Business trip: Part II(出張パート2)
前回は、出張第一日目に、ホテルにチェックインしたあと、近くのスーパーマーケットに行った場面を想定してみました。
お買い物も無事に済んだところで、パリッとスーツを着込んで、出張先のオフィスに出向いたとします。
もしも相手が初めてお会いする方で、向こうから自己紹介してきたら、このように返しますね。
Hello, Mr. Rodgers. I’m Ichiro Suzuki. Nice to meet you.
「こんにちは、ロジャースさん。わたしは鈴木一郎です。はじめまして」
そして、ここでにこやかに握手です。
握手をしながら、相手はこう言うかもしれません。
Call me Bill.
「わたしをビルと呼んでください」
Can I call you Ichiro?
「あなたを一郎と呼んでもいいですか?」
もしこう聞かれたら、これで大丈夫です。
Yes, please.
「結構ですよ」
アメリカでは、仕事の場であっても、だいたいファーストネームで呼び合うものですからね。
「ファーストネームで呼び合うほど仲が良い」という意味で、first-name basis という言葉すらあるほどですから、ファーストネームを使わないと、なんとなく「よそよそしい(distant)」感じもするのでしょう。
自分の会社の社長さんだって、ファーストネームで呼ぶ場合が多いと思います。(まれな例外としては、部下の苗字を呼び捨てにする警察や軍隊などの組織があるでしょうか。)
ですから、職場では、「あれ、彼の苗字は何だったっけ?(What was his last name?)」というコメントもよく耳にします。(ここで was と過去形になっているのは、以前は聞いて知っていたんだけど、忘れちゃったという含みがありますね。)
さて、握手が済んだら、いきなり仕事の話を始めるのではなくて、「今日は天気がいいねぇ」とか、「こっちに来るフライトはどうだった?」とか、そんな雑談から始まるのです。いきなり仕事の話じゃ味気ないですからね。
お天気の話で会話を始めるのなんて日本だけだと思っている方もいらっしゃるでしょうが、それは、アメリカでも同じことなんです。だって最も一般的な、当たり障りのない話題ですから。
How was your flight from Japan?
「日本からのフライトはどうでしたか?」
と聞かれたら、たとえば、こんな風に答えればいいでしょう。
Well, I was able to sleep all the way through to San Francisco, so I’m quite rested.
「そうですね、サンフランシスコに来るまでずっと寝られたので、十分に休めましたよ」
最後の I’m rested というのは、かなり英語的な表現になりますが、「わたしは今、十分に休んだ状態にある(だから、元気だ)」という意味ですね。
一方、こんな場合もあるでしょう。
Unfortunately, I couldn’t sleep well on the flight, so I feel a little jet-lagged.
「残念ながら、飛行機で良く寝られなかったので、ちょっと時差ボケ気味ですね」
最後の jet-lagged という部分は、「時差ボケである」という形容詞になりますね。
時差ボケ(jet lag)なんて、誰でも多かれ少なかれ体験するものですから、「僕も飛行機では寝られないんだよねぇ(I can’t sleep well on airplane either)」などと、話に花が咲くことでしょう。
こうやって打ち解けたところで仕事の本題に入れば、少しは話がスムーズに進むのではないでしょうか。
ところで、初対面のあいさつには、いろんなバリエーションがあるでしょうが、一番簡単なのは、冒頭に出てきた Nice to meet you でしょう。
別れ際にも、同じ言葉を使うことがあります。たとえば、こんな風に。
It was nice to meet you.
「お会いできて嬉しかったです」
もしくは、このように言う場合もあります。
It was nice to have met you.
こちらは同じ意味ではありますが、to have met と完了形を使うことで、時制の一致で文法的に正確な表現となりますね。
こういう表現を使う方に出会うと、「お~!」とこちらもびっくりしてしまうのです。なるほど、しっかりとした英語を使う人だなぁ、知識レベルも高いのかなぁ、と想像をめぐらしてみるのです。
その数日後、相手のロジャースさんとだいぶ親しくなったところで、彼が困った顔をしているのを見かけたとします。
そういうときには、こんな風に声をかけてあげるといいのかもしれません。
Is there anything wrong?
