Happiness is a bovine thing(幸せは牛のため?)
Happiness is a bovine thing.
訳して、
「幸せとは、牛が得意とするものでしょう(牛のためにあるようなものでしょう)」
この文章の構造は、ごく単純なものですよね。
A is B. つまり「A は B である」
A は happiness、「幸せ」。
B は a bovine thing。
こちらは、ちょっとくせ者でしょうか。
形容詞 bovine(発音はボウヴァイン)は「牛の」という意味で、名詞 thing には、「物、事柄、得意とすること」と、いろんな意味があります。
つまり、a bovine thing とは、「牛の得意とすること」とでも訳せるでしょうか。
ですから、全体の文章で、「幸せとは、牛が得意とするものである」といった意味になるのです。
ちなみに、このような thing の使い方には、こんなものもありますね。
It’s not my thing.
「それは、わたしの得意とすることではない」
It’s not my thing は、どちらかというと「自分は得意じゃないから、そんなことできないよ」と、言い訳に使う場合が多いでしょうか。
一方 not が抜けて、It’s my thing というのもあります。
こちらは、「それは僕の得意種目さ!」と、胸を張って自慢する感じになるのです。
両方ともよく耳にする表現ですので、覚えておいて便利だと思います。
それから、bovine 「牛の」という形容詞が出てきたところで、ついでに代表的な動物の形容詞を並べておきましょう。
「豚の」は、porcine(発音はポーサイン)。
「鳥の」は、avian(エイヴィアン)
「熊の」は、ursine(アーサイン)
こういった形容詞が出てくる言葉は、たとえば「鳥インフルエンザ(avian flu)」でしょうか。
それから、食べ物を求めて山から下りて来た熊さんについて、「人間と熊の接触(human-ursine interaction)」なんていうのもあるでしょうか。
ちなみに、牛の bovine は、恐ろしい牛の病気「BSE(牛海綿状脳症)」の B の部分を表す言葉です。
このような動物の形容詞は、生きている動物そのもの(お肉になっていない状態)をさしますので、どちらかというと、医学的・生物学的な表現に使われますね。
さて、表題の Happiness is a bovine thing に戻りましょう。
上に出てきたように、「幸せとは、牛が得意とするものである」というわけですが、裏を返せば、こうなるでしょうか。
「牛に比べて人間は複雑なので、牛みたいに草を食(は)みながら『あ~、幸せだなぁ』なんて、なかなか思えないのさ」
なんだかとっても含みのあるお言葉ですが、これをおっしゃったのは、イギリス出身のシンガーソングライター、スティング(Sting)さんです。
インタビュー番組で、こんな話をなさっていたのです。
1983年、バンド「ポリス(Police)」として活躍していた僕は、次から次へとヒット曲にも恵まれ人気絶頂にあったけれど、ポリスとは決別しようとしていたし、プライベートでは結婚生活もうまくいっていなかったし、僕の中では、幸せなんて感じていなかったんだ。
(I was at the)apex of my success, and yet I was not happy. Happiness and success are not necessarily the same thing.
「僕は成功の頂点に立っていたけど、幸せではなかった。幸せと成功って、必ずしも同じことじゃないんだね」
そこで、表題の文章「幸せとは、牛さんの得意とするもの」が出てくるのです。
やっぱり、人間って単純じゃないから、なかなか幸せなんて感じることはできないのさ。
「だったら、あなたは何に幸せを感じるんだろう?」との問いには、簡潔にこう答えていらっしゃいました。
The search. We’re here for searching.
「探すこと。我々は、探すためにこの世に生きているんだよ」
I enjoy the mystery. I embrace not knowing.
「僕は世の神秘を楽しんでいるよ。自分が知らないってことを十分に認めているし、それでOKなのさ」
I’m here to learn. The point is to learn, to evolve.
「僕は学ぶために生きている。大事なことは、学ぶこと。進化することなんだよ」
う~ん、なんとも深いお言葉ではあります。簡潔な文章の中にも、おっしゃりたいことがギュッと凝縮しているようですね。
スティングさんは、わたしが大好きなアーティストのひとりですが、さすがに元中学校教師。おっしゃることが哲学的で、宇宙を眺めているような広がりを感じるのです。
だから、みんなが共感するような歌を次々とつくり出すことができるのでしょうか。
わたしだったら、緑の丘でのんびりと草を食む牛さんや鹿さんを思い出して、動物になったつもりで、十分に幸せな気分になれますよ!
(う~ん、「幸せな気分」と「幸せ」は違うのかなぁ?)
引用インタビュー番組: 公共放送で毎日(月~金)放映中の『Charlie Rose(チャーリー・ローズ)』。 昨年12月10日に放映されたものが、昨日再放送されておりました。
「偶然に観ていて良かった!」と痛感した次第ですが、興味のある方は、『Charlie Rose』の番組ウェブサイトでもご覧になれますよ!