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緑の3月: 国民の怒りと懐ぐあい
Vol. 116
緑の3月: 国民の怒りと懐ぐあい
春分の日を過ぎると、さすがに一段と暖かくなってきました。大地は雨で潤っている頃だし、天からは明るい陽光もふりそそぎ、シリコンバレーは輝くような緑に包まれています。
そんな気持ちのいい緑の3月は、まずは、「グリーン」なお話から始めましょう。グリーンと申しましても、環境の話ではありません。ちょっと世知辛い話題も出てきますが、今のアメリカ国民の心のうちを表すお話となっております。
<グリーンが残ってない!>
先日、3月17日は「セント・パトリックス・デー(St. Patrick’s Day)」でした。この日は、もとはアイルランドの守護聖人・聖パトリックを祝う日なのですが、アイルランド系移民の多いアメリカでも、「アイルランド人に見習って、お酒がたくさん飲めるぞ!」と、飲ん兵衛さんたちには大変な人気となっております。
みなさん、この日は「一日アイルランド人」になって緑色(グリーン)の服を着るお約束となっているのですが、今年はこんなジョークを耳にしました。
セント・パトリックス・デーだといっても、今年はちょっと違うよね。だってみんな(の懐には)グリーンが残っていないんだもん(Nobody’s got any green left)。
そう、ここでの「グリーン」は、緑色ではなく、「お金」という意味ですね。みんな懐が寂しいから、せっかくのセント・パトリックス・デーだってなかなか楽しめないよね、という皮肉を込めたジョークなのです。(お金の俗語はたくさんありますが、アメリカの紙幣、とくにその裏側が緑色のところから、「グリーン(green)」とか「グリーンバック(greenback)」というのは最もポピュラーなものですね。)
そんな「グリーン」に関して、世知辛いお話をひとつ。アメリカの失業率は、2月末の時点で8.1パーセントだったそうです。今は職探しはしていない潜在的な失業も入れると10パーセント、そして、パートタイムから正社員になりたい人も含めると14.8パーセントであると、米労働省が発表しています。
これは、前回、前々回の不景気(2001年、1991年)よりも悪く、大恐慌以来最悪といわれた、1981年から翌年の不景気に追いつくほどの勢いなのだそうです。
けれども、トレンドとしては、今年1月から2月にかけて月間の失業件数が増加していないので、少なくとも雇用に関しては、もうそろそろ最悪の時期を通り越した頃かもしれない、と希望的観測をするアナリストもおりました。
ところが、3月も終わりに近づいてくると、「やっぱり3月も失業件数は減っておらず、国全体の失業率は8.4パーセントに増えそうだ」という予測が聞こえ始めました(これは、ちょうどドイツやフランスの失業率と同じくらいです)。
オバマ大統領自身も、職を失う人はさらに増加するだろうと述べていますし、今年の終わりには、失業率10パーセントを超えているのではないかという見方をするアナリストも多いようです。
「住宅バブル(Housing bubble)」に乗って建築ブームを享受していたカリフォルニアやネヴァダやフロリダは、これまでどっさりと職を失ったわけですが、そんな風に金融危機の荒波をもろに受けた建設、製造、小売り、サービス業の雇用状況が一段落するまでは、失業率の増加には歯止めがかからないのでしょう。
テクノロジーのメッカ、シリコンバレーも例外ではなくて、2月末の時点で、失業率はすでに10パーセントとなっているそうです。わずか一年前には5パーセントだったことを考えると、昨年9月の「リーマンショック」は、この豊かな谷間にも確実に暗い影を落としています。
ちょっとびっくりではありますが、今は、10年前の「インターネットバブル(Dot-com bubble)」がはじけた頃よりも悪いのだそうです。
そんな良からぬニュースに加えて、「インターネットバブル」「住宅バブル」と来た次は、「国債バブル(US Treasury bubble)」なんて嫌な言葉も聞こえています。
なんでも、今は投資家が株式市場に投資するのが恐いので、米財務省が発行する短期証券やら中期・長期債券が大人気なんだそうです。だっていかに危なくても、アメリカ政府は倒産したりしないでしょう。
そんなわけで、財務省がオークションを行うと、買い手が殺到し、高い値(なおかつ低い利回り)でも債券が飛ぶように売れるんだそうです。額面の3倍近くに値が跳ね上がることも珍しくありません。これを称して、すでにバブルがふつふつと湧いているという人もいます。
