He or she(彼または彼女)パート2
というわけで、パート1に引き続き、男性と女性を表す言葉の世間話です。
それで、どうして薮から棒に「男性形」「女性形」のお話をしているのかというと、先日、レディーだけのランチで、ある話題が飛び出したからです。
ゲイの人たちは、相手を何と呼ぶのかしら?
男性と男性のカップル、女性と女性のカップルは、どういう風にパートナーを紹介するのかしら? と。
カリフォルニアでは、2004年2月、サンフランシスコ市役所で全米初の同性カップルの結婚式が執り行われました。が、ずいぶんと紆余曲折があって他州にも遅れをとったものの、ようやく今年6月、同性結婚(same-sex marriage)が州の法律として連邦最高裁判所で認められました。
今までは、カリフォルニア州内では同性カップルの「民事婚(civil union)」が認められていましたが、ひとたび「結婚(marriage)」となると、医療に関する決定権が与えられたり、相続権が認められたりと、国のレベルでも、もう立派な配偶者(spouse)となるのです。
たとえば、病院で「家族」として面会できたり、パートナーの末期医療を代理決定できたり、国の確定申告を一緒に申告できたり、相続税を払わなくてもすんだりと、権利がぐんと広がるのです。
それで、カリフォルニアの同性結婚が法律となって以来、同性カップルの中には、結婚式を挙げる方々もたくさん出てきました。
常日頃「結婚ほど、ばかばかしい契約(contract)は、この世には存在しない」と憎まれ口をたたいていた知り合いも、長年連れ添ったパートナーと結婚式を挙げたくらいですから!
(写真は、挙式間近のサンノゼのカップル、デイヴィッドさんとパブロさん。市内のAki’sベーカリーでケーキの味見をしているふたりは、なんとも幸せそう;photo by Gary Reyes, the San Jose Mercury News, August 1, 2013)
でも、このような同性カップルの場合、たとえば、男性のパートナーでも my wife(僕の奥さん)かしら、それとも my husband(僕のダンナさん)かしら? と、ランチで話題になったのでした。
ひとりのレディーは、「わたしの職場の同僚(男性)は、まるで奥さんを紹介するみたいに、写真を見せながら my wife と説明していたわ」と言います。
それで、わたしは、「テレビインタビューを観ていたら、my husband と言った男性もいたから、もしかすると、どっちもありなんじゃないの?」と発言してみました。
すると、みなさんは、「結局は、お互いにどう思っているかで決まるのかしらね。たとえば、どっちが働きに出てお金を稼いできて、どっちが家事をするかとか、そんなことで呼び方が決まるのかしら」ということに落ち着いたのでした。
もちろん、husband と wife と名乗ることもあるでしょうし、両方が husband だったり、両方が wife だったりするケースもあるのでしょう。
いずれにしても、そのうちに his husband(彼のダンナさん)とか、her wife(彼女の奥さん)という呼び方が、世の中に定着することでしょう。いえ、定着すべきでしょう。
それで、もうちょっと複雑な状況で、近年、どの代名詞を使ったらいいのかな? と迷うことも出てきました。
いったい、he を使うのか、she を使うのか迷ってしまうケースです。
たとえば、性別を転換した人(transgender、トランスジェンダー)の場合は、転換したあとの新しい性別で he とか she を決めればいいと思います。
だって、みなさん、新しい性別を自分の真の性別だと思っているのですから、古い方で呼ぶのは失礼でしょう。
でも、「男でも女でもない」と思っている人(agender、エイジェンダー、または non-binary gender、ノンバイナリージェンダー)もいらっしゃるので、こういう方には、ちょっと違った代名詞を使うそうです。
なんでも、こういう場合は、he でも she でもなく、複数形の they を使ったり、まったく新しい造語 ze などを使ったりするそうですよ。
蛇足ですが、they を使う場合、単数形と複数形が入り混じって、文章がヘンテコリンになったりもします。たとえば、
When I tell a joke to this person, they laugh
この方に冗談を言うと、(彼/彼女)は笑います
前半の文章は「ひとりの人(this person)」を指していますが、後半では代名詞「彼ら(they)」で受けているという、ちょっと不思議な状況。
それから、造語 ze の場合は、こんな風になるとか。
Ze likes zirself
(彼/彼女)は、自分自身が好きです
実際に会話で耳にしたことはありませんが、こういう造語を使う動きはあるそうです。
それで、わたし自身は、エイジェンダーの方々を表す代名詞 they や ze を、ある事件で初めて知ったのでした。
それは、11月初めにオークランド(サンフランシスコの対岸)で起きた事件。下校の際バスに乗っていた18歳の高校生が、同じバスに乗り合わせた違う高校の生徒に火をつけられたのです。
動機は、男の子に見えるのに、ルーク “サーシャ” フライシュマンさんがスカートをはいていたのが気に入らなかったこと。
居眠りをしていたサーシャさんは、ロングスカートに火をつけられて飛び起き、バスの床に転がって鎮火しようとしたのと同時に、バスに乗っていた他の乗客も上着を使って消し止めたのですが、サーシャさんは両足に2度と3度の火傷を負い、即入院。
でも、そんな暴力に立ち向かおうと、学校では男子生徒や男性教師がスカートをはいてきて、サーシャさんへの「支持」を表明したり、入院費の募金運動をしたりと、さっそく行動に出たのでした。
(Photo of students at Maybeck High School in Berkeley by Doug Oakley, the San Jose Mercury News, November 9, 2013)
11月末の感謝祭まで、ずっと入院していたサーシャさんは、退院後は、元気な姿で報道陣のインタビューに答えていらっしゃいました。「びっくりしちゃったけど、子供の頃の「火に触れたら地面に転がれ!」っていう教訓が役に立ったかな」と、さわやかな笑顔を見せています。
高校に入った頃は、引っ込み思案な部分があったそうですが、「男でも女でもない!」と自分自身で認めたときから、かなり明るくなって、勉強にもスポーツにも意欲が出てきて、友達もたくさんできたといいます。
サーシャさんのケースは、自分で自分を認めたことと、まわりもそのままの姿の自分を認めてくれたことが良かったのでしょうね。
というわけで、時代の流れとともに、複雑になりつつある男性形、女性形。
性別の区別がはっきりした言語では、ちょっと気を付けなければならない点なのです。