Social distancing(ソーシャルディスタンス)
<英語ひとくちメモ その142>
この新型コロナウイルスのご時世、今は誰でも知っている表現でしょうか。「一歩外に出たら、人との距離を空けて行動する」という意味ですね。
ソーシャルは「社会的な」、ディスタンスは「距離」を表します。
こちらの看板のように、「Stay 6 feet apart(互いに6フィート(約1.8メートル)は離れてください)」と街角でも徹底されています。
けれども、このソーシャルディスタンスは、英語ではこう言います。
Social distancing(ソーシャルディスタンシング)
実は、英語で social distance というと、ちょっとニュアンスが異なります。
たとえば「社会的な隔たり」というような、概念的な表現と言いましょうか。
ですから、物理的に人との距離、間隔を空ける、といった場合には distance を動詞として使います。
そう、distance は「距離」という名詞でもあり、動詞でもある言葉。他動詞として使う distance は、「(人)を引き離す」という意味。
ソーシャルディスタンスの場合は、「自分を(他の人から)引き離す」といった意味合いになります。
この動詞 distance に 〜ing が付いて、名詞形 distancing となり、頭に形容詞 social(社会的な)が付いて、social distancing 。
「一歩外に出たら、自分を他の人から遠ざけること」といった表現になっています。
ちなみに、こちらの張り紙は、マンションのエレベーターに乗るときの注意事項。
「エレベーターに乗るときにはソーシャルディスタンスのルール(Social Distancing requirements)に則って、一台につき一家族のみが乗り、他に誰かが乗っていたら、次のエレベーターを待つように」と書かれています。
それで、どうしてこんなに面倒くさい話をしているのかというと、カリフォルニア州知事のテレビ生中継を観ていて、あれ? と思ったことがあったから。
新型コロナに関してギャヴィン・ニューサム知事が説明される横で、いくつかの注意点が箇条書きで出ています。が、その真ん中にこんな文字が・・・
Physically distance
え、これって文法の間違いでは?! と最初は思ってしまいました。
だって、physically は「物理的に」という意味の副詞なので、動詞にくっつくもの。だとすると、この distance は動詞ってこと?
なるほど、本来は Physically distance の後ろには Physically distance yourself from other people と続く言葉があったのに、それを省略しているのだろう
と、気がついたのでした。
そう考えてみれば、social distancing の distancing だって、〜ing がついているから、もともとは動詞だったわけです。
なぁんだ、だから social distancing なんだぁ、と初めて考えるきっかけになったのでした。
もちろん、social distance(ソーシャルディスタンス)と言っても、文法的には間違いではないと思います。
けれども、「自分自身を人から遠ざける、距離を置く」と責任ある行為を強調したいから、あえて動詞の distance を使って social distancing と言っているのだと思います。
というわけで、distance という言葉は、ちょっと厄介な表現ではありますが、こちらもちょっとトリッキーな言い方かもしれません。
Distance learning
ディスタンスラーニングというわけですが、日本語では「遠隔学習」でしょうか。
先生と生徒が同じ教室で勉強するのではなく、お互いが離れた状態で学習すること。つまり、オンライン学習ですね。
この言葉は、かなり以前から使われていたようで、distant という形容詞ではなく、distance という名詞を使って distance learning と言います。
「距離」を隔てた学習ということで、distance という名詞形を使っているのでしょうか。
ディスタンスラーニングは、「リモート(遠隔)」に学習するところから、remote learning とも呼ばれます。
教科書を使った学習ではなく、パソコンなどの「デジタル」機器を利用することから、digital learning とも呼ばれます。
また、先生と顔を合わせることなく「仮想的に」学習することから、virtual learning とも呼ばれるようです。
今は、各家庭にもパソコンや高速インターネットが普及しているので、家にいる生徒に向かって先生が遠くから授業をすることが可能です。生徒たちもお互いの顔が画面に出てきて、表情が読み取れたりするので、遠い場所にいても親近感がわきます。
夏休みのあと、どうやって学校を再開する(reopening school)か? と全米で大問題になっています。
が、少なくともカリフォルニア州の場合は、学区のある郡が「州のコロナ警戒リスト」に入っていると、教室を再開することはできないので、ディスタンスラーニングを選択するしかありません。
サンフランシスコ近郊の学区では、8月10日、対岸のオークランド市でいち早く新学年(new school year)が始まりましたが、少なくとも数週間はディスタンスラーニングで学習することが決まっています。
けれども、オークランド市の学区には、パソコンやインターネットのない家庭も多いので、最初のうちは各家庭に装置を配布するなど、ディスタンスラーニングの体制を整えることにおおわらわです。
また、両親とも外で働く家庭が多いので、両親が家で仕事ができる(telecommute)家庭と比べて、子供たちの勉強をみてあげることも難しいです。
そう、このようなウイルス感染拡大の状況下では、ディスタンスラーニングは唯一の選択肢となります。が、いざ実行しようとすると、「デジタル格差(digital divide)」や家庭の状況、また学校のデジタル教育への対応能力と、さまざまな問題が浮き彫りになってきます。
また、子供によっては、顔を合わせた学習の方が効果の上がる場合もあるし、自宅ではすぐに注意散漫になる(get distracted)生徒もいるでしょう。
感染に対処するために今までとは違ったやり方を編み出そうと、各地の教育現場では手探りの状態が続いているようです。
そんなわけで、「ソーシャルディスタンシング」に「ディスタンスラーニング」。
この時代に不可欠なのは、ビデオ会議システム。お仕事にも、仮想里帰りにも、ディスタンスラーニングにも、顔を合わせずに人と触れ合う機会が増えています。
今までは誰も知らなかった Zoom(ズーム、人気のビデオ会議ツール)といった言葉も、今年の流行語となるのでしょう。
そして、こちらもコロナ禍での流行語でしょうか。
Stay safe and healthy!
身の回りに気をつけて、健康にお過ごしください!