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ウェアラブルとモノのインターネット: それって放送禁止用語?
Vol. 187
ウェアラブルとモノのインターネット: それって放送禁止用語?
今月は、今注目のキーワード「ウェアラブル」と「モノのインターネット」のお話をいたしましょう。
<モノのインターネットって放送禁止用語?>
すでにご存じの方もいらっしゃるとは思いますが、先月中旬、NHKラジオ第一の『ちきゅうラジオ』という番組に生出演いたしました。
この番組は、日本国内と世界じゅうに散らばる日本人をラジオで結び、週末のひと時、一緒に楽しく過ごしましょうよ、という趣向。番組トップの『世界のイチメン』というコーナーでは、現地の新聞で紹介された「注目の一面」を紹介しています。
10分弱の短いコーナーですが、わたしは先月号でもご紹介したラスヴェガスのコンスーマエレクトロニクスショー(CES)を取り上げ、どうしてカジノの街に一気に17万人も集うのか? というお話をいたしました。
ラジオというと、2年ほど前にも FM東京とJFN(ジャパンFMネットワーク)の番組に生出演して、アップルの6代目「iPhone 5」や発表直前の「iPad mini」にまつわる本国での熱狂ぶりをご紹介したことがあるのですが、なにせ、今回は NHK!
ヘマをしないようにと、口から心臓が飛び出すくらいに緊張してしまったのでした。
放送終了後、母や友人からは「わかりやすかったよ」「いつものあなたの声が聞けて嬉しかったよ」と優しい言葉をいただいたのですが、もしも「わかりやすい」と思ってくださったのなら、それは、ひとえに番組担当ディレクターのおかげなのです。
いえ、決してお世辞ではなく、幅広い視聴者に最新技術をわかりやすく伝えるのは、至難の技。文章で読んだり、テレビで観たりするのとは違って、ラジオは聴いているだけなので伝えにくいし、テクノロジーのお話となると、なおさらです。
さすがに NHKの場合は、みっちりと原稿が決まっていて、事前にディレクターの方と内容を煮詰めていったのですが、そのプロセスの中で、いくつか学んだことがありました。
まずは、放送禁止用語。べつに下品な言葉ではなくとも、放送では適切でない表現がかなり存在するようで、「テクノロジーのメッカ」は「テクノロジーの発信地」、「目抜き通り」は「メインストリート」と手直しされました。
そして、禁止ではないけれど避けた表現として、「インターネット」とか「モノのインターネット(Internet of Things)」がありました。
まだまだ発展途上の「モノのインターネット」は、「モノとモノが勝手にやり取りをして、人間のやりたいことを代わりにやってくれる」というのが基本概念。
たとえば、人が外出したら室内の暖房を止めるとか、電気料金の一番安いときに洗濯機を回すとか、雨の日が続いたら芝生のスプリンクラーを止めるとか、事前に人が指示しておいたことを着実にこなしてくれる作業が該当します。
(写真は、サンフランシスコの高層マンションに設置されるグーグル『ネスト・サーモスタット(Nest Learning Thermostat)』。華氏72度に暖房中で、ライフスタイルに合わせて室内の温度調整が上手くなる機械)
ま、誰でもインターネットなら知っているけれど、「モノのインターネット」と聞くと、大きな疑問符が浮かびます。ですから、ラジオ放送の中では「遠隔操作で人間が指示したことを実行してくれる技術」という表現に大変身!
そう、「モノとモノがインターネットと近距離無線通信(Bluetooth、RFIDなど)を経由してやり取り」という部分が「遠隔操作」に化けています。
さらには、「ウェアラブル(wearable computing)」という言葉も避けましたが、わたし自身が提案した「身につけるコンピューティング」もダメで、「身につけるコンピュータ」となりました。
どうやら、「コンピュータ」は大丈夫でも、「コンピューティング」と言った途端に、頭の上を素通りしてしまう恐れがあるのでしょう。
そういった観点から考えると、普段、自分ではわかりやすく書いているつもりでも、なかなか業界の外の方には伝わらないのだなと、大いに反省したひと時なのでした。
<親しみやすいモノとは?>
そして、ラジオ出演を通して、もうひとつ痛感したことがありました。
それは、人にわかりやすく伝えることもさることながら、「モノ」自体が、もっともっと一般の消費者に親しみやすいものでなければならない、ということ。
たとえば、「ウェアラブル」の分野で真っ先に頭に浮かぶのが、アクティヴィティ・トラッカー(活動量計)。
Fitbit(フィットビット)やJawbone(ジョーボーン)が先駆的存在ではありますが、万歩計機能だけではなく、カロリー消費量や睡眠時間・睡眠サイクル、フォーカス度やリラックス度といったメンタル面と、いろんな体の状態を分析してくれる便利なグッズです。
近頃は、データに基づいて「もうちょっと動こうよ」などと簡単なアドバイスもしてくれます。(写真は iFit(アイフィット)の製品各種)
ところが、活動量計を使い始めると、3ヶ月でギブアップしてしまう人がほとんどだとか!
