CES: 今年は家電と車の祭典?
Vol. 174
CES: 今年は家電と車の祭典?
2014年の幕開けは、毎年1月初頭に開かれるラスヴェガスのCES(コンスーマ・エレクトロニクスショー)をお届けしましょう。
今年は、身につけるコンピューティング「ウェアラブル(wearable computing)」、モノとモノがゴショゴショと会話する「モノのインターネット(Internet of Things)」、実用段階の「立体印刷(3D Printing)」といろんなキーワードがありましたが、ここでは家電と車の分野にしぼって、3つのお話をいたしましょう。
<今年のキーワード、カーブテレビ>
わたしが初めてCES(シーイーエス、Consumer Electronics Show)に足を向けたのは、2003年1月のこと。
もともとは「家電の祭典」ではありますが、この年を最後にコンピュータ業界のCOMDEX(コムデックス)が姿を消し、それ以来「家電とコンピュータ業界の合同祭」となっていました。
久しぶりにCESを訪れると、コンピュータ企業はすっかり影を潜め、また「家電の祭典」へと回帰している印象を受けました。
たとえば、2007年にご紹介したマイクロソフトさんは、もう何年も出展していませんし、日本のNECさんも、2月末にスペイン・バルセロナで開かれるモバイル・ワールドコングレスに注力するため、今年は参加していません。
そんなわけで、「家電の祭典」に戻ったCES。ここで幅を利かせていたのは、やっぱり韓国勢でしょうか。
メイン会場のコンベンションセンター「セントラルホール」では、入口近くに陣取っていたのが、LGエレクトロニクス。
サムスン電子に次ぐ巨大総合家電メーカーで、テレビや白物家電、スマートフォンやタブレット製品と、手がけていない電化製品が少ないくらいです。が、展示会場の目玉は、なんと言ってもテレビ。
まず、入ってすぐに3D(3次元)メガネが配られ、メガネをかけて目の前の巨大スクリーンを観てみると、まあ、精悍なライオンやカラフルな蝶や花たちが画面から飛び出して来るではありませんか。これで、ブースを訪れた人の心をグッとつかみます。
そして、ご自慢は、画面にカーブのあるUHD(超高精細、Ultra HD)液晶テレビ。サムスン電子と並んで、今年は105インチ型UHDテレビの登場です(LGは「5K」UHDと銘打って鮮明さをアピール)。
画面の湾曲した「カーブテレビ(curved TV)」は、これからの流行りとなるようですが、105インチ型となると、リビングルームを占領してしまうようなでっかさ。
自宅が映画館に早変わり! の感がありますが、これだけ横長だと、カーブのある画面はパノラマの端まで観えてありがたいのです。
一方、こちらは「フレキシブルテレビ(flexible TV)」。77インチ型OLED(有機EL)UHD(4K)テレビで、リモコンを押すと、画面が平坦になったり、湾曲したりするそうです。
自分で画面を独り占めするときにはカーブ、何人かで観るときには平坦と、使い分けができるそうな!
日本のパナソニックも、凹凸両方のテレビをつなぎ合わせて、きれいなカーブを誇示していましたが、たとえば、スポーツバーの壁に設置するなら、みんなでワイワイ楽しめるように、凸型もありかもしれませんね。
テレビと言えば、北米市場のトップブランドはサムスン電子、二番手はVizio(ヴィズィオ:2002年に南カリフォルニアで設立)。加えて、LGもどんどん名を上げているようで、今年のCESでは「画面がダントツにきれい!」とアナリストたちのラヴコールを受けていました。
が、個人的には、日本のシャープが展示していた85インチ型液晶テレビの鮮明さに驚いたのでした。
なんと、こちらは「8K(スーパーハイヴィジョン)」だそうで、青森のねぶたや、田んぼに波打つ稲穂の美しさには、実物を見るようなリアル感があります。
「4K」とか「8K」と表現されるUHDテレビですが、現行の高画質(Full HD)の4倍、16倍の画素数です。これさえあれば、3D(3次元)テレビは必要ないのでしょう。
「8K」テレビは、昨年シャープが初めて展示しましたが、今年はサムスンも出展しています。
パナソニックやシャープ、ソニーと、技術力を誇る日本企業が北米市場でシェアを失っているのは残念でしかたがありませんが、2012年6月号でも取りあげたように、「技術だけでは製品は売れない」のが、海外市場。
しかも、北米市場は、技術を取り巻く環境がなかなか整わない巨大市場。テレビ放映に関しては、「4K」「8K」対応の撮影機材やスタジオ設備、そして、家庭に中継するケーブルテレビや衛星テレビの物理的な許容量や商売上の思惑と、いろんなハードルが立ちはだかっています。
晴れて環境が整い、そのタイミングを見計らって消費者にUHDテレビを売れるのは、いったいどのメーカーなのでしょうか?
