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今年の行方は?:グーグルさんの「ネクサス・ワン」とオバマさんのピンチ
Vol. 126
今年の行方は?:グーグルさんのネクサス・ワンとオバマさんのピンチ
年末年始の3週間を日本で過ごしました。日本でも例年にない大雪を経験したのですが、シリコンバレーに戻って来ると、例年にない嵐のおかげで様々な被害が出ていました。
崖崩れ、浸水、停電、そして、大木が倒れて住宅が押しつぶされたり、車の中にいた幼児が亡くなったり。それでもまだ、過去3年来の水不足の解消にはなっていないそうです。
年明けすぐに、ハイチでは大地震も起きたりしていますが、自然は人間の采配通りには動いてくれない、そんなことを思い知らされる一年の幕開けとなっています。
さて、そんな今月は、テクノロジーと政治の分野から、近頃ホットな話題をお届けいたしましょう。
<グーグルさんのスマートフォン>
年が明けると、アメリカのテクノロジー業界はパワー全開となります。業界一番の見本市となっている「コンスーマエレクトロニクス・ショー(通称 CES)」も、毎年、お正月の直後に開かれますよね。
そして、そのCESの開催直前にお披露目されたのが、グーグルさんの携帯電話。ほかでもない、グーグルさんご自身が販売するスマートフォン(機能満載のケータイ)で、その名も「Nexus One(ネクサス・ワン)」。
当然のことながら、OS(基本ソフト)は、グーグルさんご自慢の「アンドロイド(Android)」を搭載しています。日々どんどん進化して、今はバージョン2.1となっています。
もちろん、携帯端末の方はグーグルさんが自分で作っているわけではなくて、ハードウェアを担当するのは、台湾の代表的スマートフォンメーカーHTCとなっています。
いえ、さすがにスマートフォン分野のベテラン、HTCが作っただけのことはあります。アンドロイドのデビュー作「G1(ジーワン)」(2008年10月に携帯キャリア T-Mobile USAが発売)や「Hero(ヒーロー)」(2009年10月に Sprint Nextelが発売)といった過去の経験を生かして、今や同社はアンドロイド機のリーダー格となっているようです。新しい「ネクサス・ワン」も、小さくて、おしゃれなデザインの中に、欲しい機能が無駄なく納められた感じです。
大きさは、アップルさまのiPhone(アイフォーン)とほぼ同じ。タッチ方式の画面も同等のサイズですが、解像度はネクサス・ワンの方がいいです。重さは両機種ほぼ同じで、全体に丸みを帯びたネクサス・ワンは、てのひらにしっくりと落ち着く感じです。
iPhoneと同じく、物理的なキーボードは無いので、文字を打ち込むときには、画面に出て来るバーチャルキーボードを利用します。それがちょっと難点でもあるでしょうか。キーがかなり小さいので、指先が大きな人は、ついつい隣のキーを押してしまうこともあるでしょう。
後ろから2機種を比較すると、「瓜二つ」といった印象ですね。ひとつ大きく違う点といえば、ネクサス・ワンには、自分や会社の名前か、好きな言葉を彫り込むことができるのです。(写真では隠してある箇所ですが、それって、ちょっと嬉しいですよね!)
