English words
英語ひとくちメモ/場面
English Words 英語ひとくちメモ
2011年05月21日

Thanks for asking(聞いてくれてありがとう)

前回は、英語の表現で「おもしろいなぁ」と思うものを集めてみました。

Don’t kill the messenger(メッセンジャーをいじめるな)や、Don’t shoot yourself in the foot(愚かなことはするな)と、洋の東西を問わず、心にしみいるアドヴァイスをご紹介してみたのでした。

今回は、なんとなく「英語らしい表現だなぁ」と思うお話をいたしましょう。

まずは、表題になっている Thanks for asking

こちらは、まさに読んだ通りでありまして、「聞いてくれて(質問してくれて)ありがとう」という意味になります。

表現はごく簡単なものです。が、よく考えてみると、日本語では「尋ねてくれてありがとう」「ご質問に感謝します」なんて、お礼を言うことはありませんよね。

ですから、この Thanks for asking は、個人的には、アメリカの文化を如実に表す表現のひとつなんじゃないかと思っているのです。

だって、アメリカ人はお話好き。自分が体験したことや感じていることを誰かさんに話したくってウズウズしているのです。

そんなわけで、何かしら個人的なことを尋ねてあげると、もう渡りに船とばかりに生き生きと話し始めるわけです。たとえば、

「あなたのお嬢さんは元気にしてますか(How is your daughter?)」

「最近、ゴルフの調子はどうですか(How is your golf game going lately?)」

そして、個人的な話で花が咲くと、相手との関係も少しずつ親密になっていくのです。

たぶん、アメリカ人が「お話好き」なのは、アメリカが徹底的な個人主義であり、ひとりひとりが何ごとも自分自身で成し遂げなければならない、孤独な環境に置かれているからではないでしょうか。孤独であるからこそ、おしゃべりをして、いつも誰かとつながっていたい。

(ここで個人主義というのは、「自分勝手」という意味ではなくて、「自分の行動の責任は自分自身で取る」「頼れるのは自分のみ」という厳しい環境を指しています。)


というわけですので、「お嬢さんは元気ですか?」などと個人的な質問をいただいたら、つい嬉しくなって、お礼を返すこともあるのですね。

Thanks for asking. Fortunately, she’s been accepted by Harvard and will start a new school year in the fall.

「尋ねてくれてありがとう。幸いにも、わが娘はハーヴァード大学に合格しまして、秋には新学期が始まるんですよ。」

(「学校に合格する」という表現は、be accepted by ~(~に受け入れられる)と、受け身の表現を使うのが普通です。)

こんな良いニュースを耳にしたら、祝いの言葉は欠かせませんね。

Congratulations! That’s exciting!

「それは、おめでとうございます。前途洋々ですね!」


Thanks for asking もそうですが、英語の会話はピンポン球のやり取りみたいなところがありますので、打ち返すことが大事であって、あまり凝った表現を使う必要はないのです。

ごくごく基本的な文型で、ポンポンと話を進めて行くことが大事ですので、極端な話、何かしらキーワードひとつを発したにしても、相手には十分に意思が伝わっているのです。

そんな簡素な表現の中に、こんなものもありますね。

Hats off to you!

 最初の hat というのは、文字通り「帽子」という意味です。

ですから、「あなたに帽子を傾ける」転じて「あなたには脱帽です」という意味になります。

Hats off to you for such a great job!

「すばらしい仕事をしてくれて、あなたには脱帽です!」

Hats off to her for throwing such a spectacular party!

