Slipped my mind(うっかり忘れちゃった)
<英語ひとくちメモ その172>
世の中は、ゴールデンウィークとなりました。
今が一番いい季節だと思いますが、福岡は黄砂なのか、すっきりと晴れない日々。
それでも、春は着実に進んでいて、田んぼでは「田起こし」が始まっています。
こちらは、福岡市を東へ、内陸部にある田川郡福智町(ふくちまち)の様子。
田起こしは、田んぼの土をトラクターで掘り起こして、土を乾燥させること。前年の稲の切り株を混ぜ込み、田んぼの栄養とする意味もあります。
いよいよ初夏の田植えに備える、稲作の大事なプロセスなのです。
というわけで、今日のお題は、こちら。
It slipped my mind
主語はごく簡単に It(それ)というわけで、何にでも置き換えられますね。
動詞の slipped は、「滑る」という動詞 slip の過去形です。
そう、普通「滑る」という意味で使われると、自動詞となります。
I slipped on the bathroom floor
浴室の床で滑ってしまいました
という風に使います。
ときに slip は他動詞となり、「〜から逃げる、〜をすり抜ける」といった意味になります。
この他動詞の slip を使ったのが、今日のお題です。
It slipped my mind
(それは)わたしの心(記憶)をすり抜けてしまった
つまり、「うっかりと(そのことを)忘れてしまった」という意味になりますね。
His name slipped my mind
彼の名前をうっかりと忘れてしまいました
「彼の名前を忘れるわけはないんだけど、ちょっと思い出せないなぁ」といった感じでしょうか。
「彼がわたしの名前を忘れた」という場合は、こうなります。
My name slipped his mind
そう、「わたしの名前が彼の心をすり抜けた」という言い方をしますね。
この「うっかり忘れる」という慣用句はよく耳にしますので、slip my (his) mind という形で覚えておくと便利です。
それで、slip という動詞が形容詞になると、slippery ですね。
I fell on the slippery bathroom floor
浴室の滑りやすい床で転んでしまった
カタカナで slippery を表すと「スリッパリー」といった感じですが、日本では「スリッピー」と表現する方も多いです。
わたし自身は、アメリカで slippy という形容詞を聞いた記憶がないのですが、調べてみると、「滑りやすい」という意味の会話調の形容詞として存在するようですね。
う〜ん、どこかの方言だったものが、言いやすいからと市民権を得たものなのかもしれません・・・。
ここで、今日のお題 It slipped my mind に戻りましょう。
こちらは「うっかりと忘れてしまった」という意味でしたが、「ボヤッとしていて、記憶が定かではない」というときは、こんな言い方があります。
It is just a blur to me
このように blur という名詞を使います(発音は「ブラー」です)。
この blur とは、「はっきりと覚えていないこと」とか「はっきりと理解できないこと」という意味です。
ですから、It’s just a blur to me とは、「わたしにとっては、(そのことは)もうほとんど記憶に残っておりません」という意味になります。
It all happened long time ago, and it’s just a blur to me
すべて昔に起こったことですので、ほとんど記憶のかなたとなっています
こちらの名詞 blur は、文字どおり「何かがぼんやりとしていること」にも使えます。
Everything is a blur to me when I don’t wear my glasses
メガネをかけていないときには、世界がすべてぼやけて見えます
視力の悪い人は、メガネがないとベッドから出るのも躊躇してしまう、といった感じですね。
It was so foggy that the balcony view was just a blur
霧のせいで、バルコニーからの眺めはすっかりぼやけていました
3月下旬、こんなに霧の深い日があり、真下にあるビルだって、すべてがぼやけて白っぽく見えたのでした。
この blur は動詞でもありまして、「〜をぼんやりとさせる」とか「区別をなくす」という意味にもなります。
たとえば、こんな風に使います。
His works of pencil drawing blur the boundary between drawing and photography
彼の鉛筆画の作品群は、絵と写真の境界をなくしてしまうほどです
「境界をぼんやりさせる」ということは、「区別がつかなくなるほど」ということで、それほど彼の作品には写真のようなリアリティがあるというわけですね。
というわけで、今日のお題は、It slipped my mind
こちらは、4月初め、カリフォルニア州サンノゼ市にいる親友に送ったメールに登場した言葉です。
彼女は、敬虔なカトリック教徒。ですから、毎年イースター(Easter、復活祭)の頃には、Happy Easter! とごあいさつを送るのです。
が、今年はうっかりしていて、復活祭が終わったときに Happy belated Easter! とメールしました(belated とは、Happy belated birthday! などと、事後に「おめでとう」を言うときに使います。発音は「ビレイティッド」)。
復活祭の日曜日というと、3月下旬から4月中旬と、日付は毎年変わります。今年は3月31日だったんですが、忙しく過ごしていて、ついうっかり。
It slipped my mind
「いつもならわかっているんだけれど、ついうっかりしてしまいました」といったニュアンスもあるので、彼女への言い訳に使わせていただいたのでした。
悪気はないから、許してねと、ゴメンのニュアンスもあるでしょうか。
「わたしの心をすり抜けた」とは、なかなか面白い、英語的な表現です。ぜひ覚えておいてくださいね。