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その後:世の中いい事ばかりとは限りません
Vol. 13
その後:世の中いい事ばかりとは限りません
今回は、今まで話題にしてきたものの総括として、その後どうなっているかをかいつまんでご報告しようと思います。
【3月19日掲載、"Naming Rights:スタジアムの名前を替えるな!"】
その1:市民の反対もむなしく、3月27日、サンノゼ・アリーナに民間企業の名前が付き、コンパック・センター(at サンノゼ)となりました。この晩、サンノゼ・シャークスのアイスホッケーの試合では、"コンパック・センター" とアナウンスが流れるたびに、ファン達からブーイングの嵐が起こりました。しかし、一番派手に態度に示したのは、サン・マイクロシステムズ社(Sun Microsystems, Inc.)の会長兼最高経営責任者、スコット・マクニーリーでした。家族とリンクサイドで観戦していた彼は、最初に "コンパック・センター" とアナウンスされるやいなや、皇帝ネロのような威厳で親指を地面に向け、"ダメだ" という意思表示をし、ファンたちのブーイングに油を注いでいたとか。
彼も不愉快だったとは思いますが、競合会社の会長だけではなく、まるで敵が乗り込んできたような勢いでブーイングするファン達の前でアナウンスする側も、相当やりにくかったと思います。ファン達は今後、"シャーク・タンク" という昔からのあだ名で応戦するようですが、それにしても、どうしてテキサスの会社の名前が選ばれたのか、謎は残ります。
その2:4月第1週、アメリカでもプロ野球が開幕しましたが、今シーズンは各チーム、選手の年棒高騰でさらに頭を悩ましそうです。メージャーリーグの半分の選手が、年棒百万ドルを超え、今やリーグの平均年収は2百万ドルを突破しました。テキサス・レインジャーズのショート、ロドリゲス選手は、10年契約で2億5千万ドル、とひとりでこれに大きく貢献しています。チーム別に見ると、ワールドシリーズ覇者のニューヨーク・ヤンキース、野茂のいるボストン・レッドソックス、そしてロスアンジェルス・ドジャースが懐の大きい上位3チームだそうです。
1960年代後半と比べ、消費者物価指数は4倍にしかなっていないのに、メージャーリーグの平均年収は120倍にもなっているとか。今後、球場の名前だけではなく、売れるものは何でも売りに出されるかもしれません。
【4月2日掲載、"ナスダック:鬼より怖い除名処分"】
その1:ベイエリアのドットコム会社で、ナスダック除名処分の危機に瀕していた車販売のAutoweb.com社は、願いが叶って、業界最大手のAutobytel.com社に買収されることになりました。こういうビジネス状況下で買い手がついたのは、大変幸運なことと言えます。
既に除名処分を受けていたオンライン薬局、PlanetRx.com社は、コスト削減や経営方針転換の努力もむなしく、積み重なる負債を返済するため、会社の資産をすべて処分する決断をしたそうです。
一方、3月上旬店じまいしたオンラインおもちゃ屋、eToys社は、資産売却がなかなかはかどっていないようです。子供向けの本の出版社としては世界で一番大きいScholastic社が、eToys社の資産を一括して受け継ぐ権利をオークションで勝ち取っていましたが、最後にしりごみしてしまったようです。この会社は、自分達でおもちゃのWebサイトを立ち上げる計画を持っていますが、eToys社の在庫はそれに不適切と判断したそうです。
最近は、ドットコム会社の資産処分のオークションが流行っていて、真新しいコンピュータやオフィス調度品に限らず、ロゴ入りのペンに至るまで再利用されているようです。シリコンバレーの倒産会社を専門とするオークション会社によると、以前は月に2回くらい主催していたオークションも、今は月に10回以上を数えるそうです。おもちゃの在庫は、やはりおもちゃ屋さんが引き取るべきなのでしょうが、個人消費者向けのオークションというのも、なかなか楽しそうな気がします。
その2:昨年11月に閉店した、犬のパペットで知名度抜群だったオンライン・ペット用品店、Pets.com社ですが、この会社が使っていたサンフランシスコのオフィスビルに、入居者が現れたそうです。Webサイトの海外展開を手助けするeTranslate社という会社ですが、入居に先立ち、オフィス全体の悪霊払いをしたそうです。と言っても、映画"エキソシスト"のように、カトリックの神父さんを呼んだわけではなく、サンフランシスコらしく、中国の新年に店先を廻るライオンダンス(獅子舞)のチームがオフィスを練り歩き、景気付けをしたそうです。
社長さん曰く、"別に、迷信を信じているわけではない" そうですが、彼女のオフィスは、Pets.com社の社長が座っていた場所の反対側の角にするそうです。"これは、単なる偶然" だそうですが、どこの国にいても、商売に縁起担ぎは付き物です。
【2月16日掲載、"エネルギー問題:今いったい何が起きているの?"】
その1:日本でも報道されている通り、北カリフォルニア最大のエネルギー供給会社、PG&E社が、いよいよ会社更生法(Chapter 11)の適用を裁判所に申請しました。今のところ電気やガスは止まってはいませんが、頼みの綱である太平洋岸北西部の水力発電量は充分ではないし、建設中の発電所は間に合わないし、暑くなり始める5、6月あたりに、大幅な電力不足になると予測されています。PG&E社がお金を払ってくれないので、操業できない小型発電会社もあるそうで、電力不足に拍車を掛けている状態です。電力が一番安いこの時期に、州は過去3年平均の10倍で購入しているそうで、今後、消費者への請求額は、いったいどのくらいまで膨らむのか誰にもわかっていません。
この危機的状況の中で、甘い汁を吸っている民間エネルギー会社に加わり、ロスアンジェルスの水道・電力局や連邦政府管轄の電力管理局が、スポット市場で莫大な利益を上げている事実が暴露されました。ブッシュ大統領も自分を嫌いなカリフォルニアには冷たい態度ですし、いったい誰が消費者の味方をしてくれるのか教えてほしい今日この頃です。
その2:この夏、電力不足による地域移動型停電(rolling blackouts)はカリフォルニアの常識となるようですが、警察や消防署など、住民の生活に不可欠なものはこれから除外されています。一部の病院が例外扱いされていないことで、ちょっと問題になったりしましたが、国民的スポーツが行なわれる野球場といえども、特別扱いは許されていません。サンフランシスコ・ジャイアンツの球場では、試合中停電が起きて支障が出た場合は、みんなおとなしく待つか、雨天延期のルールで後日試合を再開するそうです。
"カリフォルニアの人間は、電力は壁の電源アウトレットからいくらでも出てくると思っている" と連邦議会の保守的議員から揶揄されていますが、カリフォルニアの人間に限らず、工業社会の住人は頭のどこかでそう思っているのではないか、という気もします。
夏来 潤(なつき じゅん)