Throw in my two cents(意見をする)
これは、言葉の通りに訳すと、「わたしの2セントを投げ入れる」という意味ですね。
けれども、実際の意味はそうではなくて、「わたしの意見を言わせていただく」という意味なのです。
Let me throw in my two cents here.
「ここで、わたしの意見を言わせていただきましょう」という風に使います。
それから、throw (one’s) two cents into ~といった使い方もいたします。「~」の部分には、話し合いや議題が入ります。
He threw his own two cents into the discussion.
「彼は、自らの意見を討議の場で述べた」という感じに使います。
いつか「You made my day !(褒め言葉)」というお話で、表面上の意味はわかったにしても、本来の意味はなかなかわかりにくい表現がありますよ、とご説明したことがありました。
きっとこれも、その部類に入りますね。「2セントを投げ入れる」ことが、どうして「意見を述べる」ことになるのか、ちょっと理解に苦しみますよね。
アメリカ人にしても、いったいどうしてそうなったのかはよくわからないようです。
きっと自分の意見を2セントという低額のお金にたとえることで、へりくだっているのだろうという説があります。「わたしの意見など、あまり参考にはなりませんが」みたいな感じでしょうか。
そういえば、昔は、国内郵便は2セントの切手を使っていたけれど、それと同じくらい安い、取るに足りないという意味で使っているのではないか、というものもあります。
(こちらの写真は、現在使われている2セント切手です。ナヴァホ族のトルコ石の首飾りがモチーフとなっています。)
それから、キリスト教の教えからきているという人もいます。
ある日、イエス・キリストの教えを聞くために人が集まってきて、お金を寄付しようと100個のコインを籠(かご)に投げ入れた人と、120個のコインを投げ入れた人がいた。そのあとやってきた未亡人は、たった2つのコインを投げ入れたのだが、キリストは彼女が一番素晴らしいと褒めたたえた。なぜなら、彼女は自分の持っているすべてを捧げたのだから。
これは、聖書の日曜教室で習うお話のようですが、そこから「2セントを投げ入れる」という表現が生まれたのではないか、というのです。
たぶん、言語学者にとっても、言葉の語源(etymology)というのは難しいことだと思いますので、あまり気にする必要はないのでしょうね。
けれども、この「2セント」の「2」の部分には、ちょっとこだわりを感じてしまいました。
なぜなら、英語には、数字が出てくる表現が結構たくさんあるからです。
たとえば、seventh heaven というのがあります。
文字通りの意味は「7番目の天国」という意味ですが、「この上ない幸福を感じる」ことです。
They are in the seventh heaven.
「彼らは至福の時を過ごしている(ものすごくハッピーな気分である)」という風に使います。
こちらは語源がはっきりとわかっているようでして、ユダヤ教に由来するようです。ユダヤの教えでは天国は7つあって、7つ目の天国には神がいらっしゃる。つまり、神と一緒に座することは、この上もない幸福である、というわけですね。
似たような表現で、on cloud nine というのがあります。
文字通りの意味は、「9番目の雲の上」ですが、やはり「この上なく幸せである」という意味になります。
They are on the cloud nine.
「彼らは、しごく幸福な気分でいる」という風に使います。
こちらは、諸説分かれるようではありますが、宗教的な意味がないのは確かなようです。
なんでも、1896年発行の『国際雲図鑑』では、9番目に紹介されている雲が理論上一番高くなる雲であるので、「それ以上高いものはない(それ以上幸福に感じることはない)」という意味で、「9番目の雲の上」という表現が生まれたとする説もあるようです。とすると、かなり科学的ですね!
「7つ目の天国」も「9番目の雲の上」も、できることなら、いつも使っていたい表現ではありますよね。
さて、数字を使った表現といえば、nine lives というのがあります。
「9つの命」というわけですが、おもに猫に対して使います。
Cats have nine lives.
「猫は、9つの命を持っている」というのです。
これは、実際に猫が9つの命を持っていると信じているわけではなくて、猫という生き物は、人間が危うい場面でも命拾いするものだという意味です。
たとえば、高い所から落っこちたときのように、まったく助かりそうにない危険な状態でも、猫ちゃんたちは、その平衡感覚と体のしなやかさで助かるのです。
そういう意味では、なんとなく、日本のことわざの「九死に一生を得る」に似ていますね。
それから、「9つの命を持つ」というのは、なにも猫の生還率の話ばかりではなくて、猫は神秘的で、説明がつきにくいミステリアスな生き物であるという面もあるのではないでしょうか。
昔から、黒猫は魔女の化身みたいに言われていましたしね。
さて、「2」「7」「9」ときたところで、「6」といきましょうか。
わたしのイメージでは、6は必ずしもラッキーナンバーではなくて、なんとなく新約聖書の「ヨハネの黙示録」に出てくる666を思い起こしてしまうのです。
そういった聖書の「6」と関連性があるのかどうかはわかりませんが、six feet under という表現があります。
これは、「死んで、土に埋められる」という意味です。
もともとは、文字通り「six feet(6フィート、約180センチ)」土を掘って、棺を埋めた習慣からきているようです。
No, you can’t read my diary, not until I’m six feet under.
「わたしの日記を読んじゃダメ、少なくともわたしが死ぬまではね」という風に使います。
(出典:The American Heritage® Dictionary of Idioms by Christine Ammer)
あまり縁起のいい話ではありませんが、どうして6フィートも掘るようになったかというと、イギリスのロンドンで定められたのが始まりなんだそうです。
14世紀にヨーロッパで猛威をふるったペスト(Bubonic plague)が、1665年、再度ロンドンを襲ったことがあって、そのときに感染を防ぐために、棺を埋めるには土を深く(6フィート)掘ることが義務づけられたということです。
さて、同じ「6」でも、six-million-dollar question という偉そうな表現もあります。
文字通りの意味でいくと「6百万ドル(約6億円)の疑問」というわけですが、それほど高額の賞金を懸けてもいいくらいの「大きな謎である」という意味になります。
なんでも、もともとは6百万ドルではなくて、sixty-four-dollar question(64ドルの疑問)とか sixty-four-thousand-dollar question(6万4千ドルの疑問)という表現だったそうです。
So will she marry him or not? That is the sixty-four-thousand-dollar question.
「というわけで、彼女は彼と結婚するのか、しないのか。これは、6万4千ドルの疑問(大きな謎)である」という風に使います。
(出典:Cambridge International Dictionary of Idioms)
このヘンテコリンな表現は、1950年代のクイズ番組『$64,000 Question』からきているのだそうです。つまり、最高賞金が6万4千ドル(現在の換算レートで約640万円)だったというわけです。
今となっては、『Who Wants to Be a Millionaire?』(日本語版は『クイズ$ミリオネア』)という番組もあるくらいですから、最高賞金額は百万ドル(約1億円)。オリジナルのイギリス版でいくと、百万ポンド(約1億6千万円)。
だから、いつの間にか、「64ドルの疑問」なんてケチなことは言わずに、「6百万ドルの疑問」になったのでしょうか?(だとすると、どこもかしこもインフレですね!)
表題にもなっているように、わたしの2セントをあげましょう(I’ll throw in my two cents)などと、かわいい表現が今も生き続けていること自体が、ちょっと不思議にも感じられるのです。