Look but don’t see (視れども、見えず)
ちょっとご無沙汰しておりましたが、久しぶりに英語のお話をいたしましょう。
新聞を読んでいて、ハッとした文章がありました。
Drivers on cell phones look but don’t see.
訳しますと、「携帯電話を使いながら運転しているドライバーは、視ようとしても、見えていない」。
(cell phones は、携帯電話のことです。on cell phone というのは、「携帯電話を使っている」という意味ですね。)
中学校でも習いましたが、同じ「みる」にしても、look と see は違うのですね。前者は「注意深く視る」、そして、後者は「(単に)見る」。
(例文の look には、「表向きは注意深く視ようとしていても」という含蓄もあるようです。)
日本語にもある通り、「見る」と「視る」は違うのですね。
こんな中国の名言もあるくらいですから。「心ここにあらざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえどもその味を知らず。」
で、冒頭の文章。Drivers on cell phones look but don’t see.
この文章は、サンノゼ・マーキュリー新聞の「交通欄」に載っていたものですが、9月にシュワルツェネッガー州知事が署名した、新しい法律に関する話題でした。
2008年7月1日以降、カリフォルニアでは、車を運転しながら携帯電話で会話することを禁止とする。但し、ハンズフリー機能を使えば、これをよしとする。
日本やヨーロッパに遅れ、ようやくアメリカでもこのような法律が出来始めているのですが、やっぱり、運転中に携帯電話で話すと危ないですよね。
電話を取るとか、かけるという行為自体も危ないですが、注意力が欠けるというのも大きな問題ですね。
ユタ大学の研究によると、通話しながらブレーキをかけるタイミングは、通常よりも18パーセント遅くなり、これは、軽度の酒気帯び運転よりもひどかったとか(カリフォルニアでは、血中アルコール濃度0.08パーセント以上が、法的な酔っ払い運転となります)。
また、20歳の人が携帯電話で話しながら運転すると、その反応速度は、70歳の人くらい遅かったとか。
もともと人間の脳は、マルチプロセシング(並行処理)には長けていません。電話で話していると、注意散漫になり、視るべきものも、見えていない。
つまり、They look but don’t see.
ちなみに、新しい法律では、携帯電話のキーボードを使って短い会話ができる「テキストメッセージ」は、禁止とはならないそうです。そっちの方がよっぽど危ない気がしますが。
で、目で見る(視る)話題が出てきたところで、もうちょっと似たような表現のお話をいたしましょう。
目を使った表現には、turn a blind eye というのがあります。
「目をそむける」とか「無視する」というような意味です。文字通り、「見えない目を向ける」というところから来ているのですね。
こんな文章がありました。
Why do the police turn a blind eye to motorists who use mobile phones when driving? (出典:イギリスのYahoo! Answers)
訳して、「どうして警察は、運転しながら携帯電話を使うドライバーから目をそむけるの?」(携帯電話は、アメリカでは mobile phone とも cell phone とも呼ばれます。)
この turn a blind eye という表現は、結構、政治的なものにも使われます。たとえば、大統領は大きな問題から目をそむけている、といった話題に。
似たようなものに、耳を使った、fall on deaf ears というのがあります。
せっかくの意見や提案が無視されるという意味です。
たとえば、こんな風に使います。
Jennifer suggested that Harold should get a job, but of course her advice fell on deaf ears. (出典:The Free Dictionary)
訳して、「ジェニファーは、ハロルドに仕事を見つけるべきよと意見したのに、勿論彼女のアドバイスは無視されてしまった。」
これも、上記の turn a blind eye と同様、政治的な話題にもよく使われますね。行政側が、住民の意見をまったく聞いてくれなかったとか。
おもしろいことに、turn a blind eye の目は単数形なのに、fall on deaf ears の耳は、複数形で使われるみたいですね。
耳には、こういう表現もありますよ。
Let’s play by ear!
これは、「今細かく決め事をしないで、事の進展を見ながらやっていこうよ」みたいな意味です。
Play ~ by ear というのは、音楽の世界でいうと、「楽譜もなく、耳で聞いたものをそのまま弾いてみる」という意味ですが、これが転じて、「計画もなく、事の進展を見ながら、臨機応変に対処する」というような意味になったようですね。
この表現は、誰かさんとどこかに行く時、「出発する時間は、その場の雰囲気で決めようね」みたいな話にも使えますし、仕事のときなんかにも使えます。
新しいボスがどんな人だかわからないので、we should just play by ear.
一方、「目」を使ったことわざには、こんなものがあります。
Beauty is in the eye of the beholder.
Beauty とは「美」のことで、beholder とは「見る人」という意味です。
すなわち、「美は、見る者の目に宿る。」
つまり、美しいと思うのは、人それぞれという意味ですね。
だから、人間っておもしろいんです。