒素と二酸化炭素だそうですが、中には、メタンガスや水素を含むこともあり、発火(!)もあり得るガスのこと。
でも、気取って flatulence なんて言おうとしても、舌をかみそうですよね。ですから、どちらかというと、オナラの婉曲語(やんわりと示す言葉)として使われるでしょうか。
そうそう、pass (the) gas という表現には、ほろ苦い思い出があるんです。
昨年の初め、開腹手術をして入院したときのこと。
術後は、とにかく痛みとの闘いになるのですが、それが落ち着くと、今度は「オナラとの闘い」になるのです。なぜなら、オナラが出ないと退院させてくれないから。
まあ、アメリカの手術といえば、今や入院しない外来手術(outpatient surgeries)の方が多いくらい、入院日数が短いのですが、それでも、ひとたび入院すると、ちゃんと回復しているかどうかを確認して、退院させてくれるのです。
そのリトマス試験紙が、オナラ。ちゃんとお腹が機能しているかどうかは、オナラでわかるんです(たとえば、どこかがふさがっていたら、ガスは通じないですものね!)。
というわけで、痛みが落ち着いてくると、こんなプレッシャーがかかります。
Did you pass the gas yet?
(もうオナラは出たかしら?)
ほんとに「看護師さんの合い言葉」っていうくらいに、みなさんがベッドサイドに来るたびに聞いてくるんですよ。
それで、わたしの同室の患者さんなどは、「早くオナラをして退院するわ!」と宣言をして、「豆でも炭酸飲料でも、とにかくガスが出るものをいっぱい持って来てちょうだい」と、ダンナさんにケータイで指示していましたね(わたしの病院では、ケータイは自由に使えました)。
それでも、自然には出なかったので薬でオナラを果たした彼女は、その日の夕方には、さっさと退院して行ったのでした。わずか2泊の入院でも、子供に会えないことが、彼女には耐えられなかったようです。
そして、その晩、ひとりポツンと残されたわたしは、夜のニュースを観ていたら、お腹がゴロゴロ、プッ! 翌日には、めでたく退院することができました。
歩くことでは、同室の彼女に大きく遅れを取っていたけれど、3泊で退院できたのだから、そんなに悪くはないのかもしれません。
体の大きさがまったく違うので、頑丈さが違うような気がしていましたが、きっと中身は、あんまり変わりはないのでしょうね。
というわけで、ときには、オナラは待ち望むもの。誇らしげに、こう言いたいときもあるのです。
I passed the gas!
(オナラが出たわ!)
Yay, it’s a road to recovery!
(やったわね、回復の第一歩よ!)
これは、看護師アンドレアさんの励ましのお言葉でした。