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キャリアウーマンと出産:州知事だってママになります
Vol. 14
キャリアウーマンと出産:州知事だってママになります
4月10日、アメリカ史上初めて、妊娠した女性が州知事となりました。圧倒的に民主党支持のマサチューセッツ州で新しく職に就くのは、共和党のジェイン・スウィフト氏、36歳です。ボストン近郊などハイテク産業のメッカを抱えるマサチューセッツ州で、女性の知事が誕生したのは、歴史上初めてのことだそうです。また、現在任期にある州知事の中では、一番若いそうです。彼女は今まで副知事の職を務めており、カナダ大使として新たに任に就いたセルッチ州知事の後を継ぐ形となりました。
別に、女性だろうと、州知事として若年だろうと、普通ならあまり話題にのぼらなかったかもしれませんが、彼女の場合、6月に双子を出産予定であること、2歳半の女の子の母親であること、そして、若い頃から政治の表舞台にいたことが手伝って、何かと州民や報道陣の関心の的となっているようです。副知事時代、職場外で側近を娘のベービーシッター代わりに使ったとか、サンクスギヴィングに自宅へ帰る際、州のヘリコプターを使用した、など "問題" を起して話題となりました。ベービーシッター騒ぎの方では、その無作法な行為に対し1250ドルの罰金を支払ったらしく、そんなこんなで、支持率は必ずしも芳しくないらしいです。
マサチューセッツには州知事公邸がないため、オフィスには3時間離れた自宅から通いますが、遠距離通勤にもめげず、今のところ引っ越す予定はないそうです。また、今後は夫のチャールズ・ハント氏が、家にいて子育ての責任を持つそうで(a stay-at-home dadという言葉で表現されます)、伝統的な責任分担とは違う家庭生活を送ってはいますが、知事としての責任は充分果していく決心のようです。必要とあれば、産後のベッドの中からも指示を出す決意のようです。
このスウィフト州知事もいい例ですが、アメリカでは昨今、30代、40代で初めて子供を持つ女性が増え、出産に関する常識を変えつつあります。ちょっと驚くことに、マサチューセッツ州では、国内で初めて、30歳以降の女性の出産数が30歳未満の出産数を追い抜いたそうです。最新の1998年の統計によると、この年母親になった人の53%は30歳以上で、その中の6%は40歳以降の出産だそうです。20年前は、30歳未満の母親は、年上組の3倍はいたそうですが、今はそれも昔話となってしまいました。
このマサチューセッツ州で特に女性の出産が遅いのは、まずひとつに、高学歴のキャリアウーマンが多いからといいます。ボストン界隈には、ハーバード、MIT、ボストン大学などの名門校があり、卒業後も地元のハイテク、バイオテック産業の企業や医療関係の職場に勤める女性も多いようです。こういったキャリアウーマン達が子供を産むのは、必然的に普通より遅くなるようです。また、この州では国内でも珍しく、不妊の治療に対し保険が効くそうで、これが医学的な面で、遅い時期の出産を大きく助けているようです。その他、離婚率の高さやそれに続く再婚率の増加を、この出産遅延傾向と結びつける専門家もいます。
ご存知の通り、母親があまり若くないということで、出産に関するリスクは当然増えます。流産の危険性は高くなるし、早産のため赤ちゃんの発育に支障が出る場合もあるし、遺伝的な問題、たとえばダウン症などを起しやすくもなります。しかし、若い母親に比べ、無理をしないし、ちゃんとお医者さんの言うことを聞くし、また既婚者の率が高く、高学歴で高収入、といった出産のリスクをオフセットする要因も多々あるようです。興味深いことに、不妊治療をしない状態でも、30歳以降の出産では双子、三つ子などの率が高くなるそうで、これに不妊治療の影響が加わり、全国的に複産が急増しているということです。
ところで、比較的年齢を加えて親になるのは、何も女性ばかりではなく、カリフォルニアでは、政界の熟年男性の赤ちゃん誕生がちょっとした話題になっています。サンフランシスコのブラウン市長は、4月上旬67歳でまたパパになりました。フリーモント市選出の連邦下院議員スターク氏、69歳には、8月に双子が誕生するそうです。ブラウン市長の場合は、自分の補佐を勤めていた女性が母親となっているので、それも原因となっているのでしょうが、この熟年パパ達に対し、眉をひそめる人も少なくないようです。
たとえばハリウッドなどでは、昔から熟年パパの例はたくさんあるようです。チャーリー・チャップリンは73歳で息子ができたし、以前カーメル市の市長も勤めたクリント・イーストウッドには、66歳で女の子が生まれました。昨年、美人女優との間に男の子ができて話題になったマイケル・ダグラスは、55歳で父親となりました。
しかし、これはハリウッドや政界での話であって、もし身近にそのような話が出てきたら、ほとんどの人は拒否反応を示すそうです。リベラルそうなアメリカ人にしても、やはり世間の常識から照らすとこれは間違ったことに映るようで、"もう充分おとなの息子や娘達がいるのに" とか、"子供のキャッチボールの相手をしたり、結婚式に出たりできないかもしれない" とか否定的な意見が多いそうです。正直な子供達に至っては、熟年パパを持つ同級生に向かって、"どうしておじいちゃんが学校に送ってくれたの?" などと尋ねるそうです。
しかし、悪い面ばかりとは限りません。若い男性に比べ、いろんな意味で忍耐強いし、金銭的に安定しているし、過去の子育ての失敗からいろいろ学んでいるかもしれないし。また、初めて父親になる熟年男性は、若い人より子供を持つことを楽しみしていて、生まれてからも、一緒に遊んだり、面倒を見たりといい父親になる、という専門家もいます。ほとんどオフィスで寝起きしているようなシリコンバレーの若いパパ達を考えると、比較的時間を作り易い熟年パパ達も、決して悪くないのかもしれません。
このように、アメリカの出産に関しては、生む側も生んでもらう側もかなり多様化してきて、特に都市部では、今までのクッキーカッター的な(紋切り型の)常識が、急速に変わりつつあるように見うけられます。それにしても、州知事が出産間近と言うだけで、その一挙手一投足が吟味されるというのは、まだまだフェアさに欠ける証拠かもしれません。
最後に、まったく蛇足ではありますが、親権に関して奇妙な実話をひとつ。マサチューセッツ州のある男性が、州の最高裁判所から命令を受けました。四の五の言わずに、子供の養育費を、彼女が18歳になるまで払い続けなさいと。
彼は18の時に、この子の母親から "これは、あなたの赤ちゃんよ" と言われ、疑いもせず、父親として州に届出をしました。養育費(child support)として給料の4分の1を払い、赤ちゃんを定期的に尋ね、パパの役も立派にこなしてきました。子供が5歳のとき、"あの子、あまり似てないわね" という彼の母親の勧めでDNA親子鑑定をしてもらった結果、彼は父親ではないことが判明しました。
もう養育費は払う必要はないはずだと訴えた彼に対し、州最高裁は、"父親であると認めることは、永久的な影響が伴うということを理解しているべきだった。父性(paternity)を問うのには、遅過ぎる" として、あと9年間養育費を支払い続ける命令を下しました。彼はお陰で、薄給の半分は養育費と税金に持って行かれ、お金がないので、未だに両親の家から出ることができないそうです。
マサチューセッツ州最高裁は、他の州にも幾多の前例があると、バーモント州、フロリダ州、メリーランド州の同種の判決例を挙げたそうですが、18歳の男の子には、あまりにも重すぎる決断を強いられていたようです。
ちなみに、子供の母親については、裁判所からは何もお咎めなしだったそうです。
夏来 潤(なつき じゅん)