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あなたのお気に入りは?:iPod、Yahoo!、ワイヤレス
Vol.68
3月が来ると、心うきうきとします。長雨の中休み、太陽の光が今までより急に強くなったのに気付き、あたりの緑に、野生の花々が顔を覗かせます。"西部魂(Western identity)とは何か"のシンポジウムに出席したコラムニストは、アプリコットやカリフォルニアポピーの花がほころびるとき、それが西部に住んでいることを実感するときだと発言したそうですが、なるほど自分が感じていたことはこれだったんだと悟りました。今まで気にもとめなかった在来の花の名前を覚えたとき、その地は故郷となるそうです。
さて、本題の方ですが、今回も前回に引き続き、テクノロジーっぽいお話に仕上がっています。最後に、ちょっと風変わりなおまけも付いています。
<iPodの波>
なんと、iPod miniを買ってしまいました。言わずと知れた、アップル・コンピュータのデジタル音楽プレーヤー、iPodの小型版です。昨年1月にデビューした、4GBマイクロドライブ内蔵のモデルです。だいたい、誰もが持つiPodなんぞ買うもんかという主義でしたが、思いもよらぬ展開です。
実は、事情があって、iPod miniを7つ緊急に購入することになったのです。ところが、実際出掛けてみると、サンノゼのアップルショップでも、大型家電チェーンのBest Buyでも、すべて売れ切れでした。アップルショップにいたっては、"iPodも、iPod miniも、(今年1月に出たばかりの)iPod shuffleも、iPodと名の付くものは全部売れ切れだよ"と、得意そうに胸を張ります。彼は"オンラインで買ってみたら"と言いますが、歳末商戦では、"オンラインショップよりも、店舗の方が在庫の確立が高い"というお達しでした。そこで、近くのCompUSAというコンピュータショップに出向き、ようやく実物にありつきました。
ところが、事態は急転直下、購入したiPod miniは必要なくなり、返品することとなりました。悔しいので、iPod miniの箱でピラミッドを作り、記念写真を撮ったりしているうちに、青りんごのような、すがすがしい緑色に魅了され、手元にひとつ置いておくことになったのです。
そして、その二日後、"ずるいよ、自分だけ"と言っていた連れ合いは、ディスカウントチェーンのTARGETで、ライトブルーのiPod miniを購入しました。TARGETは何でも屋さんですが、ここでは、"名前は知ってるけど、iPodって何なの?"と、隣の若い女性客に質問されました。シリコンバレーの客層もいろいろあるものです。
ちなみに、筆者がiPod miniを250ドルで買った直後、6GBのiPod miniが同じ値段で発表され、従来の4GBモデルは、200ドルと値下げになりました。だいたい新手の製品を買うと、こんなことが起きますね。アップルは特に、口が堅いですし。
実際、箱を開けて使ってみると、ちょっと不満な点もありました。たとえば、iPodのハードディスクの初期化がいつまで経っても完了しません。そこでそれを無視して、パソコン上でiTunesプログラムのインストールを続行すると、なぜか初期化は完了し、iPodは準備OKと言うのでした。だったら最初からそう言ってほしいところですが、ここでつまずく初心者もいるんじゃないかと、ちょっと心配になりました(事実、新手のビジネスにFeedMyPOD.comというのがあって、iPodの使い方がわからない人のために、手持ちのCDを一枚99セントでiPodに入れてくれるのです。中には、医者や弁護士、会社の重役と、時間がもったいない人たちも活用しているそうです)。
