Pixie dust(魔法の粉)
<英語ひとくちメモ その170>
今日のお題は、pixie dust
ピクシー ダストと発音します。
ごく簡単な名詞ですね。
最初の pixie というのは、イギリスの民話に出てくる妖精のことです。
小さくて、陽気で、いたずら好きな妖精たち。ストーンヘンジのような、古い石造りの遺跡に好んで住んでいるとか。
遺跡には、隠れる場所がたくさん。あちらこちらにできたくぼみを覗くと、何かがチラリと動いた。それが、妖精の誕生に結びついたのかもしれませんね。
この小さな妖精たち pixies は、ケルト語が由来とも言われます。
ケルト人は、紀元前3世紀くらいにはヨーロッパじゅうに広がっていた人々ですので、イギリス、アイルランド、スコットランドなど、ケルトの影響を受けた文化や言語はたくさんあるようです。
それで、pixie dust というのは、妖精の粉、つまり、魔法の粉。「魔法をかける粉」という意味です。
パラパラッと振りかけると、相手に魔法がかかる、という夢のような粉のこと。
この言葉を有名したのは、ディズニー作品の『ピーター・パン』に出てくる、ティンカー・ベル(Tinker Bell)でしょうか。
彼女がパラパラッとすると、空を飛べるようになるという、金色に輝く粉(a golden, sparkling powder)。これが pixie dust と呼ばれて、有名になりました。
現実世界では、ウォルト・ディズニー・カンパニーの顧客サービスのモットーでもあるようです。お客様がクルーズ船やテーマパークを訪れ、パラパラッと金色の粉をかけてもらうと、ディズニー世界の特別感がいっそう増す。そんな魔法の効果をもたらすようです。
実は、俗語としては「覚醒作用のある麻薬」という意味もあるのです。
やはり pixie dust とは、「現実を超越した体験をする」という含みがあるんですね。
一方、pixie dust というと、なんとなくディズニー作品を思い浮かべるので、これを避けるために別の呼び方もあります。
それは、magic fairy dust
こちらは「魔法の妖精の粉」と、ごくストレートな言い方です。
先日、意外にも、この言葉を科学記事で見かけたのでした。
「魔法」と「科学」は相入れない関係だなと、とても印象に残ったのですが、こんな風に使われていました。
ちょっと難しいですが、引用してみましょう。
In marketing copy and start-up pitch decks, the term “AI” serves as magic fairy dust that will supercharge your business
マーケティングのキャッチコピーやスタートアップ会社の投資家向けプレゼン資料においては、「AI(artificial intelligence)」という言葉は、ビジネスをグイッと盛り立ててくれるであろう魔法の粉の役割を果たす
(Excerpted from “Theoretical AI harms are a distraction” by Alex Hanna and Emily M. Bender, Scientific American, February 2024, p69)
つまり、実益があるかどうか確実性はないものの、皆が魔法にかけられて、ウキウキと夢見てしまうような効果があるのが AI という言葉である、とおっしゃっているわけです。
流行りの AI を magic fairy dust と結びつけるところが、実に面白い文章になっていますよね。
この科学記事には、Magic 8 Ball という言葉も出てきました。
Magic 8 Ball とは、占いのおもちゃ。
ちょっと長いですが、その文章を引用いたしましょう。
These systems are the equivalent of enormous Magic 8 Balls that we can play with by framing the prompts we send them as questions and interpreting their output as answers
これらのシステム(チャットGPTのような生成AI)は、表示画面に我々がインプットしたものを質問とし、出てきたアプトプットを答えと解釈するように仕向けられた、巨大な「マジック8ボール」のおもちゃと等しいものである
(Excerpted from Hanna and Bender, p69)
この Magic 8 Ball というのは、ビリヤードの黒い8番ボールのような、おもちゃです。黒地に「8」と書いた8番ボールよりも、ちょっと大きめの球体。
こちらが何か質問をして、「8」の裏側を見ると、小さな窓に答えが出てくるという、占いの玩具です。(Photo of Magic 8 Ball from Wikimedia Commons)
答えは20種類あって、そのうち10種は肯定的、5種は否定的、残り5種はあいまいな答えとなっています。
Yes definitely(もちろんイエスです)や As I see it, yes(わたしが理解する限りイエスです)といった肯定的なものから、My reply is no(わたしの返事はノーです)といった否定的なもの、そして Better not tell you now(今はお教えしない方がいいでしょう)といったあいまいな答えまで、バリエーションを持たせています。
が、これはあくまでも、答えを信用などできない、お遊びの道具。
ですから、記事の著者たちは、生成AI の働きは Magic 8 Ball の仕掛けと同じであり、インテリジェンスもなく、背景を理解する能力もなく生成された、あいまいな文章から答えを導くように我々が仕向けられているのである、と述べているわけです。
この著者たちの意見に賛同するか否かは別として、斬新な、面白いたとえであることは確かですよね!
そして、pixie dust や magic fairy dust といえば、magic wand もあります。
この wand というのは、木の枝でできた短い杖(つえ)のこと。
時には動物の角で作ったものもあるそうですが、magic wand とは何かしら呪術的な力のこもった、特別なもの。
つまり、魔法使いがあやつる、魔法の杖ですね。
ハリーポッター作品にも、magic wand は頻繁に出てきますが、最初のうちは、うまく魔法の杖が使えなくって、自分の髪がチリチリに焦げてしまうなんて場面もありますよね。
魔法の杖は、使い手の持つ潜在能力を引き出して、杖の先端に集中させ、対象物に照射する、といった役目を果たすもの。
ですから、ハリーポッターの世界では、目的によっていろいろと種類があるし、熟練すれば、魔法の杖がなくても、相手に魔法をかけられるようになるとか。
この magic wand という言葉は、日常的な会話でも使うことがあります。
たとえば、こんな風に
If I could wave a magic wand, I would make him disappear
もしも魔法の杖が振れるなら(使えるなら)、彼をこの世から消し去るのに
ちょっと物騒な例ですが、「魔法の杖を使う」は wave a magic wand と言いますね。
日本語と同じで、「振る」という動詞を使います。
というわけで、今日は、魔法に関するお話でした。
たとえば、受験。そして、バレンタインデー。
2月は、ハラハラするイベントが多いです。
時には魔法を使ってみたくなりますが、そういうわけにも行かないのが人間社会。
悔いのないように、人はコツコツと生きるのが最善の手段なのかもしれません。