Trust me (わたしを信じて)
いよいよ2010年代の皮切りとなりましたね。
この威勢のいい寅年の年明けは、久しぶりに日本で迎えることとなりました。
おせちにお屠蘇。初詣に年賀状。ぱりっとした服を着て気持ちがひきしまるように、日本のお正月は、どことなく重厚でフォーマルな感じがいたします。
そして、一年の計をしっかりと肝に銘じておきたい。そんな風に、初々しくもぴりっとした感覚が伴います。
さて、新年の第一号は、この言葉で行きましょう。
Trust me. 「わたしを信じてください。」
とっても頼もしい言葉ですね。
そうですか、あなたを信じてもいいのですねと、思わず相手に厚い信頼を寄せてしまうようなお言葉です。
けれども、Trust me には要注意。
先日、日本の新聞でも注意すべき英語の表現として紹介されていて、ハッとしてしまったのですが、どうしてこれが要注意?
それは、Trust me とは、軽々しく口にしてはならない表現だからなのです。
新聞で紹介された記者の方はこうおっしゃっていました。日本の新しい元首である鳩山首相が Trust me を使っていたので、それが非常に気になっていると。
なぜなら、アメリカのオバマ大統領に対して2度も Trust me(僕を信じてよ)と言っておきながら、いまだに何も実現されていないから。これでは、オバマ大統領が日本の元首に対して抱きかけた信用は失墜してしまうと。
(2010年1月7日付け朝日新聞、山中季広氏『記者の視点:トラスト・ミー 重い語感「守らないと破局」』を参照)
Trust me ほどの意味深な表現は、いろんな場面で使われるわけではありますが、とくに政治家が口にすると、こんな意味に変身してしまうのですね。
「きっとわたしがやり遂げてみせますから、どうかわたしの言うことを信じてください。」
つまり、選挙公約なり、会談の内容なりを実行することを「確約」しているわけですね。
ということは、非常に重い表現であって、言われた相手は「あ~、あなたに任せておけば大丈夫なのね」と、すっかり大船に乗った気分になってしまいます。
まあ、鳩山首相でなくとも、アメリカの政治家だって有権者に対してよく Trust me を使っています。
けれども、それは地元の支援者に何かを約束するとか、ほとんど決まった内容を確約するとか、なにがしかのクッションがあるのです。つまり、「逃げ道」を作っているとでもいいましょうか。
これに対して、一国の首長である首相が Trust me などと言えば、それは国全体が何かを確約したことになる。だから、そんな重い言葉を軽々しく口にすることは好ましくない、ということになるわけなのです。
もしこれが首相の口癖であるならば、それは即刻改めた方がいいのかもしれませんね。
だって、わたしなんかは、Trust me などと軽々しく口にする人間は信用しないことにしているから。(Trust me と言う人間に限って、ウソや誇張が多い!)
それでは、「わたしを信じてください(必ずやり遂げますから)」というニュアンスは、どう表現すればいいのでしょうか?
上記の新聞記者の方は、こちらのふたつを紹介されていました。
Leave it to me.(わたしに任せてください)
You can count on me.(わたしに任せておいて大丈夫)
いずれも、Trust me ほどには重みはないので、「確約」のニュアンスも低くなると。
I will do my best(最善を尽くします)の方が、Trust me よりまだマシだったという指摘もあったそうです。「最善は尽くしますが、結果は保証しません」という「逃げ」の含みがあるから。
個人的には、Leave it to me というのも、You can count on me というのも、政治家にはちょっと重すぎる感じがしています。
どうしてって、政治家にしたって普通の市民にしたって、軽々しくその手の言葉を発すべきではない、と思っているからです。だって「俺に任せろ」「俺を信用しろ」と言いながら、有言「無実行」になったら困るではありませんか。
きっと問題の根本は、どんな言葉を使うかではなくて、そんな大げさな言葉を発しなければならないほどに相手の信用を勝ち得ていないことにあるのではないでしょうか。
だから、人の信頼を得られるように、普段の行いが大切になってくるのかもしれませんね。Trust me などと言わなくても、誰でも信頼してくれるような日頃の行いが。
おっと新年早々、なんだか難しい話になってしまいましたが、Trust me には要注意。
もしこの言葉を耳にしたら、まずこれを発した人を観察することにいたしましょう。