Cold as ice(ひどく冷静)
サッカーは何もわからないわたしが、連日テレビにしがみついています。
そう、今ブラジルで開催されている『2014年FIFAワールドカップ』のことですが、アメリカ西海岸では、だいたい午前9時と午後1時に試合開始となるので、わりと楽に観戦できます。
そんなわけで、7月8日に行われた開催国ブラジルと強豪ドイツの準決勝を観ていたら、あることに気がついたのでした。
実況中継が、ひどくカラフルなんです!
試合は、誰も予想もしない展開となり、最初の26分でドイツが立て続けに4点獲得したのですが、そこで解説者が言うのです。
They (German players) are mentally strong, cold as ice
ドイツの選手は精神的にタフだ。氷のようにひどく冷静である
なぜなら、1点、2点、3点入れても、まったくひるむことなく、まるで無得点のように冷静に攻撃しているから。
こちらの文章にある cold as ice というのは、「冷静沈着である」という慣用句です。
ときに、文字通り「氷のように冷たい」という意味で使われることもあります。
が、ここで解説者が表現したかったのは、「まるでロボットのように冷静沈着である」ということでしょう。
あれよあれよと言う間に、4対0になったブラジル応援団は、もう唖然とするしかありません。
カメラがある男の子をとらえるのですが、コカコーラのコップを握りしめ、ボロボロと涙を流す姿に、こちらももらい泣きしてしまいました。
そう、1点ずつ返せば、まだ間に合うよ!
が、その3分後、またドイツがゴールを決め、5対0に。
ここで実況アナウンサーいわく
If it was a boxing match, a referee would stop this match to prevent Brazil from getting further damage
もしもこれがボクシングの試合だったら、レフリーは試合を止めて、ブラジルがさらなるダメージを受けるのを防ぐことだろう
なんとも信じられない前半の展開に、カメラがとらえた女性ファンは、はらはらと涙を流します。せっかくの晴れ舞台にそなえた緑と黄色のお化粧も、はかなく消えかかっているのです。
ここでアナウンサーいわく
That picture needs no caption, none at all
この映像にはキャプション(説明文)はいらない、まったく何も
そんなわけで、ハーフタイムを終えてフィールドに出てきたブラジル選手たちは、かなり動きが良くなり、盛り返しを図ります。
それを見て、ほっとしたアナウンサーはコメントを入れます
Brazil needed a halftime. They came out refreshed, at least as refreshed as they could be
ブラジルにはハーフタイムが必要だったんだね。彼らはリフレッシュして出てきた。少なくとも、できうる限りリフレッシュしている
が、そんな安堵も、つかの間。ブラジルの選手がシュートし、あえなくゴールをはずすと、解説者の厳しい一言が飛びます
I don’t want to comment on that one
あんなのにコメントなんかしたくないよ
困ったアナウンサーは、すかさず取りつくろいます
(That) needs to be much stronger
そうだねぇ、もっと強くなければねぇ
ブラジルは、守りの要であるチアゴ・シルバ選手が出場停止となり、エースのネイマール選手がケガで欠場となり、強豪ドイツを相手に苦戦が強いられるとは予想されていたものの、ここまで差がつくとは誰も予期していません。
たまにブラジル選手がシュートしてもゴールには結びつかないし、「あ~、早くしないと間に合わない~」と、応援席の男の子も気が気ではありません。
後半69分では6対0となり、79分には7対0となったあたりで、アナウンサーや解説者からは、こんな言葉がもれるようになりました
This is embarrassing. This is an utter humiliation, especially at home
これは恥ずかしい試合だ。とくにホームで(こんな展開になるなんて)完全に屈辱だ
意気揚々としたドイツファンに比べて、ブラジル応援団が静まりかえっているので、こんなやり取りもありました
You could hear a pin drop
針を落としても聞こえるくらいだよ
I have to give a lot of credit to the crowd. They are still here
(ブラジルの)観客席には敬意を表さなければならないね。だって、まだこの場にいるんだもの
そして、試合が終わりに近づくにつれ、アナウンサーの口からは、こんな意地悪まで飛び出します
On this day, even if Brazil plays till midnight, it won’t go in
今日は、ブラジルが真夜中までプレーしたとしても、(ボールは)ゴールには入らないよ
が、その瞬間の90分、オスカル選手が辛くも一点を返し、ロスタイムもほとんどないまま7対1で試合終了を迎えます。
こんなに惨敗したのは、ブラジルにとっては何十年ぶりの出来事だったようですが、ブラジルがいつもの精彩さを欠いたことに加えて、ドイツの「冷静さ」が際立った試合でした。
ドイツの選手を見ていて、いつも思うのですが、彼らのDNAには「とにかくボールを見たら、ゴールするまで執念深く追え!」と書いてあるのではないでしょうか?
というわけで、cold as ice のドイツチーム。
次は、決勝でオランダとアルゼンチンの勝者と対戦しますが、準備は万全に整っているようにお見受けいたします。
ちなみに、スポーツチャンネルESPNで実況中継を担当されたのは、アナウンサーが Ian Darke(イアン・ダーク)氏(写真左)、解説が Steve McManaman(スティーヴ・マクマナマン)氏のお二人でした。
お二人ともイギリス出身で、ブリティッシュイングリッシュの(辛口の)コメントが光ります。
アメリカで放映される国際的なサッカーゲームでは、ほとんどがイギリス英語の中継となりますが、まだまだ米語で実況中継できる人材が育っていないのかもしれませんね。
だって、世界のサッカーの祭典『ワールドカップ』だって、本格的に全試合を放映し始めたのは、前回2010年の南アフリカ大会あたりでしたから。
アメリカには、同じ「フットボール」でもアメリカンフットボールがありますし、他に野球やバスケットボール、アイスホッケーと、いくらでも観戦スポーツ(spectator sports)はありますものね。