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ベイエリアの昼メロふたつ:ハイテクとスポーツ
Vol. 27
ベイエリアの昼メロふたつ:ハイテクとスポーツ
サンクスギヴィングの週末も終わり、いよいよクリスマス商戦に突入した今日この頃です。クリスマスツリーのライティング・セレモニーも連日各地で行なわれ、年末のムードを一気に盛り上げています。先日、国の経済研究所が、"アメリカ経済は既に3月の時点で不景気に入っていた" と正式に発表しましたが、そんなことにはお構いなく、庶民は各々の生活を続けている毎日です。
そんな中、最近ベイエリアで取り沙汰されている、取って置きの話題をふたつご披露いたしましょう。
【その1:ヒューレット・パッカードのコンパック買収劇】
何と言っても、まず筆頭に上げられるのが、HPとコンパックの吸収合併騒ぎです。9月28日掲載の "ヒューレット・パッカードとフィオリナ氏" で、合併話発表直後の市場の冷ややかな反応はご紹介しましたが、実は、この話がまだ延々と続いているのです。と言いますのも、このお話は、HPの株主と米国政府機関やヨーロッパ連合の承認を得て初めて実現するもので、それまでは、いろんな人が自分達の思惑で動き回り、話をややこしくしているからです(ちなみに、合併を決める株主会の日程は、未定だそうです)。
事の発端は、11月6日、HPの創設者であるヒューレットとパッカードの息子達が、合併案への異議を公にしたことにあります。この日、ウィリアム・ヒューレットの息子、ウォルターと、デイビッド・パッカードの息子、デイビッドWは、来るべき株主会では、合併に反対投票すると発表しました。
ウォルターは、合併では株主が必要としているビジネス価値を見出せない、と述べています。HPは、黒字のプリンター部門を初めとして、イメージ、サービス、サーバー部門を強化すべきであって、魅力のないPCビジネスを拡張すべきではないとしています。
一方、デイビッドWは、この合併プランは、従業員の大量解雇に頼っており、このような人を消耗品のように扱うビジネス戦略には賛成できないとしています。また、現HP政権が、今まで培われてきたHP文化を一夜のうちに変えようとしている、と不快感を表しています。
このふたりは、あくまでも個人として意見を発表したわけですが、合わせて7.7パーセントのHP株を持っており、決して無視できない反対勢力です。また、生前創設者が設立した各種の財団は、主にHP株で運営されており、株主としては、大きな影響力を持っているようです。
ヒューレットとパッカード一族が代表運営するこれらの団体は、いずれも態度を保留していますが、特に、HP株の10パーセントを保持するパッカード財団などは、今後の動きが注目されています(この財団は、デイビッドWの妹、スーザンが代表していて、アカデミアや自然保護団体、地域の非営利団体と繋がりが深いようです。今のところ、12人の役員がどう判断するかは、不透明のようです)。
ウォルター・ヒューレットは、既に財務・法的アドバイザーを雇っており、合併に反対投票するよう、株主達にアプローチしているようです。
こういった反対グループの台頭に応戦する構えのHP取締役会も、株主達に合併の正当性を訴えるため、勧誘代理会社を雇い、一歩も譲らない様子です。11月中旬の四半期業績発表でも、期待以上の成績を上げたと市場から評価されており、その勢いに乗り、合併話を一気に進めたいところです。
HP役員の中には、自ら役員であり、7月の取締役会では合併案に合意していたウォルター・ヒューレットに対し、憤懣を抱いている人もいるそうです。2日間の役員会のうち、初日は欠席し、政界・財界の会員制クラブで、クラブのオーケストラ・メンバーとしてチェロにうつつを抜かしていた、といった中傷まで聞かれます(ウォルターは音楽専攻で、日頃もクインテットのメンバーとしてチェロ演奏を披露しているそうです。件(くだん)のクラブでの演奏は、以前から計画されていたことだそうですが、この歴史的会員制クラブが男性のメンバーしか入れないことが、少なからず災いしているのでしょうか)。
ウォルターの心変わりについて、有力ベンチャーキャピタリストのトーマス・パーキンスは、"役員が、自分の最高経営責任者に反旗を翻すのは、非常に珍しい" とし、フィオリナ氏への個人的な攻撃を示唆しています。また、ヒューレットとパッカードが存命だったなら、ふたりとも合併に賛成だったに違いないとも述べています(パーキンスは、VC会社、クライナー・パーキンスの創設者で、現在コンパックの役員を務めています。彼はまた、HPのPC部門、初代の責任者でもあり、ヒューレットとパッカードをよく知る人のようです)。
一方、従業員の立場から見てみると、デイビッドW・パッカードは、現HP社員200人から、賛同の手紙やメールを受け取っているそうで、やはり今までの6千人の解雇や、合併後計画されている1万5千人の解雇が、社内でかなりの反発を生んでいるのは明らかなようです(6千人の中には、28年勤続の後、所属のマーケティング・チームごと無くなってしまった人や、サーバーのチップセットの開発グループにいて、仲間と一緒にインテルに移籍させられた人など、いろいろのようです)。