また、こんなハプニングもありました。連れ合いは、喜び勇んで真新しいiPod miniを出張に持って行ったのですが、旅先でデータが全部消えてしまったのです。実は、旅先の東京で修理に出していたラップトップが戻って来たので、iTunesをインストールしたところ、お気に入りの音楽がいっぱい入ったiPod miniを、何もない音楽リストで上書きしてしまったのです。つい"Enter"を押してしまう、おっちょこちょいの連れ合いが悪いのですが、本人は、"シンクロ機能が不親切だ!"とおかんむりです。かわいそうに、iPodちゃん、旅先のホテルで、なすすべもなく躯(むくろ)となって横たわっていました。
まあ、いろいろあるけれど、音はなかなかいいし、データ転送も速いし、いい買い物をしたことは否めません。贈る側にとっても、貝合わせのように微妙な音楽サイトとMP3プレーヤーの相性を気にしなくてもいいので、楽な選択ではあります。
ちなみに、筆者が最初に入れた曲は、勿論、U2の"Vertigo"です。12月号でご紹介した、iPodの超人気コマーシャルソングです。U2は、自国アイルランドでの6月のコンサートチケットが50分で完売するなど、更なる人気も見られます。
アップル・コンピュータの方も、iPod人気にあおられ、昨年10月あたりから株価が高騰し、過去一年間で4倍となっています。昨年12月末までの四半期には、会社の歴史上、一番大きな売上と収益を記録しています。この期は、U2限定バージョンを含め、実に460万台のiPodが売れています(昨年一年間には830万台、そのうち4割はiPod miniだったと、リサーチ会社NPD Groupは推測します)。
それにしても、アップルさんとU2さん、これほど互いがいい思いをした共存関係は珍しいでしょう。"Win-win situation"とは、まさにこのことですね。
<iPodのおなかの中>
iPodに部品を提供するお陰で、一躍名を馳せた会社もあります。チップのSigmaTelもそうですし、iPodのトレードマークともなっている、丸いスクロールホイールを提供するSynapticsもそうです。
しかし、筆者の中でのスターコンポーネントといえば、やはり、iPod miniに入っているマイクロドライブです。直径1インチ(2.54cm)、10円玉大のディスクを内蔵する、超小型ハードディスクです。オリジナルモデルでは4GB、1000曲分の貯蔵スペースを持ち、最新モデルでは、6GBを誇ります。
このマイクロドライブは、日立の傘下にあるHitachi Global Storage Technologiesが提供していますが、もともとは、IBMが作りました。1990年代前半から、サンノゼ市南部にあるIBMアルマデン・リサーチセンターが基礎研究を担当し、日本IBMのハードディスク開発グループと共同で、6年ほど前、コンパクトフラッシュ型のリムーバブルな記憶装置として商品化しました。その頃は、340MBの容量でした。
1インチディスクのマイクロドライブは、技術的には画期的な製品だったものの、その用途となると、引く手あまたとはいきませんでした。パソコン、PDA、デジタルカメラなど、一部の製品に採用されたものの、いまだ、デジタル音楽プレーヤーなどの小型ライフスタイル製品が、市民権を得ていなかったのです。
折しも、2002年12月、日立は世界各地のIBMストーレッジ・グループを吸収し、Hitachi GSTが設立されました(サンノゼ市南部にあったグループ本社を本拠地としています)。家電分野にも強い日立は、その手腕を発揮し、iPod miniというマイクロドライブにとっては理想的な相手も獲得しました。そして、iPod miniの尻上がりの人気に伴い、マイクロドライブの生産を倍にするとも発表されています。
日立の傘下に入ったストーレッジ事業は、収支的にも大幅な改善が見られます。今後、音楽プレーヤーに留まることなく、キャムコーダー、ゲームコンソール、携帯電話など、超小型ハードディスクを内蔵する小型パーソナル製品の大幅な伸びが予想され、更なる事業拡大も期待されています。リサーチ会社InStat/MDRによると、2008年には、出荷されるハードディスク製品の3分の1は、家電に組み込まれるとも予想されています。
少しの間に、340MBから6GBに成長したマイクロドライブ。小さくて軽く、それでいて大容量のiPod miniの人気を支えているのは、やっぱりマイクロドライブではないでしょうか。
