今月の注目レース: 大統領候補とサンフランシスコ49ers

2012年1月18日

Vol. 150

今月の注目レース: 大統領候補とサンフランシスコ49ers



 新しい年を迎えた今月は、政治とスポーツのお話をいたしましょう。


<日替わりメニュー>
 わたしの大好きな漫画に、阿倍夜郎氏が描く『深夜食堂』というのがあります。

 ちょっとコワそうなオヤジがやっている深夜営業の食堂で、ここには、メニューなんて無粋なものはありません。食べたいなと思ったものを「マスター、つくってよ」とオーダーするシステムです。

 メニューのない食堂ほど、難しいものはないと思うのですが、そんなお客のわがままにも見事に対応してくれる、あっぱれなオヤジさんなのです。

 と、いきなり話がそれてしまいましたが、今日の話題は「日替わりメニュー」。いえ、食堂の話ではなくて、アメリカの政治のお話です。
 

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 ご存じのように、今年2012年は、4年ごとにめぐってくる大統領選挙の年です。

 現職のオバマ大統領は、再選(憲法で定められた最長の2期目)がかかっているので、民主党候補は、自動的にオバマ大統領となります。

 けれども、対する共和党の候補者選びが大変なのです。

 まあ、4年ごとに、どちらかの政党がやっている大騒ぎではありますが、今年の共和党は、とくに波瀾万丈。今のところ、誰が候補となるのかはわかりません。

 そう、まるで気の利かない定食屋のランチみたいに、代わり映えのしないメニュー(候補者)が日替わりで登場しているのです。いえ、ほんとに「日替わり」って感じなんですよ。
 

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 最初は、男性9人に女性ひとりの、10人が名乗りを上げたところから始まりました。

 間もなく、ふたりが脱落し、8人となります。

 この中でも、元マサチューセッツ州知事で、前回の大統領候補者選びにも出馬したミット・ロムニー氏が、一番の実力者と目されていました。が、共和党支持者だって、一枚岩ではありません。
 

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 中部・南部の福音主義キリスト教徒(Evangelicals)を中心に、「ロムニーは、純粋な保守派じゃない!」との批判が沸き起こり、ロムニー氏の引きずり下ろし作戦が活発化するのです。

 なんでも、州知事時代にロムニー氏が制定した医療保険制度が、民主党寄りの「全員参加型」だったこと、同性結婚や女性の生殖の権利を支持したこと、そして、ロムニー氏が普通のプロテスタントではなく、モルモン教徒(正式には末日聖徒イエス・キリスト教会の信者)であることが災いの一因となっているとか。

 ここで、ロムニー氏の対抗馬として最初に祭り上げられたのが、現テキサス州知事のリック・ペリー氏。

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 テキサス州知事としては、ブッシュ前大統領の後継者でもあり、保守派の信頼も厚い方なのでしょう。彼の好感度と支持率はグイグイと上がっていくのです。

 ところが、ここで問題が発生します。11月上旬、テレビで生中継された候補者討論会の場で、彼が国政の「ド素人」であることが露見するのです。

 「僕が大統領になったならば、すぐに3つの省庁をぶっつぶすよ。まず、商務省でしょ、教育省でしょ、それから・・・」

 53秒の沈黙ののち、結局、ペリー氏は3つ目(エネルギー省)を思い出せずに、同時に彼の支持率も失墜していったのでした。(みんながネットでつながる今の時代、ほんとにリアルタイムで失墜したのでした。)
 

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 次にロムニー氏の対抗馬となったのが、ハーマン・ケイン氏。
 この方は、もともとはハンバーガーやピザ屋のチェーンを経営するビジネスマンで、その後は、全米レストラン協会の会長を務めるかたわら、政治の世界にも足をつっこむのです。

 昨年、大統領候補として名乗りを上げ、自身の減税政策を派手に打ち上げた頃から、グイグイと注目度が上がっていくのです。

 テキサスの「リック・ペリー号」が失墜した今、頼みの綱は、ケイン氏。

 ところが、ここで問題が発生します。どうやら、ケイン氏は相当の女性好きだったらしく、「わたしは、彼がレストラン協会長のときにセクハラされたわ!」という訴えが、次々と各地で沸き起こるのです。

 おまけに、「わたしは13年間、彼の愛人をやっていたわ」という女性まで現れ、万事休す。12月に入って、ケイン氏は、やむなく選挙戦の停止(事実上の脱落)を宣言するのです。

 これは大変! 年が明けたら、最初の共和党の党員集会(caucus)がアイオワ州で開かれます。それまでには、ロムニー氏の新しい対抗馬を見つけなければ!
 

