Octopi(オクトパイ)
表題にありますように、この octopi という言葉は、「オクトパイ」と発音します。最初の「オクト」の部分は、数字の8を表します。
いったい何かと申しますと、8本足のタコ octopus が複数形になると、octopi になるんだそうです。つまり、「オクトパス(もしくはオクトプス)」が2匹以上集まれば、「オクトパイ」となる。
いえ、わたしも知らなかったのですが、先日、テレビ番組『料理の鉄人』のアメリカ版である『Iron Chef America』を観ていたら、お題目がタコだったんですよ。すると、司会者が、「あ、タコの複数形は octopuses ではなくて、octopi だったね」とコメントする一幕があったので、なるほど、そうなのかと学んだのでした。
ふむふむ、アメリカ人のシェフもタコを料理できるのかぁと感心したと同時に、タコの複数形までお勉強したひとときなのでした。
そういえば、「直径」を表す radius という単語の複数形は radii ですから、それと同じような変化をするのでしょうね(発音は、「レイディアス」と「レイディアイ」となります)。
つまり、ラテン語から来た言葉で「~ us」で終わった名詞は、複数形は「~ i」となる。
ところが、調べてみると、テレビの司会者は必ずしも正しくはなかったんですよ!
たしかに、タコの複数形として octopi も使われるのですが、その他に octopuses(単に最後に es を付けたもの)と octopodes(pus の部分が podes と変化したもの)があって、一般的に octopi よりも octopuses の方が頻繁に使われるというのです。
しかも、octopi というのは、この単語がラテン語から来たであろうという間違った前提から生まれたものであると。
なんでも、octopus はギリシャ語由来の単語だそうで、ゆえにラテン語の「~ us」は「~ i」という規則は、本来は当てはまらないそうです。(でも、誰かがどこかで勘違いして、間違いが広まってしまった。だって響きもなんとなくカッコいいですものね。)
う~ん、それにしても、ラテン語だのギリシャ語だのとややこしい話ではありますが、英語の場合にはいろんな言語に由来する外来語が多いので、スペルが厄介だったり、複数形にするのが難しかったりするのですね。
そんな話を夕餉(ゆうげ)の食卓でしていて、試しに連れ合いに「スタジアム」の複数形は知っているかと尋ねてみたことがありました。
すると、「そんなの知らないよ。だって、大きなスタジアムが何個もあるような話をすることはないから、必要ないもん」と誇らしげに答えるのです。
なるほど、それもごもっともかもしれません。
でも、古くなったスタジアムの横に新しいスタジアムが造られた場合には、複数形だって必要になりますよね。ちょうど、こんな風に。
There are both old and new stadia right next to each other.
(古いスタジアムと新しいスタジアムが、すぐ隣同士にある。)
そう、stadium の複数形は、stadia となるのです(発音は、「ステイディアム」と「ステイディア」です)。
とは言うものの、今となっては、stadia なんて忘れて、単に最後に「s」を付ける stadiums でOKだそうですが・・・。
(きっとアメリカ人は、面倒くさい規則には付いていく気もないのでしょうね。)
こんな風に、今となっては、だんだんと簡略化されてきた複数形ですけれど、いまだに厄介なままの分野もあります。たとえば、医学分野。
医学用語なんて、いったいどこからやって来たの? と嘆いてしまうくらいに、ややこしい言葉が多いわけですが、もともとの単語がややこしい上に、複数形が不規則。しかも、そんなのが山のように出てくる。
そして、お勉強する側にとっては、いちいち面倒な言葉を覚えなければ一歩も先に進まないという、いやな「おまけ」まで付いていますね。
わたし自身は医学部ではないので、ごく一部を学ぶだけで済みましたけれども、それでも、いくつか強烈に印象に残っているものがありますね。
たとえば、背骨。
単数形は、vertebra(ヴァータブラ)。
複数形は、vertebrae(ヴァータブレィ)。
ひとつひとつの背骨は単数形でいいですけれど、脊椎のような集合体には複数形が必要になりますね。
似たようなところで、ほほ骨。
単数形は、maxilla(マクシラ)。
複数形は、maxillae(マクシレィ)。
片方のほほ骨は単数形でいいですけれど、ほほ骨は右と左の両方ありますよね。
いえ、表面からは見えませんけれど、下あごの骨には、神経が通る小さな穴があって、こちらの神経(mental nerve)が下あごと下くちびるを懸命に動かしているのです。かなり太い神経なので、穴だって結構大きいんですよ(あくまでも、他と比べてという意味ですが)。
というわけで、この穴の単数形は、mental foramen(メンタル・フォレイマン)。
そして、複数形は、mental foramina(メンタル・フォレイミナ)。
だいたいの人には右と左の二つあるのですが、う~ん、あなたはいったい何者?と、いつも穴に語りかけておりました。
(ちなみに、上の方で出てきた「直径」を表す radius という単語ですが、人間の体で言うと、ひじと手首の間の骨でもありますね。ここに二本ある骨のうち、手のひらを上に向けて外側にある骨のことです。すみません、蛇足でしたね。)
蛇足ついでに、スタジアムの複数形が出てきたところで、サンフランシスコ・ベイエリアのスタジアム事情をちょいとお話しておきましょうか。
現在、サンフランシスコ・ベイエリアのプロスポーツチームには、こんなものがあります。
野球のサンフランシスコGiants(ジャイアンツ)とオークランドAthletics(アスレチックス)通称A’s(エイズ)。アメリカンフットボールのサンフランシスコ49ers(フォーティーナイナーズ)とオークランドRaiders(レイダーズ)。それから、アイスホッケーのサンノゼSharks(シャークス)。
このうち、本拠地となるスタジアムが安定しているのは、野球のジャイアンツとホッケーのシャークスくらいなもので、あとは地元スタジアムの老朽化が問題となっていて、どこに移転するかと、けんけんがくがくの議論が起きているのです。
とくにサンフランシスコ49ersとオークランドA’sは、両チームとも南のシリコンバレーに移転する話が活発化していて、チームを失うことになる二都市は、「お願いだから行かないで~」と、あの手この手でつなぎ止めようとしています。
まあ、シリコンバレーの住人としては、スタジアムが近い方が嬉しいわけではありますが、試合があるたびに道路が渋滞するのはいやなので、なんとなく複雑な気持ちです。
というわけで、話が大きくそれてしまいましたが、今回は、英語の複数形は複雑だよというお話でした。