Thanks, but no thanks(ありがとう、でも結構です)
<英語ひとくちメモ その145>
カリフォルニアから日本に戻ってきて、もう半年となりました。
ときどきサンフランシスコの風景が脳裏によみがえってくることもありますが、新居にも4ヵ月。新しい街の新しい生活にも慣れつつあるところです。
日本に戻ってきてまず驚くのは、新しい、オシャレなものがたくさんあること。
たとえば、スイーツの「マリトッツォ」。ブリオッシュに生クリームをはさんだイタリアのお菓子だそうですが、カリフォルニアでは出会ったことのない、新鮮な響きです。
そういった新しい、オシャレなものは「インスタ映え」するので、「ばえる」という言葉が生まれて、何年か前には流行語大賞まで受賞したとか!
もともとあった「映える(はえる)」という言葉を「ばえる」と読ませるなんてウマいなぁと、今さらながら感心しています(ちなみに、公共放送のNHKでは「インスタ映え」を「写真映え」と律儀に言い換えていましたね)。
一方、言葉遊びがやり易い日本語と比べて、英語圏では「ばえる」のような新語は生まれにくいようです。
あえて挙げるとするならば、少し前に流行った google it などを思いつくでしょうか。
検索エンジンGoogle(グーグル)で言葉を検索するという意味ですが、Google以外のサイトでの検索にも、汎用的に使われるようになりました。こんな風に使います。
I will google it for future reference
先々で役に立つかもしれないから、ネット検索しておくわ
英語の google it と同様に、日本でも「ググる」という言葉が流行りましたが、社名が動詞になるというのは、業界での圧倒的な優位性を示していますよね。
その昔、コピー機がよく使われていた頃には、xerox it という言葉もありました。
Xerox(ゼロックス)というコピー機の会社名が、そのまま動詞となったもので、「コピーをする」という意味。印刷機器の代表格である社名が動詞となった例で、Googleの場合と同様ですね。こんな風に使っていました。
I will xerox these pages for you
このページをコピーしてあげるわね
そんなわけで、まわりが英語の環境から、日本語の環境になって戸惑うことも多々ありますし、ときどきニュースを見ていて、「こういうのは、英語ではこんな風に簡単に表現できるよね」と思うこともあります。
たとえば、表題になっている Thanks, but no thanks
こちらは、「ありがとう、でも結構です」という意味。
相手が親切に何かを申し出てくれたけれど、こちらとしては間に合っているので、ご好意を受け取るわけにはいかない、といった場合に使います。そう、お断りの言葉です。
この言葉を思い出したのは、自然災害に遭った自治体が、全国からの物品の寄付をお断りしたい、というニュースを見た時。寄付をしていただくのはありがたいけれど、今のところ避難所には食料や避難グッズは揃っているので、かえって寄付されたものを選別する労力や時間が惜しい、というシチュエーションでした。
こういうのを英語で端的に表現すると、Thanks, but no thanks となるのです。
No thank you(結構です)という表現は習いますよね。これだけでも十分ですが、最初に Thank you をつけてみると、「お心遣いありがとう。でも、大丈夫だよ」と、相手に感謝の気持ちが伝わりやすくなります。
Thanks, but no thanks はカジュアルな表現なので、親しい人に対してストレートに断る時に適切な言葉でしょうか。
それから、ニュースを見ていて「ちょっと変な英語の使い方だな」と思ったこともありました。
いよいよ始まった東京オリンピック(the Tokyo Olympics)。開幕を目前に来日した、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長が、小池東京都知事と会見したときに発したお言葉。
The risk for the Japanese people is zero
日本の方々に対する(オリンピック開催による新型コロナの)危険度はゼロです
個人的には、この方は英語がネイティヴではないので、稚拙な表現を選んでしまったのではないかと思いますが、問題なのは zero(ゼロ、皆無)という言葉。
「リスクがまったくない」というのは、神様でもない限りわからないことなので、たぶん、英語をネイティヴとする方々は、違った言葉を選んだことでしょう。
ここで思いつくのは、minimal(最小である)とか negligible(ごくわずかな)といった形容詞。
両方とも「無視してよいほどに、ごく小さい」という意味で、「(危険度は)とっても少ない」と言いたい場合は、役に立つ表現だと思います。たとえば、バッハ会長の言葉を言い換えると、こんな風になるでしょうか。
The risk of hosting Olympic games is minimal
オリンピックを開催する危険度は最小限度に抑えられている
この形容詞 minimal が副詞 minimally になると、こんな風にも使われます。
This procedure is minimally invasive
この施術は(切開をほとんど必要とせず)体への負担が最小に抑えられています
たとえば、開腹をしない腹腔鏡手術とか、開胸をしないカテーテル治療とか、体への負担が最小限度に抑えられた治療のことですね。
この minimally invasive という言葉はよく耳にする医療用語ですので、覚えておくと便利だと思います。
そういえば、オリンピック開催を控えた週末、連れ合いが体を鍛えようと、メンバーになっているジムに向かいました。ホテルの中で営業しているジムですが、この日は、なぜかイベントホールにトレーニング機器が設置され、こちらに案内されました。
すると、このジムで顔なじみとなったアメリカ人男性が「どうして今日はここなのか知ってる?」と尋ねてきます。いかにも聞いて欲しくてたまらない風だったので、連れ合いが耳を傾けると、「このホテルにはね、オリンピック前のトレーニングのためにスウェーデン選手団が泊まってるんだよ。だから、ジムは彼らが使っていて、僕らがこっちに移されたってわけ」と説明してくれるのです。
基本的には、このホテルに外国人選手団が泊まっていることは非公開になっていて、どうしてジムが別の場所になっているのかも説明はなかったそうです。けれども、好奇心満々の彼は、しつこくスタッフに説明を求めて、真相を突き止めたのかもしれません。
こういった「非公開の」状況を hush hush(ハッシュ、ハッシュと発音)と表現できます。
ちょっと珍しい響きですが、こちらは「秘密の、隠密裏(おんみつり)の」という意味の形容詞。
もともと hush というのは、「(誰かを)黙らせる」という意味の動詞としても使いますし、「シッ、静かにして!」と声をかける時にも使います。
形容詞 hush hush になると、こんな風に使います。
Things have been kept hush hush about the hotel stay of Swedish athletes
スウェーデン選手たちのホテル滞在に関しては秘密にされていた
この hush hush という言葉には、みんながシーッと口を閉ざして、情報が漏れないように固く守っているような印象がありますね。
というわけで、開催前にはいろいろあった東京オリンピックですが、いったん始まってみると、どの種目を観戦するかと迷ってしまうほど、連日テレビにかじりついています。
やはり、オリンピック・パラリンピックともなると「日本」を意識するようになりますが、海外に住んでいると、なかなか自国の選手を応援することができません。
アメリカでは水泳やビーチバレー、バスケットボールと、自国が強い種目の報道ばかりが目立って、柔道や卓球、バドミントンと、日本の「お家芸」や得意種目は縁遠いです。
今回のオリンピックでは、スケートボードやアーチェリー、サーフィンやフェンシングと、日本にも意外な「得意技」があったことがわかりました。あんなに敬遠していたビーチバレーも、日本人ペアが出ていると、思わず引き込まれてしまうのです。
日本の選手を日本開催のオリンピックで応援できるなんて、わたし自身にとっては、オリンピックが一年延期されたおかげだなと嬉しく感じているところです。