The lady will have a martini(どうぞマティーニを)
とてもシンプルな文章です。
直訳すると、「そのレディーはマティーニを飲むでしょう」という未来形になります。
でも、実際には、「レディーにはマティーニをください」という意味になります。
マティーニ(martini)とは、「カクテルの王様」とも呼ばれるほど有名な飲み物ですが、もうおわかりのように、こちらの表現は、レストランで食前酒を注文する場面で使われます。
席に着いたカップルの男性側が、連れの女性(the lady)の飲み物を頼んであげるというシチュエーションですね。連れを「レディー」と呼ぶことで、とてもていねいな表現になっています。
この文章全体で慣用句のようなものですので、丸ごと覚えた方がいい表現かもしれません。
もしマティーニではなくて、「ワインをグラスで」という場合は、このようになりますね。
The lady will have a glass of wine.
ちなみに、赤と白を指定したいときには、赤ワインは a glass of red wine、白ワインは a glass of white wine となります。
さらに、赤のカベルネ・ソーヴィニヨンが欲しいときには、a glass of Cabernet Sauvignon、白のシャルドネが欲しいときには、a glass of Chardonnay となります。
ところで、こちらの表現は、非常にフォーマルな感じがいたします。たとえば、昔のイギリスのスパイ映画で、ジェームス・ボンド(通称「007」)が連れの美女の飲み物を頼んであげているような、そんな気取った感じもするのです。
「彼女(she)」ではなくて、「レディー(the lady)」という言葉を使っていますので、どちらかというと、時代がかった表現になるのかもしれません。それに、今どきレディーの分を男性が頼むなんて、ちょっと世相が違うのかもしれませんね。
ですから、実際のアメリカのレストランでは、自分で好きなものを頼む場合が多いと思います。大人数が集まるテーブルでは、ひとりずつオーダーを取るのが普通です。
ひとりずつの場合は、このように言えばいいですね。
I will have a glass of Champagne.
「わたしはシャンペンをグラスでいただきます」
ところで、どうしてこちらの表現を紹介しようと思ったかというと、新聞のエチケットの相談欄にこんな質問が載っていたからなのです。
レストランに行って、給仕係(server)からあいさつをされると、自分も自己紹介をしなければ失礼な気がするんです。だから、いつも自分から名乗るんですが、そうすると、彼らは驚いてしまうのです。いったい彼らにはどう答えればいいのでしょうか?
アメリカのレストランでは、最初にウェーターやウェートレスが近づいてくると、あいさつとともにファーストネームを名乗る場合が多いのです。ちょうどこんな風に。
Hello, I’m Sally and I will be your server.
「こんにちは、わたしはサリーです。わたしがあなたの給仕を務めます」
これは、西洋のレストランでは、テーブルごとに係の人が決まっていて、自分がこのテーブルを最初から最後まで受け持つんだ、という意識が高いからだと思います。このように個人が責任を負うことで、チップ(tip)が増えたり減ったりもしますので、第一印象だってかなり大事になってくるのです。
でも、こんな風ににこやかにあいさつをされると、客の方はいったいどう反応すればいいのだろう? と迷う人もいるのですね。
そこで、エチケットの回答者は、ごくシンプルにこう答えていらっしゃいました。
The lady will have a martini, please, and I would like a diet cola.
「彼女にはマティーニを、そして僕にはダイエットコーラをお願いします」
そうなんです。レストランでウェーターに自己紹介されたからって、こちらが名乗る必要はないのです。向こうだって、そんな期待はしていないでしょうから。
ですから、「こんにちは」「こんばんは」とあいさつされたら、食前酒をお願いすればいいでしょ、という回答者のご明答だったのです。
ちなみに、この回答文にあるように、何かを注文するときには、will have ~ か would like ~ という表現を使います。「 ~ 」の部分は、飲み物でも食べ物でも大丈夫です。
ちょっと脱線するようですが、コーラを頼むにしても「コカコーラ」という銘柄を指定したいときには、こうなりますね。
I will have a Coke.