ところが、しょせん債券は国の借金。オバマ大統領の経済刺激策が功を奏して経済が上向きになれば、投資家は株式市場に戻り、国の債券には見向きもしなくなる。だって国債は安全だけど、投資リターンは低いのですから。
すると、国はお金を調達するのが難しくなって、国債の利率を上げる。それでも足りないと、造幣局で紙幣をどんどん印刷する。もともと悪化した経済では、税金による国の収入も少ないのですから、他に手がないのです。すると、世の中は逆にインフレになって、経済の回復がさらに遅れる・・・という悲観的なシナリオを書く人もいるようなのです。
(現に、3月下旬、連邦準備理事会は、住宅ローンの利率を下げる狙いで金融業界や政府系住宅金融機関に資金を投入する計画なので、新たに1兆2千億ドル(約118兆円)分を印刷すると発表しています。これですぐにインフレになる懸念は少ないそうですが。)
皮肉なことに、過去のバブルが自由放任型資本主義(laissez-faire capitalism)の生んだ人間の「貪欲さ」によるものに比べて、今度の国債バブルは人々が経済状況に抱く「恐怖感」に根ざしたものなんだそうです。
バブルに学んで人が正直になったとしても、やはりバブルからは逃れられないということなのでしょうか?
まだまだ世の中は混沌とした状態にありますが、来年のセント・パトリックス・デーには、みんなでグリーンを着て(グリーンを懐に入れて)、アイルランド名物のギネスビールで乾杯しながら、心の底から楽しめるようになればいいと願うこの頃です。
<怒れ、オバマ氏!>
お次は、大統領就任後、注目度満点の「最初の100日間(The First 100 Days)」を過ごしているオバマ大統領のお話です。
就任わずか一月半後の3月初頭、NBCのパロディー番組『サタデーナイト・ライヴ(Saturday Night Live)』では、こんな一コマがありました。
場所は、ホワイトハウス。登場人物はオバマ大統領と大統領首席補佐官のラーム・エマニュエル氏、そして、オバマ大統領には敵対心を抱く共和党議員の面々。
共和党議員たちは、チクチクと大統領を責めるのです。「(莫大な額の経済刺激策に2010年度予算案と)あんたのやってることは、金をどんどん使うだけで、まるでなってないじゃないか。アメリカは社会主義じゃないんだから、銀行に加勢なんかしないで、自分たちの始末は自分たちでつけさせろ・・・うんぬんかんぬん。」
それを聞いていたオバマ大統領は、なんとも涼しい顔。表情ひとつ変えません。
すると、共和党議員たちは、いよいよ調子に乗って、ますます毒づく。
それを脇で聞いていたエマニェル氏は、心中こう叫ぶのです。
「怒れ〜、怒れ〜、どんどん怒れ〜、オバマ氏!(Get angry, get angry, Obama!)」
すると、さすがに堪忍袋の緒が切れたオバマ大統領は、見る見るうちに大きくなって、シャツははじけ、ズボンはちぎれ、表情も険しい「ザ・ロック・オバマ(The Rock Obama)」に変身するのです!(いうまでもなく、ザ・ロック・オバマというのは、英語の発音のバラック・オバマの韻を踏んでいますね。そして、ザ・ロック・オバマに扮するのは、元プロレスラーで今は映画俳優の「ザ・ロック」ことドウェイン・ジョンソンさんです。)
すっかり表情の変わった正義の味方ザ・ロック・オバマは、次から次へと共和党の連中を窓からポイッと放り投げ、最後に残ったマケイン上院議員(オバマ氏が大統領選で対峙した共和党候補者)は、「あ、そろそろ退散しようかな」と、あわてて席を立つのです。
それを脇で見ていたエマニュエル氏は、「いいぞ、いいぞ」と、満足そうにほくそ笑む・・・・・
というのは、実は、エマニュエル氏の白昼夢だったのでした。
このパロディーが実に良く表しているのですが、オバマ氏はずっと、「絶対に怒らない、クールな人物」と評価されておりました。ニューヨーク・タイムズ紙のトーマス・L・フリードマン氏も、彼のクールさは好きなんだけれど、どうもクール過ぎて、わざと自分と世の中の問題に距離を置いているようにも見える、と述べていらっしゃいました。
わたし自身は、今のご時世、その冷たいまでのクールさが大統領には求められていると思うのですが、実は、オバマ氏は、過去に一度だけ「怒った」ところを目撃されているのだそうです。
それは、彼がまだ大統領候補者のとき。遊説のために全米各地を行脚した際、演説用のテレプロンプト(画面に台本が出てくる仕掛け)の調子が悪くて、思うように演説がうまく運ばなかったというハプニング。その直後、舞台裏では、側近を怒鳴りつけているオバマ氏が目撃されたのだとか。
