Knock on wood(木をコンコン)
今日のお題は、Knock on wood(ノック・オン・ウッド)。
表現というよりも、習慣と言った方がいいでしょうか。
「何か悪いことが起きそうねぇ」と縁起の悪い話をするときに、「そんなことが起きなきゃいいね」という意味で、コンコンと木を叩きます。
逆に、何かしら良いことを言い過ぎたときにも、コンコンと木を叩くことがあります。こちらの場合は、あまりにも良いことばかりを言ったので、逆に悪いことがやって来なきゃいいね、という意味でコンコンと叩くのです。
アメリカでは、「こんなことが起きそうね」と将来の話をしたあとで、「ノック・オン・ウッド(悪いことが起きませんように)」と言いながら、木のテーブルをコンコンと叩くことが多いでしょうか。
テーブルを叩くときには、こちらの写真のように、ドアをノックするみたいに「グー」を使います。
こちらは、ホワイトハウスに集まった財政担当者がコンコンとやっているところ。
「どうかこの財務法案が無事に可決しますように」と、縁起かつぎでやっているのです。(Official White House photo by Pete Souza, 10/26/2015; from Wikimedia Commons)
それで、先日この Knock on wood をやってくれたのは、ラトヴィア出身のロシア系の親友でした。
彼女は、こちらのエッセイサイトの記念すべき最初の登場人物。今から12年前の暮れにエッセイに登場してくれた、わたしの元同僚です。
1991年のソヴィエト連邦の崩壊をきっかけに、バルト三国のラトヴィア(Latvia)は共和国として独立。彼女はロシア系ということで生まれた国を追われ、彼女はアメリカへ、家族はイスラエルへとパスポートもなく亡命したという経歴を持ちます。
その彼女が、「あなたは今も健康で若々しいけれど、きっとずっと変わらないわよ」と言ったあとに、テーブルをコンコンと叩くんです。
さらには、唇を閉じて、チュチュチュっと音をたてます。
あら、それって英語の Knock on wood と同じね! と言うと、彼女は「これはロシアの習慣よ」と答えます。あんまり良いことを言い過ぎると、逆に悪いことが起きてしまうから、それを防ぐために木をコンコンと叩いて、唇でチュチュチュっとするの、とのこと。
調べてみると、これはドイツの言い伝えから広まったという説があるそうですが、今では、世界じゅうのいろんな国でコンコンと木を叩くようです。なんでも、ドイツでは、木を叩いて精霊を呼び起こし、木の精に身を守ってもらうために始まった習慣だとか。
親友は、わたしよりもちょっと年上なので、superstitious(縁起をかつぐ)ところがあって、以前もこんなことを言われたことがありました。
わたしが病気の話をしていて、「この辺が痛かったりするのよね」と体を触りながら説明したら、「ダメよ、自分の体を触りながら悪い話をしたら。もっと悪くなってしまうでしょ」と、叱られたんです。
それを聞いて、彼女におとなしく従いましたが、そのときにインドから来た友人が言っていたことを思い出したのでした。
彼の息子が喘息を持っていて、息苦しくなると、お母さんが気管のあたりに手を置いてあげると不思議と発作がおさまるんだ、と。
たしかに、日本語でも治療することを「手当て」と言いますが、人が手を触れると、魔法使いの杖を振ったみたいに威力があるんですよね。
今日の話題は Knock on wood(ノック・オン・ウッド)
木をコンコンと叩いて、悪いことを寄せ付けない!
そんな縁起かつぎの習慣でした。