Got green? (グリーン持ってる?)
先日、「緑色のセント・パトリックス・デー」というお話をいたしました。アイルランドの聖人「聖パトリック(St. Patrick)」をお祝いする日がアメリカにも伝わっていて、その晩は、みんなでたらふくお酒を飲んで、思う存分に楽しむ習慣があるというお話でした。
そのセント・パトリックス・デーである3月17日には、今年はこんなジョークを耳にいたしました。
This year’s St. Patrick’s Day is a little bit different.
Nobody’s got any green left.
「今年のセント・パトリックス・デーは、いつもとちょっと違うよね。
だって、みんな(の懐には)グリーンが残っていないんだもん。」
そう、こちらの「グリーン(green)」という言葉は、緑色というわけではなくて、「お金」という意味で使われているのですね。
今年は経済状態が悪いから、誰の懐にもお金が残っていない。だから、セント・パトリックス・デーだといっても、思うように楽しめない、といった世知辛いジョークとなっているのです。
(上の文章を普通の英語の文章にすると、Nobody has gotten any money left となるでしょうか。Nobody ~ で「誰も~でない」という否定形を表し、has gotten と現在完了形を使うことで、「今までずっとお金がない」という継続的な状態にあることを示しますね。お金がない状態の引き金となったのは、昨年秋以来の金融危機といったところでしょうか。)
アメリカには、お金を表すスラング(俗語)はいっぱいあります。やはり、お金は日常生活には欠かせないものですから、自然と表現方法もたくさん生まれてくるのでしょう。
その中でも、上に出てきた「グリーン(green)」とか「グリーンバック(greenback)」というのは、最もポピュラーなものですね。
ご存じの方も多いでしょうが、これは、アメリカの紙幣が緑色のところから来ているのです。
アメリカの紙幣は、長い間ずっと、表は黒と緑の2色、そして裏は緑の1色だけが使われておりました。こちらの写真では、上が表側、下が裏側となっていますが、この1ドル札のように、裏の模様は全部緑色で印刷されていました。
そこから、「緑(グリーン)」とか「緑の裏(グリーンバック)」というスラングが生まれたのですね。
最近、若干のデザイン変更があって、アメリカの紙幣もほんの少しはカラフルにはなりましたが、基本的には、緑と黒の基調というのは変わっていません。こちらの写真では、上が昔ながらの20ドル札(表側)、そして、下が新しい20ドル札となります。
新しいデザインの表側には、オレンジ色の背景や金色の数字、それからワシの絵なんかが加わったりしていますが、あまり大きな変化はありませんよね。
裏側にも、オレンジ色の背景や黄色の細かい数字などが加わってはおりますが、基調となっているのは相変わらず緑一色です。
さて、お金のスラングの話を続けますと、「グリーン」の他に、bacon(ベーコン)、bread(パン)、dough(パン生地)というのがあります。
これは、かなりポピュラーな使い方となりますが、いずれもお金と同じく、「家に持って返る(bring home)」ところから来ているようです。食べ物もお金も、定期的に家に入れないと生活が難しくなりますからね。
パン生地 dough に類似したお金の表現としては、酸っぱいサワーブレッドを表す sourdough というのがあります。
でも、こちらは普通のお金ではなくて、偽札(counterfeit money)を表すんだそうです。「酸っぱいお金」は偽物ということでしょうか。
(サワーブレッド sourdough bread というと、サンフランシスコの名物ではありますが、「偽札」とは聞こえが良くないですよね!)