オバマ氏は、演説を原稿通りに忠実に読むタイプの政治家で、彼がしゃべる内容は、演説台の左右にある防弾ガラスに仕組まれたテレプロンプトに一字一句もらさずに出てくるそうです。彼が演説をするときに、右、左と交互に脇を向くのは、防弾ガラスのある場所を見ているのですね。
良い悪いは別として、これはオバマ大統領が言葉の一つ一つをとても大事にしていて、間違いのないように正確に演説したいという願いの現れなのですが、その原稿はスピーチライターが書くものの、自分で真っ赤になるまで添削して突っ返すそうです。そうまでして準備した演説ですから、テレプロンプトが動かないなんて稚拙な問題は、彼にとっては許せないのですね。そして、それが珍しく怒りとなって噴火した。
そんな風に、過去に一度だけ怒りをあらわにしたオバマ大統領ではありますが、先日、さすがに怒ったことがありました。そう、すでにご存じの通り、政府が援助している保険会社AIGが、1億6千5百万ドル(約162億円)のボーナスを社員に支払うという問題で。
このボーナスは、もとはといえば昨年春の社員契約の中に明記されていたもので、連邦議会や財務省の役人だって知っていたはずのことなんだそうです。けれども、お偉いさんたちは、ボーナスの支払い期限が迫るまで何もしていなかった。そこで、支払い当日になって、ガイトナー財務長官がAIGのトップに電話して「止められないのか」と打診したけれど、時すでに遅し。「今ボーナスをストップすれば、契約違反で政府は訴えられることになる」と、AIGのリディー氏は脅しをかける。そして、その日のうちにボーナスは支払われる、といった概要ですね。
ある晴れた日曜日、ガイトナー財務長官とリディー氏のやり取りを新聞で知ったわたしは、その日一日プンプンと怒っておりました。だいたい政府が1820億ドル(約18兆円)もの資金を投入してAIGの8割を所有しているのに、どうして国の言うことが聞けないのよ。どうして「訴えられるもんならやってみろ」と、ガイトナー氏はつっぱねなかったのよ。もうこうなったら、100パーセント課税しかない!と。
まあ、わたしが怒ったくらいですから、それはもう世の中のみんなが怒っているも同然。街ではシュプレヒコールが上がるは、レストランの隣の席からは「ふん、AIGめ」という毒舌が聞こえてくるはで、その週は騒然としたものでした。
そして、ついにクールなオバマ氏も怒りました。記者会見の際、AIG問題について尋ねられ、ゴホッと咳をしながら「怒りでむせかえってしまったよ(I was choked with anger)」と、冗談とも本気とも取れないような怒りを見せたのです。
ボーナスは法的には許されることであったとしても、モラル・道義的には間違ったことであると。
その3日後、歴代の現職大統領としては初めて深夜コメディー番組に出演したオバマ大統領は、ホストのジェイ・レノーさんの質問に対して、「怒りというよりも、唖然としてしまったね(I was stunned)」と答え、怒りは若干トーンダウンされたものになっておりました。(写真は、3月19日放映のNBCの『ジェイ・レノー・ショー(The Tonight’s Show with Jay Leno)』より)
ま、ここで難しいのは、大統領としてどんな反応をするかですよね。問題が発覚したときには、怒りを見せないと国民に対して示しがつかない。自分はこの問題にはまったく関与していないことを明示するためにも。けれども、あまり継続して怒りを見せていると、国民の怒りをさらにあおることになる。
ひとくちに怒りを見せると言っても、時の大統領としては、微妙な匙加減が必要となってくるのです。
それにしても、今回のボーナス問題で露見したことは、AIGにつぎ込まれたお金(国民の税金)がどこへ行ったかでした。それまでは秘密にされていたことが、さすがに隠しきれなくなったのですね。
AIGは保険会社なので、何らかの損失に対して保険を支払うことを業務としているわけですが、今回AIGが首まで借金に埋もれた理由は「クレジット・デリバティブ(credit derivatives)」というものでした。要するに、金融機関各社が危ない投資を行うときには、「もし投資で損失を出したら、わたしたちが保障してあげましょう」と相手に約束するものなのです。
これまでAIGが保険を支払った相手は、ゴールドマンサックスやメリルリンチなどの米金融機関だけではなく、フランスのソシエテ ジェネラル、ドイツのドイツ銀行、イギリスのバークレイズ、スイスのUBSなど海外の金融機関が含まれていることが明らかになったのでした。だとすると、アメリカの税金が世界を助けている!