そう、「3ヶ月」というのが鬼門になっているわけですが、その多くは「めんどくさい」「効果が見えない」「がんばったって誰もほめてくれない」と、「どん詰まり感」を彷彿とさせるもの。
ですから、「どん詰まり感」を打破するためには、「こんなことができますよ」という機能の羅列だけではダメ。ユーザにとって何かしら嬉しい「特典」を提供して、「どうしても手放したくないモノ」に変身させなければなりません。
たとえば、仲間内で一週間に歩いた距離を競って「自慢の種」にするのも一案でしょうし、グループ対抗にして、「競争心」をあおるのも一案でしょう。
今流行りの「トレッドミルデスク」(写真)なら、知らないうちに歩数もかさみます。
先月号でご紹介したKolibree(コリブリー)の電動歯ブラシとスマートフォン/タブレット「歯磨きチェックアプリ」のように、子供がちゃんと歯を磨いたら「集めたコインでゲームをゲット!」というのも一案でしょう。
ここで思い出すのが、グーグル『グラス(Glass)』。ウェアラブルの期待の星として2年前に先行販売され、昨年一般販売となった製品ですが、先月中旬「販売中止」宣言がなされました。
販売直後から、サンフランシスコでは「グラス禁止令」が出ているバーやレストランもたくさんありましたし、実際に街中でグラスを装着する人を見かけたのは、個人的には一度きり。
先月、友人はCES会場でグラスを装着したグーグル創設者セルゲイ・ブリン氏のお忍び姿を見かけたそうですが、CES会場のように「ギーク」が集う場所でも、グラスの愛用者は数えるほどとお見受けします。
2年前の年末号でもご紹介した通り、類似する「メガネ型」ウェアラブル製品は、すでに1998年にIBMが発表していたのですが、そのときもダメで、今回もダメな理由は、どんなに技術的発想に優れていようとも「どうしても手放したくないモノ」ではなかったからでしょう。
「めんどくさい」「スマートフォンがあるからいい」さらには「(人に監視されているようで)不気味だ」と、不人気の理由はいくつかあるでしょうが、そういった不満材料を払拭するほど日常に不可欠なモノではなかったし、何かしら得する嬉しい特典もなかった、ということなのでしょう。
「不可欠なモノ」といえば、「陣痛アプリ」をつくった北海道の大学生がいらっしゃいました。
『陣痛ダイアリー』というAndroidアプリですが、陣痛の間隔を計測・記録し、陣痛の間隔が狭まるに従って、冷静な対処をアドバイスしてくれたり、不安になったら病院に手軽に連絡できたりと、出産間近の妊婦さんにとっては、心強いアプリです。
釧路公立大学3年生の土田栞さんが、専攻する医療情報学の授業の延長でつくられたアプリだそうですが、彼女の出身地・白糠(しらぬか)町では、病院に行くのに一時間かかる患者さんも多いのが現状だとか。
そんな環境の中で、少しでも妊婦さんの不安を解消してあげられたら、という熱い想いがアプリ開発につながりました。
実際に、助産婦や看護師の方に意見を聞いて、アドバイスの内容を改善したり、妊婦さんに使ってもらって、改善点を指摘してもらったりと、まさに「草の根」活動によって誕生・成長したアプリなのです。(NHK札幌放送局制作『おはよう北海道』から1月26日全国ニュース『おはよう日本』が紹介)
たとえ特定の対象者であっても、こういったアプリは「手放したくないモノ」の条件を満たすものだろうし、「バージョン2.0」の噂のあるグーグル『グラス』だって、外科医にとっては「学びのツール」として手放せないモノだろうし、だとしたら、もうちょっと分野をフォーカスしてみたらいかがなものでしょうか?
