Reform(リフォーム?)
新年が明けると、すぐに日本に向かい、ひと月近くを過ごしました。
近年、日本の街々では、アルファベットの表示をたくさん見かけるようになりましたが、外国からの旅行者にとっては、とても心強いことだと思います。
なにせ、日本語は、アルファベットを使う言語とはまったく違いますので、たとえば「空の玄関」成田空港に降り立ち宿泊先に向かうとき、どこでどの交通機関に乗り込めばいいのかと、アルファベットの表示を手がかりに心細い第一歩を踏み出すことになります。
表示板のアルファベットは小さくて、日本語の下に添えられた簡潔なものではありますが、何も無いよりもどれだけ心強いことかと、今回「外国人の目」で眺めてみて実感したのでした。
そうなんです、成田空港から電車に乗って都内に着いたのはいいものの、東京駅の巨大な構内で漢字の渦に巻き込まれてパニックになった友人がいますので、アルファベットの表示は、しつこいくらいにやっておいた方が親切ではないかと思うのです。
来年には東京2020オリンピック・パラリンピックも控えていて、これから先、日本を訪問する方々が増えることを考えると、街角の表示でも、アルファベットを添えるくらいの心意気があってもいいのかもしれません。(冒頭の写真は、晴海(はるみ)埠頭近くに建築中のオリンピック選手村を臨みます。)
というわけで、いきなりお話がそれていますが、今日の話題は「リフォーム」。
当然ながら、英語の reform という動詞からきている外来語ですが、なんとなく、日本では使い方がヘンだぞ、というお話です。
そう、日本でリフォームという言葉を聞くと、まずは「おうちのリフォーム」を思い出すでしょう。
古くなった家を改造して、快適に住みましょう、という改築工事のことですね。
けれども、英語では、この意味の言葉には remodel(リモデル)という動詞を使います。
最初の re- という部分は、「再び」という意味の接頭詞。つまり、re-model は「再び(家を)かたどる」という言い方で、もう一度手を加えて住みやすい家に改築する、という意味になりますね。
アメリカの家は、外観は古いけれど、中身はピッカピカに新しいことが多いのですが、家は何十年も改築しながら住むものという概念がありますので、remodel 産業は盛んなのです。
アメリカでは、DIY(do it yourself、自分でやる)の概念も広まっていますが、こちらは、室内のペンキを塗るとか、シャワーヘッドを取り替えるとか、素人の自分たちでもできるような、こまごまとした内容を指します。
一方、remodel(リモデル)の方は、専門家を雇って設計図から作成し、改築工事やインテリアまでトータルコーディネトしてもらうような、プロのお仕事のイメージがあります。
ちなみに、remodel という言葉は動詞ですので、名詞形は remodeling になります。
Do you know somebody who can remodel our house?
わたしたちの家を改築してくれる人(会社)を誰か知ってる?
Do you have any good tips for bathroom remodeling?
バスルームをやり直すのに、何かいいアドバイスはある?