けれども、そもそもリスクの高い投資に保険をかけるなんて、危ない行為を奨励しているようなものではありませんか?
それに、AIGのクレジット・デリバティブの親戚みたいな「クレジット・デフォルト・スワップ(credit default swap、何らかの損失が出たら保障してあげるという2社間のスワップ取引)」だって、そもそも今回の金融危機の原点ではありませんか。リスクの高いサブプライムローンを担保にした証券取引をガンガンあおっていたわけですから。
そんなことがまかり通っていたこと自体、十分に怒りに値するものではないでしょうか?
<日本2連覇!>
最後に、のんびりと野球のお話でもいたしましょうか。先週、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝戦では、韓国を破り見事2連覇を果たした日本チームでしたが、テレビにかじりついて応援していたわたしは、思わず涙ぐんでしまいました。
とは言いながら、実は、日本チームがサンディエゴの球場に乗り込んで来るまで、わたしはワールド・ベースボール・クラシックという存在すら知らなかったのです!
まったく、アメリカという国は、とってもでかいくせに、しょせんは「島国」でありまして、世界で行われていることにはえらく疎かったりするのです。このWBCも同じこと。参加各国は国を挙げて応援しているのに、アメリカではほとんど話題にものぼりません。
日本チームの優勝ですら、「イチローが打って、日本が勝った」と、スポーツ欄の2面の片隅に、写真もなく小さく取り上げられておりました。ほんとに、開催国とは思えないほどの冷たさですよね!
ひとつに、今は時期が悪いのでしょう。ちょうど3月の後半というのは、大学のバスケットボールのトーナメント(NCAA Basketball Tournament)が開かれる時期で、人々の目は、こちらの方にグイッと集中しているのです。バスケットボールの大好きなオバマ大統領も、トーナメントの全試合の勝ち負けを予測し、メディアに堂々と公表しているくらいですから、今年はとくに注目度が高いのです。
それから、WBCアメリカチームの選手が所属するメジャーリーグの理解が足りないこともあるのでしょう。今は開幕前ですから、体ができあがっていない選手たちに怪我でもされたら、さあ大変。
それに、選手の方だって、「まったくお金にはならないのに、シーズン前に試合になんか出たくないよ」という人も多いことでしょう。国の名誉よりも実益を考えるのが、アメリカ人のアメリカ人たるところではないでしょうか。
けれども、さすがにWBC開催が2回目となって、アメリカチームが続けて決勝戦にも残らないとなると、野球関係者の目の色が変わってくるのです。野球はアメリカが世界に広めたスポーツではないか、こんな状態では自分たちの沽券にかかわると、多少なりとも関心を持ち始めたようです。
ドジャースタジアムで開かれた日本と韓国の決勝戦には、メジャーリーグのコミッショナーであるバド・セリグ氏も解説席にお目見えして、「なんとかしなくちゃダメだよ」という解説者の厳しい追及に、こう弁明しておりました。
「今年はね、WBCに備えて、春のキャンプだって2週間早く始めたんだよ。メジャーリーグチームのオーナーだって、25対5で、もっと力を入れることに賛成してくれている。だから、次回からは有力選手がもっとたくさん出てきてくれるはずだ。」
それにしても、日本チームの活躍はすばらしかったですね! 個人的には、決勝戦を8回途中まで投げた岩隈久志投手が気に入っていて、韓国の攻撃になると、安心して観ていられました。彼は打たれる気がしないではありませんか。いつも落ち着いていて、一発ホームランを打たれたにしても、「大丈夫!」と大船に乗ったような気分でいられるのです。
