I have your back(あなたの背中を持っている?)
<英語ひとくちメモ その156>
9月に入って、日本列島は台風シーズンの到来となりました。
台風は、英語で typhoon(発音は「タイフーン」)。
いうまでもなく、日本語の台風が語源です。
なんでも、太平洋の北西部(アジア圏)で生まれた熱帯低気圧が typhoon と呼ばれ、太平洋の北東部や北大西洋(アメリカ大陸付近)で生まれた熱帯低気圧が hurricane(ハリケーン)と呼ばれるそうです。
そんな違いはあるものの、タイフーンと言えば、アメリカの誰もが知っている有名な気象用語ですね。
と、冒頭からそれてしまいましたが、今日は back という単語にフォーカスいたしましょう。
この back という言葉は、名詞、形容詞、副詞、自動詞、他動詞と、実に多彩です。
たとえば、名詞だと「背中」だったり、「裏面」だったり。
形容詞だと「うしろの」とか「あともどりする」という意味だったり、「滞って(とどこおって)いる」という意味だったり。
今日は、まず「うしろの」という意味の back を取り上げましょう。
この back を使った言葉には、backstage や back office があります。
Backstage は、日本語でもバックステージなどと呼びますが、劇場の舞台裏。出演者が準備したり、大道具や照明、音響といった裏方さんが働いたりする場所ですね。
Back office(バックオフィス)も似たような言葉で、表には見えないけれど、裏側で企業やお店を支えている部署をさします。プロのスポーツチームなどでも、選手や監督といった表で活躍する人たちをサポートする部署(広報、財務、人事など)をさします。
そして、back burner(バックバーナー)という言葉もあります。
バーナーというのは、台所のガスコンロのことです。このガスコンロに「うしろの」という形容詞がついて、ガスコンロの後列にあるコンロという意味。
普段、調理をする際は、前列のコンロを使うことが多いでしょう。ですから、たまに後列の小さなコンロに鍋を置くと、火にかけていることを忘れがちですよね。
わたし自身、先日お客さまをお招きしたときに、back burner に蒸し器をかけていたのを忘れていて、せっかくの黒豚フィレのお料理がかたくなってしまいました。
そんなこともよくありますので、back burner という言葉には、後列のガスコンロと同じように、「プライオリティ(優先順位)の低いもの」といった意味があります。
優先順位の高い前列のコンロには細心の注意を払って、後列の方はあとまわし。後方に置いたものは「今はちょっと放っておいて、あとで考えることにしましょう」といった感じでしょうか。
ですから、こんな風に使います。
I put the remodel project on a back burner for a while
少しの間、家のリフォーム計画をあとまわしにすることにした
ほかに考えなければならないこと、お金を使わなければならないことがあるので、少しの間、放っておくことにした、といった状況です。
こういうときには、put (the remodel project) on a back burner という慣用句が使われます。
ちなみに、以前もご説明したことがありますが、「家のリフォーム」には remodel を使います。英語の reform というと、「国政を改革する」といった堅いイメージがあって、住宅のリフォームに使うような言葉ではありませんね。
間違いやすいので、reform と remodel の違いを覚えておいた方が良いでしょうか。
そして、形容詞としての back には、「うしろの」という意味に加えて、「滞っている」という意味もあります。こちらは、たとえば backorder(バックオーダー)という言葉に使われます。
バックオーダーは「遅延している注文」ということですが、つまり、何らかの理由で在庫が切れていて、注文に応じられないという意味。だいたいは、「ただいま商品を生産中」ということになりますが、「いつ発送できるかわからない」という状況も考えられますね。
というわけで、形容詞の back を考えてきましたが、次は名詞の back を考えてみましょう。
上でも書きましたが、名詞の back には「(人の)背中」「(ものの)裏面」とか「うしろの方」といった意味があります。
I sat in back というと、「うしろの方に座った」という意味になりますね。
「背中」という意味の back は、たとえばこんな風に使います。
I only have the clothes on my back
わたしには今着ている服しかないのよ
台風や地震といった自然災害で避難した方の多くは、「取るものも取り敢えず」避難所に逃げて来られることでしょう。そういった状況では、「着替えの服なんてないのよ」と訴える方も多いはずです。
直訳すると、 the clothes on my back は「(背中に)背負った服」ですが、「今着ている服」という意味になります。よく使われる表現ですので、覚えておくと便利です。
そして、「背中」という意味の back を使ったものでは、こんな文章もあります。
I have your back
直訳すると「わたしはあなたの背中を持っている」というわけですが、こちらは「大丈夫、わたしがあなたを支えます(しっかりと守ります)」という意味になります。
I got (have got) your back ともいいますが、こちらは、とてもポピュラーな慣用句となります。
なんでも、その昔、騎士が剣で戦っていた時代は、正面には注意を払えるものの、よく見えない後方からの攻めにはひどく弱い。だから、仲間の騎士が背中側を守ってあげたところから、こんな表現が生まれた、という説があります。
一方、いやいや、そんな昔の話じゃなくて、第二次世界大戦で戦っていた兵士の間で生まれた慣用句である、という説もあるそうです。
いずれにせよ、人間とは背中が弱点の生き物ですので、「キミの背中(うしろ側)は僕が守ってあげるよ」と仲間の騎士や兵士が言ってくれたことから、日常生活にも転用されたようですね。
同じような意味で、こんな言い方もあります。
I got you covered もしくは
I have you covered
直訳すると「僕はキミをカバーしている」ですが、「僕はキミをかばってあげるよ(援護してあげるよ)」という意味です。
こちらも I got (have) your back とほとんど同じ意味で、同じようにポピュラーな言い方です。
両方とも覚えておくと、相手が親切で言ってくれたことをすぐに理解できることでしょう。
ところで、上に出てきた「I have your back」という写真は、オーストラリア南西部のヴィクトリア州政府のウェブサイトの一部です。
何のページかというと、いじめ(bullying)や仮想空間のいじめ(cyberbullying)を撲滅しよう、見て見ぬ振りをするのはやめて、声を出そう! と促す内容になっています。
「誰かがいじめられているのを見ると辛いけれど、いじめられている当事者はもっと辛いんだ。これに対して、わたし達すべてが何かしらできるはず。わたし達すべてがアップスタンダー(upstander)になれるはず」と訴えます。
わたし自身も「アップスタンダー」という言葉は初めて聞きましたが、きっと「バイスタンダー(bystander)」と真逆の言葉なんだと思います。
バイスタンダーというのは、何もしないでそばで傍観している人という意味ですが、アップスタンダーというのは、自分から行動を起こして、現状を改善しようとする人のこと。
いじめられている人には、I have your back と声をかけて、寄り添ってあげる。いじめている人には、彼らの注意を他にシフトさせて、いじめが特定の人に向かないようにする。
そして、仮想空間でのいじめに気がついたら、仮想空間安全コミッショナー(eSafety Commisioner)に報告しましょう、とも書かれてあります。
なんでも、オーストラリア政府には、仮想空間安全コミッショナーという役職が設けられているようで、オンラインでのコミュニケーションや活動が健全に保たれているか、常に注視しているようです。
たとえ仮想空間であっても、一人ひとりの人権は守られるべき。そんな信念に基づいて編み出された部署なのでしょう。人権に関しては認識が遅れている日本政府にも、見習ってほしい考え方かもしれません。
というわけで、知らないとわからない I have your back
誰かにそう言われたら、その方に感謝ですね!