正体見たり!: マグナカムロードとオバマさん

2011年9月29日

Vol. 146


正体見たり!: マグナカムロードとオバマさん


 長い夏休みも終わり、またお勉強の毎日に戻った方々もいらっしゃることでしょう。

 というわけで、今月は若い方々に向けて、「お勉強」の話でもいたしましょうか。そのあとは、またまたシリコンバレーを訪れたオバマ大統領の話題が続きます。


<マグナカムロードって?>
 先日、押し入れを片づけていて、ひどくびっくりしたことがありました。

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 紙袋の中から、大学時代の成績証明書が出てきたのですが、学士号(Bachelor’s degree)を示す記述のとなりに、こんな文字が書いてあったのです。

 「Magna Cum Laude(マグナ カム ロード)」

 なにやらラテン語のようですが、いったい何だろう? と思って、さっそくグーグルサーチをしてみると、「成績優秀」という意味だそうではありませんか!

 なるほど、自分は平均よりも良い成績で大学を卒業したような気はしていましたが、まさか「成績優秀」だったなんて、まったくの初耳です。

 いえ、アメリカには、なんとかって呼び名があって、成績優秀で卒業した場合は、履歴書などにも誇らしげに書く習慣があることは知っていました。
 けれども、自分がそうだったなんて、誰も教えてくれないのですから、知りようがないではありませんか。州立の学校なので、そんなモノはないのだと思っていましたし。
 それに、第一、ラテン語で書かれていたって、何のことだかわからないでしょう。「ラテン語=祈祷」というイメージしか持っていないわたしには、解読のしようがないのです。

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 なんでも、Magna Cum Laude という文字は、卒業証書にも付記してあるそうですが、確認してみると、ちゃんとわたしの卒業証書にも書いてありましたよ!
 これもまた、初めて目にいたしました! (今までは、単なる飾りにしか見えていなかったようです。)

 ちなみに、Magna Cum Laudeの上には、Summa Cum Laude(サマ カム ロード)というのがあって、パーフェクトスコアで卒業した人は、こっちの方をいただくそうです。
 わたしも大学院(修士課程)はパーフェクトスコアだったので、この文字があるかと調べたのですが、どうやら、こういったラテン語は学士(undergraduate)にしか使われないようですね。

 その代わり、大学院のときには、オーナーソサエティー(Honor Society)というところから「会員になりませんか」とお誘いが来たので、いくらかお金を払って会員になりました。
 べつに何をするわけでもありませんが、「履歴書に書くと見栄えがする」と学友に勧められたので、入ってみたのでした。

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 ちなみに、成績優秀者のソサエティーはいろいろありますが、なぜかこっちはギリシャ語!
 写真のものは、Phi Kappa Phi(Φ K Φ、ファイ カッパ ファイ)という名前で、1897年にできた由緒ある会だそうです。

 ギリシャ語といえば、大学男子学生のフラタニティー(fraternity)、女子学生のソロリティー(sorority)といった社交組織にも、ギリシャ語のアルファベット3文字が使われますね。でも、こちらは「お遊び」が目的といった感じでしょうか。

 というわけで、ン十年ぶりに自分が「成績優秀」で卒業したことを知ったのですが、わたしは決して自慢しようと思ってこれを書いているわけではありません。

 常日頃、「大学は勉強しないで卒業した」などと面白く語り草にはしていますが、実のところ、成績優秀であろうが何であろうが、そんなことはどうでもいいのです。
 なぜなら、大事なことは「自分は何を学びとったのか」そして「学んだことを基礎にして、自分なりに何を考えるか」だと思うからです。

 ですから、「どの学校に行った」とか「どんな成績だった」というのは、本来は、社会では何の意味もないことだと思うのですよ。
 というよりも、意味を持ってはいけない類のことかもしれません。「あの人はエリート校をいい成績で出たから、エリートコースを歩むのでしょう」なんていうのは、本来はあってはいけないことではないでしょうか。

 だって大事なことは、どんな学校に行ったかではなくて、どんな恩師や学友に出会って、どんな大切なことを学びとったのか、なのですから。
 そりゃ、「いい学校」に行けば、「いい先生」や「いい学友」に出会う確率は高いかもしれません。けれども、世の中そう単純じゃないところが、人の世のいいところなのです。

 学校で何かしらを学び、社会に出て経験を積み、学校や社会経験から学んだものを基礎として、自分なりに考えてみる。そして、自分なりに考えながら仕事をやってみて、足りないところは、まわりの先輩たちから学びとる(ときには盗みとる)。
 そうやって経験を積んでいくと、自分の中に新たな考えの材料が増えてきて、さらには目新しい考えがどんどん浮かんでくる。すると、自然と「実力」というものもついてくる。
 そういうのが、本来あるべき姿なんじゃないかと思うのです。

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 ですから、自分が経験することで無駄になることなんて、ひとつもないと思うんですよ。どんなにイヤな仕事だって、あとから振り返ってみると、何かの栄養素にはなっているものだと思うのです。