Coke というのは、コカコーラの愛称ですが、もし「ペプシコーラ」の方が良い場合には、こう言いましょう。
I will have a Pepsi (cola).
このように、Coke、Pepsi、それから、Sprite(スプライト)、7 Up(セヴンナップ)といったソフトドリンクの銘柄には、アメリカ人は非常にうるさいのです。なぜなら、似ているようでも、おのおのの味が微妙に違うと信じているから。
アメリカの航空会社の飛行機に乗ると、「セヴンナップはないけれど、スプライトでいいかしら?」などと真顔で尋ねられるのです。日本人にしてみれば、「どっちだって同じでしょ?」と言いたくなるのですが、彼らにしてみれば、これは重大な選択なわけです。
こんな風に、アメリカ文化では重要な位置を占めるソフトドリンクですが、近頃は、砂糖がいっぱい入っていて肥満の原因だと「敵視」されているのです。学校でも自動販売機が禁止されるなど、もっと健康的な牛乳やフルーツジュースを奨励しようよという動きがあります。
ですから、ここ1、2年、日系のスーパーマーケットに行くと、日本から輸入したソフトドリンクを買っているアメリカ人を見かけるようになりました。どうやら、日本の飲み物は甘みが抑えてあると、シリコンバレーのアメリカ人にも広まってきているようです。
蛇足となりますが、コカコーラの愛称である coke という言葉は、スラング(俗語)だと麻薬の「コカイン」の意味になります。
コカコーラとコカインの「コカ」という部分は、麻薬成分を抽出する植物のことですが、実際、19世紀末にコカコーラがつくられたときには、「健康のため」という理由で、ほんの少し麻薬成分が入っていたそうです。その当時は、コカは「頭がすっきりするクスリの成分」として、ワインなどにも入れられていたとか。(Wikipedia「Coca」を参照)
20世紀に入ってすぐに、コカコーラからは「コカ」の成分が抜かれ、今のコーラのようになったわけですが、コーラの味に習慣性があるところなどは、なんとなく麻薬に似ているのかもしれませんね。
すみません、話がずいぶんと脱線してしまいましたが、今日のお題はこちら。
The lady will have a martini.
レディーがご自分で注文したいときには、
I will have a martini.
マティーニの代わりに、シャンペンをご所望のときには、
I will have a glass of Champagne.
そうそう、マティーニやシャンペンなどの食前酒は、その名の通り、食欲増進のために食事の前に飲むものですが、コーヒーや紅茶などのお茶の類いは、食後にデザートとともに楽しむものですね。
ですから、デザートと一緒に注文したり、デザートのあとに頼んだりいたします。
というわけで、ウェーターやウェートレスがにこやかに近づいて来たら、こちらもにこやかに、しっかりと目と目を合わせて、何が欲しいかを注文いたしましょう。
追記: 文章ではご説明しにくいことではありますが、マティーニ、シャンペンなどといっても、当然のことながら、英語の発音は日本語と異なります。
マティーニは、「マーティーニ」と「マー」を伸ばして、「ティー」の音にアクセントがあります。
シャンペンは、どちらかというと「シャンペイン」と発音し、後ろの方にアクセントがあります。
それから、白ワインのシャルドネですが、こちらは「シャードネイ」と発音して、はじめの「シャー」と終わりの「ネイ」にアクセントがつきます。
地元産のワインをこよなく愛するカリフォルニア人ではありますが、近頃は、フランスやイタリア産など、輸入ワインに挑戦してみる風潮もあります。そういうわけで、外国語を英語風に発音することもあり、そうなると、何が何だか言っている本人にもよくわかっていない場合もありますね。
こちらのワインは、「ブルゴーニュ・アリゴテ」という、アリゴテ種のブドウからつくられたフランスの白ワインですが、これなどはウェーターにも客にもうまく発音できない部類でしょうか。
飲み物の発音はかなり難しいので、「習うより慣れろ(Practice makes perfect)」なのかもしれませんね。