「あんなにスゴいパーティーを企画してくれた彼女には、もう脱帽ですよ」
(「パーティーを開く」の動詞は、通常 throw を使います。)

日本語でも、「シャッポを脱ぐ」という古風な表現がありますが、これは、英語の hats off to ~ とまったく同じ意味になりますね。

なんだか、レディーに向かって山高帽を傾けている紳士を思い浮かべるのです。

(こちらの帽子の紳士は、かの有名なフランスのポール・セザンヌ画伯。セザンヌと親交の深かった画家エミール・ベルナールが、セザンヌの生地であるエクス・アン・プロヴァンスで1904年に撮影したものです。写真の出典は、ベラジオ美術館(米ネヴァダ州ラスヴェガス)の展覧作品カタログ “The Bellagio Gallery of Fine Art: Impressionist and Modern Masters”(Edited by Libby O. Lumpkin, 1998))


Hat(帽子)といえば、throw hat in the ringという表現もあります。

「リングに帽子を投げ入れる」ということですが、「自分も(争い事に)参加することを意思表明する」という意味になります。

リングというのは、ボクシングリングのことだと思いますが、帽子を投げ入れることで、自分も相手と闘うぞ! と公表することを指します。

どちらかというと、実際に誰かと武術で闘うというよりも、選挙戦(election)のような、公の場で闘うという比喩で使われるでしょうか。

動詞 throw の代わりに、toss を使って、toss (my) hat in the ring ということもあります。

先日、こんな風刺漫画を見かけました。
(Cartoon by Mike Luckovich/Atlanta Journal-Constitution, published in the San Jose Mercury News, May 13th, 2011)

何やら大きな下着が投げ入れられ、こんなことをつぶやいているレディーがいます。

Most presidential candidates toss their hat in the ring . . .

「ほとんどの大統領候補は、自分の帽子をリングに投げ入れるんだけどね・・・」

ポイッと投げ入れられた下着には「Newt」と書いてあって、2012年の大統領選挙で立候補を表明している、共和党所属のニュート・ギングリッチ候補を指しています。共和党なので、オバマ大統領とは敵対する党になりますね。

まあ、ニュートさんは、以前、連邦下院議会の議長(the Speaker of the U.S. House of Representatives、大統領と副大統領に何かあったら大統領職に就く人)を務めた重鎮ではあったのですが、最近は、テレビのコメンテーターや新聞のコラムニストなどで「うるさ型」として知られているおじさんです。

どうして帽子ではなく「下着を投げ入れる」のか、作者の真意ははっきりとはわかりませんが、なんとなく「ズレている」ところを表しているのでしょうか。(ロックコンサートなどでは、熱狂的なファンが下着をステージに投げ込むシーンはありますが、そんな非現実的なノリだと暗示しているのでしょうか?)


ちなみに、throw hat in the ring に似たところで、throw in the towel というのもあります。

「タオルを(リングに)投げ入れる」というわけですが、こちらは、「降参する」という意味になります。

リングで闘っているボクサーがだいぶ弱ってきたので、「もうこれ以上は闘えない」と、トレーナーがタオルを投げ入れて、降参を表明するところからきているようです。

やはり、比喩的に「降参する」ときに使われることが多いでしょうか。

He threw in the towel and left school.

「彼はあきらめて、退学してしまった」


ところで、表題になっている Thanks for asking ですが、どうしてこれを書こうかと思ったかというと、ごく最近、ある人にこう謝ったからなのでした。

Sorry that I didn’t ask you earlier.

「もっと早く聞いてなくて、ごめんなさい」

いえ、先日、我が家と交流のある人に赤ちゃんが生まれたんですよ。

昨年の初め頃、子供をつくろうとしていることは聞いていたのですが、まさかもう生まれることになっているとはつゆ知らず・・・そこで、「もっと早くに尋ねていなくて悪かったですね」と謝ったのでした。

向こうは、個人的なことなので黙っていようと思ったのでしょうが、こちらも「どうなってますか?」と聞き難かったので、なんとなく聞かずじまいになっていたのでした。

もしかすると、話したくてウズウズしていたのかもしれませんので、もっと早く尋ねていたら、毎月のようにお腹の赤ちゃんの成長ぶりを報告してくれたことでしょう。

健康に生まれたソフィアちゃんが、どうか丈夫に育ちますように!


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