また、既に退職したOB組も心中穏やかではないようで、この合併騒ぎを、一家の一大事として受け止めているようです。退職者の中には、財産のかなりをHP株で持っている人もいるようですが、そういった経済的要因からばかりではなく、元HP社員としての誇りと憂いから、いやがうえにも論争に巻き込まれていくようです。
最近、政府の監査機関であるSEC(the Securities and Exchange Commission)に提出された合併案の報告書によると、何らかの理由で、HPのフィオリナ氏の雇用が途切れた場合、年棒の2倍の額とボーナス、そして150万ものHP株が、退職手当として彼女に支払われるそうです。同様に、コンパックのカペラス社長にも、17億円相当の退職手当が支給される予定だそうです。
万が一、合併話がお流れになって、ふたりが退陣要求されたとしても、路頭に迷うことがないように計画されているようですが、これには、さすがに巷の一般市民も反感を抱いているようです。
何やかやと、大きく膨らんでいるお話ではありますが、シリコンバレーのロイヤルファミリー対フィオリナ氏率いるHP取締役会の戦いは、まだまだ続きます。乞うご期待です。
【その2:サンフランシスコ49ers】
スポーツであろうと、仕事場であろうと、人が集まれば、必ず合う人と合わない人が出てきます。そんな事は初めからわかりきったことなのに、我慢ができない時があるようです。
フットボールチームのサンフランシスコ49ersの場合、始末の悪いことに、これがヘッドコーチとスター選手の間に起こりました。日頃から、何となく馬が合わないふたりですが、先日、それが世間の知るところとなり、国中のスポーツニュースの話題となってしまいました。
事の起こりは、10月28日の対シカゴ・ベアーズ戦です。残り3分で15点リードしていたのに、みるみる同点にされ、延長戦にもつれ込みました。ラッキーな事に、先に攻撃権を取ったのですが、スター・レシーバーのテレル・オーウェンズがパスを落っことし、それを拾った敵がエンドゾーンにタッチダウンしてしまい、試合終了となりました。何でも、NFL史上、一番短い延長戦だったとか。
試合後、オーウェンズは、自分のミスを責め、かなりしょげ返っていたようですが、それとともに、ヘッドコーチ・マリウチ氏への不信感をあらわにしました。彼の後半の采配が生温かったし、第一、自分のお友達であるベアーズのジュロン監督に遠慮していた。チャンピオンになるためには、そんな感情を持っちゃいけないよ、というものです。
これを聞いたマリウチ氏は、かなりカチンと来たようで、"今まで聞いた中で、一番アホくさい言い分だ" と反論しました。"ミスター・ナイスガイ" で知られる彼もさすがに我慢できず、報道陣にこう暴露してしまったようです。
これを喜んだのは勿論マスメディアで、それから2,3週間、49ersと言うとこの話題になり、火に油を注ぐような状態でした。ファン達は、今後の事を考えると心配になってくるし、新聞には、"ちゃんとふたりで話し合ってよ" という、精神科医やカウンセラーのアドバイスまで載る始末です。
でも、この大人気ないふたりも、フィールドに立つと豹変するようで、マリウチ監督は冷静に自分のスター選手を使っているし、オーウェンズもその期待に答え、いつもの通り、クウォーターバックのジェフ・ガルシアの長いパスを受け、ファン達を魅了しています。その後4つの試合は全部勝っていて、このまま行くと、スーパーボウルも夢ではないかも、と言われています。
ピーチクパーチクやっていても、やる時はやるのがプロなのです。これはまた、アメリカ人の特質とも言えるかもしれません。
ところで、ついでにもうひとつ。先述のテレル・オーウェンズは、フットボールリーグの中でも際立った名選手であることは、間違いありません。でも、今の49ersの好成績に同じくらい貢献しているのは、ラニングバックのギャリソン・ハーストです(RBは、ボールを持って走ったり、パスを受け取って走ったりと攻撃の要とも言えるポジション)。ウェストコースト・オフェンスと言われる、レシーバーへのパスを重点的に採る49ersの攻撃パターンの中、彼は足で稼ぐオフェンスに貢献し、チームとしての攻撃ヤードをぐんぐんと引っ張っています。
そんな名選手は他のチームにもいるのですが、彼が他と違うところは、1999年の1月、人工芝のアトランタ・ファルコンズのドームで左足首を複雑骨折し、再起不能どころか、歩くことさえできないとまで言われていたことです。1999年と2000年のシーズンを棒に振り、その間、5回の手術とリハビリを乗り越えての今シーズンの復帰でした。
血液が骨にうまく行き渡らないため、かかとの骨がぼろぼろと朽ちていた状態だったそうで、普通の人なら、そこで何もかも諦めてしまうところです。でも、彼は復帰を目標に、黙々と治療とリハビリとトレーニングに専念してきたようです。敵をかわしての瞬発力は目をみはるものがあり、けがをする前よりも調子がいいのかも、というスポーツキャスターのコメントすら聞かれます。
そういう彼は、チームメイトだけではなく、NFL全体の元気の源ともなっているようです。
夏来 潤(なつき じゅん)