San Fran(サンフラン)
アメリカ人って、何でも言葉を省略するのが好きなんですよね。
たとえば、広く知られるものに TV(ティーヴィー)があります。
テレビの Television(テレヴィジョン)をはしょったもので、今となっては TV としか言いません。
映画の『E.T.(イーティー)』も、the Extra-Terrestrial(エクストラ・テレストゥリアル)、つまり「地球外の生き物」という長い名称を省略したものですね。
舌をかみそうなので、E.T. 自身だって、自分のことを「イーティー、イーティー」と連呼していました。
そして、とくに長~い名前の都市だったりすると、省略したり、ニックネームをつけたりして、なるべく短く発音しようとするのです。
お題になっている San Fran(サンフラン)は、ご想像のとおりです。
北カリフォルニアで最も有名な観光都市、San Francisco(サンフランシスコ)のことですね。
San Fran に落ち着く前は、長いこと Frisco(フリスコゥ)というニックネームで呼ばれていました。
サンフランシスコの Francisco の部分を省略したものです。
が、これには、地元っこは猛反発。
なぜなら、Frisco に似た名前の Crisco(クリスコゥ)という料理油があって、「そんなクッキングオイルと一緒にしてくれるな!」と、地元っこは猛反発したのです。
もちろん Crisco は、料理油としては有名なブランドではあるのですが、とにかく、風光明媚な街がクッキングオイルと一緒にされるのが、我慢できなかったのでした。
まあ、今でこそ健康志向の料理油でも知られるようになりましたが、昔は、Crisco と言えば、こってりとした缶入りラード(lard:豚の脂からつくった食用油脂)の代名詞だったので、街に誇りを持つ地元住民の反発も、自然と強まるというわけです。
そんなこんなで、「そんなに地元が嫌がるなら」と、以前使われていたニックネーム Frisco は陰をひそめ、今ではだいたい San Fran という省略形が使われるようになりました。
でも、地元っこはやっぱり、San Francisco と(美しい響きの)フルネームで呼ばれたいのです。
それで、都市の名前の省略形と言えば、L.A.(エルエィ)というのが有名ですよね。
ご説明するまでもなく、南カリフォルニア Los Angeles(ロスアンジェルス)の愛称です。
以前、ちょっとだけご紹介したこともありますが、1781年、スペイン領メキシコから入植者11家族44人が移り住んだのが、街の起こり。
カリフォルニアではサンノゼ(San Jose)に次いで2番目に古い街ですが、それまでは先住民族が住んでいたところに、だんだんとメキシコから人が流入するようになったのです。
その頃は、El Pueblo Sobre el Rio de Nuestra Señora la Reina de Los Angeles de Porciúncula(天使たちの女王である、われらが聖母のポルシウンクラ川の上にある村)というのが、正式な街の名でした。
が、あまりに長いので、いつの頃からか Los Angeles(天使たち)と呼ばれるようになったのでした。
ついでに、ポルシウンクラ川は、ロスアンジェルス川となっています。
(写真は、歴史的建造物サンミゲルのミッション)
ま、Los Angeles もわりと長いですが、カリフォルニアには、もっと長い名前がたくさんあるんです。
ふと思い浮かべたのは、San Juan Bautista(サンホワンバウティスタ)。
海沿いの観光地モントレーやカーメル(Monterey、Carmel)から内陸に行ったところで、18世紀末の「カリフォルニアのスペイン化」政策の上で、重要なミッション(カトリック教会)が置かれた古い街です。
同じく、ミッションが置かれた街の名としては、こんなものもありますね。
San Luis Obispo(サンルイスオビスポゥ)
カリフォルニア州の真ん中から、ちょっと南に下った海近くの街。
今では、州立カリフォルニア工科大学 California Polytechnic State University, San Luis Obispo で有名な、活気のある学生街です。
大学の名前も長いので、通称 Cal Poly(キャルポリィ)と呼ばれます。
そして、もっと長い街の名と言えば、こちら。
Rancho Santa Margarita(ランチョサンタマルガリータ)
ロスアンジェルスの近く、ディズニーランドのあるオレンジ郡(Orange County)にある住宅街です。
(Photo by D Ramey Logan, from Wikimedia Commons)
州財務局の「市のリスト」を眺めてみると、どうやら、カリフォルニアでは一番長い都市名のようです。
Rancho Santa Margarita は、もとは裕福な郊外のコミュニティーだったところが、人口増加に伴い、2000年1月に「市」に昇格されたんだとか。
それまでは、ロスアンジェルス郡の La Cañada Flintridge(ラカニャーダフリントリッジ)が「長い都市名一等賞」だったのに、ちゃっかりと抜かれてしまったようです。
La Cañada Flintridge が18文字のところ、Rancho Santa Margarita は2文字多い、20文字!
ちなみに、北カリフォルニアと南カリフォルニアを比べてみると、北は、短い名前がほとんど。最長は、South San Francisco(サウスサンフランシスコ)の17文字です。
う~ん、それにしても、サンフランシスコが San Fran なら、
Rancho Santa Margarita や
La Cañada Flintridge は、
いったい、どんな風に呼ばれているのでしょうか?
追記: 街のニックネームには、San Fran みたいな名前の省略形と、街の特徴を表す別称がありますね。
たとえば、サンフランシスコの場合には、こちらのふたつが有名でしょうか。
ひとつは、湾に突き出た街なので、The City by the Bay(シティー・バイ・ザ・ベイ:湾沿いの街)。
もうひとつは、霧が多いので、ずばり Fog City(フォグ・シティー:霧の街)。
カナダに近いワシントン州シアトルは「エメラルドシティー」、カリフォルニアの海沿いには「サーフシティー」がありますが、以前、そんなお話をしたことがありました。