<2.4GHzの恐怖>
先月号で、衛星ラジオXMの話をしましたが、筆者自身の車には衛星ラジオは付いてないので、贔屓にしているジャズ専門のFM局、KCSMを聞いています。勿論、ジャズが好きだということもありますが、ここは公共放送局なので、コマーシャルなんて風情のないものは存在しないし、スタジオに招いたジャズミュージシャンとのトーク以外、余分なおしゃべりもありません。ひたすら、極上のジャズ放送に徹しています。
おもしろいことに、ベイエリア・サンマテオにあるKCSM局は、インターネットでもストリーミング放送しているので、それこそ世界中で聞くことができます(KCSM.orgです。メディアプレーヤーは、Real Player、Windows Media Player、Quick Time Playerなど複数に対応し、かかった曲名のプレイリストも完備です)。
年に何回か、寄付を求めるキャンペーン放送をするのですが、アメリカ中と言わず、世界中から寄付が集まってくるのに驚かされます(KCSMの年間予算の8割は、視聴者の献金でまかなわれています。公共放送局は、どこでも似たような財政事情なのです)。
そんな気のきいたFM局なので、やはり先月号でご紹介した、ケーブル会社Comcastのデジタル音楽放送と同じく、筆者にとってはなくてはならないものになっています。たとえば、台所のテーブルで物を書いているとき、背景でストリーミング放送を流しながら、気持ちよく仕事できます(なぜ台所かって、ここは一番日当たりがいいのです)。
ところが、ある時、穏やかなジャズの流れが、突然中断してしまいました。おやつを食べようと、台所の電子レンジを使った途端、ぷっつりとストリーミングが切れてしまったのです。
実は、我が家では、Linksysのワイヤレスルータを利用していますが、IEEE802.11g規格なので、2.4GHzの周波数が使われます。ご存知の通り、これは電子レンジやコードレスフォンと同じ周波数帯なので、電波干渉の問題が出てくるわけです。
現に、2台ある我が家のコードレスフォンのうち、2.4GHzの方を使い出すと、途端にインターネット接続が切れてしまうし、お隣さんが電話で話し始めると、やはり同じことです(よほど、5.8GHzの電話に買い換えろと、Linksysの親玉Cisco Systemsに勤めるお隣さんに言おうかと思ったほどです)。
噂には聞いていましたが、電子レンジもやっぱりダメなんだなあと、実感です。
今の生活はとても便利で豊かな反面、こんな原始的な不便さもあるのです。どうしてみんなで同じ周波数を使っているのでしょうか?
蛇足ですが、いろんな医学研究が発表されるアメリカで、こんなものがありました。電子レンジを使うときは、人体への影響を鑑み、2、3メートル離れるようにと。う~ん、そうかもしれないなあ。
<Yahoo!10周年>
3月2日、世界的な人気を誇るインターネット・サービスサイト、Yahoo!(本社サニーヴェイル市)が10周年を迎えました。この日、10歳の誕生日を祝い、全世界のBaskin Robbinsでアイスクリームが利用者に配られたり、Yahoo!三人衆が株式市場ナスダックの開始ベルを鳴らしたりと、お祝いムードに包まれました。
1994年2月、当時スタンフォード大学のエンジリアリング博士課程にいたジェリー・ヤン氏とデイヴィッド・ファイロ氏が、インターネット上のお気に入りサイトのリンクリストを作ったことが、今のYahoo!の原型となりました。いつしか、こちらの方が本業となり、翌年の3月に会社が設立されました。以降、インターネット普及の波に乗り、現在の大企業に成長したわけです。4年前、Warner Brothersからテリー・セメル氏をCEOとして招き、メディアとの結び付きも一層深めています。一昨年のオンライン広告会社Overtureの買収で、業績もぐんと上がっています(上記Yahoo!三人衆とは、創設者のヤン氏、ファイロ氏、そして現CEOのセメル氏を指しています)。