 そして、いきなり経験豊富になるわけにはいきませんので、最初は「下積み」から始まるわけですよね。
 いえ、こればっかりは、しょうがないですよ。だって、社会経験が少なければ、それだけ判断材料に乏しいということですから、なかなか優れた判断ができるようにはなりません。
 それでも人間ですから不満はフツフツと沸き起こるわけですが、「どうして俺が(わたしが)こんなことをしなきゃならないんだ!」と憤慨したことのない人なんて、世の中にひとりもいないことでしょう。

 けれども、時がたてば、イヤでも「川の上流」に向かって押し上げられていくのです。そういうとき、「下積み」をしっかりとやっていた人の方が実力を発揮するかもしれないではありませんか。

 そう、「川の上流」って傍目にはいいように映りますけれど、自分で立ってみると、とても孤独で、辛いものかもしれませんよ。

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 たとえば、アメリカの大統領。2009年1月、鳴り物入りで大統領職に就いたオバマさんでしたが、今となっては、来年11月の大統領選挙での再選も危ぶまれていますよね。
 それは、いつまでも回復しないアメリカ経済に対するフラストレーションの表れでもありますが、オバマさんの政治姿勢に対する不信感の表れでもあるでしょう。

 具体的には、社会的・経済的階層のどこを支援するのかとか、世界でのアメリカの立場をどう誇示するのかとか。
 たとえば、今、国連で話題となっているイスラエルとパレスチナの関係。オバマさんご自身としては、どちらにも味方しない中立の立場を貫きたいのでしょう。けれども、アメリカの伝統外交では、そうはいかない。なぜってイスラエルの味方をしなくてはならないから。
 そして、ちょっと視野を広げると、近隣のイランはイスラエルを目の敵にしている。これは、アメリカにも脅威となってくる。

 そこで、一国の主としては、どこまで自分の信念を貫き、どこまで国際情勢や自国の伝統に歩み寄るのかという、厳しくデリケートな選択に迫られるのです。

 けれども、まわりにどんなにたくさん優秀な取り巻きがいようとも、どんなに悩んで頭が真っ白になろうとも、自分で英断を下さなければならないわけです。
 なぜなら、最終的に自分が下した決断の責任をとるのは、自分自身なのですから。

 で、そういうとき、自分なりに考えて行動してきた「いい経験」をたくさん積んだ人の方が、悔いのない「いい決断」を下せるのではないかと思うのですよ。
 だって、あとになって悔いが残るなんて、一番イヤなことですものね。

 ま、そんなわけで、話がずいぶんとそれてしまいましたが、お次は、またまたシリコンバレーにやって来たオバマ大統領のお話をいたしましょう。


<いらっしゃいませ、オバマさん!>
 今回のオバマ大統領のシリコンバレー訪問は、今までとちょっと違っていたのでした。ひとつに、シリコンバレーを目指してやって来たことがあります。

 そう、今までは、サンフランシスコ空港に降り立ち、サンフランシスコ(の金持ち宅)を経由してシリコンバレーにやって来ていたのですが、今回は、ずばりモフェットフィールドに降り立ち、お泊まりはサンノゼ。

 モフェットフィールド(Moffett Field)というのは、昔の海軍飛行場が民間に一部開放された飛行場で、近くのグーグル(Google)やちょっと北のオラクル(Oracle)のお偉いさんたちがコーポレートジェット機で離着陸するだけでなく、NASA(米航空宇宙局)のエイムズ研究所(Ames Research Center)という宇宙開発基地のある、広大な敷地なのです。

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 シリコンバレーを南北に走る幹線フリーウェイ101号線を運転していると、なんだか「かまぼこ」みたいな建物が見えてきますが、これはモフェットにある名物建造物「ハンガーワン(Hanger One)」で、1930年代、海軍飛行船のためにつくられたでっかい空洞の建物です。
(今は、アスベストの除去作業中で骨組みが見えているのですが、お金がなくて壁を張り替えられないのです!)

 というわけで、9月25日の日曜日、わたしは朝からソワソワしていました。だって、モフェットフィールドは近い。しかも、日曜日なので、道は混んでいない。だったら、オバマさんの大統領専用機「エアフォースワン(Air Force One)」が見たいではありませんか!
 

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 そこで、モフェットフィールドのフェンスに張り付いて待っていたのですが、午後4時55分の着陸時刻を30分過ぎて、ようやくエアフォースワンの登場です。北のワシントン州シアトルから飛んで来たわりに、意外にも南西の方角から厚い雲を割って現れました。
 この日は、珍しく雨もよいの天気で、黒雲を背にライトがこうこうと輝いています。そして、尾翼には誇らしげにでっかい星条旗。
 いえ、ほんとに、今までこんなに飛行機がかっこ良く見えたことはありませんよ。

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 さすがに空軍のパイロットらしく、ものすごく急旋回して滑走路に降り立ったのですが、民間の飛行場とは違って、もうもうと土煙を上げるタッチダウンでした。