そんなネクサス・ワンは、とにかく速い。1ギガヘルツのクアルコム(Qualcomm)のプロセッサを載せています(1ギガヘルツですよ!)。
何をするにしても速いことは良いことですが、とくにアメリカのケータイゲームなんかは、ダウンロードして手元でシャカシャカ動くタイプが多いので、手元の処理能力が速いのは、なかなかありがたいものなのです。
もちろん、iPhoneの最大の難点はしっかりと克服していて、複数のアプリケーションを同時に動かすことができます。ゲームに熱中していても、背景ではトゥイッター(Twitter)が動いているので、友達が何かをつぶやくと、リアルタイムでフォローできたりするのです。iPhoneの場合だと、一旦ゲームをやめて、自分でトゥイッターをチェックしないといけません。
速いといえば、さすがにグーグルさん、検索も素早い。昨年の11月号でもご紹介しているように、アンドロイドOSでは、音声による検索(search by voice)も充実しています。こちらが言った言葉を正確に認識し、それに相当する答えを出してくるスピードがとても速いのです。
たとえば、グーグルマップ(地図)の画面で、「マイクロソフト」と話しかけるといたしましょう。すると、間髪入れずに、マウンテンヴュー市のフリーウェイ101号線沿いにある、マイクロソフトのシリコンバレーキャンパスが示されます。GPS機能によって、自分はどこにいるかを絶えず把握しているので、自分に一番近いものをササッと表示してくれるのでしょう。
もちろん、こういうのはネクサス・ワン単体のスピードだけではなくて、グーグルさんの持つバックエンドのサーバが速いからではありますが、パンパンと答えが返ってくるのは小気味の良いものです。それに音声を使うことで、今後、検索のあり方もずいぶんと変わってくるのではないでしょうか。
検索でおもしろいものといえば、近頃は「グーグル・ゴーグル(Google goggles)」というのがあって、文字や音声だけではなく、画像で検索ができるようになっています。当然のことながら、ネクサス・ワンのようなスマートフォンにはカメラが付いているので、それでカシャッと写真を撮って、「これはいったい何?」と検索できるようになっているのです。
写真の対象は、サンフランシスコのゴールデンゲート橋のような観光名所でもいいですし、店の看板やワインのラベルといった、物でもいいのです。たとえば、ワインのラベルをカシャッと撮ると、ワイナリーのウェブサイトや代表的な銘柄、ワインを買えるショップなど、関連情報がずらりと出てくるのです。
このような画像による検索では、GPSによる座標の特定が観光名所の割り出しに役立っているのでしょうし、ユーザが撮った写真をどんどん蓄積していくと、小さな店の看板でも、そのうちもれなく検索できるようになることでしょう。
画像といえば、商品に付いているバーコードをカメラでスキャンすると、この商品を割引価格で売っているお店を教えてくれるアプリケーションもありますね。
「My Coupons(マイ・クーポン)」というのもそのひとつですが、バーコードをスキャンしたり、商品名を入力したりすると、この商品を扱っている店と割引率の情報を画面にずらりと並べてくれるのです。
購入する場合は、指定されたプロモーションコードをお店のオンラインショップで入力するか、クーポン(割引券)を印刷して店頭に持って行くかして、割引特典をゲットします。お店によっては、ケータイにダウンロードしてお勘定のときに提示するタイプもあるようです。
さて、大事なネクサス・ワンのお値段の話ですが、これは高いとも、安いともいえるでしょうか。販売経路によって値段がふたつあって、グーグルさんから直接購入すると、何の補填も無いので 529ドル。携帯キャリア T-Mobileから2年契約で購入すると、179ドルとなっています。
いずれにしても、「シムロック(SIMロック)」は解除された状態で売られているので、T-Mobileのサービスに加入しなくても、自分が加入する AT&T Mobilityのシムカードを差して使うことができます。シムロックとは、他のキャリアのシムカードを差して使うことを禁止する機能ですが、ロックを解除してあるということは、どのキャリアのサービスでも使えるようにしましょうということですね。
とはいいましても、現時点では、ネクサス・ワンは GSM/W-CDMAテクノロジーに対応しているので、アメリカでは T-Mobileか AT&T Mobilityのネットワークを利用することになります。
AT&Tとして使う場合は、ちょっと世代の古い EDGEデータ伝送方式にしか対応しないので、たとえば音楽をストリーミングするなどデータをやり取りしていると、AT&Tの最新技術を利用したときよりも遅い、という欠点もあるようです。