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 ここで脚光を浴びたのが、元連邦下院議長のニュート・ギングリッチ氏。
 この方は、1994年、それまで40年間も民主党が握っていた下院を共和党に握らせた実力者です。

 けれども、かなりの強硬派としても知られ、当時のクリントン大統領とのかけひきや共和党の人気下落が災いして、政治の世界からは身を引き、近年は、保守系メディアでコメンテーターやコラムニストとして活躍していました。
 ヨーロッパ近代史の博士号を取っていることもあって、なかなか弁が立つご仁なのです。

 ところが、どうしたことか、クリスマスの頃になると「ギングリッチ熱」も冷め、共和党支持者の視線は、べつの候補者に注がれるのです。
 

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 今度は、ペンシルヴェニア選出の元連邦上院議員、リック・サントラム氏。

 どうやら、その背景には、「強硬で、無党派層に人気のないギングリッチ氏では、オバマ大統領を負かすことはできない」というコンセンサスがあったようです。

 それに、サントラム氏だって、十分に保守を貫くタカ派の政治家として知られるので、「こっちの方がいいや!」と多くの人が思ったのでしょう。

 というわけで、1月3日、アイオワ州で開かれた最初の党員集会では、わずか8票差でサントラム氏を抑えたロムニー氏が、首位の座を奪います。

 そして、翌週開かれたニューハンプシャー州の予備選挙(primary)では、ロムニー氏が楽々トップの座に就くのです。

 が、彼にとっては、これからが正念場。なぜなら、舞台は、南部のサウスキャロライナとフロリダに移るからです。北東部のマサチューセッツの政治家は、南部では知名度は低いのです。

 ここでは、ジョージアのギングリッチ氏が盛り返すかもしれないし、テキサスのペリー氏だって、息を吹き返すかもしれません。福音主義者を中心に、サントラム氏が支持を上げているという話も耳にします。

 興味深いことに、1980年以降、サウスキャロライナの覇者が、共和党大統領候補となっているそうです。

 そんなジンクスが通るのか、今月の予備選挙は注目すべきレースとなることでしょう(サウスキャロライナの予備選挙は1月21日、フロリダは31日となっています)。
 

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 そうそう、残念なことに、アイオワ州の党員集会のあと、唯一の女性候補は姿を消してしまいました。
 紅一点は、ミネソタ州選出の連邦下院議員ミシェル・バックマン氏でしたが、アイオワ州での成績が芳しくなかったので、早々と脱落を宣言したのでした。

 まあ、バックマン氏に限って言えば「力不足」の感は否めませんが、まだまだ女性が大統領候補となるのは、難しい時代なのでしょうか。

 今からこんなことを言うと鬼が笑いますが、4年後の2016年には、もう一度ヒラリーさん(クリントン国務長官)に名乗りを上げて欲しいところなのです。



<がんばれ、フォーティーナイナーズ!!>

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 わ~い、サンフランシスコ・フォーティーナイナーズ(49ers)が、プレーオフで勝ちました!

 あと一勝すれば、2月5日のスーパーボウルに出られるんです!!

 というわけで、アメリカンフットボールに興味のない方には申し訳ないことではありますが、「三度のメシよりもフットボールが好き」なわたしとしましては、49ersの話抜きには、一月号をしめくくるわけにはいきません。

 いえ、フットボールというスポーツは、実に摩訶不思議なスポーツでして、生まれて初めてフットボールを見たときの衝撃を、今でも忘れることができません。
 あれは、京都大学と関西学院大学の試合だったと記憶しますが、テレビで初めてフットボールなるものを見たとき、雷に打たれたような衝撃を受けたのです。

 しまった、世の中には、こんなにスゴいスポーツがあったのか! と。

 もちろん、「自分でやろう!」などと無茶な判断はしませんでしたが、1980年、サンフランシスコに住み始めて以来、「自分のチームは49ers」と心に深く刻んでいます。

 翌1981年のシーズンは、49ersファンにとって未来永劫忘れられないシーズンとなっていて、名将ビル・ウォルシュ監督(故人)のもと、3年目の若いクォーターバック(QB)ジョー・モンタナが、見事に花開き、伝説的なキャリアを築く先駆けとなったのでした。
 それ以来、49ersは、5回もスーパーボウルの覇者となり、良きライバル、ダラス・カウボーイズとともに「王朝時代」を築いていくのです。