 このあと、オバマさんは、セキュリティーソフトウェア・シマンテック(Symantec)の会長ジョン・トンプソン氏宅と、ソーシャルネットワーク・フェイスブック(Facebook)のCOO(最高執行責任者)シャール・サンドバーグ氏宅を訪れ、選挙資金をがっぷりと募られたのでした。

 サンドバーグ氏宅の晩餐会は、ひとり3万6千ドル(約275万円)だったそうですが、参加者には歌手のレディー・ガガさんがいらっしゃったとか! 「特別出演」ではなくて、ちゃんと自分でお金を払われたそうですよ。

 翌朝、大統領はモフェットフィールド近くのコンピュータ歴史博物館(the Computer History Museum)を訪れ、市民が参加するタウンホールミーティングが開かれました。

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 主催は、プロフェッショナル向けのソーシャルネットワーク・リンクトイン(LinkedIn)。今回の議題は、経済回復と雇用創造に特化したものだったので、主催者としてはまさにぴったり。
 だってリンクトインは、自分の履歴書を堂々と掲載し、友人・知り合いのネットワークを利用して、より良い職を探すというソーシャルサイト(世界会員数1億2千万人)。
 職探し中の会員からも、オバマさんに対する質問事項がわんさと寄せられたのでした。

 4月にもシリコンバレーのフェイスブック本社でタウンホールミーティングが開かれましたが、今回は、それよりももっと面白い討論会となりました。
 それは、先日、オバマさんが雇用創造法案(the American Jobs Act)を発表し、その中に盛り込まれた増税案が「金持ちを標的とし、階級間の戦争(class warfare)をしかけるもの」と共和党陣営の怒りを買っているからです。

 「いよいよ正体を現したか、オバマめ!」と、共和党大統領候補者たちと矛先を交える展開となっているのです。
 

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 リンクトインとホワイトハウスのウェブサイトでストリーミング中継された討論会は、型通りの質疑応答から始まります(左は、モデレーターを務めたリンクトインCEOジェフ・ウィーナー氏)。
「今、我々にできることは、雇用創造法案を議会に通させること」「高齢者を守る社会保障制度(Social Security)や医療補助(Medicare)は絶対になくしたりはしない」「今までアメリカ経済を支えてきた小規模ビジネスへの優遇に努める」と、基本的な話題から押さえていきます。

 けれども、その後は、終始リラックスしたオバマさんのほんとの言葉が聞けたような感じがしました。

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 たとえば、今は職探し中のシカゴのエスターさんには、「提案中の雇用創造法案では、雇い主は雇用の際、失業中の人を差別できないようにしようとしている。それと同時に、あなたが今できることは、可能な限りスキルをシャープに保つこと」と励まします。
 

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 23年勤務した空軍を退役したウェインさんには、「退役軍人が実社会に復帰するのは難しいが、軍隊で培ったスキルに対して資格認定制度を設けようと、国防総省と退役軍人省で検討している」と答えます。

 リンクトイン会員から寄せられた教育に関する質問には、こんな具体例を出します。
「今、IBM(本社ニューヨーク州)は、ニューヨークの普通の公立学校と協力して、生徒たちの学ぶ意欲を伸ばそうと務めている。その後、条件が合えば生徒たちを自社で採用する計画でいるのだが、これは、4年制のエリート校を出なくても道は開ける証となる」と、教育の機会の大切さを示します。
 

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 22年務めたITマネージメント職を失ったロバートさんに対しては、「あなた自身が悪いわけではない。今は、アメリカ経済全体が、そして世界経済全体が問題を抱えている時期。今、わたしがやらなければならないことは、少しでも早く経済を回復させること」と、暖かい励ましの言葉をかけるのです。
 

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 (グーグルと思われる)IT企業で財を築き、今は自分の選択で失業している(unemployed by choice)ダグさんからは、「どうぞ税金を上げてください」という意見が飛び出し、会場はざわつくのですが、これにも落ち着いて対応します。
「アメリカが今まで成功した理由は、教育にインフラにきちんと投資してきたから。これからも、誰かが子供たちに教育にテクノロジーに投資しなくてはならない。お金持ちを標的にするわけじゃないけれど、誰かがやらなくちゃいけないんだ」と、国民の責任感を喚起します。

 今は、1950年代以来、最低の税率にあって、「金持ちはもっと金持ちになる(the rich gets richer)」構造になっているという主張は、オバマさんの根本思想をもっとも正直に表したものでしょう。
 ですから、この討論会でも、リラックスしたやさしい言葉で、わかりやすく説明なさっていたのだと思います。
 

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 オバマさんは、ある意味、ものすごくわかりやすい人物で、自分が信じ切っている話をするときには、やさしい言葉で、誰にでもわかるように説明するのですが、自分が半信半疑だと、言葉も自然と抽象的な観念論になって、途端にわかりにくくなるのです。

 というわけで、「正体を現したオバマさん」が、これからどのように味方を取り戻し、敵と一戦を交えるのかが楽しみになってくるのです。

 だって、オバマさん、自分は他人にはなれないんですよ。フラフラと他人のふりなんかせずに、正直に生きましょうよ!


夏来 潤(なつき じゅん)

 

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