T-Mobileに加入した場合でも、契約日から少なくとも120日間はサービスに入っていなければならない、という制限があります。120日以内に契約を解除すると、T-Mobileが補填した350ドルを罰金として支払うことになるのですが、「これは、あまりにも高い!」と、現在、連邦通信委員会(通称 FCC)が調査に乗り出しています。
ところで、そもそも、どうしてグーグルさんが自分でスマートフォンを売ることになったのだろう? と疑問がわくことでしょう。
それはひとつに、携帯電話を作る側がこれ以上キャリア様にコントロールされたくない、というのがあるのでしょう。
ケータイにどんな機能を載せるかとか、どんなサービスを付加するかといった重要な選択は、現時点ではキャリアに統制されていて、メーカー側が自由に選択できる余地はありません。それが、もし自分で売るようになれば、選択に関する自由度が増すのではないかと、そんな希望的観測をお持ちなのではないでしょうか。
そして、ひとたび自分の思い描く通りのスマートフォンを出せるようになったら、今までは思いもよらなかった画期的なサービスを心置きなく展開できるようになるだろう、と予測していらっしゃるのでしょう。
もちろん、今は、それが何なのかは誰も知らないでしょう。けれども、携帯サービスのあり方を少しずつ、確実に変えていくことで、自分たちが何か新しいことをやり易いように周到に準備しておく。それが、グーグルさんのビジョンなのでしょう。
それにしても、グーグルさんとは、将来に向けたフォーカスがしっかりとした会社ですよね。「よし、スマートフォンOSを作るぞ!」と思い立って、どれほどの時間が経過したのかはわかりませんが、2008年10月のデビューからわずか1年半で、アンドロイドはバージョン2.1。そんなに進化の速いOSというのは、他に類を見ないのではないでしょうか。
実は、いかに挑戦好きのグーグルさんといえども、携帯電話という新しい分野に手を染めるのは、最初は躊躇したとも聞いています。「う〜ん、ケータイねぇ。もしできるんなら、やってみたら?」と、そんな感じだったそうです。
それが、ひとたび世に紹介したとなると、前へ前へとぐんぐん突き進む。なぜって、市場に出してみることで、新しい分野を知り、ひとたび知ってみると、もっともっと良いものを作りたくなるから。
近頃のいろんな市場調査では、アンドロイドのシェアの拡大とその勢いが取り沙汰されています。今年はさらに、アンドロイドの「成長の年」となることでしょう。
<オバマさん、2連敗で危うし!>
さて、話はガラリと変わって、政治のお話に移りましょう。
1月20日、オバマさんが大統領になって丸一年が経過しました。そんなめでたい一周年記念ではありますが、どうも近頃、オバマさんに対しては風当たりが強くなってきているのです。ここでは、今月オバマさんが経験した「つまずき」を二つご紹介することにいたしましょう。
連敗 その1: まず、最初は、1月19日にマサチューセッツ州で行われた連邦上院議員の補欠選挙でしょうか。この補欠選挙は、昨年8月に亡くなったエドワード(テッド)・ケネディー上院議員の後釜を決める大事な選挙だったのですが、結果は、故ケネディー議員の所属する民主党から共和党に議席が移ることとなりました。
どうしてこれがオバマさんのピンチになるのかというと、この一議席が、連邦上院議会(the U. S. Senate)の形勢をガラリと変えてしまうから。
それまでは、議席60対40で民主党が上院を牛耳っておりました。60議席を持っていると、それは「葵の御紋」と同じことで、敵対する共和党の議事妨害(filibuster)なんかをエイッとやっつけることができるのです。
ご存じの通り、民主党とはオバマさんの所属政党ですが、民主党が上院を舵取りするということは、オバマさん寄りの法案がバンバン通るということ。ところが、60議席から59議席に落ちるとなると、途端にそれも難しくなる・・・。(厳密にいうと、民主党60議席の中には、民主党寄りの無所属2議席が含まれています。)
それで、どうして「民主党大好き」なマサチューセッツ州で、しかも民主党リベラル派の巨頭であったテッド・ケネディー議員(故ジョン・F・ケネディー大統領の末の弟)の後釜を選ぶ選挙で無名の共和党候補が勝ったのかというと、それはひとえに、医療保険制度の改革案にあったのでしょう。
現在、オバマ大統領の直面する難題のうち最も悩ましい問題は、経済の立て直しと医療保険制度の改革です。
一昨年の金融危機以来、国民の生活は困窮しきっているわりに、医療保険には目の飛び出るような保険料を支払わなくてはならない。なぜなら、アメリカの医療保険は原則として雇い主が提供するもので、会社を解雇された個人は、何の補填も無いまま、全額自腹を切ることになるのです。解雇されないまでも、企業の福利厚生は縮小するばかり。