といった風に使います。
また、「おうちのリフォーム」は、home improvements と言うこともあります。こちらは、ずばり「おうちの改良」といった表現になりますね。
一般的に、英語で「家」というと house(ハウス)ですが、「おうち」とか「我が家」というニュアンスを含むときには、home(ホーム)を使います。
そして、日本では、リフォームという言葉はクリーニング屋さんで聞くこともあるでしょう。
たとえば、ズボンやスカートの丈を直してもらうとか、ジャケットを仕立て直してもらうとか、そんな「服のお直しサービス」を指しますね。
こちらは、英語では alteration(発音は「オルタレーション」)と言います。
この alteration は名詞ですが、動詞の alter(発音は「オルター」)は、「〜をちょっと変更する」とか「服を仕立て直す」といった意味になります。
全面的に変更するわけではなく、ちょっと手を加えて、心地よいものにするといったニュアンスがあります。
日本では、どうして「お直しサービス」のことをリフォームというのかは存じませんが、アメリカで仕立て直しをしてくれるお店を探すときは、alterations または clothing alterations という言葉で探してみてくださいね。
多くのクリーニング店では、「Alterations」という看板を掲げて、どなたか腕利きの「お針子さん」を雇っていらっしゃいます。
そんなわけで、日本ではリフォームという言葉は身近に感じますが、英語で reform というと、ひどくお堅いイメージがあるんです。
なぜなら、「国の制度を改革する」というような、大掛かりな構想を思い浮かべるから。
まあ、reform が必ずしも「改善」につながる保証はありませんが、少なくとも、今までのやり方を大幅に変更して、より良いものにしてみようじゃないか、という前向きな意思が働いていることは確かです。
そういう点では、家の remodeling も、服の alteration も、「良くしてみよう」という前向きな意思が働いていますので、まとめて「リフォーム」と呼ぼう! ということになったのでしょうか。
ところで、ついでではありますが、日本で目にする簡単な英単語で、ひどく気になることがあるのです。
それは、お店のドアにかけてある「Open」とか「Closed」の看板。
近頃は、だいぶ正しいものになりつつありますが、それでも営業時間外に「Closed」ではなく「Close」という看板を見かけることがあって、ちょっと不快な気分になるのです。
そう、open とか closed というのは、あくまでも形容詞です。
Open は「店が開いている状態」という形容詞であり、closed は、動詞 close から転じた「店が閉まっている状態」という意味の形容詞。
文章にすると We are open(営業中です)と We are closed(営業時間外です)となり、その略式の表示が open や closed の看板となります。
ですから、しつこいようですが、お店が閉まっていることを示したかったら、「Close」ではなく「Closed」を使うべきですよね。(「Close」の看板を見かけると、お店のドアを閉めなさいよ、と書いてあるような気がするのです。)
このように、動詞の語尾に 〜ed をつけるかどうかで、ずいぶんと意味が変わってしまうわけですが、そんな「〜ed をつけた形容詞」にまつわるエピソードがあるのです。
もう何年も前のお話ですが、よく新宿にある大きな本屋さんに行っていた時期がありました。
このビルの上の階には洋書コーナーがあって、棚に並んでいなくても、外国から洋書を取り寄せることも可能です。
ある日、メガネをかけた小柄なレディーが「こんな本はありますか?」と男性店員に尋ねていらっしゃいました。
どうやら生物学関連の書籍で、 endangered species (発音は「エンデインジャード・スピーシーズ」)という言葉がタイトルに含まれていました。
最初の endangered というのは、「〜を脅威にさらす、危険な目に合わす」という意味の動詞 endanger に 〜ed をつけた形容詞。次の species は、生物の種属という名詞(単数・複数同じく species)。
つまり、endangered species というのは、自然界で危ない状態にさらされた、絶滅があやぶまれる危惧種という意味ですね。
ところが、男性店員の答えがトンチンカンで、「あ〜、なるほど、endangered と過去形になっているので、すでに絶滅した種属という意味ですね」と、訳知り顔に答えるのです。
まあ、彼の理解が合っていようと、間違っていようと、きちんとタイトル通りに注文すれば正しい書籍が届くのですから、わたしが口を出すことはないと黙ってそばで聞いていました。
けれども、動詞に 〜ed がついたからって、形容詞ではなく、過去形だと勘違いすることもあるんだなと、大いに教訓となった出来事ではありました。
と、いつものことながら話題がそれてしまいましたが、今日のお話は、日本語のリフォームと英語の reform の違いでした。
日本でリフォームと言っているからって、英語で reform を使ってみると「え?」と聞き返されるかもしれませんので、要注意なのです。
こぼれ話: まったくの蛇足ですが、こんなものを見かけました。
近くのエクササイズジムで、シャワールームの改築をしたのですが、終わってみてびっくり! なんと、水の温度を調節するレバーが回せなくて、お湯(hot water)がまったく出なくなってしまったのでした。(下のレバーを左に回すと、お湯が出るはずなのに、上のレバーにひっかかってしまって回せない!)
こちらの写真は、昨年末に撮ったものですが、2月に入っても、まだ直っていないようです。う〜ん、部品を注文した方もうっかりしていますが、不具合があるとわかっている部品をそのまま取り付ける感覚も理解できませんよねぇ。(アメリカらしいエピソードかもしれませんが・・・)