<運転席はコックピット?>
実は、わたしがCESで一番楽しみにしていたのが、車に関する展示でした。メイン会場の北「ノースホール」には、自動車メーカーがたくさん出展していて、最初に足を向けたのがこちらでした。
アウディ、トヨタ、マツダ、フォード、GM(General Motors)、クライスラー、Kia(起亜)モーターズと、アメリカの人気メーカーの多くが展示していて、今年は、「いかにドライブを楽しむか」というのが主題になっている印象を受けました。
こちらは、アウディのソリューション。ドイツからいらした説明員が、「まさに飛行機のコックピットの感覚です」と自慢していましたが、売りは、運転しながら簡単にスクリーンを操作できること。アウディがHMI(human machine interface)と銘打つインターフェイス(人と車の接点)の第2世代だそうです。
たとえば、運転席の右側にある「ノブ」の丸い表面は、手描き文字認識ができるようになっていて、近くのShellガソリンスタンドを探すときには、「S」「h」とノブ上をなぞれば、画面に付近のShellスタンドがずらりと出てきます。
ヨーロッパじゅうのデータが詳細にインプットされているので、画面の検索スペース一行で簡単に行き先検索ができるんだとか。
こちらが実際に車に搭載されたところですが、ソフトウェアアップデートはできないので、第2世代のHMIが欲しい人は、「車を買い替えてください」とのことでした。
文字認識だと、会話中や音楽を聴いているときにも操作できるということですが、音声認識の方が、運転中は安全な気がするのですが・・・。
こちらは、Kiaモーターズのソリューション。アウディの手描き文字認識に対して、こちらはジェスチャー認識を採用しています。
画面の下の丸い部分に手をかざして、一本指だとマップ、二本指だと音楽と、メニューを選択できるのですが、ある程度マシーンにも自分のクセをお勉強してもらわないといけません。ですから、「ちゃんと動くのかな?」と若干の疑問が残るソリューションでした。
だって、我が家のサムスン製スマートテレビは、テーブルの上に足を上げただけで、「ボリュームコントロールしたいの?」と画面に「手」のイラストが出てくるので、ジェスチャー認識は運転中には使えない気もするのですが・・・。(ちなみに、手の下に見えているスクリーン状の部分は、スマートフォンのチャージャーです)
う〜ん、なんとなく小手先の技に終始しているなぁと、フロアを歩いていてガッカリ感は否めませんでしたが、そんなわたしでも、「今すぐに欲しい!」と思ったモノがありました。
それは、日本のJVCケンウッドが提案するドライバーアシストシステム。
その名も「i-ADAS(innovative-Advanced Driver Assistance System)」。
とくに気に入ったのが、ハンドルの両側に付いている高画質画面。これは、車の左右後方を映し出すもので、ドアミラーの場所に付くHDカメラが、運転席の両側の死角(blind spots)を絶えず伝えてくれるのです。ミラーに比べて、カメラは幅広い映像をとらえることができるので、より安全だとか。
ハンドル脇の画面は、とても鮮明で、これだとカリフォルニアの強い光線にも十分に耐えられる解像度だと感じました。
十代で運転免許を取得して、ン十年。車との付き合いは長いですが、一番危険だと感じるのが、死角です。とくに大きな車だと死角は大きいですし、車高の低い車が助手席側に入ってくると、相手の車がまったく消えてしまうこともあります。それを映像で確実に知らせてくれれば、これほどありがたいものはない、とも思えるのです。
だって、車は「世の中で一番大切な荷物(most precious cargo)」を運ぶもの。安全性や信頼性というのは、自動車関連企業が最も重視すべきことではないでしょうか。
JVCケンウッドのアシストシステムには、フロントグラスに映し出される映像機能もあります。
こちらもまたスグレモノで、たとえば、前方に自転車が走っているとか、歩行者が横断歩道を渡っているとか、画面に黄色い枠で「ハイライト」して、注意を喚起してくれます(写真は不鮮明ですが、白いシャツの男性の部分に映像が映し出されています)。
車の前方に付くカメラは、夜間は暗視カメラに切り替えられるので、暗い夜道でも前方の歩行者が認識できるようになっています。
車は、大切な荷物を運ぶ道具であるとともに、人を傷つける「凶器(deadly force)」ともなるものです。車の回りをドライバーに伝えてくれるアシストシステムは、たとえコストがかさんでも、今すぐにでも自動車メーカーに採用してもらいたいと痛感した次第です。
<車の未来!>
べつに、日本企業をえこひいきしているわけではありませんが、車メーカーの展示で一番面白かったのは、トヨタでした。なぜって、なんだか楽しそうなものが、いくつも展示されていたから。
こちらは、コンセプト段階の一人乗り「FV2」。
最初は、どっちが前か後ろかわからなかったのですが、左側の「ウサギの耳」みたいなのが、ウィンドシールド(フロントグラス)。ですから、左に向かって発進します。
なんと、ハンドルがないので、右へ左へと体重移動しながらカーブを曲がります。
前から見ると、こんな感じですが、銀色の部分をまたいで腰掛けます。
FV2にはハンドルがないだけではなくて、ブレーキやアクセルもないそうで、動かすのは基本的にドライバーの動作。中腰で前後/左右に体重移動をしながら操作するのですが、車の方だって、だんだんとドライバーの好みやクセをつかんで、賢くなっていくんだとか。
中腰の体重移動で運転するのは、ある意味「健康な人のためのエクササイズ」のようでもあり、なおかつ安全性の疑問も残りますが、なんだか、小学生の頃に「未来を描いてごらんなさい」と言われて画用紙に描いた乗り物のようでしょう!