<サンフランシスコからケーブルカーが消えた日!>
というわけで、『ちきゅうラジオ』出演をきっかけに、いろんなことを考えさせられたのですが、第一、自分自身がラジオファンになってしまったのでした。
だって音を聞いていると、だんだんと想像がふくらんできて、目に見えてくるようではありませんか。
土日午後5時からの生放送は、真夜中のアメリカ西海岸で聴くのは難しいですが、録音はネットで聴けるので、近頃は律儀に毎週チェックしています。
すると、2月に入って、べつのディレクターの方からメールがあって、「アメリカらしい音を提案してください」という依頼でした。
土曜日の人気コーナーに『ちきゅう音クイズ』というのがあって、世界じゅうで集めた「音」がいったい何であるか、みんなで当てるクイズ形式になっているのです。
「アメリカらしい」と言われて、瞬間的に「サンフランシスコらしい音」をいくつか連想したので、まとめて4つ提案してみたのですが、そのうち2つについて、実際に音を取材して送ってみることになりました。
そこで、ある晴れた日、サンフランシスコの観光地をめぐろうと、名物のケーブルカーで出かけることになりました。
ところが、普段はケーブルカーが往来するカリフォルニア通りでは、一両も見かけません!
いくら待っても来ないので、ネットで調べると「今日から3日間、ケーブルカーは一部しか運行しません」という異例のニュース。
「おかしいなぁ、線路(ケーブル)工事でもしてるのかなぁ?」と思いながら、べつの路線の始発地パウエル通りに行ってみました。
ここにはケーブルカーの方向を換えるターンテーブルがあり、いつも観光客で賑わっていて、こっちならケーブルカーが発車するだろうと思ったのです。
が、ここにも乗客は人っ子ひとりいないので係員に聞いてみると、「シャトルバスに乗って、ずっと先でケーブルカーに乗りなさい」と教えてくれました。
仕方がないので、観光客の方々と一緒にシャトルバスに乗って、ぐるぐるとチャイナタウンの周辺を走り回ったのですが、瀟洒なホテルの建つノブヒル(Nob Hill)の丘に到達して、はたと事の次第を把握したのでした。
ノブヒルのメインストリート・カリフォルニア通りは、何台ものパトカーでブロックされていて、これでは、ケーブルカーは一両も通れないはず!
そうか、今日は、オバマ大統領がサンフランシスコに到着する日だった!
そうなんです、2月12日、民主党の資金調達と翌日スタンフォード大学で開かれるサイバーセキュリティサミットのため、オバマさんは、夕方5時半に専用機『エアフォースワン』でサンフランシスコ空港に着陸する予定だったのです。
そして、ノブヒルに厳重な警戒態勢がしかれていたのは、ここの老舗ホテル・フェアモントに大統領が泊まるから。(写真は、ケーブルカーが通る普段のカリフォルニア通りとフェアモント)
それにしたって、今はまだ、午後2時。いくら大統領が来るからって、なんだってこんなに早くから「市民の大事な足」を止めてしまうのよ!!
と、ひどく憤りを覚えたものの、空は青いし、シャトルバスからはチャイナタウンの知らない表情を垣間見られたし、間もなく、観光客のみなさんと仲良くケーブルカーに乗り込んで、(短い)乗車を楽しんだのでした。
ゴトゴトとハイド通りを登って、「クネクネ道」ロンバード通りを右手に超えると、丘を下って、間もなく終点フィッシャーマンズウォーフ(漁師の埠頭)です。
ここからは、映画『アルカトラズからの脱走』や『ザ・ロック』で知られるアルカトラズ島の牢獄も見えますし、サンフランシスコ湾をめぐる観光フェリーも出ています。
シーフードスタンドでカニやエビを買って食べ歩きしていると、カモメに狙われるので要注意地点でもあります。
いえ、現地に住んでいると、なかなか名所に立ち寄ることもありませんので、たまには観光気分で街を眺めたり、裏通りをめぐったりするも楽しいものですね。
夏来 潤(なつき じゅん)