このお祝いの前日、今はYahoo! Chiefと名乗る創設者のひとり、ジェリー・ヤン氏がインタビュー番組に出演したので、ここでちょっと、気になる部分をご紹介いたしましょう(公共放送局WNETニューヨーク制作のインタビュー番組"Charlie Rose"から抜粋)。
インターネットサーチ(検索)と言うと、グーグルもあるし、最近はマイクロソフトも力を入れているし、Yahoo!と三つ巴の戦いになるねという質問に対し、ヤン氏はこう答えています。
サーチの分野は、すごく大きなスペースなんだ。現在の方式は、検索欄に調べたいことを入れて、満足するかどうかは別として、何か答えが返ってくる。これに対し、今起きていることは、サーチはもはや単純な作業ではなくなって来ている。サーチは、他の作業、たとえば音楽検索だとか電話帳だとかに組み込まれるようになる。たとえば、音楽サイトで曲を聴いていて、歌詞が知りたいとか、このアーティストは他にどんなアルバムを出しているのかを知りたくなる。電話帳で調べたレストランにしても、どんな評があるのかを知りたくなる。そんな時に、サーチが必要となり、ユーザも無意識のうちにサーチしている。こんな風に、純粋な検索サイトをバーティカルに展開というよりも、メールサイトだとかコンテンツサイトだとか、バーティカルな分野にサーチ機能が深く浸透していく。
また、サーチのパーソナル化もある。使えば使うほど自分の癖を覚えてくれて、一からスタートする必要のないことを指す。ただ、これに関しては、まだまだ長い道のりだ。そして、最近よく言われているのは、マルチメディア検索がある。もはやテキストに留まらず、ビデオ、オーディオのマルチメディアデータを検索してくれる。
このように、サーチとは多面的で、ものすごいスピードで変化している。インターネット自体も、音声認識の改良等で、携帯デバイス上でも使い易くなるし、そのうち、時計やヘッドフォンにくっ付いたりもする。メディアとテクノロジーの融合化も進む。そんな中、今後、サーチの分野では、Yahoo!、グーグル、マイクロソフト三者三様の対応が出てくるだろう。大きな市場であるがために、3社にとっても大きな焦点となるが、どんな対処の仕方をするかは見ものだ。Yahoo!には、今までの経験から優位性があると信じているが。競争からは、たくさんの新たなアイデアが生まれるだろう。
(補足:米国Nielsen/NetRatingsの発表では、現時点では、利用者数でグーグルがYahoo!を一歩リードしているものの、目的に応じ、複数のサーチサイトを併用するユーザが多く、一社がユーザの忠誠心を勝ち取っている状況ではないとしています。)
一方、自らの能力と機会をうまくマッチさせ、今まで大成功を収めて来たわけだけれど、これからどんな人生を送るつもりですかという質問には、こう答えています。
これを言うと、多くの人が意外に思うのだけれど、僕の情熱とゴールは、Yahoo!がどう成長して行くか見届けることなんだ。家族もいるから、それがすべてというわけではないけれど、自分がまだ情熱を持ち続け、会社も僕を欲しているなら、5年、10年、20年先も、Yahoo!の成長する過程を見守っていきたい。この起業家(自身)は、それを夢見ているし、自分にとって意義深いことだとも思っている。
この10周年記念の日、ローカルテレビ局KNTVにヤン氏とともに出演したファイロ氏は、スタンフォードでの第一日目から、ふたりの議論は絶えたことがないと言います。もしかしたら、これがふたりの枯渇なき情熱の源なのかもしれません。ふたりとも、スタートした頃より今がもっと楽しいし、これから先はもっと楽しくなると、口を揃えます。
<ブログにはご注意を>
もうすぐ4月、日本では新入社員の季節ですね。桜の花が舞う中、みんな希望に胸をふくらませ、入社式に出席するのでしょう。そういった新入社員さんたちにひとこと。ブログには気をつけましょう!(blogは、以前も何回かご紹介しましたが、Web上に載せた個人的な日記のようなものです。)
そうなんです。ブログでは一歩進んでいるアメリカでは、今、ブログが新たな社会問題を生んでいます。