もともとアメリカの医療費は、GDPの約16%(2007年には約220兆円)と驚くほど膨大で、それをみんなの保険料でまかなおうとすると、厳しい経済状況下では、保険料はどんどん高くなる。
すると、もともと社会的格差の大きいアメリカでは、医療保険に入れない人が続出し、国民全体の健康が損なわれるばかりではなく、加入者が負担する保険料はもっともっと高くなる。そんな風で保険料を滞納していると、ひとつの大病が個人破産にもつながる・・・。
だからこそ、そんな悪循環を打破しようと、オバマ大統領は就任一年目で果敢に医療保険制度の改革に取り組んだわけですが、それが、どちらかというと「凶」と出たのかもしれません。
改革を急ぐあまりに、同じく民主党が牛耳る連邦下院(the U. S. House of Representatives)では昨年11月7日に、上院ではクリスマス休暇に入る直前に、各々の改革法案が可決されています。が、これに対して「そんなに性急に改革案を通そうとするな! 」と、マサチューセッツ州の有権者や国民の多くが、反発と不信感をあらわにしたのです。
そもそも、どうしてアメリカの医療費はそんなに高いのでしょうか? それは、一体に国民が不健康で、医療(診断や治療、投薬)のお世話になりがちということもあります。けれども、医療費の3割は保険会社が懐にしているという、馬鹿みたいな事実もあるのです。
そう、医療とは国が面倒を看るものではないので、民間の保険会社が高い保険料を調達して、それを経営者や重役、従業員の給料にまわすという、おかしな制度。しかも、医療費がかさむのを恐れて、シリアスな持病を抱える人は保険には加入させないという、利益追求型の制度。
けれども、そこは、アメリカ。国のお仕着せの医療制度なんて、絶対に許せないのです。なぜなら、「自分のことは自分で守れ」というのが、建国以来の国民魂だから。
「自由を守るためには、人々が武器を身につける権利を侵害してはならない」と、憲法修正第2条(権利章典・第2条)にもあるではありませんか。「自由に生きられないくらいなら、死んだ方がマシだ(Live Free or Die)」と、ニューハンプシャー州のモットーにもあるではありませんか。
そんな独立の精神を貫く人たちが、「自分は今の制度で満足しているから、それを勝手に壊されては困る!」と、反オバマの意思表示をしたのです。こういった人たちは、かねてよりオバマさんの莫大な経済刺激策やら大手銀行への手助けにも憤懣を抱いていて、政権への不信感が爆発するのも時間の問題だったのでしょう。
「だって、アメリカは社会主義じゃないんだぞ!」と。
連敗 その2: オバマさんに反旗をひるがえしているのは、有権者ばかりではありません。連邦最高裁判所(the Supreme Court of the U. S.)だって、マサチューセッツ州の選挙の直後、オバマさんにとっては不服の残る決断を下しているのです。
それは、企業や労働組合は、大統領や連邦議員を選ぶ国レベルの選挙戦で候補者を応援しても良いというもの。
ちょっとわかり難い判決ではありますが、アメリカでは過去百年来、企業や組合は、国の選挙に出馬している候補者や政党に献金したり、応援のためにメディア広告などの広報費用を持ったりすることは禁止されていました。それは、企業や組合などの団体は、個人ではないからです。個人は投票する権利はありますが、団体は投票ができない。だから、意思表示をするための献金はできない。
ところが、今回、連邦最高裁判所が下した判決は、候補者や政党に直接的に献金することは認めないけれども、広告費を出してあげたりして、間接的に応援しても良いというものなのです。
それで、どうしてこれがオバマさんに不服を残すことになったかというと、今回の判決の論法でいくと、金のある大企業の意向が、選挙の行方を大いに左右することになるからです。だってアメリカの有権者の多くは、自分の頭で考えないで、大きな声のする方に顔を向けようとするでしょう。
となると、今年11月に行われる中間選挙では、民主党の立場が弱まることになるかもしれない。だって今は、オバマさんへの逆風が吹いているでしょう。
オバマさんは、これは「大きな石油会社やウォールストリートの銀行、保険会社、そして首都で暗躍する利害団体の勝利であり、一般国民の声をかき消すものである」と、不快感をあらわにしています。
そして、有権者からも、「民主主義(democracy)の原理を脅かすものである」と、不満の声が上がったりしています。
しかし、今は、連邦最高裁判所の9人の判事が5対4で共和党に傾いている御代。オバマさんは、就任直後にソニア・ソトマヨール判事を任命する機会に恵まれましたが、次に任命するであろう判事は、もともと民主党寄りの判断を下すジョン・ポール・スティーヴンス判事の後釜。いかにリベラルな人を任命したにしても、数の点では、形勢の巻き返しにはなりません・・・。