 ところが、いつかは、勢いは失速するもの。ジョー・モンタナ、スティーヴ・ヤングと、のちに殿堂入りを果たす名QBが続いたあと、NFLの記録を塗り替えたジェリー・ライス(ワイドレシーバー)といった名選手も失い、なかなか勝てなくなってしまうのです。
 最後にスーパーボウルに勝ったのは、1994年のシーズン。そして、2003年のシーズン以降、プレーオフにすら、姿を現さなくなったのでした。

 そして、今シーズン。どこかが違う49ers。

 久しぶりにプレーオフに出場した49ersは、大方の予想をくつがえし、お相手のニューオーリンズ・セインツを破ってくれたのでした。
 

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 まあ、最初は余裕で勝てるかという試合展開でしたが、そこは、プレーオフ。両者の力が拮抗(きっこう)する中、最後の4分で、相手にまんまと逆転されてしまうのです。

 最後の2分で逆転し返し、残り30秒でまた相手に逆転されるという緊迫の中、残り9秒で、アレックス・スミス(QB)が投げたボールをヴァーノン・デイヴィス(タイトエンド)が受け取り、タッチダウン(写真)を決めてくれたのでした。

 もちろん、一番の殊勲賞は、ヴァーノン・デイヴィス。敵を背中で防ぎながら、エンドゾーンぎりぎりでボールを受け取るプレーは、3日前に導入した新作戦。
 

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 首尾よくプレーが運び、逆転勝利を達成した彼は、感極まって、泣きべそをかきながら、監督のもとへと戻って来るのです。
 そう、大の男が、NFLのタフガイが、ボロボロと涙を流しながらサイドラインに戻って来るのです!

 そんな彼を、両腕を大きく広げ、暖かく迎えたのは、ジム・ハーボー監督。
 

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 今シーズンから49ersの新監督となった方で、今まで鳴かず飛ばずのチームを、シーズン成績13勝3敗のチームに育て上げた実力者です。

 49ersに来る前は、スタンフォード大学の監督をなさっていて、やはり、低迷するチームを強豪に育て上げた実績のある方なのです。

 自身もNFLでクウォーターバックとして活躍した経験があり、昨シーズンまではメロメロだった49ersのQBアレックス・スミスを、注目株の選手に変身させた功労者でもあるのです。

 なかなか成績を残せないアレックス・スミスは、もう7年目。今シーズンが始まる前には「他のQBに替えろ!」と、ファンや報道陣から非難ゴウゴウだったのですが、ハーボー監督が来てからというもの、どんどん調子を上げていくのです。

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 やはり、彼にとって、元QBのハーボー監督は良きボスであり、優れた先生であり、頼れるアニキだったに違いありません(写真は、残り2分、自ら走ってタッチダウンを決めたアレックス・スミス選手)。

 いや、ほんとにハーボー監督って、熱い方なんですよね。試合中も、サイドラインから真剣な眼差しでフィールドを見つめ、少しでも不満があると、辺りかまわず叫び出すタイプなのです。

 けれども、そんな風にいつも火のように燃えている方ですので、選手たちも監督を家族のように慕っていて、「監督のためなら、たとえ火の中、水の中」と、厚い信頼と忠誠心を抱いているのです。

 だから、チームが一丸となって、試合に勝って来られたのでしょう。だって、今の49ersには、スーパースターはいないのです。けれども、ここまで来たということは、全員がまとまって、持てる力を発揮できたということなのでしょう。

 プレーオフの前夜、ハーボー監督は選手たちにビデオを見せたそうです。歴代のプレーオフで繰り広げられた名場面を集めたもので、加えてこうおっしゃったそうです。

 「歴史というものは、プレーオフでつくられる」と。

 ヴァーノン・デイヴィス選手が、人生最高の試合ができたのも、もしかすると、監督のこの言葉を聞いたからかもしれません。
 

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 さあ、次は1月22日、NFCチャンピオンをかけて、ニューヨーク・ジャイアンツと対戦です!

 これに勝てば、2月5日、スーパーボウルでAFCチャンピオンと戦えるのです。

 Go Niners! 

 がんばれ、フォーティーナイナーズ!


夏来 潤(なつき じゅん)
 

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