Sayonara (さよなら)
先日、連れ合いが、ギリシャの首都アテネに出張しました。なんでも、全世界から社員を呼んで、大きな会議があったそうです。
まあ、つまらない会議もさることながら、会議の合間に出されるホテルの食事も、ギリシャとは思えないほどおいしくなかったそうで、明らかに不満材料のひとつとなったのでした。
そこで、ある日、ひとりでふらりと昼ごはんを食べに出かけました。
エッセイやフォトギャラリーでご紹介しているように、ギリシャは、つい一年前にふたりで旅行したばかりでした。だから、方向感覚の鋭い連れ合いは、アテネの街中を、地図も見ずにスイスイと歩けたそうです。
行き着いた先は、アテネのプラカ地区。下町の雰囲気が立ち込めるレストラン街です。小さな通りには所狭しとレストランやカフェが並び、観光客を目当てに、おじさんたちが賑やかに客引きをします。
ちょっと疲れた連れ合いは、裏通りまで行き、誰もいない静かな屋外の席に腰掛け、青い空と新鮮な空気を楽しんでいました。
ほんの片とき会議を離れ、平和な時間が流れます。
すると、そこに、お昼休みの中学生の男の子の集団が現れ、お店の窓口で、サンドイッチなんかを買い始めます。ペチャクチャ、ペチャクチャ、かしましい集団です。
そして、連れ合いを見つけた男の子のひとりが、いきなり、こう言ったそうです。
「Sayonara(さよなら)!」
え、日本語であいさつしてくれるのはいいけれど、いきなり、さよならはないでしょ!と思った連れ合いは、「さよならは別れのあいさつだから、こんにちはって言いなさい」と、親切に教えてあげたそうです。
あちらは、なかなか「こんにちは」の方は覚えてくれなかったそうですが、その場はなんとか会得して、さよならして行ったそうです。
それにしても、ギリシャ人の男の子が、「さよなら」を知っていたなんて!
所変わって、アメリカでも、一番知られている日本語といえば、やっぱり「さよなら」かもしれませんね。
なぜか、米語では、「おさらばする」という表現のときに、よく外国語を使います。
たとえば、スペイン語の「アディオス(Adiós)」も代表的なものですが、最近では、日本語の「さよなら」も負けずにたくさん使われていますね。
(「さよなら」は、どちらかと言うと、「さよな〜ら」みたいに、「な」にアクセントがあります。)
残念ながら、「こんにちは」の方は、まだまだ広まっていないですね。発音が、難し過ぎるのでしょうか。
「さよなら」みたいな慣用句に加え、「スシ(寿司)」、「ヤキトリ(焼き鳥)」、「スキヤキ(すき焼き)」といった食べ物の固有名詞も、もう立派に英語になっていますね。
「スキヤキ(sukiyaki)」は、レストランのメニューでもありますが、かの有名な、坂本九の名曲「上を向いて歩こう」も、「Sukiyaki」と呼ばれているのです。
一説によると、この歌を売り出したイギリスのレコード会社の社長が、すき焼きが好物だったからだそうですが、多分、この歌が流行った頃は、日本のもので知られているのは、すき焼きくらいしかなかったのでしょうね。
先日、こんなワンちゃんも見かけました。「スシ(Sushi)」という名前の秋田犬です。動物愛護協会が里親を探していて、新聞に広告を載せていたのです。
「わたしは、3歳のメスの秋田犬です。体も大きいけれど、心も負けないくらいに大きいです。新しい家族と一緒に、暖炉の前でぬくぬくと丸まりたいです」と書いてあります。
それにしても、今どき、車、電化製品、アニメ作品と、日本のもので知られているのはいくらでもあるのに、どうしてよりによって、「スシ」という名前にするのでしょうか。
まあ、いろんな文化にまつわる言葉の中でも、やっぱり、食べ物の名前は外国に伝わり易いですよね(ロシア語のピロシュキだって、誰でも知ってますよね)。
たとえば、大根。これは、英語では、daikon とか、daikon radish とか呼ばれています。大根は、小ぶりなハツカダイコン(radish)の仲間とされているのですね。
同じように、椎茸は、shiitake とか、shiitake mushroom とか呼ばれています。たしかに、椎茸は、マッシュルームの仲間ではありますよね。
(発音はかなり違っていて、「タ」にアクセントのある「シータキ」とか、意表を付く「シーラキー」とか呼ばれます。日本が世界に誇るカラオケだって、「キャリオーキー」になってしまいますものね。)
以前、南部のノースキャロライナ州に住んでいたお友達が、スーパーでこんなことを経験したそうです。
大根を手に取っていると、店員さんが、「この野菜、何ていうか知ってる?」と聞いてくるのです。
日本語では大根だけど、英語ではいったい何て言うんだろうと、お友達が口ごもっていると、この店員さん、誇らしげにこう言い放ったのです。
「これはね、ダイコンっていう名前なのよ。覚えといてね。」
いやあ、西海岸ならいざ知らず、ノースキャロライナのスーパーに大根があるなんて、驚きですよね。(こんな風に、野菜スティックにでも使うのでしょうか?)
そういえば、我が家の近くのスーパーでは、オーガニックの水菜(mizuna)が手に入ります。うちのはねぇ、有機栽培なんだよと、自慢されたことがあります。
(水菜は、「ズ」にアクセントの付いた「ミズーナー」と発音します。)
一度、水菜を吟味していると、「なんだ、スープを作りたいんだね」と、店員さんに声を掛けられました。
どうも、日系人の店員さんのようでしたが、水菜をスープにするのでしょうか?普通、水菜は生で食べませんか?水菜とカリカリに炒めたシラスを和風ドレッシングで合え、温泉卵をとろりとかけると、おいしいですよね!
ところで、昨日、お買い物の帰りに、ラジオでこんなことを耳にしました。
明日は、海沿いに霧も出てくるので、気温は a little sukoshi cooler なのよ。
そう、ちょっと涼しくなるよという意味ですが、この sukoshi (少し)というのも、立派な英語のようですね。
南部ヴァージニア州出身のわたしの元上司が、以前、こんなことを言ってました。
自分がティーンエイジャーの頃、ジーンズの宣伝で、sukoshi bit と言っていたので、sukoshi というのは、「少し」という意味の英語だと思っていたと。
言葉って、ほんとに不思議ですよね。何が外国に伝わるのか、まったくわからないです。