まあ、そんなこんなで、巷の有権者や司法の最高責任者からプレッシャーを感じながら、日々苦労しているオバマさんではあるのです。
<漫画で学ぶアメリカの政治>
政治のお話が出てきたところで、近頃のアメリカの風刺漫画をご紹介いたしましょう。以前も何回か掲載したことがありますが、風刺漫画というものは、ときに世の情勢を一番うまく表しているものだと思うのです。
まずは、こちらからいきましょう。ヒューストン・クロニクル紙のニック・アンダーソン氏の作。名付けて「Yes We Can!」。
(by Nick Anderson – Houston Chronicle, published in the San Jose Mercury News on January 25, 2010)
何やらゾウさんたちが集まって、元気にシュプレヒコールを上げています。ゾウさんとは、共和党のみなさんのことですが、壇上に立つリーダー格のゾウさんが、こんなことを言っています。
「我々は、オバマ政権が打ち出す構想案すべてを阻止できるか?(Can we obstruct every initiative from the Obama Administration?)」
それに対して、満場一致でこんな声が上がります。
「もちろん、できるさ!(Yes we can!)」
いうまでもなく、「Yes We Can!(イエス、ウィーキャン)」というのは、オバマ大統領選出へ向けてのマジックワードでしたが、それを見事にゾウさんたちが盗んでしまった構図です。オバマさんに吹きつける逆風に乗って、今年、共和党はどんどん突き進みたいところなのです。
そして、こちらは、ワシントン・ポスト紙のトム・トールズ氏の作。名付けて「医療フットボール」。
(by Tom Toles – Washington Post, published in the San Jose Mercury News on January 24, 2010)
地面にコロッと置いてあるのは、「医療(保険制度の改革)」という名のボール。その大事なボールを尻目に、ロバさんたちが、何やらゴショゴショと相談しています。
ロバさんとは、民主党のみなさんのことですが、こんなおバカなことを議論しています。
「これが試合最後のプレーだ。フォースダウン(4回目の攻撃)で、(ボールはゴールラインから)1インチ。我々は5点差で負けている。どうすればいい? フィールドゴールか、それともパントか?(It’s the last play of the game. It’s fourth and one inch. We’re behind by five. What do you think? Field goal, or punt?)」
舞台がアメフトとなっているので、少々わかり難いことと思います。ちょっと解説いたしますと、こちらは試合終了目前で、最後のプレーとなる大事な場面。ぎりぎりの4回目の攻撃をするところで、ボールはもうゴール手前1インチ(約3センチ)のところまで来ている。ここで、5点差で負けているのに、ボールを蹴ってフィールドゴールの3点を獲得するか、パントをして攻撃権を相手に差し上げるかと議論している、おバカなロバさんたち。
いえ、普通、1インチのところまで来ているなら、そのままプレーするでしょう。だって、ボールの鼻先がゴールライン(白線の手前の部分)を超えれば、それで7点入るのです。そして、試合には勝つのです。
それが、マサチューセッツ州の選挙結果におののくロバさんたちは、これ以上突き進むのが恐いのです。自信がないから、「どうしよう?」と、意味の無い議論をしているのです。
いやはや、まったく困ったロバさんたちですが、この風刺漫画の横には、こんな励ましの社説が掲載されていました。「医療改革をあきらめるのは、まだ早い(Don’t give up on health care reform just yet)」と。
だって、企業が医療保険を提供するという現状では、大企業ばかりではなく、中小企業への負担も絶大なものとなる。とくに小さなスタートアップの多いシリコンバレーでは、従業員の医療費を負担することは、死活問題にもなりかねないし、世界に対する競争力も失うことになる。
だから、オバマ大統領はここであきらめずに、上院の改革案をベースに邁進すべきだと。
まったく、その通りかもしれません。ゾウさん、ロバさん、どちらが政権を担っていようと、議会の舵取りをしていようと、おかしな制度は改革しなければなりません。そうしないと、金持ちのお腹がどんどん膨れて、庶民はどんどんやせ細ることになるではありませんか。
人の命に、重いも軽いもありません。だから、オバマさん、どうか最後までがんばって!
夏来 潤(なつき じゅん)