English words
英語ひとくちメモ/流行り言葉
English Words 英語ひとくちメモ
2012年08月11日

Less is more(少ないのがたくさん?)

今日のお題は、とってもシンプルです。

Less is more.

A is B の基本形ですね。

そう、「AB である」

B」にあたる more は、「もっと多い」「もっとたくさんの」という意味の形容詞ですね。

たとえば、

More and more people are trying to lose weight.
 近頃は、ダイエットしようという人がどんどん増えている。

一方、主語になっている less は、普通は、形容詞として知られていますよね。

たとえば、less than ~ という形で「~より少ない」という意味。

You have less than three minutes to solve the mathematical problem.
 その数学の問題を解くのに、あと3分を切りましたよ。

でも、Less is more の文章では、less は「少ないこと」という意味の名詞となります。


それで、Less is more を和訳してみると、ヘンテコな文章になりませんか?

少ないことが、よりたくさんである。

なんだか哲学的なお言葉ですが、Less is more は、近頃、ちょいと流行っている表現なんです。

少ない方が、より充実している(心が満たされる)、みたいな意味でしょうか。

今まで、とくにアメリカでは、「物質文化(material culture)」と呼ばれてきたように、モノが優先してきたでしょう。モノをたくさん持つことは良いことだ、みたいに。

モノを持てば古くなる。古いものは捨てられる。ちょっと前まで新しかったものが、気がついたら、もうゴミの山に放り込まれている、といった日常。

そんな物質文明に警鐘を鳴らすように、すでに1960年代あたりから、モノにこだわらない人たちも出てきたわけですね。

モノをたくさん持つことは、決して幸福にはつながらない。

それが、Less is more の精神ともいえるでしょうか。


別の表現では、minimalism とも呼ばれています。

「ミニマリズム(最小限主義)」と訳される言葉ですが、たとえば、絵画や音楽の世界では、ごくシンプルな作品を指しますね。

簡単に言って、すっきり、くっきり。まるで清少納言の『枕草子』みたいに、少ない言葉(や音や楽器や色や形)でストレートに心を表現するもの。

そして、建築やインテリアの世界でも、身の回りをすっきりさせて、余計なものを置かない主義を指しますね。そう、ごくモダンな感じ。

日本の「禅(zen)」の精神にも通じるような、余計なものを排除して心を研ぎ澄まし、最小限度のもので自己を表現する、といった感じでしょうか。

ですから、minimalist(ミニマリスト)といえば、芸術家には限りません。たとえば、家の中にあまり物を置かないで、必要最小限のモノと暮らす人のことでもあるのですね。

She is a minimalist and doesn’t keep too many belongings.
 彼女はミニマリストだから、あんまり持ち物を持っていないんです。

この minimalist という言葉も、近頃、よく耳にする表現なんですよ。


それで、この Less is more を書こうと思いついたのは、オリンピック関連の報道で、ロンドンを紹介するひとコマを観たときでした。

ロンドンでお買い物といえば、Harrods(ハロッズ)。19世紀初頭にできた由緒正しいデパートで、豪華絢爛の売り場は、もう歩いているだけで楽しいとか。

けれども、そんなきらびやかな映像を観ながら「昨年イギリスを旅したときには、ハロッズは行かなかったなぁ」と、ふと気がついたのでした。

ロンドンの行動範囲からちょっと外れていたこともありますが、あまり頭の中に「お買い物」という考えが浮かばなかったからでした。それよりも、ウェストミンスター寺院やバッキンガム宮殿の衛兵の行進の方がおもしろそうかなと・・・。

そして、もしかすると、人は歳月とともに、だんだんと Less is more の精神になっていくものかもしれませんね。

ひととおり、いろんなモノを買ってみたし、もういいや! みたいな感じでしょうか。


でも、その反面、「買いたいモノがいつでも買える」幸福な生活を送っているからこそ、Less is more なんて悠長なことを言っていられるのかもしれません。

だって、もしも毎日お腹を空かせていたら、「もっと、もっと食べたい!」と思うでしょう。

わたしの祖母は、若い頃、上海で働いていたことがありました。

決して「たらふく食べられる」状態にはなかったようで、ある日、誰かにいただいたカステラを仲間たちと分け合って食べたとき、こう思ったそうです。

できることなら、このカステラにムシャムシャとかぶりついて、全部ひとりで食べてみたい!

祖母が存命の頃は、上海で働いていたことすら知りませんでしたが、母から聞き語りでこの話を聞いたとき、祖母のかの地での苦労を実感できたのでした。

そして、「嫁」である母にとっても、義母をより深く知るきっかけとなったエピソードなのかもしれません。

というわけで、Less is more

少ない方が、心が充実することもある。

なんだか哲学的な表現でもありますし、いろいろと哲学させられる文章でもあるのです。


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