決勝ラウンド進出を懸けたキューバ戦での岩隈投手の好投を評価して、アメリカ人の解説者も「今の様子では、松坂大輔投手とダルビッシュ有投手と岩隈投手の中では、岩隈が一番いいような気がする」と述べておりました。
何を隠そう、わたしは岩隈投手のプロ入り初ホームランを神宮球場(交流戦の対ヤクルト戦)で観たことがあるのです! いえ、だからどうということはないのですけれど、あれ以来、岩隈投手が活躍すると嬉しかったりするのですよ。
その岩隈投手を決勝戦で引き継いだダルビッシュ投手だって、すばらしかったですよね。9回裏の立ち上がりに打たれはしたものの、あとはビシッとまとめて存在感も大きかったです。「ありゃすごいスライダーだ!(That’s a nasty slider)」と、解説者も優勝を決めた奪三振を誉めそやしておりました。
ご本人は、日本の球界を離れる気はないということですが、きっとこのダルビッシュ投手には、メジャーリーグのスカウトたちもよだれを垂らしていることでしょう。
それから、決勝戦ではレフトを守っていた内川聖一選手。5回裏の守りの好プレーには、アメリカ人もタジタジだったようです。あんなにきれいにスライドして球をキャッチし、なおかつ2塁に完璧に送球するなんて、「これこそ、練習を積まないと絶対にできない好プレー」と誉めちぎっておりました。
画面で何回もリプレーを流しながら、「内川はもともと内野手なんだけど、内野手って足の動きがよくてステップもうまいから、ダンスだってうまいんだよね」と解説なさっておりました。本当なのでしょうか?
そして、やはり最後に頼りになるのは、イチロー選手でしょうか。WBCでは今ひとつ調子に乗り切れなかったイチロー選手に対して、「なんでも日本では、青木宣親選手の方がすごい打者だと言われているらしい」などと、失礼な解説をする人もいたくらいです。が、さすがに尻上がりに調子を上げるイチローを目の当たりにして、「僕たちが青木選手の方がいいなんて言っていたのが、彼に聞こえたんじゃないか」と、少しは反省しておりました。
「やっぱり最後にはビッグマンが打ってくれた」とのコメント通り、彼はどこまでもビッグな存在なのです。
これで負けたら敗退というキューバ戦では、ここぞというところで、3試合ぶりにヒットを打ってくれたイチロー選手でしたが、翌朝彼を見かけた解説者はこんなことを言っていました。「今朝ものすごく嬉しそうにしていたイチローを見て、あぁ彼も人間なんだなと実感したよ」と。
みなさん、イチロー選手のことをロボットだとでも思っているのでしょうか。
そんなわけで、ワールド・ベースボール・クラシックの存在すら知らなかったくらいですから、わたしは日本の野球事情にはまったく通じておりませんが、今大会では日本人選手の活躍を観ていて、日本の野球は繊細でおもしろいことを痛感した次第です。そう、「大味な」メジャーリーグと比べて、「小気味の好い」野球をしてくれるような気がするのです。
日本の野球関係者も報道陣のみなさんも、メジャーリーグ、メジャーリーグとおっしゃるようではありますが、今はそのメジャーリーグだって、外国に学ばなければならないこともたくさんあるのではないでしょうか。日本も韓国も、アメリカに肩を並べるほどに伸びている。これは、今回、アメリカ人の野球関係者の多くが実感したことではないでしょうか。
たしかに、アメリカは世界の檜舞台ではありますが、日本の野球に誇りを持って「日本にずっといたい」と宣言するダルビッシュ投手も、なかなかかっこいいものだと思うのです。
夏来 潤(なつき じゅん)