それから、緑色の「グリーン」から派生した言葉で、cabbage(キャベツ)、lettuce(レタス)、kale(ケール、ちりめんキャベツ)などというのがあります。
なんとなく、サラダを思い浮かべてしまいますが、こちらは、bread や bacon ほどポピュラーではないような気がいたします。
食べ物を使ったお金の表現としては、gravy というのもあるようです。
グレイビーというのは、お肉やマッシュポテトにかけるトロッとしたソースのことで、感謝祭のディナーのときには、必ず食卓に登場するものですね。
こちらの表現は、普通に稼ぐお金というよりも、(たとえば非合法に)簡単に手に入るお金とか、自分の生活には不相応のお金とか、あまり良からぬ雰囲気が漂っているようです。日本語の「濡れ手に粟(あわ)」に似たところがあるみたいですね。
こういう風に、やはりお金は日常生活に深くかかわるものですから、食べ物との結びつきも強いわけですが、食材とはまったく関係のないお金のスラングもあります。
たとえば、C とか C-note というのがあります。C というのは、ローマ数字(Roman numerals)で100を C と表すところから来ているそうです。
C-note の note というのは、覚え書きのノートではなく「紙幣」のことで、もともとは、100ドル札を C-note と言っていたところから、広くお金を指すようになったようです。
このスラングは、おもにアメリカで使われるもので、イギリスでは流行らなかったんだそうです。
(蛇足ではありますが、ローマ数字の 1~10 は I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X となりますが、90 はXC、900 は CMとなります。それぞれ、90 = 100 – 10、900 = 1000 – 100 という表し方になっております。)
それから、1000ドルを表す grand という単語が、お金全体を表すスラングともなっています。
不思議なもので、こちらの方は、アメリカからイギリスにも派生しているのだそうです。
(ちなみに、100 を表すローマ数字からC-note という言葉が生まれているわけですが、1000 を表す M を使って M-note とは言わないようですね。こちらは、すでに grand という表現が市民権を得ているので、わざわざ別の言い方はしなかったのかもしれません。)
そして、何といっても一番ポピュラーなお金のスラングは、buck でしょうか。
もともとは、1ドル札のことを buck と言っていたようですが、今は広く「ドル dollar」の代わりに「バック」を使ったりもします。たとえば、10ドルと言うときには、10 bucks という風に使います。
一説によると、紙幣があまり頻繁に使われていなかった時代に、商取引には「バックスキン(鹿や羊のやわらかい皮)」を使ったところから、1ドル札をバックと呼ぶようになったということです。もともと buck という単語は、角(つの)が立派な雄ジカを表すものなのですね。
(ちなみに、雌ジカは doe と言うのですが、これは有名な「ドレミの歌」に出てきますね。最初のドの部分で Doe, a deer, a female deer というのが、雌ジカのこととなっています。)
この buck という単語を使った表現で一番よく耳にするものは、pass the buck でしょうか。
こちらはあまり良い意味ではなくて、「誰か他の人に責任を転嫁する」という意味があります。
直訳すると、buck を誰かにパスする(渡す)となりますが、こちらの buck はドル札のことではなくて、トランプのゲームのポーカーのときに、次の配り手を示すために置く目印のことだそうです。
19世紀後半、アメリカではお金を賭けるポーカーが大流行したそうですが、いかさまを防ぐために、棒みたいな(人畜無害の)目印の代わりにナイフをテーブルの上に置いたそうです。そして、そのナイフの柄は、雄ジカ buck の角でできていた。そこから、ポーカーに使う目印を buck と呼ぶようになったそうです。
そして、ある人が配り手(ディーラー)の任を終えると、次の人に buck を渡すことから、「責任(任務)を転嫁する」という意味になったということです。
そういえば一度、同僚にこう言われたことがありました。
You’re passing the buck to me! (あなたは僕に責任転嫁しようとしてる!)
何のことだったかはまったく覚えていませんが、どうやら彼は、わたしが仕事を押し付けたと感じたようでした。どうせ大したことではなかったとは思いますが、彼はちょっとだけムッとしたのでしょう。
(もしかしたら、上司に何かを進言するとか、そんなことだったかもしれません。誰が猫の首に鈴を付けるのか?というのは、ちょっと揉めますからね。)
ところで、題名となっている Got green? ですが、これは、ある有名なコマーシャルをパクらせていただきました。
もともとは、Got milk? というフレーズだったんです。
こちらは、「みんなちゃんと牛乳飲んでる?」という、カリフォルニアの牛乳業界の宣伝なのでした。
今までいろんなバージョンのコマーシャルがあって、有名な映画俳優やらスポーツ選手やらが次々と登場するのですが、みなさん一様に、口の上に牛乳の「ひげ」を付けて出てくるのです。牛乳を勢いよく飲むと、口の上にチョビッと白いのが付くでしょ。そんな「白ひげ」を女性でも堂々と付けているので、ちょっと目を引く映像ではあるのです。
そういったおもしろい映像や、Got milk? という覚えやすいフレーズのお陰で、かなりインパクトの強いキャンペーンフレーズとなったのでした。
ある意味、時の流行語となったとも言えるわけですが、その後、このコマーシャルのパクリもたくさん出現いたしました。
たとえば、Got beer?(ビール飲んでる?)とか Got soy milk?(豆乳飲んでる?)なんかがあるでしょうか。
それから、Got grass? というのもありました。こちらは、庭の芝生を売る会社のキャンペーンフレーズのようではありますが、grass と言うと、なにやら良からぬものを想像してしまいます・・・
そして、わたしのパクリ Got green? は、「お金持ってる?」という意味で使ってみました。
近頃、「グリーン」といえば、もっぱら「環境にやさしい(environmentally friendly)」とか「環境にいいことを真剣に考えてる(environmentally conscious)」とか、そんな環境保護(エコ・フレンドリー)の観点で使われているのですが、ここでは、あくまでもお金の話に終始してみました。