一方、未来がすぐそこまで来ているのが、こちらの「i-Road」。
リチウムイオンバッテリー搭載の電気三輪車です。
「三輪車」と言っても、前輪がふたつ、後輪がひとつの三輪車で、カーブを曲がるたびに前輪が上下にスライドするようになっていて、クネクネと車体を動かす様は、スキースロープを滑らかにとらえるスキーヤーを思い浮かべます。
上記「FV2」も、似たような車輪の動きをするのですが、「車輪は固定されたもの」という消費者の概念を打ち破る、画期的なアイディアに見受けられます。
そして、近未来のもうひとつの例が、「FCV」。FC(Fuel Cell)は燃料電池のことで、FCV(Fuel Cell Vehicle)は「燃料電池自動車」。
今まで噂には聞いていたものの、燃料電池車を見るのは初めてなので、シャーシ(骨組み)姿のFCVは、非常に興味深い展示物でした。
車体後方に黄色いタンクがふたつ見えていますが、これは高圧水素タンク。
タンクの水素を燃料電池(車体中央の銀色の箱)に送り込み、化学反応を起こして発電します(触媒に活性化された水素が電子を放出し、電子がマイナス極からプラス極へと流れることで発電。電子を放出した水素イオンはプラス極へと移動し、ここで空気中の酸素と結合して水を生成、排出)。
発生した電気は、モーターに運ばれ機動力となります。
モーターは、減速時には発電機として機能し、回収したエネルギーはニッケル水素バッテリー(水素タンク上の銀色の箱)に貯蔵され、加速時に燃料電池の出力を助けます(ちなみに、FCVの交流モーターは自社開発の同期電動機(synchronous motor)。先月号でご紹介した、テスラモーターズ「モデルS」の誘導電動機(induction motor)とは方式が違うようです)。
テスラ「モデルS」と比べて、なんだか部品が多いなぁという印象を持ちましたが、それは、モーターの上に乗っかるパワーコントロールユニットと燃料電池の横にあるブーストコンバータのせいなんでしょう。
前者は、燃料電池の出力やバッテリーの充放電を細やかに制御し、後者は、電圧を上げることによってモーターや燃料電池の効率化を図っているそうです。
で、外観は、こちら。どうでしょう、カッコいいでしょう!
この写真を撮りながら、「これだったら、欲しいなぁ」と思っていたら、後ろからまったく同じ声が聞こえました。男性二人組が、子供のように目を輝かせてFCVを見つめていたのでした。
1992年にトヨタが燃料電池車に着手して、20年強。2008年には米エネルギー省が実地評価を始め、昨年は、極寒のカナダと灼熱のカリフォルニアの砂漠で自社耐久試験を実施。
いよいよ、来年(2015年)には、FCVの販売開始となるそうです(米国市場では、当初カリフォルニアをターゲットとし、価格は5万ドル〜10万ドルの下限に近い見込み)。
まあ、水素を使う燃料電池車には、いろいろと克服すべき点もあります。水素を石油・天然ガスからつくり出すときにも、圧縮してタンクに格納するときにもエネルギーが必要となるので、だったら電力を使って水素を利用するよりも、そのまま電気自動車(EV、Electric Vehicle)に使ったら? というEV推進派もいます。
それに、水素ステーションは誰がつくるの? 水素の大量輸送は安全なの? ガソリンほど安くなるの? といったインフラ整備の問題もあります。
(写真は、EVメーカー・テスラモーターズにリチウムイオンバッテリーを供給するパナソニックのCES展示ブース。同社は、向こう4年間で20億本のバッテリーをテスラに供給予定(一台に複数本使用)。昨年「モデルS」の販売台数は約2万2千台ですが、バッテリー供給とチャージステーションの整備が今後のカギとなります)
このように、代替エネルギー車としての燃料電池車には課題も山積ですが、トヨタブースでFCVを見たら頭が吹っ飛んでしまって、もともと興味を持っていた「全自動運転車(self-driving car、autonomous car)」のことは、すっかり忘れてしまったのでした。
ちなみに、こちらは、昔の「未来の車」デロリアン。
映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』で有名になった車ですが、残念なことに、今は生産されていません。
そんな希少価値も手伝って、近頃「おじさん」たちの間でちょっとしたブームになっていて、CES会場に登場したデロリアンは、人気の的でしたね。
夏来 潤(なつき じゅん)