「何か困ったことがあるのですか?」
すると、あちらは、こう返してくるかもしれません。
Well, I’m going through a bit of personal crisis right now.
「まあ、何と言うか、僕は今ちょっとした危機的状況にあるんだよ」
ここで personal crisis(個人的危機)というと、かなり抽象的な表現になりますので、ロジャースさんの抱えている問題には、いろんなことが考えられるでしょう。
たとえば、奥さんとうまく行っていないとか、娘さんが遠くにある学校に行きたいと言っているけれど、自分は反対で、奥さんが後押ししているとか、何かしら個人的な問題があるということですね。
ですから、あちらが自分から説明しようとしない限り、あまり深追いしない方が無難でしょう。そういうときには、こんな風に対応すればいいと思います。
Is there anything I can do for you?
「何かわたしでできることはありますか?」
もしくは、
I wonder if I can be of any help to you.
「あなたのお役に立てることはないかと思うのですが」
すると、あちらは単に「ありがとう」と礼を返すか、もしかすると「実はねぇ」と、具体的に話をしてくるかもしれません。
まあ、多くのアメリカ人は、よほど親しくない限り、心の奥底に抱えているものを簡単に打ち明けたりはしませんので、何も教えてくれなくても「よそよそしいなぁ」と憤慨することはありません。
(上の写真は、ドイツのシュパイアー(Speyer)という歴史ある街です。なんでもローマ人が基礎を築いた古い街だそうですが、昔ながらの街並がとても美しいのです。でも、そんな遠くに娘さんが行ってしまったら、ロジャースさんはとっても寂しいことでしょう。)
というわけで、アメリカに出張するシナリオを考えて、ごく一般的な慣用句をご紹介してみました。
もちろん、出張の主目的は仕事の話にあるわけですけれど、こちらは何ともご紹介のしようがありませんね。
ただ、よく日本人の方から耳にするのは、「仕事の話はなんとかなるんだけど、雑談は難しいよね」ということでしょうか。
たとえば仕事の話だと、数字や数式、筆談を使ってコミュニケーションができるわけですが、雑談になると、そんな悠長なことも言っていられない。会話というものは、ピンポン球の打ち合いみたいなものですから、相手が反応してくれないと、会話を保つのはうんと難しくなります。
これには、残念ながら「慣れるしかない」と申し上げるほかないのかもしれません。
幅広く語彙に慣れる、アメリカ文化や流行りの話題に慣れる、そんな様々な「慣れ」の問題が絡んできますよね。
こればっかりは、「ローマは一日にして成らず(Rome wasn’t built in a day)」なのでしょう。
(こちらは、ヴァチカン市国のサンピエトロ寺院。まさに、この壮大さは「一日にして成らず」なのです。)
まあ、言葉が通じなくて、くやしい思いをすることも、上達の秘訣なのかもしれませんね。
後記: お恥ずかしい話ではありますが、今朝新聞を読んでいて、初めて見るような単語に出くわしました。
ニューヨーク・タイムズ紙の記者がイラクからの米兵撤退について書いた記事なのですが、こちらが問題の文章です(excerpted from “Iraq’s Psyche, Through a Green Zone Prism” by Anthony Shadid, The New York Times, published on May 31st, 2010)。
The United States managed to smash Mr. Hussein’s government. But what it helped build in its place remains inchoate, littered with the ruins of the past.
「アメリカは(サダム)フセイン氏の政府を破壊することはできた。しかし、代わりに築かれたものは、バラバラで、過去の遺産がまき散らされたようなままの状態になっている」
わたしが知らなかった単語は、inchoate というものでした。どうやら「初期の段階の、不完全な、混沌とした状態」を意味するもののようです。ラテン語に由来するものだとか。
それにしても、最初にアメリカに足を踏み入れて30年も経つ今でも、まだまだ聞いたこともないような単語が日々登場するのです。(単にわたしが不勉強なだけかもしれませんが。)
言葉というものは、実に奥が深いものではありますね。