たとえば、インターネットのサーチエンジンで有名な、グーグルの例があります。サンフランシスコ在住のマーク・ジェンさんは、22歳の"テクノロジーおたく"で、グーグルに勤めていることがとっても自慢でした。何と言っても、テッキーな人たちにとっては、憧れの企業ですから。
ところが、暇を見つけてはブログに励むマークさん、突然、解雇されてしまったのです。マークさんが、ブログの中で、"僕たちの会社はすごくよくやってるよ(we're doing really well)"と書いたのが、グーグルのお気に召さなかったのです。株式市場に公開されている企業である以上、社員が株価を上下させるような内部情報を暴露してはいけないのです(まあ、"すごくよくやっている"という情報がどれだけ具体性があるのかという、哲学的な問題は残りますが)。
これに懲りたマークさん、世のブロガーたちに、こうアドヴァイスします。もしブログをやっているんだったら、まず、会社の人事とか法務にブログに関する規則を確認すること。そして、もし規則がなければ、新しく作るよう働きかけること。
にこやかな、物腰のやわらかなマークさん、ショックを受けながらもブログに励み続け、今はその"口コミ"の力で次の働き先を探しています。
<おまけの話:サンフランシスコのゴールデンゲート・ブリッジ>
最後に、テクノロジーからかけ離れたお話です。数あるサンフランシスコの名所のうち、最も絵になるのがゴールデンゲート・ブリッジです。市内と北のマリン郡を結ぶ、赤い吊り橋です。筆者も若い頃サンフランシスコに引っ越し、最初に案内された名所がここでした。雨季も終わり、晴れ上がった5月下旬のことでした。太陽の輝く中、ゴールデンゲートを渡り、対岸の山や見晴台から見るサンフランシスコの街は、また格別なものです。
そんな人気の高いゴールデンゲート・ブリッジですが、ここはまた、悪名高き場所でもあります。自殺の名所でもあるのです。橋の上には遊歩道があり、歩いたり自転車に乗ったりして橋からの風景を存分に楽しむことができます。そして、景観を損なわないために、高いフェンスなどはありません。
欄干を乗り越え、ここから飛び降りたら最後、まず助かることはありません。落下する間、気を失うこともなく、70メートル下の海面に打ち付けられ、壮絶な死を遂げるのです。そして、橋の下で渦巻く速い潮流に乗り、マリン郡まで流されます。
そんな効力を知ってか、今まで、たくさんの自殺志願者が引き付けられてきました。いつしか統計は秘密となりましたが、1937年の開通以来、1350人と言われています。橋のたもとには、自殺ホットラインにかかる電話も設置されていますが、あまり効果はないようです。
つい先日も、サンフランシスコ在住の若い女性が飛び降り、それを機に、人が乗り越えられない、頑丈なフェンスを作ろうという案が再燃しました。女性の両親も、サンノゼ市から公聴会に駆けつけています。結局、2億円をかけて、デザインや環境へのインパクトを検討しようと決定されましたが、建設プロジェクト自体の行方は定かではありません。命を救う天秤のもう一方に、観光名所の景観があるのです。過去半世紀、いやというほど議論し尽くされてきました。
筆者は自殺の権威ではないので、何とも専門的なことは言えませんが、ひとつアドヴァイスがあるのです。それは、もし生きることに疲れたなと思ったら、とりあえず、すべてをほったらかしにして、どこか遠い所に行ってみることです。どこか広い野原に行って、草花を揺らすひんやりとした風に吹かれるのもいいし、小川でアメンボウや蛙が泳ぐのをぼーっと眺めるのもいいと思います。帰って来たら、世の中がまったく違って見えているかもしれません。
ゴールデンゲート・ブリッジから飛び降りた人のうち、今まで25人が奇跡的に助かっています。その25人中、再度自殺を図ったのは、たったひとりです。残りの24人は、助かったことに深く感謝しています。欄干を乗り越えた瞬間、後悔の念が頭を駆け抜けたと言います。
痛みのピークはいつしか治まり、完治すべくもない深い傷にも向き合うことができるようになるのです。
夏来 潤(なつき じゅん)